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【中村佑介先生のゲンセキ合評会・後編】今回は音源つき! 2022年8月「それぞれの美」& 9月「ささやかな愉しみ」

こんにちは、GENSEKI編集部です!

今回は、GENSEKIで毎月開催している月例コンテスト、2022年8月「それぞれの美」 9月「ささやかな愉しみ」の合評会レポートの後編をお送りします!

 

この記事はYouTube動画記事の2パターン、前・中・後編の3本立てです。

 

▼前編

▼中編

 

大ボリュームですが、音声は作業中に聞き流したり、記事はちょっとしたスキマ時間のおともに読み進めてみてください。記事限定の部分もあります!

 

音声と記事で違った発見ができたり、きっと日頃の絵の悩みで共感できるところや、解決のヒントが見つかると思います!(音源・記事内容は一部編集しております)

 

▼合評会を音声アーカイブで聞く

 

▼合評会を記事で読む

 

写真やテクスチャに頼りすぎず、描いて絵を自分のものにしよう

合評された人:イラストレーター古海あいこさん

 

働きながらイラストを描いてきた古海あいこさん。プロに直接見てもらった経験が無くどう見られるのか知りたい、商業で仕事をするためのアドバイスが欲しいそうです。

https://twitter.com/uniharaguro/status/1604828331392000000?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


テクスチャが強いと商業では使いにくい

出版社にポートフォリオを送ってみたけど、今の絵柄で仕事をもらえたことがなく、このままでは難しいのかとお悩みです。出版社にはもう山ほどポートフォリオがあって埋もれてしまうんです。なので次は、「自分の絵がどう使われるか」を考えると良いです。

 

古海さんはとにかく犬が可愛い! 犬、お好きですね。好きなものは上手いのです。
一方、背景や人物など描けないものは、写真をベースにして描いていますね。

1枚目はお菓子作りの場面だと思いますが、あまり美味しくなさそうに見えてしまっています。それは犬に比べると人間を描き慣れていないから。この手でいいのかな? という感じになってしまいます。
対して2枚目の犬や、3枚目の柴犬はすごい。こんなに小さいのに描き分けができている。

 

好きじゃない・描けない部分をごまかすためにテクスチャを使っていて、今の時点でこのザラっとした雰囲気に逃げるのはよくありません。鮮やかでいい感じに見えますが、商業においては使いにくさになってしまいます。画面がうるさくなってしまうので文字が乗せにくく、雑誌の挿絵はテクスチャがないものがほとんどです。

 

強みを知り、観察してじっくり描き自分の絵を身につけよう

 

でも、古海さんはここまで犬と猫が描けるなら、お仕事で行けない気がしません。柴犬の絵は本当に、とても良いんです。本当は全部これくらい描けるのに、結果を急ぎすぎて他の部分に愛が足りていない。どんなものでも、依頼されたモチーフを素敵に描くのがイラストレーターの腕の見せどころです。

 

テクスチャに頼らなくても犬は描けているので、もっと他のモチーフも同じように観察してじっくり描いてください。写真を見て描くのはいいけど、下敷きにするのは卒業しましょう。それらに頼っているうちは描けるようになりません。
自分の頭に入れて描くことによって、背景、色、全部が古海さんの絵になっていくと思います。そうしたら古海さんは絶対おもしろいもの描けると思う!

 

Seshiさんの犬/古海さんの犬

もう一つの手としては、もう犬しか描かないというのもありです(笑)
いろんな犬種のワンちゃんをたくさん描いて、犬の雑誌など、犬の絵の需要がある所に持ち込むと良いと思います。自分の強みはそこなんだと自覚した上で犬を描きましょう。

 

ここまで犬がかわいく描けるのはびっくりです。Seshiさんとはまた全然違う方向性でデフォルメをかけていて、写真をなぞったのではないワンちゃんが描けています。猫ちゃんもすごくよかった。素晴らしいです!

