11月に行われたイラストコンテストの縛りは「白と黒」の利用禁止!!でした。
線を描くための「黒」そして、絵には欠かせない光の表現に使用される「白」を禁止したとき絵描きたちは、どんな作品作りをするのか・・・!?
審査員
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』
YouTubeチャンネル登録者109万人。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
ゲームイラストを中心にディレクションを行なっており、イラストディレクション歴は6年。自身でもイラストを手掛ける。
中村
縛りイラコン第二回は、絵を描く際に一番よく利用する色である「白と黒」を禁止しました。
さいとうなおき先生
そうですね。難しい縛りだったので、悩む人も多かったのではないかと思います。
中村
前回よりも、より難しい縛りだったかと思いますが、今回も200件近い応募が来ました。
さいとうなおき先生
難しい課題にも前向きに取り組んでくれて嬉しいです!
中村
そうですね!では早速優秀賞の発表をお願いします。
石積みのような不思議なバランスで目を引きながら、課題の意味を自分で再定義して作品に落とし込んでいる
さいとうなおき先生
kitaさんの「ツキミソウ」です。
中村
可愛いイラストですね・・・!最優秀賞に選ばれたポイントはありますか?
さいとうなおき先生
kitaさんの良いと思った点は下記です!
- 課題に対してちゃんと取り組んでいる
- 色を絞っているのに印象的
- 不思議なバランスの取り方
中村
ありがとうございます!まず「1.課題に対してちゃんと取り組んでいる」について詳しく教えてください。
さいとうなおき先生
白と黒って普通、どんな絵にも使う色ですよね。
中村
そうですね。線は「黒」でひくことが多いですし、光の表現に使われる「白」も絵を描く上では外せません。
さいとうなおき先生
そうなんです。例えば、黒が禁止なら濃紺で線を引くことも出来ます。確かに課題はクリアできますが、それではあくまでも「いつもの絵」の色を少し変えただけになりますよね。
中村
なるほど、前回の記事でも「縛りを通して新しい気づきを」と仰っていましたが、禁止された色を代替するのではなく、使わないからこそできる「新たな表現」に気づくきっかけにしてほしいということなんですね。
さいとうなおき先生
はい。その点で言うとこの作品は自分なりに課題を解釈して挑戦しているように見えました。この絵でも「線」は使われていますが、イラストのテーマ・そして綿密な「配色」の一部として存在していることがわかります。
中村
その話は、「2.色を絞っているのに印象的」にも繋がりそうですね。
さいとうなおき先生
はい。kitaさんが使っている色の数は多くなく、絞って使用しています。そして色の組み合わせも、あまり見たことないような配色です。おそらく自分自身で模索しながら組み合わせていったのではないでしょうか。
中村
たしかに、ハイライトに使っているレモンイエローも独自性を感じますね。
さいとうなおき先生
レモンイエローはフリルのところにも使われていますよね。カラスも黒を使っていないのに黒く見えます。
色の組み合わせ・使い方が、新しくて不思議な印象なんです。
中村
さらに、「3.不思議なバランスの取り方」につながるんですね。
さいとうなおき先生
色だけじゃなく、全体的に不思議な印象がありました。今回サムネイル一覧を見たときも「思わずクリックしてしまう」不思議さがありました。
中村
実際に大きな画像を見て、その不思議さはどこにあると思いますか?
さいとうなおき先生
まず、粗密のバランスも絶妙ですね。
中村
確かに、下の方はお花が密集していますが、上の方はさっぱりしていますね。
さいとうなおき先生
そうなんです。普通人物を描くと、どうしても人物に注目して欲しくなりませんか?
中村
そうですね。描き手としては、どうしても「人物」を見て欲しくなります。
さいとうなおき先生
そうなんです。ただこちらの作品、人物の主張がすごく少ない。逆に隣のカラスや足元のお花に目がいきませんか?
