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SNSで好まれる漫画のコツとは? UZNo先生パレット指定「ほのぼの漫画」イラコン選考レポート

 

こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。

イラストレーター、漫画家のUZNo(ゆずの)先生を審査員にお迎えした、パレット指定「ほのぼの漫画」コンテスト。3つの指定パレットから、どれかひとつは必ず選び、カラー漫画にしていただく形式でした。

 

 

色やテーマに制限がある中でも、人それぞれ個性豊かな作品が集まりました!

先生にはSNS漫画の「読まれるために」「見やすさとは」についても教えていただいています。とても学びが多いレポートですので、ぜひ最後までお楽しみください!

審査員
UZNo(Twitter:@UZyuzu37Instagram

イラストレーター、漫画家。シンプルな配色とテーマづくりにこだわり、恋愛や何気ない日常の一コマをイラストや漫画で多様に表現する。2021年に書籍出版、個展『幸』を開催。サメのオリジナルキャラクター「れおなるど」を制作し、アパレルからカプセルトイなど各方面で活躍中。

インタビューした人
坂本彬

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230725/20230725162318.pngGENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
色彩検定3級を保有するが、色彩センスゼロ。

【大賞】漫画のテーマとパレットカラーをしっかりとリンクさせた作品

/カスミダケ

UZNo
大賞はカスミダケさんの『爪』です。おめでとうございます!

 

坂本
今回、大賞選考はかなりの接戦でした。この作品が選ばれたのはなぜでしょうか?

 

UZNo

今回、Cのパレットを使用しながらさらにAのパレットカラーの中の1色も使っていますよね。縛りが多くて難しくなるところを、うまくストーリーの中心に色を持ってきています。自分では発想できない漫画です。

単純に漫画の出来という点では、みなさん上手で甲乙つけがたいのですが、この作品がテーマをいちばんしっかり落とし込めていると思いました。

 

坂本
タイトルが『爪』と1文字なのもミステリアスで引きつけられます。

 

UZNo
サムネイルもタイトルとテーマが一瞬で理解できて、わかりやすいですね。おっ、何かな? と思う反面、中身はギャップがあってほのぼのしているのもいいです。

カスミダケさんは「色使い」「ほのぼの感」「インパクトのあるサムネイル」などからもセンスがすごくあるな、と感じます。コマ割りや表情の入り方、全体的な色の使い方もうまく、恋愛漫画としても質が高い。読んでいてストレートに「いいな」と感じました。

 

受賞者コメント

このたびは大賞に選んでいただき誠にありがとうございます。

この作品で最も苦労したのはサムネイルとタイトルです。最初は『マニキュア』や『ネイル』など、他にも候補はあったのですが、その中でも『爪』が一番わかりやすくて読みやすく、何よりサムネイルの中で登場人物に持たせやすかったので、このタイトルになりました。

UZNo先生から自信につながる言葉をたくさんいただけて、このコンテストに応募して本当によかったです。ありがとうございました。


【佳作】大賞と接戦! 制限のある中でも、それぞれまったく違った個性が光る5作品

アイスクリーム/夏ノ久

UZNo
こちらは大賞にしようか迷いました。文字を使わない漫画表現がとてもいいですね。イラストだけで話を作れているのが、評価の高い点です。

 

坂本
セリフや効果音がひとつもありませんね。

 

UZNo
発想力があって、コマ割りもいいです。「ほのぼの」というテーマ性もある。セリフがない中キャラクターの表情や動きと、パレットカラーで話の展開を進めていて、すごく上手です。

また、グッズ映えまで狙えるようなかわいいキャラクターづくりができています。自分自身もサメの「れおなるど」というキャラクターを描いているので、人外的なキャラクターの発想は好きで共感しました。個人的にもとても好きな作品ですね。

相合傘/桃河

UZNo
こちらも、大賞と迷った作品です。テーマに沿うという点でとてもよくできていました。
桃河さんは、日常の中の話がとても上手。内容的に自分と近い雰囲気も感じて、気になりました。

 

坂本
背景までしっかり描き込まれています。

 