 

 

形の正確さにこだわらず、絵のテーマを定めて人の感情をくすぐろう

合評された人:イラストレーターねこいたさん

 

別業界で働きながら絵の仕事経験もある、ねこいたさん。独学で修行のように絵を描く中で、美術の専門教育を通らずにいる感覚の違いが気になり、プロから見た率直な感想をお願いしたいということです。

https://twitter.com/nekoita/status/1604787000917516288?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


絵は人の感情をくすぐることが重要

僕がはじめてねこいたさんの作品を知ったのは、僕のアマビエ塗り絵コンテストの時。こういう半立体のリアルな塗り方をする人は他にいなかったので、平面性と立体性のコントラストがおもしろいと思いました。

 

中村先生の線画/ねこいたさんが塗ったもの

これがきっかけで他の絵も見ましたが、どの絵も「何が目的で、人にどう思われたいのか」がわかりませんでした。ねこいたさんはこれだけ時間をかけて描いているにも関わらず、思ったほどの反応がもらえていないのではないでしょうか? 絵を見た人も、目には留まるけどどう受け取ったらいいかわからないのではと思います。今日はその謎を解明したいと思います。

 

率直な感想はというと、ねこいたさんが「修行」のように描いていると言ったとおり、上手く描きたい気持ちだけが前に出ています。どれだけ質感を描けるかの練習になってしまうと、見る人も「ああ、質感出てるね」で終わってしまう。ここまで写実的でデフォルメもないと、写真でいいと思ってしまいます。

絵というのは上手いから好きになるのではなく、「おもしろい・かっこいい・かわいい」など、見る人が「好き」と感じるから好きになる。人の感情をくすぐるのが重要で、うまさや技術や質感というのは、それを伝える道具でしかありません。

 

では今後、ねこいたさんの絵の面白さをどこに見つけていったらいいのか、という答えは、塗り絵コンテストの時にあると思います。

 

僕の絵は割と嘘をついていて、モチーフの形をなぞったわけではなく「こうしたらもっとかわいい、絵が気持ちよくなる」など気持ちを探って描いています。
だからねこいたさんも僕の線画を塗って立体感をつけるとき「これどこの線? どうなってるの?」と思ったでしょう。それで「絵は嘘で塗りは本当」みたいなおもしろいコントラストがついた。
写真と違い、絵はそういうことができて、そこがおもしろいと思ってもらえます。

 

かわいさを優先するため実際の等身では描かないとか、ありえない感じで関節が曲がっているとか、かわいい絵の作家さんが嘘をつくように、テーマのために形は嘘をつくようなことが大事じゃないでしょうか。
塗りはリアルなまま、フォルムを正確に描きすぎない。絵ならではの良さを気づいてもらうために、絵の中に嘘を作っていく。そうすると「こんなに形が崩れているのに何だかリアルでおもしろい」となるんじゃないかと思います。

 

テーマに合わせて描きこむ順序を決める

 

次にキーになるのが2枚目、「それぞれの美」の花火の絵。主役は男の子なのに、目立っているのは花火です。絵のテーマと関係ない技術的な「これを描きこみたかった」というのが目立ってしまい、ストーリーが奥に引っ込んでしまいました。

 

犬狂さん(Twitter:@kenkyo_msmが、ねこいたさんの2枚目と同じようなテーマで描かれているので例に挙げます。

犬狂さんの絵

夏休みに親戚の集まりがあるけど男の子はそれが退屈で、食べ終わったスイカにアリが集まるのを見ている。「自分の世界とみんなの世界」というような、ねこいたさんの絵に近いテーマが順序立てて描かれています。
絵のモチーフをどの順番で目立たせたら自分の言いたいことが伝わるか考えて、少年やスイカとアリは目立ち、家や親戚などは抜いて描いてあります。

 

ねこいたさんはどの絵もアイデアがあっておもしろい。だからあとは、こんなふうに描きたいモチーフではなく「描きたいテーマ」を意識しましょう。どれだけリアルに描けても描きすぎて伝わりにくくなると思ったら描かない。逆に描きたくないモチーフでも絵に必要な部分はしっかり見えるように描く。

そういうのを取り入れていったら、どの絵も整理されていき、ねこいたさんの作品はもっとたくさんの人に伝わるようになると思います!

