こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。
原田ちあき先生を審査員にお迎えした「ホラー漫画」コンテスト。ゾッとするものからしんとした怖さまで、さまざまな作品が集まりました。
選考では原田先生のホラー漫画を描くアドバイス、絵の仕事への考え方、配色についてまで、たくさんお話いただいています!
※レポートは各作品、2枚目までの掲載です。タイトルをクリックすると全ページ読むことができますが、読む際はご注意ください……。
審査員
原田ちあき(X:@cchhiiaakkii/Instagram)
職業は自称「よいこのための悪口メーカー」。イラストレーター、漫画家、キュレーター、アパレルデザイナーといった多岐にわたり活動している。代表作は『誰にも見つからずに泣いてる君は優しい』 (大和書房)。1990年大阪生まれ、京都芸術大学イラストレーション科非常勤講師。
インタビューした人
サイトウ
【大賞】映画を見たような読後感でドラマチックな作品
原田
大賞はあくらさんの『ミミー』です。画力、物語ともに申し分ない完成度で、絵柄とコマ割りがすごく見やすかったです。
サイトウ
3ページ目の向き合っているコマ割りが印象的です。
原田
時の流れがきちんと表現できていて、見事ですね。オチまで読んだとき『世にも奇妙な物語』にありそうな、ちょっとしたドラマを見ているようでした。
サイトウ
この作品は、サムネイルが漫画の導入にも使われていますね。
原田
『ミミー』とタイトルを入れることで表紙としつつ、導入部分が描かれている点ですね。
今回のコンテストにはページ制限があったため、導入を表紙にすることで少しでも内容を入れようと考えたのではないかと思います。
それでもまだ全体的にセリフを詰めた印象はあるので、もっと自由にコマ割りをした長い作品も見てみたいですね。きっと見ごたえがあるんじゃないでしょうか。
サイトウ
あくらさんのプロフィールを拝見したところ、GENSEKIに載せている漫画はこちらの作品のみでした。
原田
もっとほかの漫画も見てみたいと思いました。読者として今後も楽しみです。
このたびは、大変栄誉ある賞をいただきまして、ありがとうございます!
幸運うさぎのミミーと「ぼく」のちょっと不思議で奇妙なお話を、お楽しみいただけて、またゾッと?! していただけて、とてもうれしく思います。これからも絵本のようなイラストや、絵本のようで不穏な漫画をたくさん描いていきたいと思います。
改めまして、このたびはありがとうございました!
【佳作】すべて大賞候補! それぞれの個性を生かしたホラー感
原田
ホラー感をいちばん感じた作品です。ページ数が少ないのに、オチがばっちり怖い。「ホラーに向かない絵柄」とコメントされていましたが、絵も十分怖いです!
サイトウ
絵のインパクトがすごいですね。
原田
確かな画力があって、普段からしっかり漫画を描いているのが伝わってきました。キャラクターが少しポップなのですが、それが怖さを増長させて、読みごたえが増しています。夜に読むんじゃなかった……と思いました。
サイトウ
ストーリーは怪異系のホラーですね。
原田
この後どうなるんだろう? という読後感もありますね。例えるなら伊藤潤二先生のような怖さがあり、短編としておもしろかったです。
サイトウ
大賞を目指すためにあと一歩、という部分はありますか?
原田
正直、大賞がいくつも選べるなら入れたいぐらいなので、アドバイスと言われると迷いますね……。
絵柄を気にされていましたが、迫力があって漫画としても読みやすく、完成されています。もう一歩洗練するためには、絵柄というよりデッサン力を上げる……ぐらいでしょうか。
それも強いて言うならです(笑)。とってもおもしろかったですよ。
原田
絵の魅せ方が本当にうまく、最初の1枚で伝わってきます。高い漫画力と画力が備わっていますね。
サイトウ
最後は「おーい」の一言ですね……。赤と黒の配色も印象的です。
原田
シンプルにまとめているのもかっこいいですね。ほぼセリフなしというのもおもしろかった。たでまるさんの中でも実験的なことをされていると感じました。
基本的に漫画は本だと白黒になってしまうので、色が活かせるのはデジタル漫画ならではですね。ひとつ色を足すことで、ホラー感が増しています。
サイトウ
他にホラー感を上げるためのコツなどはあるでしょうか。
原田
絵柄だとは思うのですが、こちらの作品はホラーとしてはちょっと線がシンプルで、もうちょっと描き込んでもおもしろくなりそうです。勢いのあるタッチなのですが、ねちっこく、ゆっくり線を描いた方が「ホラーっぽさ」が出ると思います。
サイトウ
作品へのアドバイスがあればお願いします。
原田
佳作はどれも本当に大賞と迷ったのですが……もう少しこの男の子が怖がっているところがあってもよかったかな、と思います。ひとつ加えるとしたら、男の子とオバケの関係性など、ストーリーの背景が知りたいですね。
サイトウ
なるほど。たとえば、オバケの子の遺影が置かれていたりという感じですかね……?
原田
そうですね。アイデアを出すなら、この男の子が「こういうものをよく見る体質」であることを示す何かがあったりでしょうか。もうひとコマふたコマ何か刺さるものがあると、もっと深みが出ると思います。
原田
コマ割りがうまく、アレクサが光ってるところだけ色がついたり、2ページ目のミニキャラと手の描き込みのメリハリなど、漫画力の高さを感じました。
テレビでもPCでもなく、アレクサなのが今どきっぽくていいですね! みんな、家にあったりどこかで似たものに触れていたりすると思うので、想像力がかき立てられて、おもしろいです。
サイトウ
他のコンテスト講評ではよく「共感が大事」と聞きますが、ホラーでも同じでしょうか?
