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アナログの透明水彩で描く、いつか見た淡い夢の追憶 ー イラストレーター・ヲノダエマ

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作品作りのテーマは「いつか見た記憶のような淡い夢の景色」

水彩絵の具と色鉛筆で生み出されるヲノダエマ氏の作品は、どれも彩り豊かで温かく、見る者の心を温かく抱擁してくれる。

これまでにジャケットアートワークの受注や原画販売などの作家活動、「CLASS101」では水彩と色鉛筆を使用した作品作りのオンラインクラスも開講したりと多彩に活動している。

今回、2022年4月度の月例創作テーマ『桜』の特賞作品の制作背景や、作品テーマの由来と制作へのこだわり、今後の展望についてたっぷりと語って頂いた。

ふとした「日常のシーン」を表現したい

『花だより(GENSEKIコンテスト「桜」特賞作品)』

『花だより(GENSEKIコンテスト「桜」特賞作品)』

ーーこのたびはGENSEKIイラストコンテスト「桜」にて特賞受賞、おめでとうございます!作品のタイトルを教えて頂けますか?

ヲノダエマ:ありがとうございます。この作品のタイトルは「花だより」です。窓際でうつ伏せてぼんやりしている時に暖かい日差しが差し込んできて、そこからふと春を感じるような、そんな日常シーンを描きました。本の表紙や装画を意識して生活の一部を切り取ったような絵を描くことが多いです。

 

ーーまさに小説の挿絵や表紙になりそうなイラストだと思いました。画材やキャンバスがあって、美術室や図書室のような雰囲気で素敵です。

ヲノダエマ:実は、イラストの中に物を沢山描いてしまう癖があります。空間に物が沢山あるほうが自分も物の一部として空間に馴染める気がして落ち着くんですよ。

 

ーー色のバランスも素敵だと思ったのですが、勉強されているんですか?

ヲノダエマ:これといった勉強は特にしていませんが、実はこの作品では初挑戦の描き方で、色の絞り方を試してました。普段は小物を沢山描いてしまい、どうしてもカラフルになってしまうことが多かったので、今回は桜が目立つ様に、後ろの本の色をあえて塗らないようにしました。そこを評価して頂きとても嬉しいです。色を絞る大切さにもっと早く気づいておきたかったです(笑)

 

ーー気づきも得られたコンテストだったんですね。ちなみにこの絵はアナログ画材で描かれているんでしょうか?

ヲノダエマ:はい。透明水彩絵の具を使って描いています。

 

ーー制作にはどれくらいの時間がかかっているんでしょうか?

ヲノダエマ:明確な時間は分からないのですが、毎日数時間ずつ描き進めて、1週間ほど描いてたと思います。

 

ーーアナログで、1週間でこんなに素敵な絵を描かれていることに驚きです!コンテスト応募のきっかけは何ですか?

ヲノダエマ:実はもともと応募しようと思っていたわけではなく、この絵を描き上げた1週間後くらいに、このコンテストを見つけて、ちょうどいいタイミングだったので応募しました。

 

――グッドタイミングだったんですね。GENSEKIのコンテストに参加してみていかがでしたか?

ヲノダエマ:違ったテーマで沢山のコンテストが開催されていて、良い意味で敷居が低く、気軽に投稿できる印象です。普段はコンテストというと、良いものを出さなければ!と身構えてしまうことが多いので、毎月ある今回のようなコンテストはとても参加しやすかったです。

半分フィクション、半分ノンフィクション

『香彩日記(オリジナル)』

『香彩日記(オリジナル)』

ーー絵を本格的に描きはじめたのはいつ頃からですか?

ヲノダエマ:子どもの頃から絵を描くのは好きでした。中学生の頃、友達だけが見ているようなサイトで当時では考えられないほど、沢山のいいねの様な反応をもらい、調子に乗ってTwitterアカウントを作ったのがきっかけかもしれません。反応をもらって嬉しかったんでしょうね(笑)そのまま描き続けて現在に至ります。

 

ーーご自身の作風について意識していることや、こだわっているポイントはありますか?

ヲノダエマ「いつか見た記憶のような淡い夢の景色」というのをテーマに描いています。「半分フィクションで、半分ノンフィクション。」「ありえない世界観なのに、どこかちょっと懐かしい感じがする。行ったことがある気がする。」という風に感じ取ってもらえたら嬉しいと思いながら描いています。

 

ーーとても素敵なテーマですね。これをテーマにしようと思ったのは何故ですか?

ヲノダエマ:学生の時に、絵を見て下さった人が「夢を見るならアナタの絵の中に行きたいな。」と言って下さったのがとても嬉しくて。それ以来、見てくれた人に「夢の中でぐらいなら現実逃避しに来てくださいよ。」と言えるような世界観を目指しています。

絵を描くことで、自分自身が心を救われることも多く、空間の中の人物に自分を映し込んでちょっとした逃げ場にしたり、心を寄せたりしやすい雰囲気にできたら良いなと。

 

ーーとても素敵な意味が込められていたのですね。

『香彩日記(オリジナル)』

『香彩日記(オリジナル)』

ーー透明水彩の他に、使っている画材はありますか?

