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個性が光る”あるある”の描き方とは? 山田全自動先生「あるあるイラストコンテスト」レポート

 

こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。

「あるあるイラスト」の名手、イラストレーター・Webデザイナーの山田全自動先生を審査員にお迎えした「くすっと笑えて思わず共感! 10枚イラスト『あるある』コンテスト」。

応募者の方には10枚の「あるある」イラストを描いていただいております。

山田全自動先生にはその中から大賞1作品、佳作4作品を選出いただきました。いい「あるある」作品の作り方とは。先生のコメントも必読です!

審査員
山田全自動(Twitter:@y_haiku
佐賀藩出身、福岡藩在住のイラストレーター、ウェブデザイナー。江戸時代の町人をモチーフとしたイラスト、およびそれらに添えられたシュールなコメントが特徴。
InstagramほかのSNSが人気を呼び、広告や企業コラボ、メディア露出などの実績多数。
ライブドアブログOF THE YEAR 2020ベストクリエイター賞受賞。

インタビューした人
坂本彬
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230725/20230725162318.pngGENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。

 

【大賞】経験がなくても”あるある”と思ってしまう良さ「吹奏楽部あるある」

吹奏楽部あるある / せるこ

山田全自動
大賞は「吹奏楽部あるある」です。

 

坂本
「吹奏楽部」というと、経験していない人もきっと多いですよね。そんな中であえて「あるある」を作るという……。

 

山田全自動
僕も吹奏楽の経験はないんですけど、そんな自分が見てもおもしろいし、見た人に想像させるリアリティがあるからなのか「あるある」と思えました。

また、今回応募いただいたのは1コマずつの作品だったので、小さなコマにどれだけわかりやすく情報を入れるかが重要になってきます。その点、せるこさんの作品は絵の密度もテキストの配分もちょうどよかったです。

坂本
特にお気に入りの「あるある」はありますか?

 

山田全自動
最後の「『1人ずつ吹いて』は死の宣告」が絶妙で笑っちゃいました。一番最後に落とすという形で、「あるある」の順番もすごく考えられていますね。

 

坂本
これ、おもしろかったです。先輩のインパクトがすごいですし、震えている後輩はかわいい……!

山田全自動
絵柄もかわいくてインパクトがあるため、全体的に頭に入ってきやすかったですね。私は特にギャルの絵が好きです。色使いも線もすごく好みなので、せるこさんのこれからにも期待しています。

 

受賞者コメント

大賞に選んでいただきありがとうございます。受賞の連絡をいただき大変嬉しくまた、びっくりしました!

あるあるということで、いくつかテーマを考えてみたのですが、共感してもらえるかな〜と挙げたテーマはすでに山田全自動先生が採用されていたりして(さすが…!)、改めて「あるある」でクスッと笑え、かつオリジナリティーを出すことの難しさを感じました。

講評いただいた通り、オチのあるあるに力を入れ、その10つめに向かって読み進められるようにあるあるの順番を意識しました。

他の投稿作品も面白いものばかりで、同じ「あるある」がテーマの中で表現が様々あって勉強になりました!

吹奏楽部に関しては、知らない人でも笑えたり、そうなんだ〜と驚いてもらえたりするかな?とチョイスしました。そして、経験あるみんなお疲れ!の気持ちで可愛く描き上げました。

これからも楽しんでもらえる日常の切り取り方ができるように頑張ります!

 

【佳作】共感できる? 共感できない? さまざまな「あるある」4作品

推し活あるある10コマ漫画 / ブルーザキヤマ

山田全自動
こちらは大賞と最後まで迷った作品です。

 

坂本
明確には描いてありませんが「ビジュアル系バンド」の推し活ですね。

 

山田全自動
大賞のコメントとかぶってしまいますが、僕は推し活というものをしたことがないんです。だけど、これも同じように「知らないけどあるあるなんだろうな」みたいに納得できるところに魅力を感じましたね。

 

坂本
知らないのに「あるある」と思えるのって不思議ですよね……。

 

山田全自動
僕自身も知らないことでも「あるある」って思えるんだという発見がありました。知らなくても共感できてしまうようなネタ作りが大事なのかもしれませんね。

 

髪切るのがめんどくさすぎて後回しにしがちな人 / とくら

坂本
これはまた、すごくニッチなテーマですね!

 

山田全自動
そこがおもしろいなと思います。普通だったら「髪切るのがめんどくさすぎて後回しにしがち」だけでひとつのネタにしてしまうと思うんです。

 

坂本
確かにそうですね……!