中村
たしかに!!よくみると女の子の立ち方も絶妙なバランスです。
さいとうなおき先生
色の配色・小物の配置も絶妙で不思議なバランスなんです。例えて言うなら石積みのように、絶妙でギリギリなラインで構成して見事それを成し遂げている作品であると思います。
中村
石積みって、あの河原に落ちている石をバランスよく積み上げていく遊びですよね。
さいとうなおき先生
はい。どうしてもかわいい女の子がいると、その子の顔を主張したくなるのですが、あえて周りのモチーフを活かすという選択をした挑戦も素晴らしいです。
中村
素晴らしいゲンセキですね!!
受賞者コメント:kitaさん
この度は大賞に選出していただき誠にありがとうございました。
制作の際に意識していること、自分の個性や取り柄として心掛けていることを細かく観ていただき大変嬉しく思います。これからも自分らしさを大事にしつつ、より良い作品が描けるように精進いたします。
課題に対して積極的に挑んだ佳作作品をご紹介!
ご紹介は、順不同です。
寒色なのに甘そう!クリームの柔らかさを絶妙に表現できている
中村
個人的には、すごく大好きな作品でした!GENSEKIチームでも人気が高かったです。
さいとうなおき先生
実は、こちらの作品も最優秀賞の候補でした。kitaさん同様、課題に対して前向きに取り組んでいてすごく好印象な作品です。サムネイル映えもするので一覧で見た時にぱっと目に入りました。
中村
すごく素敵ですよね!
さいとうなおき先生
右側がぱきっとしている一方で左側は溶けているような印象です。この見せ方によりクリームが溶けているような雰囲気を演出しています。また、寒色でまとめているのに甘そうな印象を与えているところもすごいです!クリームを寒色で描ききるのは大変だったと思います。
中村
クリームもとってもおいしそうですね!
面白い画面構成と気持ちの良い色使いだからこそもっと大きな画像でみたい!
さいとうなおき先生
見た瞬間、本当に気持ちの良い絵!と思いました。
中村
色も素敵ですね。
さいとうなおき先生
色の気持ちよさはもちろん、中心に全てを描くという、本来であれば単調になる構成を単調にならないように工夫しています。
中村
本当ですね!真ん中に観覧車など、陸にある建造物が見えます。
さいとうなおき先生
この構図を単調に見せないように、パースの付け方・雲の流れ・魚眼のような表現で迫力を出しています。とても素晴らしいです。
中村
こういう絵でモチーフを真ん中に寄せるという構図は珍しいですよね。
さいとうなおき先生
はい、ただこの絵でモチーフを両サイドに散らして描いていたら、普通の構図、普通の絵になっていました。あえて挑戦してここまで描ききった点が良いです。また、青にここまでシアンの強い青を使っている点も独自性があります。
中村
そうですね。影のところもシアンが強い色合いです。
さいとうなおき先生
「夏なのに涼しそう、思わずここにいってみたい!!」といいたくなるような絵でした。ただ、本当に残念なのが、絵が小さい点です。こんなに迫力ある絵なら大きな絵を見たかったです。次回はぜひ、大きな絵で挑戦してほしいですね。
世界観と色の配色は◎!人物の表情などさらに解像度をあげていこう!
中村
こちらの絵も選定の最初から気になっているとのことでした。
さいとうなおき先生
補色対比をうまく取り入れて白黒を使わずに色だけで見せている点が非常に面白いです。黄色のハイライトも決まっていますよね。また、黄色と青の中間にピンクを入れているのに、キツくない絶妙なバランスも素晴らしいです!
中村
こちらもサムネイル映えする絵ですよね。ぱっと目に入ってしまう。
さいとうなおき先生
サイケデリックファンシーというのでしょうか。今回、白と黒を使えないからこそ、生まれた作品なのではないかと思いました。おそらく色々考えながら描いてくれたんだと思います。
中村
では、この方が大賞に選ばれるようになるためには、どこを工夫したら良いでしょうか?
