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うえだヒロマサ先生「絵を描くためにやっているちょっとしたコツ」漫画コンテスト選考レポート

 

こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。

イラスト講師・漫画家のうえだヒロマサ先生を審査員にお迎えした『あなたが絵を描くためにやっているちょっとしたコツを「漫画」で教えてください!』コンテスト

 

個性豊かなコツの漫画を、たくさんお寄せいただきました。読んで楽しいだけでなく、ショート漫画とは思えないほどの情報と熱量がこもっています。先生の漫画アドバイスまで、盛りだくさんのレポートです!

審査員
うえだヒロマサ(X:@hiromasa0478Web

イラスト講師・漫画家。廣済堂出版『ヒロマサのお絵描き講座』シリーズを執筆、pixivお絵描き学習サービス『sensei』で脚本を担当。岐阜県出身、大阪芸術大学卒業、京都芸術大学イラストレーションコース講師。

インタビューした人
坂本彬

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230725/20230725162318.pngGENSEKIマガジンの編集 /ライティング・マーケティングを担当。


【最優秀賞】絵を描き続ける上で大切なことを教えてくれる一作

私の描く為のコツ/鈴雪 ひな

 

うえだヒロマサ
最優秀賞は鈴雪 ひなさんの『私の描く為のコツ』です!

まず、単純にとても読みやすかった。漫画は大事なところは大きな絵を入れ、文字は詰めすぎないようにしてあります。最後の締めまでしっかり作って、きれいに終わっているので、全体的なクオリティが高く感じられます。

また、最優秀賞に選んだ一番の理由はテーマです。モチベーションが下がると絵は描き続けられません。「自分の絵が好き」と暗示をかけ、モチベーションアップできるのはとても重要。選考中いちばん刺さったコツでした。

 

坂本
自分の作ったキャラクターを愛するのは、絵を描き続ける上で大事なポイントなんですね。

 

うえだヒロマサ
今は、絵を教えていても「ウケる絵って?」「どういう絵を描けばいい?」とよく聞かれます。でもこの漫画のように「自分の絵が好きだから描く」とやっていく方がいい気がします。

正直なところを言うと、僕自身も自分の絵が好きという感覚はあまりないんです。だから「まずは自分の絵を好きになってみよう!」と楽しくなれるのは本当にうらやましい。

誰でも簡単にできそうですが、意外とできません。鈴雪さんはそれをコツとして捉え、自分の絵に活用できていて、尊敬します。

 

坂本
今後に向けたアドバイスはあるでしょうか?

 

うえだヒロマサ
漫画に描かれているように、技術面での挫折はあるかもしれませんが、それでも少しづつ前向きに画力を高めていった方がいいと思います。

また、絵を描く原動力が「自分の絵が好き」だけになってしまうと、今後描き続ける上でネックになるかもしれません。自分の内に向いて描くと、外に目がいかない難しさもある。

自分で自分を肯定し続ける方法と重要性は理解した上で、外に対して「どうしたら自分のキャラクターが愛されるか?」「自分にどういうものを取り入れたら成長できるか?」と貪欲に追求していけると、さらに上を目指せます。そうすれば、自分のキャラクターをもっともっと好きになっていけるんじゃないでしょうか。

 

坂本
この物語の主人公でシリーズ化して、先の展開も漫画に描いていけそうですね。絵に限らず、仕事などいろいろなシーンで参考にしたいです。作家性を活かしたい方にも大事かもしれませんね。

 

うえだヒロマサ
すごい力を発揮できるのはこういう考えの人かもしれません。絵を描くために大事なので、成長物語として描いていくのもおもしろいと思いますね。

 

受賞者コメント

このたびは最優秀に選んでいただき、ありがとうございます!「やったぞ!!ヨッシャ!!!」と気持ちがあふれて感涙してしまった……と思いきや、まさかの剥いていたネギで涙していました(笑)。

自分よりも優れた技術は動画や本などで学べますが、「キャラクターへの愛だけでイラストを描く」という精神論は珍しいのでは……?と思い、この漫画を描きました。

もともと私は自分の絵を見ることが好きではなく、発表するときも不安でした。怖くて誰かに「変な部分はないか」と確認しながら描いていました。
ですが考え抜いた先に、「自分のキャラクター達がいて幸せで、この子達を大切にすることで自分自身や絵も大切にできる」と感じました。その気持ちを漫画に描く事で、キャラクターを生み出す事が楽しいと再認識もできました。

長文になってしまいましたが、結論は「うちの子最高!」です!!

