【viviON CREATOR AWARD・鼎談】自分の「好き」は、作品のどこかに必ず残る

こんにちは。GENSEKIマガジン編集部です。

子どもの頃に夢中になったアニメや漫画。友人と交換したイラスト。誰に頼まれたわけでもないのに、何度も描いてしまう形や線。

創作の出発点は、いつもきれいに説明できるものとは限りません。けれど、自分のなかに積み重なった「好き」は、色や形、ものの見方となって、作品のどこかに必ず残ります。

株式会社viviONが開催する「viviON CREATOR AWARD」(以下、VCA)は、個人の「好き」から生まれる表現を受け止め、人や空間との新しい出会いへひらくアワードです。第1回は「偏愛」をテーマに、ジャンルや形式を問わず作品を募集しています。

今回は、VCA審査員で、アニメや漫画、同人文化に親しんだ原点を持つアーティスト・奥田雄太氏と、空間づくりのプロフェッショナルである株式会社丹青社に所属し、アート・工芸作品のプラットフォーム「B-OWND」のプロデューサー/キュレーターの石上賢氏、VCAを立ち上げたviviONの生原優介が対話しました。

自分の「好き」は、どのように作品へ表れるのか。技術が未完成な段階にしかない魅力とは何か。提示されたタグを、自分だけの表現へどう引き寄せればよいのか。

応募を迷うクリエイターへ届けたい、「好き」と創作をめぐる鼎談です。

登壇者プロフィール

奥田雄太氏

アーティスト/yutaokuda studio代表/viviON CREATOR AWARD審査員

日本およびイギリスでファッションデザインを学び、ファッションブランドのデザイナーとして活動した後、2016年にアーティストへ転向。繊細な線描と豊かな色彩が共存する独自の絵画表現で、国内外の個展・グループ展に参加しています。ファッション、ホスピタリティ、ライフスタイルなど多様な領域を横断するプロジェクトに加え、CLAMP作品とのコラボレーションなど、アニメ・エンターテインメント分野にも活動を広げています。

石上賢氏

株式会社丹青社 B-OWND プロデューサー/キュレーター

1992 年愛知県生まれ。画家の父と画商の母のもとで育ち、高校生からアート作品の販売に携わる。2019 年、丹青社にてアート・工芸×ブロックチェーンのプラットフォーム「B-OWND」を立ち上げ、プロデューサーとして戦略・企画を構想し、工芸の付加価値を高める活動を国内外で実施。2024 年、Forbes Japan が選出する世界を動かす文化起業家 30 人に選出。2026 年、ヴェネチアビエンナーレ公式サテライト展示 RelationalLogicのキュレーター/プロデューサーを務め、同年9月に東京・八重洲にオープンした大型複合施設「TOFROM YAESU」にアートギャラリーをオープンするなど活動を拡げています。

生原優介

株式会社viviON/viviON CREATOR AWARD責任者

漫画、ゲーム、音声をはじめとする多様なコンテンツに関わってきたviviONで、VCAを立ち上げました。クリエイターの表現が見つかり、人や空間と出会い、その反応が次の創作へ返っていく場づくりを目指しています。

アーティスト・奥田雄太の出発点は「オタク」だった

——奥田さんは、アーティストになる以前から、アニメや漫画、同人文化に親しんできたそうですね。


奥田:
今は「アーティストであり、元ファッションデザイナー」と紹介していただくことが多いのですが、実態はオタクからのスタートなんです。

中学生の頃には同人誌を描いたり、コミケへ行ったりしていました。パソコンゲームに夢中になり、『Fate』『AIR』『Kanon』のようなゲームがアニメになっていく時代も、深夜アニメの全盛期も見てきました。いわゆる「イニシエのオタク」の類です(笑)。

『カードキャプターさくら』は、僕にとって二次元の初恋です。その後、CLAMPさんとのコラボレーションが実現して、昔好きだったものと、今の自分の活動が別の形でつながっていきました。「ようやく、この経験を生かしてくれたか」という感じです(笑)。

石上:
奥田さんに審査員をお願いするきっかけも、まさにそこでした。別の対談でVCAの話をしたところ、「えっ、同人!?」と反応されて。そこからアニメや同人の話で盛り上がり、「審査員にぴったりじゃないですか」となったんです。


——絵を描き始めたきっかけは、何だったのでしょうか。


奥田:
体が大きくてスポーツが得意だったので、周囲からはスポーツを期待されていました。でも本当は、美術部の子たちがイラストを交換しているのが、死ぬほどうらやましかったんです。

クラスで絵が上手な子同士が、推しのキャラクターをリクエストし合い、自分のタッチで描いて交換する。僕も中学生の頃、それをやっていました。絵を描くきっかけって、友達との交換や模写から始まることが多いと思うんです。

生徒会選挙のポスターをすべて『最遊記』のキャラクターで描いたり、卒業文集には『ああっ女神さまっ』のスクルドを描いたりしていました。昔から、まったくブレていません(笑)。


