おいしそうな食べ物イラストのコツは「描き込み」と「色選び」。さいとうなおき先生「料理縛り」講評レポート

イラストレーターのさいとうなおき先生が審査員の「縛りイラコン」講評レポート、今回は「料理縛り」です。
見ているだけでお腹が空く応募作品一覧から、とびきりのごちそうイラストを講評していただきました!
審査員
さいとうなおき(X:@_NaokiSaito/YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。1982年生まれ、山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。人気カードイラストレーターであり、YouTubeチャンネルの登録者数、約130万人の実績を持つ(2023年3月時点)。『お絵描き上達テクニック』などの情報を発信中。
インタビューした人
ハラサワ
GENSEKIの運営サポートスタッフ。
絵でおいしく見せるコツは、現実より大げさに描くこと

さいとうなおき先生
大賞はmolmoさんの『ウワサの大盛店』です。おめでとうございます!
これはとにかく手前の食べ物がすごい! とてもおいしそう。
料理をリアルなサイズとボリュームで描いてしまうと「うまそう〜ッ」というテンションが上がらないんです。
だから、これぐらい過剰な大きさだったりデカ盛りにしないといけません。実際に出てきたら食べきれないし引くと思うんですが、そのギャップが人間の業の深さを表してるな、と。
ハラサワ
手前は巨大なトルコ風ピザ(ピデ)ということです。奥の人たちも、すごいの食べてますね。
さいとうなおき先生
よく見たら左側に、神妙な面持ちで新しいの持ってきてる人もいますね! 絵だとしても引くほどの山盛り(笑)。手前のピザを描いただけで満足しきれず、後ろまで描いてしまったmolmoさんの食欲旺盛さも見え隠れして、いいですね。
ハラサワ
異国感あふれる全体の感じもすてきです。
さいとうなおき先生
背景まで含めて、雰囲気がとてもいい。こんなに密度を出したら背景に目が行きそうなものなのに、それを凌駕した「料理の描き込み」に圧倒されますね。
ハラサワ
どうして料理にしっかり目が行くんでしょうか。
さいとうなおき先生
背景のトーンが抑えられていて、ごちゃごちゃに見えないような工夫がされています。
壁のパターン模様もトーンの枠からはみ出ないよう抑えられているし、シャンデリアも細かいのにひとかたまりに見えます。トーンのまとまりで存在感を抑えられていますね。
ハラサワ
絵としてもっとよくできるアドバイスはありますか?
さいとうなおき先生
描き込み量もあって特に言うことがないですね。炭水化物が多すぎるから、もうちょっと野菜摂った方がいい、とかぐらい(笑)。お見事です!
空間や人の関係性で「おいしさ」を表現する

【佳作】おかゆ /じみにしじみ
さいとうなおき先生
ほっこりするイラストですね。
料理そのものというより、料理を通したキャラたちの関係性が描かれていて、そこまでおいしい。
こんな人間関係が築けていたら幸せですよね。うらやましくなっちゃいました。
ハラサワ
広い空間を切り取っているのに、おかゆと三人にしっかり視線が行きます。なぜでしょうか?
さいとうなおき先生
ライティングなどもうまいし、他の空間が余分に見えず、広く取っているからこその雰囲気が出ています。いいですね。
ハラサワ
絵の視点は、外から見ているような感じですね。不思議とノスタルジーを感じます。
さいとうなおき先生
「自分はここにいない」という一抹の寂しさ、それもあってのよさ。
厚かましさがないというか、鑑賞者とこの人たちとの間にちょうどいい距離感を作っていて、それが気持ちよさに繋がっているんじゃないでしょうか。
ひとふりの塩みたいな、「私は絵の世界に関係ないけど」というきっぱりとしたスタンスに、ぐっとさせられるのかもしれません。すばらしいです。