 

 

 

デフォルメで色のきれいさを強調し、競合のないモチーフを描いてみよう

合評された人:イラストレーター森田はぐみさん

 

保育士をしながら絵本の制作を続けイラストレーターに転職、開業したばかりという森田はぐみさん。絵で生計を立てるバランスに必要なこと、好感や親しみのある絵にするため直した方がいいことなどのアドバイスがほしいそうです。

https://twitter.com/hagumimorita893/status/1604853647980253184?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


形の単純化が色のきれいさを引き立てる

まず、森田はぐみさんは絵柄が多様です。狙いはよくわかり、1枚目は好きなものを描いた、2枚目は絵本や絵画を意識、3枚目は仕事に適用しやすい絵、ですね。

タッチの違う3枚の絵に共通する良いところはとにかく「色がきれい」。

 

 

特にこの絵です。こういう幾何形体できれいな配色の画風の人の中で、森田さんの色のセンスは抜群です!
モチーフの形を単純化させて目立たないようにすることで、強みの色のきれいさが全面に出ているのがとてもいいです。

 

 

他にお仕事を目指すならこの方向性ですが、デフォルメが少し中途半端になっていますので、もっと赤ちゃん特有の形や動きを単純化したイラストにしてみましょう。

 

色という最強の武器を信用して

 

お花と子どもと動物を描くのが好き、ということですが、仕事としては競合が多いモチーフです。このタッチで花やかわいいモチーフをかわいく描く人は商業ではたくさんいて、入り込める枠はなかなか残っていません。こういうタッチのチューリップは見飽きられてしまっていますが、例えば彼岸花、ひまわりなど、どういう風に描くんだろう? と思うような、あまり描かれていないもの、ニーズがありそうなモチーフを、このタッチで描いてみてください。

 

「オシャレじゃないモチーフをオシャレに描く意外性」を狙っていくとおもしろいです。お花やパスタではなく、動物や赤ちゃん、おにぎりやうどんやコンビニ弁当とか、ちょっとダサくてふだんオシャレに描かれないものをあえてこのタッチで描くほど、人気が出るかもしれません。

 

 

例えばこの絵。髪型を綿密に描こうとしなかったおかげで、色のコントラストがよく見えます。硬めのグラデーションも良いですね。

 

森田さんの場合は絵を上手く描こうとしなくていいんです。上手く描こうとすればするほど線が目立ち、色の良さが奥まってしまいまうからです。こんなに色がきれいなら絵の上手さまでは必要ありません。色彩感覚が優れているのでどんなものを描いても可愛くなります。
たぶんもっと上手い人の絵を見て「こうなれないかな」と思っていると思いますが、そこは「私とは違うんだな、でも私のほうが色きれいって言われたな」というのだけ覚えておいて下さい(笑)

 

とにかく森田さんは「色」という最強の武器を持っているから、色の強みだけ信用してやっていきましょう! 森田さんに色を習いたいぐらい、本当に見たことないぐらい配色がきれいです。この良さでInstagramを埋め尽くしましょう。その強みをぜひ活かして、もっともっとおもしろいモチーフを描いていってください。

 

 

素直な絵をたくさん描いて、見る人とコミュニケーションを取ろう

合評された人:イラストレーター志望のようこすさん

 

働きながら絵を少しずつ描いてきて、ゆくゆくはイラストレーターを目指したい、ようこすさん。新たなステップに進むためのアドバイスが欲しいそうです。

https://twitter.com/yokoth1/status/1603727900376584193?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 

奇をてらわず素直に描くことの大切さ

ようこすさんがやろうとしていることはおもしろいけれど、今回出してもらった作品は絵の場面・コンセプトと描いた内容がずれてしまっていて、モチーフや色使いの意味が伝わりにくくなってしまっています。

 

ポルノグラフィティ「夕食〜Love is you〜」ファンアート/『オリバーな犬、(Gosh!)このヤロウ』ファンアート

でも僕はこの2枚の絵を見て、絵がうまい人なんだとわかりました。ようこすさんのパーソナリティに合ってるものがちゃんと描けていて、この絵はとてもかっこいい!

