和服を描くコツを解説! 『着物の描き方大全』著者に聞く、よくある間違いからアレンジのポイントまで

和風の絵を描きたいけれど、和服って難しそう。構造も種類もわからないし……。と、困ったことはないでしょうか?
今回は『着物の描き方大全』の著者・摩耶薫子さんに、和服を絵に描く上で知っておきたいことや間違えやすいこと、アレンジのしどころまで、楽しく和服が描けるコツをたくさん教えていただきました!

着物は基本形を覚えれば、描けるようになる

『構造と動きがよくわかる 着物の描き方大全 着物の基礎知識から多彩なポーズ描写まで』ホビージャパン

――摩耶さんは、和服を描くためのノウハウをたくさんご存じで、書籍も出版されています。なぜ和服の描き方を発信するようになったのでしょうか?
摩耶薫子
友人に「着物ってどうなっているの?」と相談されたのがきっかけですね。着物の着付け師範資格を持っている方が身近にいて、話を聞くことができたんです。いくつか描いて同人誌にまとめるうち、出版社さんからお声がかかりました。
「絵としてどう描いたら着物らしく見えるか」の視点で制作しているので、着物の資料や着付け教本とは違う内容になっていると思います。
――描くための視点で解説された資料というのは、ありがたいですね。
和服は種類やルールが多そうですが、どうしたら描けるようになるでしょうか?
摩耶薫子
和服は、正装から普段着、最もラフな場面で着る浴衣など、「格」によって種類が分けられます。ただ、いろいろあるように見えて基本の形はほとんど同じです。
一度構造を知れば、だいたいは描けるようになります。洋服は種類によって形が異なるので、その点は手軽ですよね。
――いろんな形を覚えるものだと思っていたので、和服を描くハードルがぐっと下がりました。
摩耶薫子
私は、絵は自由でいいと思っています。でも「ここを押さえておけば和服らしく見える」ポイントはあります。
例えば、「左前はNG」というのは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

着物をあわせるときは必ず「右前」です。襟(えり・衿とも書く)が小文字の「y」の形になると覚えておくと、わかりやすいと思います。
これを逆の「左前」で描くと、亡くなった人が着る「死に装束」になり、特別な意図がない限りは違和感のあるイラストになってしまいますよね。
今回は、こういった違和感をなくして、和服をそれっぽく見せるコツをお伝えしたいと思います。間違えやすい2か所から、順にご説明しますね。
一番間違えやすいのは「袖」。構造を押さえよう

摩耶薫子
まずは「袖」です。袂(たもと・袖の垂れた部分)は和服の特徴的な部分の一つです。絵で図の上の形になっている女物をよく見かけますが、下が正確な形です。
和服らしく見えるポイントは、「袖口(そでぐち)」と「脇」の部分にあります。
■袖口(そでぐち)は全開じゃない

摩耶薫子
袖口(そでぐち・手を通す穴の部分)は全開ではなく、途中まで閉じています。これは男女や種類に関わらずどの着物も同じで、もう片方の腕が入る程度に開いています。
ただ例外として、旅館の寝間着は袖口が全開のものもあるようです。
■女物は脇が開いている


摩耶薫子
女性の着物は、袂の脇側がすべて開いています。振袖(未婚女性の正礼装)のように長い袂であっても共通です。
また、上から帯で留めているため見える部分は少ないですが、身頃(みごろ・着物の胴体部分)の脇の下も腰まで開いています。
■男物は脇が閉じている


摩耶薫子
男性の着物は、袂も身頃も脇の部分が縫われて閉じています。女物に比べ、袖が身頃に縫われる範囲が広いのが特徴です。
男女で描き分けるポイントの一つですね。
■洋服との構造の違い

摩耶薫子
着物の肩の位置は、洋服より下です。半袖の洋服に、さらに袖がついているくらいの位置で覚えておくといいでしょう。
袖は全体的にゆったりしていて、腕に沿った細かいシワが出ることもありません。
また、着物の肩の山にかかる線は生地の折り目で、洋服によくある縫い目ではありません。
洋服は前後の布を肩で縫いあわせるのに対し、着物は長い布を半分に折って肩から掛けるイメージを持っておくとわかりやすいと思います。

――だいぶ構造がわかってきました……!
摩耶薫子
脇や肩のつくりは洋服と大きく違うので、洋服を描き慣れている人ほど意識したいポイントです。
また、着物は全体的にタイトなので、ひらひらした袂が唯一、動きが出せる部分です。袖が自由に描けるようになると、一気に着物らしく見せられます。
襟を知って「着物らしさ」をアップ
摩耶薫子
次は、襟です。
よく見かける間違いとして「内と外の襟が重なっている」「襟が裾まで続いている」の2点があります。
実は、海外(中国・韓国など)の衣装では襟が裾まで続いているものもあります。また、日本でも重ね着や伊達襟(後述)などで襟が二重になる場合はあり、衣装デザインとしては違和感のない形だと思います。
でも、伝統的な和服の着付けとして描きたい場合には、和服本来の構造を押さえておくといいでしょう。
■襟の重なり