これからも楽しく描きながら、今回のヒロマサ先生と坂本さんの意見も取り入れていきたいと思います。自分の力を過信せず、どのように周りに伝えていくか考えながら、自分のキャラクター達とともに成長していきたいと思います。改めまして、すてきな賞をありがとうございました!


【佳作】内容も漫画形式もそれぞれ違う個性豊かな10作品

 複雑なカタチを描くときのコツ!/さとういもこ

 

うえだヒロマサ
プロの方ではないでしょうか? すぐ書籍に載せられるクオリティです。

 

坂本
さとういもこさんのWebサイトを見ると、漫画、イラストと幅広くご活躍されているようです。

 

うえだヒロマサ
慣れていてとても上手ですね。何より説明が難しいことをわかりやすく漫画にできていて、読むとなるほど! と思えます。技術の話としてもクオリティが高いです。

 

坂本
このままGENSEKIマガジンで記事にしたら、絵がうまくなる人が続出ですね。

 

うえだヒロマサ
僕が学校で絵を学んでいた時代は「やってみよう!」だけだったので、考え方を教えてくれるのはうれしいですね。ネガティブスペースという考え方は絵を描く上ですごく大事です。

 

坂本
クオリティが高いとのことですが、最優秀賞と佳作の違いはどこにあったのでしょうか?

 

うえだヒロマサ
この漫画は誰にでも当てはまる「技術的なコツ」です。対して最優秀賞は「自分のコツ」として心の中をさらけ出してくれた印象でした。今回は優劣があったというより、より心に響く漫画を優先しました。

とはいえ、本当にすばらしい作品でした。今後のご活躍を期待しております!

 

絵を描くときのちょっとしたコツ/しんぬ

うえだヒロマサ
まずサムネイルがすごい。一枚のイラストとして成立するレベルで描き込まれていています。ここまで力を入れたものが来ると思っていなかったので、驚きました。この熱意はうれしかったですね。

 

坂本
壁に絵が貼ってありますね。しんぬさんが今まで描いてきた絵でしょうか?

 

うえだヒロマサ
自分の絵が好き、という気持ちの表れかもしれません。描きたいことを描くのは本当に大事で、「人間は理論よりも感情で動くという性質がある」というのも納得できます。それを逆手に取ってモチベーションを上げるんだ、という気づきがありました。

 

坂本
最優秀賞を目指して、さらによくできるところはありますか?

 

うえだヒロマサ
漫画としては少し単調な印象があるので、伝えたいところをもっと大きくすると、よくなると思います。例えば1ページ目なら「自分が描きたい! と思ったものを描く。」というところがミソなので、ここを大きくすると、見る人に入ってきやすい。

しんぬさんが漫画の中でいちばん見てほしい部分に「どん!」と目を引きつける絵を入れられるようになると、もっとよくなると思います。

 


カッコつけないで資料を見ろ!/りょう

 

うえだヒロマサ
漫画もよかったですし、キャラクターがかわいい。かわいい女の子が描けるのは大事です。見てほしいポイントに、かわいさで惹きつけることができます。

 

坂本
テーマは「資料を見ろ」ですが、本当によく聞くことですね。

 

うえだヒロマサ
資料を見るのは本当に大切です! 

絵の学校の生徒も、最初はほとんど資料を見ないんです。長時間かけてイラストを描くようになり、足りないものがあったとき「資料を見ろ」と言われ……その繰り返しでクセづけされます。それでやっと、資料がないと描けないことにみんな気づくんです。

 

坂本
資料を見るのに抵抗があるという話もよく聞きます。本当は必要なのに、どうしてなんでしょう?

 

うえだヒロマサ
この漫画のように何も見ないほうがカッコいい! というのは、小さいころ学校で落描きをサラっと描いたらほめられた、みたいな経験から来ているのかもしれませんね。むしろ今までまったく絵を描いてきていない人のほうが、最初から資料を見られていたりします。また、それ以上に「めんどくさい気持ち」も大きいのかもしれません。

 

坂本
昔に比べて、今はネットですぐ資料が集められるので、活用してほしいですね。
先生は資料集めはどうされていますか?

