広告漫画ってどのくらい儲かるの?制作会社にいろいろ聞いてみた

はじめまして。ライターのよざひかると申します。

ここ数年、絵を練習しておりまして、最近はSNSにエッセイ漫画も投稿しはじめました。

ライターとしての収入はあるのですが、漫画でお金をもらったことはほとんどありません。でももし……漫画でも稼げたら……最高の暮らしになる……なりたい……!!

というわけで、今回は漫画で稼ぐ手段のひとつ「広告漫画」について、広告漫画の制作会社である合同会社イチコマさんにお話を伺いました。広告漫画の現状、教えてください!

お話を聞いた人

店長

合同会社イチコマの業務執行社員。2022年、漫画家のジョンソンともゆきさんと一緒にイチコマを設立。オモコロなどに記事を書くライターでもある。

脳乃あメ

合同会社イチコマのディレクター。フリーライターや作家としても活動。

インタビューした人

よざひかる

去年、勢いでフリーランスになり、子も産んだのでどうしてもお金が必要なライター。

斎藤充博

GENSEKIマガジンの編集。たまにフリーランスとして広告漫画も描いている。

よざ
最近、漫画をすこし描けるようになったので、漫画でも稼げるのか!? 広告漫画やりたいな!? とうっすら思ってまして……今日はご相談させてください !!

斎藤
僕はときどき広告漫画の依頼を受けることがあるんですが、もっともっと仕事が来ないかなと思っています!

店長脳乃
ぜひぜひ!なんでも聞いてください。

イチコマのお二方、超初心者にアドバイスをくれるそうです。やさしい……。

「広告漫画制作」のお仕事って?

よざ
イチコマさんは、広告漫画制作の会社ですよね?どういったお仕事なのでしょうか。

店長
基本は漫画制作を起点に、プロモーション支援を行う会社です。

仕事の流れとしては、まず企業や広告代理店から「漫画を使ったプロモーションがしたい」とイチコマにご相談がくるんですね。

そのあと、要件を整理して、こちらからクリエイターさんを提案し、制作のディレクション・契約やスケジュールの管理、金額交渉などなどを行います。

漫画の「制作以外のこと」をすべて担当する感じですね。

脳乃
企業さんからは「漫画でプロモーションをやってみたいけど何もわからなくて……」ってまずご相談いただくことが多いですね。

クリエイターさんもお忙しい方が多いので、それぞれの希望を伺いながら間をつなぐ役割をしています。

「漫画でプロモーションしたい!」企業が増えている

よざ
「広告漫画業界」の引き合い、盛り上がりっていまどうですか?

店長
イチコマへの引き合い自体は年々増えていますね。

コミック市場全体が6,000〜7,000億ぐらいの規模があり、ビジネス漫画(ビジネスに使用される漫画、広告漫画も含む)も数十〜数百億円の市場規模があると推定されています。電子コミックの台頭に伴って、ビジネス漫画もここ数年で市場が成長し続けている状況ですね。

よざ
なんて夢のある……。どんな依頼が多いんでしょうか?

店長
大きくわけると2パターンあります。

ひとつは「パンフレットに漫画を載せたい」というように、シンプルに漫画制作だけを頼まれるパターンです。LP(ランディングページ)や地図に使う挿絵をお願いしたい……なんて依頼もあったりしますね。

もうひとつは「フォロワーが多い作家さんに漫画を描いてもらい、XでPR投稿までしてほしい」というものです。よく見る「#PR」がついているような広告案件です。

よざ
シンプルに漫画制作だけ……というパターンもあるんですね。てっきりPR投稿がセットになるものばっかりだと思っていました。

脳乃
割合でいうと半々ぐらいですね。一度SNSのPR投稿用として納品した漫画を、チラシにも使いたい……といった二次利用の相談もよくあります。

よざ
たしかに!漫画って一回描くといろんな媒体に使えてすごい。Web記事じゃなかなかできないので……。

業種はどうですか?