ヲノダエマ:透明水彩に加えて、主線は色鉛筆を使って描いています。

 

ーー最近はデジタルで描く作家さんも多いですが、デジタルに移行しようと思ったことはありますか?

ヲノダエマ:それは全くありませんね。水彩などのアナログの質感や温度感が好きで絵を描いている節があります。たまに落書きでデジタルも使うこともありますが、それも年に数回、気が向いた時だけで、やはりアナログの魅力からは解放されないですね。そこにあるという物理的な存在感も好きです。

 

ーーアナログ画材ならではの質感を大切にされているんですね。絵が上達したと感じたタイミングや転機になった出来事はありますか?

ヲノダエマ:先ほどの『花だより』の様に、新しい描き方や構図に挑戦してみて、それを好きだと思えた時に、そのまま没頭して描き続けてしまうことが多いので、それに伴って描く幅も拡がり、上達しているのかも知れません。

 

ーーひとつひとつ試行錯誤しながら積み上げていらっしゃるんですね。ちなみに尊敬するイラストレーターさんや作家さんはいますか?

ヲノダエマ芦屋マキさんです。水彩で描かれる方で、表現力や塗りの色合いが日ごとに洗練されていくのが凄くて、本当に好きで尊敬している方です。

あと、トヨダイズミさん。水彩では珍しく落ち着いた、時には不穏な色を堂々と使っていらっしゃる、誰にも真似出来ない色使いや質感の表現、その圧倒的な画力を崇め追いかけています。

最後に、Loikaさん。こちらは水彩画家ではありませんが、色使いや構図が独特で、新しい投稿の通知が届いたらすぐにページに飛んで行き、何十分も絵を眺めてしまいます。

皆さんの素敵なところを吸収できたらいいなと思い、日々追いかけています。

理想の表現に行き着くまでとことん向き合う

『香彩日記(オリジナル)』

『香彩日記(オリジナル)』

ーー絵にとても安定性があるように見えますが、構図などの絵の勉強はどのようにされてきたのでしょうか?

ヲノダエマ:勉強については独学です。描きたい構図が出てきた時に、随時その場で調べて吸収していくことが多く、過去にどういう描き方をしているのか、今、自分の絵に使うとしたらどんな風に応用できるかを毎回意識しながら描いています。

 

ーー頭の中のものをどう描くのかを調べながら描いているんですね。イラストを描きたいと思った時は、先に頭の中に構図やイメージが出来上がってるということですか?

ヲノダエマ:はい、ぼんやりとあります。それをラフに起こして「今の画力ではこの構図は描けない!」と思った時は、似たような絵を見たり、描き方を調べたりして勉強しています。もし描けなくても、そこで構図を変えてしまうと感じた景色とは変わってきてしまうので、頭を抱えながら何が何でも吸収しようと苦しみながら、描けるようになるまでやり通します。

 

ーー生みの苦しみを味わいながら、逃げずに描く。それが成長に繋がっているのかもしれませんね。では、一番思い出に残っている作品を教えてください。

ヲノダエマ:この『「 おかえり 」のために、今日も』という作品です。初めて空間を意識して描いた絵で、先ほどの上達の話でもお伝えしたように新しいことに挑戦して「これだ!」と腑に落ちた作品です。

『「 おかえり 」のために、今日も(オリジナル)』

『「 おかえり 」のために、今日も(オリジナル)』

ヲノダエマ:この2年前の絵で空間を意識するまでは、背景が真っ白の中に人をポツンと描くだけでした。ただ綺麗に描ければ良いと思っていて、特に意識しているものも無く、描いていても全部しっくり来ない、何が描きたいのかも分からない、そんな悶々とした時代だった気がします。この絵のおかげで現在がある、そんな作品です。

 

ーーとても重要で、原点のような作品なのですね!今では仕事で絵も描き、フォロワーも8000人いらっしゃるようですが、SNSはどのように活用されているんですか?

ヲノダエマ:SNSはうまく発信すれば戦略にできるんだろうと思うのですが、僕はそういうのがすごく苦手なので、気張らずに使っています。

 

ーーそれで8000人フォロワーって凄いことですよね!

ヲノダエマ:増えたきっかけは特に思い当たる節は無く、じわじわ伸びてきました。発表してみたら予想の反応と違うというのはSNSあるあるなのかも知れませんが、僕の場合は本当に狙った様に、綺麗に真逆の反応が返ってくることが多いんですよ。良いと思ったものがつくづく反応が悪かったり、適当にあげたものが反応もらえたりするので、下手な事はしないほうがいいと思って活用できていません。

 

ーー周りの反応を気にし過ぎると、描きたいものが描けなくなってくると思うので、続けていくうちに何かしらのきっかけや可能性がある、くらいに思っておいた方が良いのかもしれませんね。絵を描くこと以外の趣味はお持ちですか?