 

うえだヒロマサ
資料用の雑誌を買ったり、Pinterestを見たり、人体の可動フィギュアを動かして参考にしていますが、なにより 自分の体が資料です。部屋に大きな鏡を置いてそこでポーズを取ればいい。

とにかく資料は大事。人も背景も何を描くにも、資料なしでまともに描けるものはないかもしれません!
本当に、絵を描くときはしっかり資料を集めてほしいです。

 

にのまえはじめの絵描きのお供/にのまえ はじめ

 

うえだヒロマサ
コーヒー牛乳のパンチが強い! 自分の推しを目一杯プッシュしてくれていておもしろかったです。説得力がありますね。

 

坂本
勢いがすごい。コーヒー牛乳そのもの以上のインパクトでした。

 

うえだヒロマサ
本質は「これをやると自分のやる気スイッチが入る」という習慣の話かな、と思います。

にのまえさんにとってはコーヒー牛乳ですが、いろいろなやり方に当てはめられるのではないかと思います。「コーヒーを飲む」「腕立て4回」など、なんでもいいので、スイッチできる習慣があるといいですよね。このように幅広く受け取れる点も評価しました。

 

坂本
絵に限らず、仕事や家事、家でリモートワークするときなどにも活用したいですね。

にのまえさんはイラストをまとめるのがうまく、GENSEKIにたくさん投稿してくださっていているのですが、漫画についてはいかがでしょうか?

 

うえだヒロマサ
とてもうまいと思います。魅せゴマが上手ですね。1ページ丸ごと使ったり、集中線を入れたりして、見せたい部分に目が行くよう視線誘導できています。「何が大事か」がとてもわかりやすい漫画だと思いました。

 

文字から派生飛翔/東龍ほフク

 

うえだヒロマサ
「何も思い浮かばないとき」のアイデアのコツですね。

似たようなことは僕もやります。ボーっとしているとき、目の前の壁紙に何か見えてきて、それを絵に描くんです。その感覚に近いと思いました。

 

坂本
うえだ先生もアイデアが浮かばないときのコツをお持ちなんですね!

 

うえだヒロマサ
ありますね。他にも、顔を丸で描いて、手足のポイントをポンポンと置いてから描くというのもやります。案外おもしろいものが浮かびますよ。人を顔から首、体、腕、手……と順番に描くと、おもしろい絵にならないこともあるんです。

こういうことをコツとして描いている人はなかなかいないませんよね。いくつか知っておくと、どうしようもなくなったときの救済方法が増えます。

 


お絵描きハニワの「絵を描くときのちょっとしたコツ」/星野めぐみ

 

うえだヒロマサ
これも漫画がうまい! 星野さんの中で漫画のテンプレートがすごくしっかりしていて、視線誘導がうまくいっています。

 

坂本
文字が大きくて、スマホでも読みやすいですね。

 

うえだヒロマサ
そうですね。Web向けに配慮されていると感じました。

 

坂本
色塗りで迷ったとき、絵のテイストから考える、というコツはどうでしょうか?

 

うえだヒロマサ
迷ったときに「自分はどういうものが好きか?」を探るというのは、方法のひとつとしていいですね。漫画のようにはっきり「ゴシック」「ビビット」といった様式が出てこなくても、方向性は見えると思います。

自分の好きなものがわかったら、それにあう資料を探して、絵に当てはめ、さらに想像を膨らませていくと、なお良いと思います。

 

坂本
私も色塗りが苦手なので、試してみたいです。

 

うえだヒロマサ
僕も苦手なので、学びになりました。先ほどのりょうさんの資料のコツとセットで考えると、さらに具体的に描けるようになります。

 


こなたこなのお絵描き裏ワザ集/こなたこな

 

うえだヒロマサ
こなたこなさんはいち早く投稿してくれました。4コマをたくさん描いている方ですね。

 

坂本
プロフィールによると、毎日4コマをアップされているようです。すごい。

 

うえだヒロマサ
この作品も実質6本ありますが、全部ちゃんと4コマ漫画として成立しています。どれも見やすく描かれていますね。

 

坂本
こんなに描いたらアイデアが尽きてしまいそう……。

 

うえだヒロマサ
いっきに何時間もかけてやるというより、応募作品も1日1本、とペース配分して描いたのかもしれませんが、このボリュームはすごいですね。コツコツやっている印象で、尊敬します。

コツもいくつかありますが、「とにかく今できることをやるのだ」という言葉が一番刺さりました。このテーマだけで描いた4コマも見たかったですね。

なにもやれないとき、「とりあえずやれることを」と切り替えるのは大切です。僕だったら寝ちゃいそうなんですが(笑)そこを我慢して、頭が使えなくてもやれるところをやろう、と考え方をシフトできるのは才能ですし、僕も学びがありました。


【超初心者向け】絵を描くときのちょっとしたコツ/すこぶ

 