店長
アプリサービス、食品、美容などが多いですが、さまざまですね。

「大きなマーケティング施策のひとつとして広告漫画もやりたい!」という企業さんもいますし、「漫画って頼んだら作ってもらえるんだ、お願いしてみよう」とライトに始める企業さんもいます。

イチコマは副業で、本業は営業職の店長さん。「市場規模」みたいな説明がスラスラ出てきます。すごすぎ社会人 

広告漫画を受注したい! 漫画家に求められることは?

よざ
そうした企業さんから広告漫画のお仕事をもらうには……。やっぱり画力がないとダメですよね?

店長
画力は定義にもよりますが「絶対うまくなきゃダメ」ということもないんです。

よざ
えっそうなんですか!? 企業案件なんて、めちゃくちゃうまくないとダメだと思ってた……。

店長
やっぱ広告漫画だと「伝わりやすさ」が第一なんです。

美麗なイラストが描けるかどうかっていうのは、そこまで選定にかかわりませんし、逆に美しすぎるイラストだと「人を選ぶよね」って判断になっちゃったりしますね。

うますぎることがノイズになってしまうこともあります。

脳乃
クライアントさんから画風の指定がある時もよくありますね。「少女漫画っぽい絵が描ける人」とか。

店長
画力の例でいうと以前、オートレースのお仕事をさせていただいたことがありました。

漫画とイラストを複数のクリエイターさんに発注させていただく仕事でしたが、この場合はまずバイクをきちんと描けるか、が条件にはなります。

例えば「ハンドルをこう修正してほしい」という依頼がきた場合にきちんと調整する技術があるか…ということですね。

斎藤
ウワーッ……バイク……描くの難しいから……。

よざ
商材が複雑な形状だと大変なのかも……!? ちなみにSNSのフォロワー数はどうですか?

店長
知名度があがれば、仕事は来やすくなりますし、PR投稿までしてほしい! という案件であればフォロワーはたくさんいた方がいいです。

ただ、LPにのせる漫画を制作したい、などの仕事の場合は関係ないことがほとんどです。

より案件にフィットする、わかりやすい漫画を描けるか? の方が重要になります。

斎藤
広告漫画ってフォロワー数ありきなんだと思っていました……。そういうわけでもないんですね。

よざ
受注のために必要なポートフォリオの準備の仕方も全くわからなくて。あった方がいいですよね?

脳乃
あった方が良いですね。さまざまな場面で提出を求められるので、まずは形式問わず作ってみて、あとからブラッシュアップしていくのがいいと思います!

GENSEKIマガジン編集部より
ポートフォリオ作りはGENSEKIでも行えます! ぜひ登録してみてください。

店長
自分のイラストをただ並べたポートフォリオとは別に、ビジネス用のポートフォリオがあるとより良いですよ。広告漫画におけるポートフォリオって、いわばお客さんの意思決定を助ける資料なんです。過去の広告実績とか、納期はこのぐらいなんだとか、依頼するイメージが湧く資料になるとより良いと思います。

イラストだけを並べて「何かを読み取ってください」というアートっぽい資料だと困ってしまうんです。

一番気になる「お金」の話

よざ
話せる範囲でいいのですが、お金ってどのくらい儲かりますか……?

店長
基本はめっっちゃさまざまです。

かなり幅があって、まずカラーなのかモノクロなのかでも違いますし、デフォルメしたイラストなのか、細かく書き込むのかでも違います。

それからページ数、担当するクリエイターさん、PR投稿までするならフォロワー数による相場、二次利用の有無……などかなり多岐にわたります。

よざ
でも大体……ざっくりどのぐらい……?

     絶対にお金のことを聞いて帰りたいフリーランスの2人

店長
ざっくりいうと、ヒアリングから作家さんが入って、フルカラー4P……とかだと、50万円ぐらい予算があれば、幅広いクリエイターさんにお願いできる価格感ですね。

斎藤
いまの50万っていうのはクリエイターが受け取る金額ではなく、イチコマさんが受注する金額ですよね?

店長
そうですね。そこからうちは最低限のマージンだけいただいています。

かなり取ってない方なんじゃないかなと思ってるんですが…まぁ別に言っていいかな……。

斎藤
えっ言っていいんですか?