左は「彼氏が寝ていて、先に起きた彼氏を見ている彼女で、あの時よかったな」という絵。すごく素直に場面が描けています。
右も、「裏家業の兄弟」という設定がすごく伝わってきた。遠くにある景色も、ぼかしているけどビルが違う形をしていて、きちんと描けている。

 

このように、ようこすさんが素直に描いている作品はわかりやすい。合評会の作品はプロに見てもらうからと肩肘張ってしまい、賢く見せたくて、わかりにくいのが格好いいかもしれないと思った結果、絵が迷い込んでしまいました。

ただ、3枚とも悪い作品ではなく、内容がわかりにくいこと・色の使い方をクリアできたら、「深いし伝わる」作品が作れると思います。ようこすさんはそういうところを目指していったらいいんじゃないでしょうか。

 

どんどん発表し、伝える力を鍛えよう

では、具体的にどうしたらいいかというと……

 

 

1枚目は「それぞれの美」。魚が好きなのは伝わるけれど、なぜこの髪は青で、水中で青くなるはずの服は白なのか? 暗い海底にしないためならきれいなサンゴを描けばいいのに、なぜレッドカーペットの赤い地面にしたのか?色の意図がわからなくなっているので、色のコンセプトをはっきりさせましょう。

水の青にいちばん影響を受ける服の白は、青を落とす。髪の黒は影響されないので黒いままです。タコの青の使い方がいいのに、赤が画面で目立ちすぎてしまっているので、全体を青でまとめて、どんなきれいな色使いができるか試してみましょう。魚のヒレの赤も目立たないよう茶色っぽくしても良いと思います。水中を表すなら、人の口元をぶくぶくさせたりするのもいいですね。

 

 

2枚目は、目の描き方が上手い! これだけで目とわかるのはむずかしい中、下まつげなどもすごくよく描けています。画力はとてもある反面、場面設定が伝わっていないだけなんです。
ライブが良かった絵だと伝わってきますが、やはりなぜ青色なのかはわからない。四角が照明を描いているなら、丸の方がわかりやすいかもしれません。また、目に映る人が大きすぎてステージに上がっている距離に見えてしまっています。

設定を雰囲気で描かないようにしましょう。「ライブ会場にいる」という説明がもう少し必要で、引きで描いてバンドメンバーが描いてあるとわかりやすいと思います。

 

 

3枚目は、「夕方、死神が街を徘徊していて、それを倒すため地味系女子が魔法少女に変身」。モチーフが何かは伝わりますが、状況がわかりづらいです。
死神がかわいいし近すぎて、味方に見えてしまいます。敵ならもっと意思疎通できそうにないぐらい、大きく怖く、変身しないと太刀打ちできないように描いて、相対的に「この子は変身したらすごく強くなるのでは?」と思わせましょう。

 

また、公衆電話やHEROの看板など、サブの要素に意味がありすぎてしまっています。
絵のおもしろいポイントは「地味な子が魔法少女になること」なので、それ以外の要素は排除し、奇をてらわない方が魅力が伝わります。

でも他の部分、街並みなどの描画は上手いです! 塗りもきれいで、絵画教室に通った成果も出ています。絵の上手さで見ている人を圧倒できるので、奇抜な絵や色を使わなくても大丈夫ですよ。

 

発表して反応をもらい、見る人とコミュニケーションを取ろう

ようこすさんはお話するとコミュニケーションが取れてとてもおもしろいのに、絵になると行きすぎたり引っ込みすぎたり天邪鬼になってしまう。
やろうとしていることはおもしろいので、あまり考えすぎず、いつも通りにやったらいいと思います!お話と同じくらい絵に面白さが落とし込めるようになると良いですね。

 

絵も会話と同じで、もっと作品を描いて発表して、見る人から反応をもらってコミュニケーションをしていけばわかります。どんどん作品をアップしていきましょう! 奇をてらわない事が大事。今はまだ作家性が定まっていない段階なので、仕事として考えるのはその後で、50枚くらい描いたら、また次を一緒に考えましょう!

 

 

最後に、合評会に参加された皆さん、お疲れ様でした! 勇気ある行動です。

 

 

今回も先生と参加者のみなさんの熱のこもった合評会、いかがだったでしょうか?
気になる作家さんがいたら、ぜひリンクから今の絵も見に行ってみてください。

 

合評会を聞いている人、記事を読んでいる人、みなさんがイラストに情熱を持った参加者です。気づきがあったこと・次につながる疑問など、ぜひTwitter #ゲンセキ合評会 のハッシュタグで感想をお寄せください!

 

合評コメント

中村佑介(Twitter:@kazekissa/Instagram:@yusuke_nakamura_jp

ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、
『謎解きはディナーのあとで』、『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など
数多くの書籍カバーを手掛けるイラストレーター。

 

編集:坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。

執筆:kaoTwitterHP
イラストレーター&ライター。GENSEKIではインタビューやメイキングを中心に担当。