うえだヒロマサ
すごい情報量です。普通に考えると4ページで描き切れないほどの内容なのですが、それをなんとか伝えたい一心で、詰め込んだ熱量と努力を感じました。

本来なら10ページくらいあると読みやすい内容かもしれませんが、始まりからオチまできちんと描かれていて、ひとつの作品として完成しています。

 

坂本
レイヤー画面の所まで、手描きで描かれていますね。

 

うえだヒロマサ
そうなんです! コツとしても初心者の方にはいい内容です。絵をまったく描いたことがない人は、色の塗り方すらわからないので、これを見たらバケツやレイヤーなどが、少しわかりやすくなるのではないかと思います。

タイトルにちゃんと「超初心者向け」と書いていて、届けたいところに向けて発信できているのもよかったですね。

 

絵を描く時のちょっとしたコツ/羊23号

 

うえだヒロマサ
どの作品も漫画の形式が違うんですが、みんなほんとに漫画がうまいですね……。オチは無理やりドッカンした感もありますが(笑)。

僕も学校でよく話すのですが、このタイプで損している作品は意外と多いんですよ。

 

坂本
「がんばったことを全部見てほしい」は難しいんですね。

 

うえだヒロマサ
全部が手前にくると、モチーフ同士がケンカしてどこにも目が行かない絵になってしまいます。

伝えたいことは一つでいいんです。「女の子」と「木」どちらを見せたいのか考えて、女の子を見せたいなら木はぼかす、奥に置くなどする。見せたいものを引き立てるためにそれ以外を使う、という考え方はすごく大切です。

 

絵を描くときのちょっとしたコツ 色味編/鈴木とろ

 

うえだヒロマサ
色味をチェックする話ですね。これも大事だと思います。

 

坂本
自分が描いている液晶タブレットの画面と、iPhoneやほかのデバイスで見る色味って、ちょっと違いますよね。

 

うえだヒロマサ
多くの人はスマホで絵を見ると思うので、描いていきなり投稿ではなく、まずスマホに送ってどう見えるのか確認するのは非常に大事です。プロでもこういうチェックをしている方は多いです。

色味をチェックをするときのやり方もフォローしてあって、わかりやすい漫画です。最後の言葉もいい。見る人に優しい漫画ですね。


【総評】すべての応募作品から、伝えたい努力と熱量を感じた

坂本
イラコン全体を振り返って、いかがでしたか?

 

うえだヒロマサ
全体的にみなさん漫画がうまかった。それに僕が想定していたよりも力作ぞろいでした。

 

坂本
気合の入った作品が多かったですね。

 

うえだヒロマサ
みなさんの漫画力の高さが出ていたので、選ぶのは迷いましたね。もしかすると、応募形式に「サムネイル表紙」を入れたことで、より気合を入れて描くぞ! となったのかもしれませんが……。いずれにしろ、熱量をもってコンテストに応募してくれたんだなと伝わる作品ばかりでした。

楽しんで描いてくれた方も多いんじゃないかと感じられたのも、審査する側としてはうれしかったですね。

 

坂本
漫画としての構成についてはいかがだったでしょうか?

【審査するポイント】
・読みやすい構成になっているか
・テーマをきちんとマンガに落とし込めているか
・共感できる内容になっているか

うえだヒロマサ
全体的にうまかったと思います。オチがない作品はほとんどなく、構成がしっかりしていて、作品として最初から最後までまとまっている作品ばかりでした。

 

坂本
「コツ」という面では、どうでしたか?

 

うえだヒロマサ
コツといってもいろいろありますが、みなさん「自分の中で大事にしていること」を漫画にしてくれたというのが伝わってきました。

「こう考えるといいですよ」という投げかけ方をしてくれているのも、読んでいて刺さりましたね。きちんと届けたいところに向けて発信できている作品が多く、そこも評価できる作品ばかりでした。

 


坂本
今回、先生にもコンテストのために漫画を描きおろしていただきました。この漫画は、どうやってアイデアを出されたのでしょうか?

 

うえだヒロマサ
僕も最初はにっちもさっちも行かなくて、苦しんでいたんです。でも、「何かのきっかけで変わる瞬間があるし、続けていればどうにかなる」と伝えたくて描きました。

 

坂本
何かを続けるというのは大変だけれど……というところからだったのですね。今日は漫画づくりのためになるヒントをたくさんいただきました。貴重なお話、ありがとうございました! 

 

うえだヒロマサ
こちらこそ、ありがとうございました!



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執筆

kao(X:@kaosketchWeb

編集

斎藤充博(X:@3216Web