UZNo
制作にしっかり時間をかけたんだろうなと伝わってきますね。色あいもいい。パレットカラーを髪の毛や傘に使い、話の中心に持ってきているのも評価が高いです。「ほのぼの」という軸も通っていて、ひとつの漫画として成立しているのが上手いと思います。

 

響くんは、悠真くんがかわいくってしかたがないっ!/佐倉

UZNo
佐倉さんはストレートに画力が高い! と思いました。ザ・ほのぼのといったストーリーもいいです。今、自分が描いているものに設定が近いので共感しました。

 

坂本
タテ読み漫画らしい、今っぽいサムネイルもすてきですね。

 

UZNo
そうですね。本文も4コマで描かれていますが、構図や表情の入れ方など、全部が上手いと思います。この方は漫画経験者じゃないかな?

 

坂本
普段はミニキャラや4コマ漫画を描かれているそうです。

 

UZNo
なるほど。いろいろ描いていて画力を相当お持ちですね。カラーもうまく使っています。

 

北海道 遊びにくる?/風林火山

UZNo
単純に話がおもしろい! 漫画のコマ割りと絵の入れ方がすごく上手いと思います。
また、『アイスクリーム』と同じで、よくある「ほのぼの」とは少し違う視点なのもよかったですね。

 

坂本
地元あるあるで共感するようなお話ですね。先生は北海道に行ったことはありますか?

 

UZNo
ないので、この漫画を見ながらなるほど! と思いました(笑)。
漫画としてちゃんと読めて、知識をわかりやすく伝えているので、PR漫画や広告漫画にもすごく向いているなと思いました。

 

坂本
風林火山さんはイラストコンテストによく応募してくれる方です。漫画も上手いんだ、と驚きました。

 

UZNo
キャラクターの表情の豊かさから、きちんと漫画を描ける方だと思いました。すごくSNS向きだと思います。

 

根津ちゃんと猫田くん/絵庭 明

UZNo
カラーの軸がしっかりしている点と、ほのぼの感がいいですね。オチが個人的に好きな漫画です。

 

坂本
サムネイルと漫画3枚で、うまくまとまっていますね。

 

UZNo
オチまでの流れがしっかり描けていていいですね。こういう男の子は自分もたまに描くのですが、表情が上手いと思います。漫画としてのクオリティも高く、色の使い方が上手で読みやすいですね。

 

坂本
きれいな画面で見やすく、スマホでも読みやすそうです。

 

UZNo
見やすさではトップクラスです。絵庭さんもSNSのタテ読みのショート漫画に向いてるなと思います。


【総評】漫画のクオリティはどれも高く、多様なテーマ表現が楽しめた

坂本
コンテスト全体を振り返って、いかがでしたか?

 

UZNo
私も普段から1枚イラスト漫画やショート漫画を描くことが多いので、他の方々がどういった作品を描いてくれるのか楽しみでした。全体的に拝見した印象は、「みなさん上手い」!

 

坂本
どの作品も審査のポイントをしっかり満たしていたように思います。

【審査するポイント】
・パレット縛りのカラーを使っているか 
・テーマを意識した漫画になっているか
・カラー漫画として綺麗に見えているか

UZNo
今回、漫画としてはレベルの高い作品ばかりで、大賞に選ばれなかった作品が何か足りなかった、ということはありませんでした。テーマ表現という点で大賞が「よりよかった」というだけだと思います。

みなさん私では思いつかない色の使い方や、タイトル回収の仕方、どこに漫画の軸をもってくるかなど、工夫をこらしてくださったので、とても勉強になりました。


SNSに投稿する漫画は、見る人の「読みやすさ」を最優先に

坂本
今回、先生にもコンテストのために漫画を描きおろしていただきました。どんな手順で描かれたのでしょうか? エピソードのネタ元はありますか?