生原:
viviONが長く関わってきた同人文化でも、創作の入口は「友達に見せたい」「好きなキャラクターを自分でも描いてみたい」といった、とても個人的な衝動であることが少なくありません。最初からアーティストを目指していなくても、「好き」から手を動かした経験が、後の表現につながっていく。奥田さんのお話は、VCAで受け止めたい創作の始まり方そのものだと感じます。

13歳までに出会った「好き」は、作品の基準になる

——当時の「好き」や原体験は、現在の作品にどのように残っていますか。


奥田:
めちゃくちゃ残っています。アーティストとして表現するとき、意図的にアニメキャラクターを描いているわけではありません。でも、色の選び方やシルエット、自分のなかの「良い」とする基準には、13歳頃までに出会ったものが影響しています。

例えば『天地無用!』に登場する宇宙船の、有機的なシルエット。アニメにはストーリーや設定の深さがあり、世界の解像度がとても高いですよね。アートも同じで、ただ絵が上手いだけではなく、作家のストーリーやコンセプトを含めて見られます。

自分が好きだったものは、何をしても、どこかにエッセンスや匂いとして残ると思います。


石上:
作り手自身にとっては当たり前すぎて、自覚していないこともあります。でも、作品を見る側からすると、色や形の選び方、繰り返し現れるモチーフに、その人だけの見方が表れている。本人が説明し切れていなくても、作品から読み取れるものはたくさんあります。

生原:VCAでは、応募者に「立派なアーティスト像」へ合わせてほしいわけではありません。アニメ、漫画、ゲーム、同人活動など、自分を育ててきた「好き」を隠さずに持ってきてほしい。既存のアートの言葉で説明できなくても、その人にしかない基準や視点が作品に宿っていれば、そこから対話を始められると考えています。

「偏愛」は、説明する前に作品へ現れる

——奥田さんにとって「偏愛」とは、どのような状態や感覚でしょうか。


奥田:
言葉にするのは、とても難しいですね。描いていくなかで、絶対にこだわってしまう場所や、「これなしではいられない」と感じる部分だと思います。

僕はもともと細密画を描いていて、規則性のあるもののなかに曲線的なシルエットが入ったり、形が崩れていく瞬間に惹かれます。

幼稚園の先生が今でも個展へ来てくれるのですが、「雄太くんは昔から、セミの羽や虫の裏側、木目を描いていたよ」と言われたことがあります。ディテールや細密な部分への興味は、ずっと変わっていないんです。

自分の「好き」を明確に言葉にするのは、一生かけて取り組むようなことかもしれません。でも、生み出された作品を見れば、「この人の偏愛は何だろう」と読み取れる部分がたくさんあります。


——作品の技術や完成度とは、どのような関係がありますか。


奥田:技術が上がると、表現をコントロールできるようになります。ただ、その技術が邪魔をすることもあるんです。
技術がない状態で初めて描いた作品には、伝えたいものが純度100%で表へ出ているかもしれない。整っていなくても、そこにしかない衝動やこだわりがある。生み出された作品からそれを読み解くことが、コンペの醍醐味だと思います。


石上:
VCAでも、技術が未完成かどうかだけを見るのではありません。作品の奥にどんな偏愛があり、そこから何を考えたのか。受賞後に対話を重ねたとき、コラボレーションや空間へどう展開できるのか。そこまで想像させる「解釈の鮮やかさ」に出会いたいと思っています。

生原:
完成度だけでは測れない表現を受け止めることは、VCAを立ち上げた大きな理由の一つです。viviONはこれまで、漫画やゲーム、音声作品など、強い「好き」から生まれた多様な創作に出会ってきました。最初から広く理解される作品だけでなく、誰か一人の切実な偏愛が、外へ出ることで別の誰かに届く。その可能性を、アートや空間の領域にも広げたいと考えています。

3つのタグから、「自分だけの裏ハッシュタグ」を見つける

VCAでは、第1回テーマ「偏愛」のもと、「#ドット #ピクセル #解像度」「#癒し #回復 #救済」「#異世界転生 #ファンタジー」の3部門を設けています。


——3つのタグをご覧になった第一印象はいかがでしたか。


奥田:
「ドット・ピクセル・解像度」は、ゲームやデジタルに触れてきた世代として、とてもよくわかります。最小単位で最大限に見せる表現や、限られたデータ量に膨大な時間を費やす熱量。そこに偏愛を感じます。

「異世界転生・ファンタジー」は、「なろう系」も含めて大好きですし、僕自身も転生したいと思っていますから(笑)。現実の抑圧から離れ、自分だけのファンタジーをつくれる世界です。

「癒し・回復・救済」は、一見すると作品の形を想像しにくいかもしれません。でも、日常の疲れへの慰めや、自分を納得させるためのポップなあり方など、アートの表現とも親和性があります。