原田
見たことや触れたことがある、というのは大事です。例えばこれが樹海に行った話だと、行ったことのない人にはちょっと想像しづらいですよね。アレクサの声は想像しやすいし、その無機質な怖さが、すごくいい味を出しています。
サイトウ
さらによくするためのアドバイスはありますか?
原田
電気がついたとき、主人公にピンクの色がつくのですが、これはなくてもいいかもしれません。安全圏に来た表現だと思いますが、部屋が明るくなったことで伝わります。ねこいたさんは画力があるので、それで十分だと思いますよ。説明しすぎない方がいいと思います。
サイトウ
色はアレクサだけ、がよかったのでしょうか。
原田
その方が、最後のアレクサの赤もより際立ちそうです。
あとは……キャラクターのセリフがSNSっぽいネットスラングふうで、ちょっと怖さが減っています。でも、これはねこいたさんの特徴で、いいところでもあるんですよね。
これは全員に言えることなのですが、特にホラーの時は「自分のクセや特徴をもっと増長するか、取り払うか」を、もう何回か描いてみて見極めるといいと思います。
例えば『ポプテピピック』のような喋りかただと、大川ぶくぶ先生の漫画だとすぐわかります。そういう自分なりの独特な喋り方を見つけるのも、おもしろいですよ。
【総評】みなさんの「挑戦」が伝わり、もっと先が見たくなった
サイトウ
イラコン全体を振り返って、いかがでしたか?
原田
私自身、自分がホラー好きだとわかって描くようになったのは最近で、ビギナーです。今回ご応募いただいたみなさんも、ホラーが初めての方は多かったのではないでしょうか? たくさんの応募作品から「挑戦」が感じられて、おもしろかったです。
サイトウ
コンテストでは毎回、新しいジャンルに挑戦する方がたくさんいらっしゃいます。
原田
みなさんが自分の持ち味を活かして怖く仕上げた、というのが伝わってきて、とてもいいコンテストでした。
【審査するポイント】
・丁寧に描こうとしているか
・ゾッとさせてくれるか
・テーマに沿った作品作りができているか
サイトウ
審査ポイントの「丁寧に描こうとしているか」には、どういう意図があったのでしょうか?
原田
「丁寧に」というのは、うまい絵柄で完璧に描いてほしい、ということではありません。読み手のことを考えたコマ割りや、キャラクターの見分けをつきやすくする、場面が想像しやすいようにするなどの工夫のことです。
描いたものは、人に見てもらってはじめて作品になるので、「何が描いてあるのか」「読みやすく描けているか」がプロには重要だと考えて、このポイントを入れました。
共感、見やすさ、配色。原田先生の作品への思いと工夫
サイトウ
今回、先生にもコンテストのために漫画を描きおろしていただきました。漫画のアイデアはどうやって出されましたか?
原田
私は子どもが出てくるホラーが結構好きで、不思議体験をするのは大人より子どもの方がありそうだと感じます。それで、小学生が怖い目にあってしまう漫画に挑戦しました。
「実際に自分が体験してたかもしれない」と感じる作品が好きなので、小学生のときのとりとめない記憶やクラスメイトなどを思い出しながら、キャラクターを作りました。
サイトウ
このような「学校の怪談」には不思議な説得力がありますね。子ども時代はみんなが経験しているので想像しやすそうです。
原田
子ども時代はいい具合に思い出フィルターがかかっていますし、忘れている記憶もありますよね。みんな同じような作文の授業をしただろうから、思い出しやすいなと考えました。
サイトウ
怖くするポイントはどんなところでしょうか?
原田
ちょっとずつちょっとずつ怖くなったらいいなと思ったので、読み進めるうちにだんだん不穏になるように心がけました。
サイトウ
先生の作品は、色も印象的です。どんなことを考えて配色されているのでしょうか?
原田
私は、もともとは色塗りに苦手意識がありました。小学生のとき、空を真っ赤に塗った絵を描いて先生やまわりの大人に病んでると心配されてしまったことがあったんです。
でもその後、お仕事をいただくようになり改めて絵の勉強をするなか、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生のインタビューに出会いました。「昔、家にあった画集の絵を見て、空がピンクでもいいんだ! と思った」とおっしゃっていて、そこから私も「いいんだ!」と、色を自由に塗れるようになりました。
ただ、顔が青でも緑でもいいけれど、独りよがりになって色がごちゃごちゃしてしまうと、見る人がしんどくなってしまいます。そうならないように、描きながら気をつけて配色を覚えていきました。
サイトウ
配色も、総評でお話しされていた「見やすさ」に繋がっていくんですね。
原田
そうですね。あと、私はSNS発のイラストレーターであり漫画家だったので、スマホをスクロールしたときに手が止まるかという点でも、カラフルさは必要でした。また、「これが原田のイラストだ!」とぱっと見てわかってもらえるように何か特徴が出せないか、など複数の理由があります。
サイトウ
色選びの参考にされているものはありますか?
原田
神社仏閣が好きなので、装飾の色あいなどはよく見ています。また、先ほどの荒木先生や、大人になってから色使いのよさでおすすめいただいた横尾忠則先生からも、インスピレーションを受けています。
サイトウ
ホラー漫画だけでなく、作品づくり全般に通じる貴重なお話、ありがとうございました!
原田
こちらこそ、ありがとうございました!
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kao(X:@kaosketch/Web)
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