さいとうなおき先生
色と世界観は素晴らしいので、今回のイラストで一番目につくキャラクターの「顔まわり・表情」の解像度を上げ、密度や描き込みを増やしていくと、さらに良くなると思います。
スタンダードな構成を配色とパターンで独自の作品に昇華している
さいとうなおき先生
こちらの第一印象は「うまい」ですね。トラディショナルな雰囲気を抑えながら白黒を使わずうまく表現しています。
中村
色の組み合わせも素敵ですよね。
さいとうなおき先生
はい。ワインレッドと青の組み合わせが面白いです。画面構成としては、比較的スタンダードなのですが、色使いやパターンの密度・使い方でうまく見せています。
中村
主線がないところが切り絵っぽいですよね。先生もトラディショナルな雰囲気と仰っていましたが、こういうところも和的なトラディショナルさを感じます。
さいとうなおき先生
主線がないのに主線に感じさせる色面作りが上手ですよね。襟の線など細かい面積であえて線を表現しているところと、手・セーラー服と首などあえて境界に線を引かずにとけあっているところがあるのも面白いです。
暖色を使って切なさを描けている。さらに物語に説得力を足すならシーンに適した小物を
中村
こちらの作品は…タイトルが「失恋」なんですね…!
さいとうなおき先生
暖かなこの配色からは想像できないですよね。タイトルを見たあとでもう一度絵をみると、色々ストーリーが見えてきます。このビデオカメラの向こうにいるのは誰なんだろう…?とか。
中村
背景も不思議ですよね。風船と、海なのでしょうか…?
さいとうなおき先生
赤と緑で作る切なさが良いですね。色に縛られていないところもいいです。背景は、おそらく海なのかなと思いますが、海であることを、より印象付けるなら柵をつけたり波止場を描くと、説得力が増すかもしれません。ただ、この作品はあまり説明的にならず、ある程度見る側の想像に委ねたほうがいいと思うので小物は最低限がいいでしょう。
中村
本当に、何があったのかを思わず考えてしまう作品ですね!
面白いモチーフと配色で描く不安定感・浮遊感が絶妙!
中村
最後はこちらの作品です。この子は魚の天使なんですね。
さいとうなおき先生
天使を表現するのに金魚すくいのポイを使っている点が面白いですね。色も綺麗です。
中村
背景も不安定感を感じますね。
さいとうなおき先生
上に黒、下に白をだすことで浮遊感・不安定感を出しています。この演出が天使なのに素直に天使という雰囲気ではなく、ほどよい厨二感を演出していて心くすぐられます。
中村
ポイが破れていて、周りに骨の魚がいて…金魚すくいの金魚たちからの訴えなのでしょうか…!?
さいとうなおき先生
それはぜひ、ご本人にも聞いてみたいところですね(笑)こちらの方も白黒を禁止されている中、課題に対して積極的に挑む姿勢が素晴らしいと思いました!
縛られた環境下でどこまで課題と向き合って自分の最適解を出せるか
中村
最後に今回のイラコンの総評をお願いします!
さいとうなおき先生
今回は、白と黒という一番使いたい色を禁止されているのに、沢山の方が素敵な絵を描いてくれて嬉しかったです。作品を見て、新しい発見をしてる人も多そうでした。
中村
そうですね。私も最優秀のkitaさんのレモンイエローのハイライトは印象的です。
さいとうなおき先生
色に「縛り」をつけて「色」と向き合う環境に身をおくことは大変だったと思います。実は僕も色塗り、あまりテンション上がりません。
中村
そうなんですか!?
さいとうなおき先生
「色センス無しぞう」と呼ばれたくらいですから(笑)それでも色と向き合っていくうちに配色のセンスは徐々に身につきました。
縛りという枠をあえて設けると「色」と向き合うしかありません。このイラコンをきっかけにして「色」の新たな可能性について気づけた人がいたら嬉しいです。
中村
新たな気付きを得た人、たくさんいるような気がします!本日はありがとうございました。
執筆・編集
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。