——「タグに正しく答えなければ」と考えすぎず、自由に発想するには、何が大切でしょうか。


奥田:お題の言葉にとらわれすぎないことですね。タグを見て連想ゲームをしたときに出てくる、「逃避」「願望」「執着」のような、自分だけの裏ハッシュタグを大切にしてほしいです。

提示されたタグは、表面のエッセンスです。審査する側は、その奥にあるコアな偏愛を探します。だから、表面の言葉へきれいに合わせるより、そこから自分が何を連想したのかに忠実に描く方がいいと思います。


石上:
例えば「異世界転生」は、昔までさかのぼれば阿弥陀如来や極楽浄土、宗教画も、ある意味では同じテーマとして捉えられます。仏像をつくる仏師が応募してもいい。それくらい広く、自分なりの解釈へ引き寄せてほしいですね。


生原:
3つのタグは、作品が条件に合っているかを判定するための枠ではなく、自分の「好き」を別の角度から見つめる入口です。同じ言葉から、まったく違う記憶や願望、執着が立ち上がる。その違いごと受け止められる場にしたいと考えています。

コラボレーションは、他者の「偏愛」に触れること

——作品を外へ出すことや、異なる領域とのコラボレーションは、作り手にどのような変化をもたらしますか。


奥田:
普段は自己偏愛で描いていますが、コラボレーションでは、原作や相手をどう引き立てるかを考えます。

例えばCLAMPさんとのコラボレーションでは、相手の作品や意図をとにかく読み込みました。線をなぞるように深く見ていくことで、「ここまで細かなこだわりがあったのか」と気づく。客観的に、他者の偏愛へ触れることができるんです。

どちらかが勝つような関係ではなく、お互いがより良く見えるためのクリエーションができる。それがコラボレーションの面白さだと思います。


石上:展示空間をつくるときも同じです。作り手が何を大切にしているのかを読み取り、それを別の形へ置き換えていく。完成した作品を一方的に飾るのではなく、対話を通じて、作り手自身も気づいていなかった可能性を一緒に見つけていきます。


生原:
VCAは、賞を渡して終わるアワードではありません。受賞後は、審査員や空間づくりのプロと対話しながら、作品をフィジカルな展示へ広げていきます。デジタルのなかにあった表現が空間や鑑賞者と出会い、新しい見方が作り手へ返ってくる。その経験を、次の創作につなげてほしいと考えています。

viviONはこれまで、作品を発表する場所や、クリエイターとファンがつながる仕組みをつくってきました。VCAでは、そこへリアルな空間と異領域のプロとの対話を加えることで、クリエイターが自分の表現を広げる選択肢を増やしたいと思っています。

「嫉妬する」ほど、愛と熱量が詰まった作品に出会いたい

——最後に、今回どのような作品に出会いたいか、応募を迷っている方へメッセージをお願いします。


奥田:
人生を振り返ると、人や作品への「嫉妬」が、自分に一番良い影響を与えてくれました。嫉妬は、自分の心が動かされている証拠なんですよね。

「悔しい。嫉妬する」と思えるほど、作り手の愛や熱量が100%詰まった作品に出会いたいです。

VCAは、グランプリ100万円相当の制作・展示支援を含め、主催側の本気度が伝わるアワードです。賞を取った後の展開まで伴走する環境があるので、完成度に自信がなくても、自分の「好き」を恐れずにぶつけて応募してほしいです。


石上:技術的に上手いか、完成しているかということ以上に、タグや自分の偏愛に対する「解釈の鮮やかさ」がある作品に出会いたいです。「そう来たか」「一本取られた」と感じるような、見方が一瞬で変わる体験を期待しています。


生原:
viviONがVCAでつくりたいのは、完成された表現だけが並ぶ場所ではありません。一人ひとりの「好き」が受け止められ、別の誰かや新しい空間と出会い、次の創作へ返っていく流れです。

「これはアートではないかもしれない」「まだうまく説明できない」と感じている方にも、まず作品を外へ出してほしい。あなたの「好き」を受け止め、一緒に可能性を考える土壌を用意して、お待ちしています。

自分の「好き」は、作品のどこかに必ず残る

創作の原点は、立派な言葉から始まるとは限りません。

友達と交換したイラスト。何度も見返したアニメ。設定を想像して描いた同人誌。子どもの頃から、なぜか目で追い、描き続けてしまった形。

当時は創作の原点だと思っていなかったものも、色や線、シルエット、世界の見方となって、作品のどこかに残ります。それは、作り手自身より先に、作品を見た誰かが見つけることもあります。

VCAの3つのタグに、唯一の正解はありません。表面の言葉へ自分を合わせるのではなく、そこから何を連想し、何に心を動かされるのか。その奥にある「自分だけの裏ハッシュタグ」こそが、作品をその人だけの表現にします。
技術が足りないと感じていても、展示の完成図が見えていなくても構いません。コントロールし切れない段階だからこそ、まっすぐに現れる偏愛があります。

まず、自分の「好き」を恐れずに外へ出す。

そこから、作品と人、異なる領域、空間との新しい出会いが始まります。

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