 

UZNo
私はまずサムネイルのキャラクターを描いて、キャラクターの顔から話を考えます。このときだいたいオチまで思いつくので、ネームはあまり作りません。思いついた筋にそってラフを一気に描き、そのまま本番を描く流れです。

エピソードの引き出しは、学生時代の思い出や、学校にいたカップルの姿など、常に自分の中に持っています。私は人と話すのが好きで、友達がたくさんいるタイプ。日頃から「どの人を組み合わせよう?」と考えています。話を作るときは、無意識でその組み合わせを取り出してくる感覚ですね。

 

坂本
では「女の子が男の子のブレザーを羽織る」アイデアは実話ですか? 学生時代のことは、言われたら思い出せますが普段はなかなか思い出せません。すごい記憶力ですね。

 

UZNo
これは学生時代、体育のときに、彼氏の長袖ジャージを上から羽織っている彼女、というカップルがいた思い出からヒントをもらいました。記憶そのままではなく、ちょっと変えて作るというのが多いです。

覚えているのは、自分がそのときうらやましかったんじゃないかな(笑)。一緒に部活終わりに校門で待ち合わせて帰る、みたいな……。自分の年代が上がってきたからこそ、学生のときに「いいな」と思っていたことを客観的に描けるようになったのかもしれません。

 

坂本
コマ割りなど、漫画づくりで他に意識しているところはありますか?

 

UZNo
「いちばん目立たせたいところを上にしていちばん大きく描く」ことです。
文字がなくイラストだけで見た場合、どういう流れで進むか? は意識しています。

あと、「スマホでスクロールしてぱっと読めるように」ですね。書籍用のようにしっかりこまかく描くより、できるだけ「1ページ1コマ1フキダシ」の意識をしています。文字の大きさもできるだけ大きくします。

 

坂本
大きいコマ割りはスマホで見やすく、SNSと相性がいいですね。

 

UZNo
「見やすさ」は自分のどの作品でもいちばん意識しています。今の時代、漫画はスマホで読むことが多いので、1ページの中にいっぱいフキダシやセリフがあると読みにくい。

そのため私はできるだけ簡潔に作る、というのを目標にしています。投稿時も、自分だけが見られるSNSに一度投稿したり、スマホにデータを送って、どう見えるかを何度も確認していますね。

 

坂本
今回のコンテストはパレット縛りもありましたが、先生の漫画の色使いも、見やすさを重視したものでしょうか?

 

UZNo
そうですね。単色漫画が見やすい、と感じたのが原点です。

私はイラストを描きはじめると同時にSNSをはじめたので、自然とSNS向けにイラストや漫画を描くようになったのですが、TwitterやInstagramで、見てもらえるのは1秒……長くても5秒ぐらい。最初はしっかり描き込んで塗っていたのですが、その一瞬に何十時間もかけて描くのはあわないと感じました。

それで見やすさを考えながら、厚塗りをやめ、下塗りで止め、色数を減らして……と調整していき、最終的に肌の影と、目の下のアイシャドウを塗った今の画風になりました。

 

坂本
すべてSNSの見やすさで研究されて、いまの形になったのですね。

 

UZNo
当時は『クールドジ男子』(ガンガンpixiv)など、単色漫画の4枚投稿がとても流行っていました。そのときの自分は画力もなく、初心者に近かったので、SNSで伸びている「人に見られる作品」をとにかく研究しましたね。

自分の表現としても、自分が好きなものを描くより、求められているものを描く、という考え方が一番しっくりくると思っています。

 

坂本
見る側の視点に立って作品づくりをされてきたのですね。見てくれた人の反応は、いいね数などで見るのでしょうか?

 

UZNo
反応は最初からずっと、いいね数を基準にしています。例えばキャラクターの髪型でロングとショートを描き、反応のいいほうをその後も採用するなどです。SNS運用という点では、できるだけプライベートは載せず、漫画だけをアップするアカウントにするよう気を付けていましたね。

また、どの業界にでも使いやすいように、というのも考えています。「れおなるど」は特にそこに気を付けて制作したキャラクターです。

 

坂本
漫画作りの原点から、SNS投稿や制作についての貴重なお話まで、たくさんお聞かせくださってありがとうございました!



▼現在開催中のコンテスト

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執筆

kao(Twitter:@kaosketchWeb

編集

斎藤充博(Twitter:@3216