摩耶薫子
男女とも着物の下には、襦袢(じゅばん)というインナー着物を着ます。着物の襟元は、その襦袢に縫いつけられた半襟(はんえり)が見える構造になっているのが、通常です。


摩耶薫子
そのため、バツがついている図のように重なることはなく、実際にはそれぞれ左側の図のようになります。
――構造上、中の半襟が着物の襟に重なることはないのですね。

摩耶薫子
はい。ただ、半襟とは別で追加できる「伊達襟(だてえり)/重ね襟」と呼ばれる装飾もあります。伊達襟は襦袢と着物の間に差し込むもので、上のイラストのように着物の襟元に重なります。レースがついたデザインもあったりするので、アレンジとして取り入れると襟元が華やかになりますよ。
■襟は腰まで
摩耶薫子
着物の襟が裾まで続いている絵もときどき見かけますが、女物ではおはしょり(帯の下の折り込んでいる部分)まで、男物では腰までになっているのが本来の構造です。


摩耶薫子
襟を下まで繋げて描いてしまう絵が多いのは、資料や写真で襟と「おくみ線」を混同するからかもしれません。「おくみ線」は前身頃の真ん中あたりにある縫い目です。
絵ではおくみ線を描かなくてもいいと思うのですが、下半身の描き込みが少なくなるので、私は描くようにしています。

■よりそれらしい襟を描くには

摩耶薫子
洋服を描くバランスに慣れていると和服の「襟の幅」を狭く描きがちですが、着物の襟は細いと貧相に見え、描き慣れていない印象が出てしまいます。太めを意識して描くとそれらしく見えますよ。男物より女物の方がやや広めです。
――和服の着方ではよく「襟を抜く」と聞きます。

摩耶薫子
うなじにゆとりを持たせる着方ですね。ただ、襟を抜くのは女性だけで、男性はぴたっと詰まっていますので、和服らしく描きたいときは注意するといいでしょう。
帯は「高さ」「幅」「大きさ」
■帯の位置と大きさ

――袖と襟を知るだけでも、かなりイメージが湧くようになりました。
和服といえば帯も特徴的な部分ですが、描くコツはありますか?
摩耶薫子
帯は、男女で高さも幅も違います。
女物の帯は胸のすぐ下に巻きます。帯の幅や後ろの帯結びが小さいと貧相な印象を受けてしまうため、太め・帯の結びは大きめにすると、見栄えがアップします。
男物は、帯の位置が高いと子どもっぽく、低いとかっこよく粋な着こなしに見えます。後ろ側はウエスト位置で、前側を下に落として巻きます。幅はバランスが少し難しく、太すぎると野暮ったく、細すぎると貧相に見えます。洋服の感覚なら「かなり太めのベルト」ぐらいの認識がちょうどいいでしょう。
■帯揚げと帯締め

――「帯揚げ」や「帯締め」には、どういう役割があるのでしょうか?
摩耶薫子
結び方によりますが、帯を締めるときに必要なものです。

摩耶薫子
たとえばポピュラーな「お太鼓結び」は、この二つがないとできない結び方です。後ろに被せている帯は帯揚げと帯締めを隠しているだけ。
振袖の「立て矢結び」などにも必要です。帯結びの構造を知っている人が見たら、帯揚げと帯締めがないと違和感を覚える結び方があるので、それらしく描きたいときは調べるといいでしょう。

――帯だけで結べるものもあるのですね。
摩耶薫子
浴衣の「文庫結び」は帯だけで結べます。ただ、帯だけは寂しいと感じる人が多く、アクセサリーとして帯揚げと帯締めをつける方は多いです。

――男性も帯揚げと帯締めを使うことはあるのでしょうか?
摩耶薫子
男物には必要ないので正装では使いませんが、普段着のファッションとしてなら、やってはいけないきまりもありません。幅広のベルトを帯の代わりにする方もいらっしゃるので、アレンジでつけても違和感はないと思います。
――帯はアレンジしやすそうですね。キャラにあう帯や結び方を探すのも楽しそうです。
摩耶薫子
CLIP STUDIO PAINT公式の素材サイト「CLIP STUDIO ASSETS」に帯結びの3D素材を投稿しています。pixivで解説記事も公開していますので、資料に迷ったときはぜひご活用ください。


CLIP STUDIO ASSETS 摩耶さんの素材一覧
羽織や柄のアレンジも、絵なら好きに楽しめる
■羽織

――着物の上に着る羽織(はおり)にきまりはありますか?
摩耶薫子
男性の正装は「羽織袴」で、羽織が必須ですが、女性の正装では着ません。女性の羽織は江戸時代を過ぎた頃に外出用、気軽なファッションという感じで登場しました。
――羽織には、前側に紐のようなものがついていますね。