店長
例えば、50万円で受注すると、我々が提案とか、ディレクションなどで間に入るので、クリエイターさんにお渡しできるのが……35万円ぐらいだと思っていただければ。

斎藤
えっっっっ? すご!!!

よざ
絶対絶対もっと持っていかれると思いました……すみません

店長
もちろん案件によって変わりますが、1P漫画を制作する価格が大体4〜5万円ぐらいかなと思っていて、4Pなら20万円ぐらいが「漫画を描くこと」の制作費になります。

それに加えて、ヒアリングいただく稼働費で5万ぐらい、その後の提案、修正などの工数をいれると……35万円ぐらいはお渡ししたいということですね。

もちろんこの予算内でやってください、とか例外はたくさんあります。

よざ
内訳を聞くと急に納得感が……。

脳乃
あまりに低い金額を引き受けちゃうのも、クリエイターさんにとってよくないので、そこは気をつけています。


受注した場合のざっくりとした制作フロー。ゆとりあるスケジュールを心がけているそうです。

お金以外のメリットも

よざ
でもお金だけで引き受けた仕事って、辛かった思い出もあって……。

広告漫画を受注するメリットってお金以外にもありますか?

店長
広告漫画って、依頼をうけて、しっかりその期待に応えて、お金をもらいますよね。

しかも業種や依頼内容も多岐にわたっている。そう考えると、かなり難易度が高い作業なんです。

そうした依頼をきちんとこなして、食べていけるようになると「おもしろい作品を作ること」とは別の自信がつくのではないかと思います。

脳乃
そうですね、コミュニケーションとか、提案力とかはかなり求められるので。完成させて世に出せたということは、そうした過程をこなせる力がある、という信頼に繋がりますね。

よざ
たしかに、自分で好きなことを描いて発表する場合とは全く違いますね。責任も出てくるし……。特にフリーランスで漫画家をしているなら、そうした社会的信頼が増えるとメンタルが安定しそう……。

店長
「自信とか社会に選ばれてるということが自分のモチベーションになる」という人にはとてもおすすめできる、という感じでしょうか。

よざ
でも正直、広告漫画を受注したら、読者に「金の亡者だ」って引かれないかな!? という怖さもあります。

脳乃
最近はYouTubeなどの文化も相まって、広告漫画を発表すると読者から「こんな大きい会社からお仕事もらってすごい!」というポジティブな意見が寄せられることもあります。

「#PR 」がついているから読まれない、読者が離れるというよりは、内容がおもしろくないから読まれない、ということかもしれません。

プロモーションでもおもしろく制作できれば、バズる事例はいっぱいあります。

よざ
本質!!! たしかに、話を聞いていると、クライアントの要望とおもしろさを両立させた広告漫画を描くっていうのはすごくかっこいいことでは? と思えてきました。

店長
このあたりはバランス感覚がいりますが、企業側とクリエイターさん、双方気分よく着地できると一番いいですね。

私たちの漫画……どうですか? いけますか?

よざ
せっかくなので、私と斎藤さんの漫画を見てもらって、広告漫画……いけるかどうか判断してもらってもいいでしょうか……!!

店長
ぜひ! とかいって僕らは漫画が描けなくて、描けるだけでも本当にすごいことなので……。

あくまでビジネス漫画の視点で拝見しますね。

真剣に見てくださるお二人。

店長
……めちゃくちゃいいんじゃないですか?

よざ
えっ!! うそ! うれしい! 来てよかった!!


店長
ライティングをやってらっしゃるから、流れの作り方がうまくて安定感がありますね。実際SNSでもウケているので、依頼する時に安心して提案できるかなと思いました。

画風とかイラストとかは、いまでも依頼できるお仕事がたくさんあると思うんですけど、もう少しブラッシュアップして洗練されるとよりいいですね。

あと、コマ割りの見せ方とかがよりレベルアップしていけるといいかなって感じかな……。メリハリがついてくるとより広告漫画としてインパクトが出せそうです!