 

山田全自動
そこからさらに広げて10個のネタにしているのもすごい。無理やり感もなく自然でした。僕も実は髪切るのを後回しにしがちなので(笑)、すごく惹かれましたね。

 

全校集会あるある / かに味噌

坂本
「全校集会」という誰もが体験したことのある状況ですが……。絵がすごいです。

 

山田全自動
この方は絵が本当にいいですよね。僕もこれくらい個性的でインパクトのある絵を描きたいです。うらやましくなりました。筋肉など人体の描き方も上手でした。

 

山田全自動
ネタも独特で「背中に文字を書いてくる」は「それを持ってくるのか!」という意外性をつかれる気持ちよさがありました。

 

山田全自動
最後の「保健室の先生のプレミア感」は独特すぎてわからなかったけど、おもしろかったです。

 

坂本
「あるある!」と「あるかな……?」っていうのが、交互にくるような感じですね(笑)。

 

山田全自動
かに味噌さんは、この個性を生かすと、イラストの仕事の展開もあるんじゃないかと思いましたね。

 

実家あるある🏠 / つばさ

坂本
「実家あるある」。これはいろいろな方が共感されるのではないでしょうか……?

 

山田全自動
そうですね。共感しやすいネタに、みんなに親しまれるようなかわいい絵柄が絶妙にマッチしています。すごくいいバランスだと思いました。

 

坂本
最後のコマにもほっこりします。

 

山田全自動
ある意味さっきの「かに味噌」さんとは対照的な印象も受けますね。

 

【総評】あるあるネタ作りの秘訣とは?

坂本
今回のコンテストを振り返ってコメントをお願いします。

 

山田全自動
皆さん本当におもしろくて、どれを選ぶか非常に迷いました。むしろ僕のほうが見習わないとな、という気持ちになったというか。

例えば「吹奏楽あるある」には、一コマのなかでもどう見やすくするか、導線をどう作るかが凝縮されていましたよね。

純粋に見習いたいと思うし、これってイラストや、長い漫画を描く上でも重要だと思うんです。

 

坂本
先生が今回の「あるある」投稿を見るときにはどういうポイントを見ていましたか?

 

山田全自動
独りよがりになっていないかを見ていましたね。「あるある」というネタ自体が狭い世界のものになりがちなので、見る人のことを考えていないと変な内輪ノリになってしまいます。

その世界のことを知らない人にうまく伝えようとしてきちんと図解するなど、伝わりやすさの工夫があるものは高く評価させていただきました。

 

坂本
今回は応募において10個のあるあるを出すことが必要でした。みなさん数を出すのも難しかったのではないかと思います。先生は普段どのようにネタを出していますか?

 

山田全自動
僕は日々気になったことを、どんな細かいことでもメモするようにしています。そして量がたまってきたら、それをカテゴリで分けて内容を決めていくという流れです。

5個くらいならだいたいどんな「あるある」でも出せるんですけど、10個はなかなか大変だったと思います。僕も7個くらいまで決まって、あと3つ何かないかなという経験も多く……。そういうときは、自分の過去の経験を振り返ったり、人と話すと解決することも多いですね。

 

山田全自動
今回コンテストに向けて描き下ろした作品も、僕の学生時代の記憶を思い返しながら制作しました。「体育館の天井に挟まっているバレーボール」なんかは頭の片隅にずっとあったので形にできてよかったです。

<山田全自動先生に描き下ろしていただいた作品はこちらのページから読めます>

 

坂本
先生が「あるある」ネタを作るときにこだわっているところを教えてほしいです。

 

山田全自動
誰でも普遍的に「あるある」と思えるものを8割、「僕だけかな?」みたいなちょっとニッチな「あるある」を2割入れる形でバランスを意識しています。

その2割の部分がその人のネタの個性になると思うので、困っている人はまずその2割にこだわってみるといいのではないかと思います。

 

坂本
絵に関しては、どんな工夫をしていますか?

 

山田全自動
今回の「全校集会あるある」のように、絵を見ただけでこの人だとわかるのって強いですよね。

僕は、自分の作品では決まった色しか使わないというルールを決めて制作しています。絵作りで悩んでいる人は「この色しか使わない」「このペンしか使わない」みたいにルールを決めると個性が現れてくるのではないかと思います。

 

坂本
普遍的な「あるある」ネタの中で個性を出す秘訣……大事ですね。今日はありがとうございました!

 

 

執筆神田匠(Twitter:@gogonocoda

編集斎藤充博(Twitter:@3216