摩耶薫子
「羽織紐」ですね。白くて房が大きいものがフォーマルとされています。侍は普段着としても羽織を着るので控え目な形もありますし、現代ではネックレスのようなデザインもあります。
――男性の着物を調べると無地で大人しいものが多い印象ですが、羽織袴ならアレンジしやすそうですね。
摩耶薫子
袴まで着るとかなりかしこまった印象になるので、羽織と着物だけの組み合わせがやりやすいと思います。
男物は実物に沿うと絵としては地味になりがちです。でも、華やかな演歌歌手や七五三・成人式の衣装などは、実際の正装ではありえなくても、自由に楽しくアレンジしていますよね。絵も同じ考えでいいと思います。
また男物の羽織は、江戸時代にいわゆるぜいたく禁止令が出たとき、表は地味に見せて、裏地でぜいたくするのが流行りました。現代でもそういったデザインがされていて、きれいな風景画からセクシーな絵柄まで、内側はすごいことになっていたりします(笑)。検索するとおもしろいので、ぜひ見てみてください。
■紋と模様

――模様のルール、アレンジのポイントはあるでしょうか。
摩耶薫子
着物、羽織、袴などはすべて「紋」(もん・家系を示す家紋)の有無や、素材で格の違いが出ます。
正装として着るものには必ず紋が入りますし、種類や位置、数で格の上下があります。史実やシーンを忠実に描く場合は調べる必要があります。
模様も、縫い目をまたいで繋がっているかずれているかで、格の違いが出ます。
でも絵なら、模様は繋がっている方が描くのがかんたんですよね。以前、着物のノウハウ本で再現するため、わざと模様をずらして描いたら大変でした(笑)。
絵で素材の違いまで描き込むのは難易度も高いですし、「この服に紋が入っているのは変だよ」と言われることもそうそうないでしょう。どれも自由でいいと思います。

――シンプルに、描きたいものを描いていいんですね。
摩耶薫子
有名な和柄を活用して和服らしく見せてもいいし、絵は制約がないので、好きな柄を好きな場所に好きなだけ描けて楽しいですよ。
着物の展示会に行くとスーパーカーやペンギン、キャラクターの入った着物や帯がたくさん並んでいます。
――実際もかなり自由なんですね。
もっと気楽に。和服を自由に描くための考え方
■全体のシルエットと着崩し
摩耶薫子
ここまでパーツごとのお話をしましたが、全体のシルエットはまっすぐ下に落ちるイメージで描くと、着物らしく見えます。
袖や裾で動きは出せますが、膝までは男女とも非常にタイトです。
女性は着崩れしにくいよう、胸のすぐ下で段差を埋めつつ帯を巻きます。ウエストのくびれがなく、腰をひねったり大きいバストで女性らしさを出す表現もあまりできません。

摩耶薫子
こちらはイラストでよく見かけるポーズですが、着物はスリットのように裾がはだけることはないので、実際は左の絵のようになります。

摩耶薫子
花魁(おいらん)風のイラストや漫画でよく見る着崩しも構造上は可能ですが、実際の花魁はやらなかった格好です。
文化風俗の話になりますが、昔は現代ほどバストが魅力ではなく、色っぽいという価値観もありませんでした。変わった人ならやったかも、という姿です(笑)。
ただ私はどちらも、描きたいなら「これはファンタジー和装だ!」と思って描けばいいと思います。
■楽しく描ける考え方
――描きたいなら「実際にはない」と割り切って、自由に描けばいいのですね。
摩耶薫子
史実に沿う作品であったり、宮中に出向く・冠婚葬祭といったシーン設定があるなら調べる必要があります。でも、ただ和服を描きたいだけなら、萎縮せずやりたいように描いてほしい。
本来、絵はファンタジーが楽しめるもの。「現実と違う、おかしい」なんて指摘するほうが無粋です。自分が描きたいものを描くのは、とても楽しいことですよね。
和服を描きたいと思ったら、まず「着物のルールや史実に沿う必要があるか・ファンタジーでいいのか」を決めておくと、気持ちが楽になりますよ。
――和服が描きたくなるお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました!
摩耶薫子
和服は最初、きまりが難しいと感じるかもしれません。でも、絵を描く上では必要がない限り、それらしく描ければ十分。今回ご紹介したポイントに気をつければ、変に見えることはないと思います。
構造を知ってから和服の資料を見ると、今までより理解できて、絵の参考にしやすくなっていると思います。
着物って、そんなに構えなくていいとお伝えしたいです。ぜひ楽しく描いてください!

『構造と動きがよくわかる 着物の描き方大全 着物の基礎知識から多彩なポーズ描写まで』
摩耶薫子
X:@k_maya
Web:https://potofu.me/kaorukomaya
イラストコンテストのお知らせ
この度GENSEKIにて、摩耶薫子さんを審査員にお迎えし「和服イラストコンテスト」を開催します。ぜひこの記事も活用して、和服のイラストにチャレンジしてみてください。たくさんのご応募、お待ちしています!
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GENSEKIマガジン編集部
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