よざ
コマ割り! たしかに私、「漫画の基礎」みたいな記事を真に受けて、愚直に1ページ6コマで割ってました……。

脳乃
私も全く同じで、コマ割りが課題かなと思いました。広告漫画としてはより求められる部分かもしれないですね。

うまいなぁと思った人の特徴をどんどん取り入れると、さらによくなると思います!

斎藤
では僕のもよろしいでしょうか……。

店長脳乃
かわいい〜!!!!

店長
自分からすると、まったく変える必要はないかなと。絵柄を見てすぐ「斎藤さんの絵だ!」って分かることが素晴らしいですよね!

セリフも若干ポエティックで個性が出ていて「斎藤さんの漫画」としてすでに確立されていると感じました。背景をあえて描き込んでいない点も、内容により集中できるので効果的ですね。

このくらい自分の色があると、クライアント側もお仕事をお任せするイメージが湧きやすいと思います!

脳乃
絵柄もそうですが、コマ割りもお上手です! 親子の会話シーンとのんちゃんの回想シーンが、それぞれ同じ大きさ、形で描かれていますよね。シーンの切り替わりがわかりやすいと思います!

これが見せたいんだ、ということがすごく伝わってきました。

斎藤
たしかに、過去に何度か広告漫画を依頼されたことがあるんですが、ほとんど修正されたことがないんです。

多分漫画を見てもらって「斎藤ならこう描くんだろうな」ってイメージがついた上で依頼してくれてるのかなって……。

店長
フォロワー数の話にも関係してきますが、そうした作家性+認知度があると企業とのミスマッチやズレが少なくなっていくので、そこはメリットでもありますね。

「広告漫画」に興味がある方へ

よざ
私は絵がうまくないので、広告漫画なんて絶対無理!と思っていたのですが、希望が見えるお話でうれしかったです。

お金も魅力的だし、今後ぜひ挑戦してみたい! と思いました。

もしこれから広告漫画にチャレンジする方へ、アドバイスなどがあればお願いします! 聞きたい!

店長
先ほども少し触れましたが、広告漫画の場合、提案する技術やビジネス的なスキルがあるとなお良いですね。

お客さん視点から考えると、マーケティング施策を行うにあたって、バナー広告やTVCMなど、いろんな手段がある中で漫画という選択をするわけです。そこからさらにクリエイターを選ぶことになります。

そうしたクライアント側の事情をしっかり理解した上で「自分の漫画ならこう役に立ちます」と説明できるスタンスがあると完璧ですね。

脳乃
これは思ったより大事で、苦手なクリエイターさんも多いので、そこができたらとても強いと思います。

斎藤
それって広告代理店の営業の人と同じレベルのスキルですもんね。

よざ
ビジネススキルとかやりたくないからクリエイターになった!という人も多そうですが……!

店長
「自己表現を抑えろ!」という話ではなくて、クライアントから「こうPRしてほしい」って依頼された時に「自分のファン層や作風からすると、この角度で訴求した方がより効果があると思います」としっかり返せる人、という感じでしょうか。

クライアントさんが言ってることが100%正解ということもないので「言われたことをとりあえず描く」だけではなく、プラスの提案をいただけると本当にありがたいですね。

逆にそうしたプラスの提案がないと、漫画の方向性についてクライアントさんか、広告代理店か、我々か、誰かが考える必要があります。そこはクリエイターさんからぜひ提案してもらえると、みんなが助かるし、喜ばれると思います。

脳乃
もし、依頼内容を見て、自分には当てはまらないかもと思っても「自分なら違う角度で描けます!」という提案も大歓迎ですね。

その時、受注に繋がらなくても、次に案件が来た時に「そういえばこういう描き方できるって言ってた!」と私たちも思い出しやすくて……。

そういうところからどんどん仕事に繋がっていくと思います。

取材協力

合同会社イチコマ
Web:合同会社イチコマ
X:@ichikoma_info

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取材・執筆


よざひかる
(X:@HikaruYozaWeb

編集

斎藤充博
(X:@3216WebGENSEKI

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