【佳作】張り込み中! /本宮和義
張り込み中の刑事二人がカフェに入ることになり、いつも通り仕事の顔でスイーツを食べる先輩がおもしろくてドーナツ越しに眺める後輩。
長い間一緒に仕事をしていて、食事を共にすることがあっても、相手が何をチョイスするかで、その人の新しい一面が見えてくる。料理ってそういうものだと思います。
さいとうなおき先生
キャプションに書いてあることが、いい感じに出てますね。粗野な感じの男の人なのに、張り込み中にそれ選ぶんだ? って。
ドーナツ越しに男性を見ている後輩も、クセがある。男の人がドーナツ越しに見ることはあまりなさそうなので、女刑事なのかな? かわいい一面を探している後輩がほほえましい。この刑事ドラマ見たいですね。
ハラサワ
大胆な構図から、関係性やストーリーまで想像できますね。
さいとうなおき先生
スイーツの持ち方もこなれてておもしろい。張りつめた中にもほっこりとしたギャップが表現されてて、いいですよね。
線の太さもおもしろいです。手前のドーナツのぼかし方を含め、リアルな描き方をしているのに、主線の太さで一気にイラストチックに見せられています。
ハラサワ
絵として、さらによくできる点はあるでしょうか?
さいとうなおき先生
言えることがあるような気がするんですが、何だろう……。あえて細かいことを言うなら、ネクタイの形などがありますが、重要ではありませんね……。
八重歯とか、指にちょっとチョコソースついてるかわいさが、あざとすぎたのかな?
後輩の目線ではスイーツを食べていることで十分かわいく見えるし、モチーフのチョイスもかわいいのに、そこもかわいくしちゃう? みたいな、かわいさに寄せすぎかもしれません。
ただ、何か言おうとすればそういう視点もあるよ、という程度です。

【佳作】近所のラーメン屋 /無川 せん
さいとうなおき先生
この作品も、なんだか「いい」と思って選びました。
お店がこんなに狭いことってあるかな? と思いつつ、ギュッと詰まった感じ+広々としたパースで、不思議な空間になっています。「この感じ、わかる」と感じました。
ハラサワ
色あいも、こういうお店の雰囲気を感じますね。黒板も、お店行ったら見るなあ、と思いました。
さいとうなおき先生
この、ちょっと暖色寄りのライティングだからこその「料理のおいしそうな感じ」ってありますよね。
冷ややっこと納豆がオススメなんだ。お店が手抜きしてる日ですね(笑)。
手前のラーメンの大盛チャーシューもいいですね。誰のなのかな? 後ろのお姉さんのだったりして。
ハラサワ
だとしたらけっこう食べる人ですね(笑)。
絵としてもっとよくできるアドバイスは、あるでしょうか?
さいとうなおき先生
今回選んだ作品は、どれもほとんどアドバイスが出ないんです。つっこめばつっこむだけ野暮な気がして、何か言う必要性を感じませんでした。
引っ越すときに部屋を見渡して、全部まっさらになったら「こんなに広かったっけ」とか、逆に「こんなに狭かったっけ」と思うことがよくあります。つまり、空間の印象って、そこにいる人たちや人間関係も含めて作られていると思うんです。
その、「人も含めた印象」をうまく絵に落とし込めていて、いい空間だな、と思いました。

【佳作】 そろそろグラタンの季節/さいとうあかり
さいとうなおき先生
ほっこり。水彩っぽい質感が、あたたかい空間の雰囲気を表現できています。この空間に連れて行ってくれる。いい絵だと思いました。グラタンの焦げ目や、「ジュワジュワ~ッ」と文字を素直に描いているのもいいですよね。
「幸せな気持ち」にさせられるって、すごく大事なことです。
ハラサワ
「食」と「幸せ」は、近い所にありそうですね。
さいとうなおき先生
クリエイターはつい、奇をてらったり笑わせたりする方に頭を使いがち。
だから、こんなにストレートに幸せにしてくれる絵は、逆に珍しいような気がする。
でも、みんなそういう絵を求めてると思う。
それを素直に表現してくれてありがとう、と思いました。
さいとうあかりさんの優しい性格まで見えてくるようです。
ハラサワ
漫画的なコマ割りで見せているのもおもしろいです。
絵の中の兄弟にとって、家族で過ごしたあたたかい時間を思い起こすのが、お家のグラタンです。
なんとなく記憶の中にあって、季節だったり何かきっかけがあるとふと思い出す。
この絵では、食べ物と記憶のあたたかい繋がりを描こうとしました。
真ん中が昔で、この子どもたちが上の二人に成長していて、左上の子が焼いているのが一番下のグラタンなんですね。
さいとうなおき先生
幸せな人たちだなあ。男の子も女の子も今は一人暮らしなのに、それを思い出してわざわざ作ってるのもすごい。おしゃれなキッチンツールを使っていて、ていねいな暮らしをしてますね。
自分もこんな「ていねいな暮らし」をしたいと思ったことがありました(笑)。理想ですね。
描写の細かさや力強さで、料理そのものを魅せる