ヲノダエマ:ゲームをしたり、高校生の頃は軽音部だったのもあってギターを弾いたりします。また、写真を撮るのもすごく好きで、これは構図を考える時にも役立っています。空間を描く時に、自分だったらどの角度から写真撮るかを考えて構図をずらしたり、人の配置を考えたりするのも、写真の構図から来ている気がします。

 

ーーイラストにも活かされている趣味ですね。では、アイディアに詰まった時はどのようにして過ごしますか?

ヲノダエマ:床に転がったり、お風呂場に場所を移動してみたり、何故か玄関で描いてみたり…場所を移動するくらいで、違うことをするというのはあまり無いです。違うことをすると不安になったり、「今日はもうその絵を描かない。」というくらいに目移りしてしまったりするんです。だから、詰まっては床に転がって苦しみ続けている気がします。自分を苦しめたいんですかね?(笑)あまりリフレッシュする方法を知らないのかもしれません。

 

ーー寝たり、散歩に行ったりする方は多いですが「床に転がって苦しむ」は初めて聞きました(笑)ひたすら絵に向き合っていらっしゃるということですね。

創作の幸せと苦悩は表裏一体

『オリジナル』

『オリジナル』

ーーイラストを描いていて一番幸せだと感じる瞬間や、逆に辛いと感じる瞬間はどんな時ですか?

ヲノダエマ:良い構図や色が作れた時など、想い描いたものがうまく表現できた時はもうこの世で一番幸せなんじゃないかと思うぐらい幸せを感じます。その瞬間をもう一度感じたい、ということが続いてずっと絵を描き続けているのかも知れません。

辛いのはその逆です。いいアイディアが出なかったり、画力が足りなくて上手くいかなかったり、床に転がって頭を抱えている時ですね。創作で幸せと辛さが共存しているイメージです。

 

ーー表裏一体の世界ですね。お話を伺っていて、ヲノダさんはかなりアーティスト気質なのかなと感じるのですが、仕事が来た時にクライアントの要望に応えるのが辛いと感じることはありますか?

ヲノダエマ:それはありません。企業案件もいくつか経験していますが、決まったテーマや色の縛りがあっても辛くはありませんし、むしろ縛りがある方が楽しいと思うことさえあります。というのも、大学が美術系のデザイン科だったので、テーマのある課題だったり、縛りや要望に応える企画を考えるよう日々勉強していました。そのため、自分のイラストとデザインを結びつけるのはちょっとだけ得意というか、消化できるようになっているので、辛いと感じることは無いですね。

 

ーー大学のデザインの勉強がクライアントワークに生かされているんですね!ちなみに、現在はどのようなお仕事を受けていらっしゃいますか?

ヲノダエマCDのジャケット個人のアイコンイラストだったり、1枚の絵を原画として買い取りたいという依頼もあったりと、個人からの依頼が多いですが、今後は法人からのお仕事も増やしていきたいと思っています。本の装丁や音楽ジャケットの表紙など、キャラクター制作よりは物語性があるものを手助けするような、寄り添えるような絵を描くお仕事ができたらいいなと思っています。世界観が強い絵を描いてしまうので、商業には向いてないと言われたこともありますが、商業で声を掛けて頂けるような装画やジャケットも描けたらと。

 

ーー世界観が強いところがあるからこそ、物語系のあるものや音楽など、中身が大事なものの方がヲノダさんには向いていそうですよね。

ヲノダエマ:そうですね。難しいなと思いますが、がんばりたいです。

 

ーー最後にGENSEKIのサービス全体の印象についてお聞かせください!

ヲノダエマ:沢山のコンテストがまとまっていて、自分にあったものを沢山の中から選べる状況がとても楽しくて嬉しいです。気軽に参加でき、売れに売れている絵師さんばかりではなく、アマチュアでも入りやすいプラットフォームであることがとても有難いです。

また、GENSEKIという名前が良いですよね。僕も原石になれるのかなって、とても印象的で心に残りますし、サイトのコンセプトにも合っていると思います。

 

ーーとても嬉しいです!クリエイターの原石の方々を羽ばたかせていくという使命のもと頑張ってまいりますので、今後ともよろしくお願いします。

 

 

理想のイメージに向かって、逃げずにとことん向き合い続けるヲノダエマ氏の、創作に対する向上心とこだわりの数々を伺えるインタビューとなった。

今後も、ヲノダ氏の活躍に注目していくと共に、心の安らぎを欲した時は優しい夢の世界へ逃避旅行に出掛けるとしよう。

 

ヲノダエマ(Twitter:@em_IFM/Instagram:@onoda_ema

「いつか見た記憶のような淡い夢の景色」をテーマに、アナログ画材ならではの温かさや柔らかさを大切にしたイラストレーションを生み出す。ジャケットアートワークなどの絵の受注から、原画販売などの作家活動、「CLASS101」では水彩と色鉛筆を使用した作品作りのオンラインクラスを開講中。