【佳作】ビーフオーバーライス /@ HARURU
さいとうなおき先生
すごいですよね。「料理だけでこんなに魅せられるんだ」と驚きました。
ハラサワ
写真より情報量を感じます。
さいとうなおき先生
フォトリアルなイラストは、ともすれば写真でいいよね、となりがち。
ですが、この絵は写真を超えて「おいしかった記憶」みたいなものを、ありありと描いている。
おいしそうすぎて、若干ビビりました(笑)。
ハラサワ
肉の質感もすごいですね。
さいとうなおき先生
照りの描き込みもすごいです。食べ物を描き込むのは、おいしそうになるか・くどくなるのか紙一重ですが、そのきわどいところまで行っていて、迫力を感じました。卵の端の焦げてる感じとか、わかる!
ハラサワ
お米を描くのが難しかったそうです。
さいとうなおき先生
難しいと思いますが、すごいですよ。リアルに描くのはできたとしても、おいしそうに描くのはかなり難しいです。お米を描き込んだり影を入れるとにごりがちですが、これは食べたいと思わせられますね。
ハラサワ
おいしそうにお米を描けるというのは、すごいスキルなのですね。
見ていると無意識に生唾をゴクリとしてしまいます。
さいとうなおき先生
食べると悪いことが起きそうなぐらいですよね(笑)。
『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造とか、『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』のおばさんが出てきて、食べるのと引き換えに何か起きてしまいそう。
ハラサワ
魅力を超えて……。
さいとうなおき先生
魔力ですね。すばらしい。まいりました。言うことないです!

【佳作】シン・海・鮮・ドーン! /AraKanKan
テーマメーカーから「ツヤツヤの、最終形態の、まぐろ漬け丼」を選択しました。
これを膨らませて描いたのがこのイラストです。無心に描いて完成したイラストをフッと眺めてビックリ!「コレって料理じゃなくない?」けど言い張ります!これは「海鮮丼」です!
ハラサワ
テーマメーカーからのお題選び、ありがとうございました。
【編集部より】今回のコンテスト概要に「テーマメーカー」を設置しております。ぜひお試しください。 |
さいとうなおき先生
これはもう、勢いそのままに押し切られました! この状況で海鮮丼。調理もされてなくて、そのまま乗っけられてる(笑)。でも「描きたさ」みたいなものがとてもあふれていて、理屈じゃなく圧されて選んでしまいました。
ハラサワ
パワフルな描きっぷりです。調理されてなくても、不思議と料理に見えますね。
さいとうなおき先生
構図やあれこれを練って描くのではなく、思いつくまま魚を描きはじめて、あいた空間にご飯描こう、海描こう……と勢いよく埋めていった印象を受けます。ただただ一生懸命描いたらこうなった、純粋な子どものような素朴さがあって、すごくいいですね。
ハラサワ
描いている楽しさが伝わってきます。
さいとうなおき先生
そうそう。そういう作品に何か語ったり、ツッコミ入れるのは野暮。「いいっすねぇ!」です。
技術面を見ると、船の描写もうまいし、全部うまい。なのになぜ、こんなに勢いを感じる絵を描けるんでしょう。すばらしいです。
おいしく見せるコツは「描き込みと色選び」
ハラサワ
今回は445件と、たくさんの応募をいただきました。おいしそうな作品ばかりで、選考は大変でしたね。
さいとうなおき先生
選びたい作品が多くて、とても悩みました。いやあ、お腹が空きましたね!
ハラサワ
なぜ「料理」をテーマにされたのでしょうか?
さいとうなおき先生
食べ物って、なんだか描きたくなる感じがありませんか?
僕は小さいとき、ハンバーガーをどれだけおいしそうに描けるか? と、何回も描いていた記憶があります。それで「みんな描きたいお題かも」と思ってテーマに選びました。
ハラサワ
食べ物をおいしそうに描くコツはあるのでしょうか。
さいとうなおき先生
イラストで「食べたい!」と感覚を呼び起こすためには、普段より描き込み量を求められます。色も、かなり厳密に選ばないと「食べたい」までにはなりません。
でも今回は、どの応募作品を見ても「食べたい」と感じました。
みなさんの食べ物へのこだわりをとても感じましたし、それが絵作りのこだわりとリンクして、かなり迫力のある作品群を見せていただきました。ありがとうございました!
▼コンテストページ
【定期開催】さいとうなおき先生の縛りイラコン
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執筆
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