2022年、東京ヤクルトスワローズ公式マスコットの「つば九郎」が主催試合(ホーム)での2,000試合出場を達成しました。これは日本のプロスポーツ史上、初めてのことです。そのお祝いとして「つば九郎のお家」が明治神宮外苑敷地内に建てられることになりました。
GENSEKIでは、「つば九郎のお家」のデザイン案を「つば九郎の家デザインコンテスト」として公募しました。そして選考の結果、最優秀賞として3作品が採用となっています。
最優秀賞に選ばれた3つのデザインが合体したものが、こちらの「つば九郎ハウ巣」です。
今回は、コンテスト最優秀賞に選ばれた、飯島章博さん、KOUGI(コウギ)さん、桜庭ゆいさんの3名にオンラインで座談会をしていただきました。
前半は「つば九郎ハウ巣」デザイン作品のポイントや、野球との縁についてなど、つば九郎の魅力を縁にお話いただき、後半では、CM/映像ディレクター、ゲーム系イラスト会社、漫画家と、異なる業界でご活躍中の皆さんの活動の特色や、共通点などを伺いました。
つば九郎と多様なクリエイティブについて興味深いお話が満載のレポートとなっています!
座談会の参加者(五十音順・敬称略)
飯島章博(飯島章博演出事ム所)
CM/映像ディレクター。数多くの有名CMや映像作品に携わり、多数の賞を受賞。個人活動としてイラストの制作をしたり、野球チームにて投手を務めたりしている。
KOUGI(Twitter:@kougiw)
会社員イラストレーター。仕事ではゲームやアニメーションのIPイラストを取り扱う。会社の仕事の他に個人でもイラストレーターとして活動している。
桜庭ゆい(Twitter:@sakuran_co)
漫画家。代表作に『スイートビター』(講談社)『ザツキ~私をスターにしなさい~』(講談社)など。
つば九郎ハウ巣、完成! 各クリエイターのデザインの見どころ
ーーコンテストのご受賞、おめでとうございます! 今回は受賞作品についてのお話を一人ずつ、お伺いしたいです。
長年野球を愛してきた男がデザインしたナチュラル系つば九郎ハウ巣
ーーまずは飯島章博さん。デザインのコンセプトやこだわり、制作時間や方法など、受賞作品についてお聞かせください。
飯島:なるべくナチュラル素材で作られた感じがいいと思い、こういったデザインにしました。自分は、描きながら考えるタイプで仕事の合間に少しずつ描き進めて完成させました。なので正確な制作時間はわかりません。
ーーナチュラルという着想はどこから得たのでしょうか?
飯島:つば九郎というモチーフから、ツバメとツバメの巣の感じ、自然に優しい、みたいなものにできたらいいなと思って作りました。なかなかいい案ができたと思っていましたが、KOUGIさんと桜庭さんのデザインを見た時は、和風も良かったなと感じましたね。
ーーデザインのポイントはありますか?
飯島:ポイントは、写真の撮れる映えスポットの「巣ポット」です。
ーーその他に、こだわったポイントはありますか?
飯島:実現はしなかったのですが、鳩時計ですね。こちらもポイントでしたので、実現されたら良かったな、と思います。
ーー応募のきっかけは何だったのでしょうか?
飯島:きっかけはヤクルト公式のYouTubeか何かで、募集を偶然見つけたことです。募集要項を見たら、自分がよく行く馴染みの場所に建てられるとのことだったので「これは、やらなきゃ」と思いました。
僕は野球を長年やっていて、1982年からずっと「つば九郎ハウ巣」の真横にある野球場で、プレイしてきています。昔は自分や知人の試合中に、ヤクルトの選手が顔を出してくれることもありましたね。
ーーそれは、受賞した時は周囲の方も盛り上がったでしょうね! 濃いご縁があり、いまも馴染みある場所なんですね。
飯島:試合後にそこで氷を買って肩を冷やしたりしています。「つば九郎ハウ巣」ができて、隣の喫煙所がなくなったことだけが残念です(笑)。今回、受賞した時に、野球仲間に知らせたら、驚かれました。
ーー野球は観戦するのもお好きですか?
飯島:ええ、ヤクルトに限らずいろいろな球団を見ます。神宮球場のバックネット裏の年間シートを選手見たさで持っていました(笑)。最近は村上選手がすごいですね。
いろいろな球団が大好きな野球好き、ポイントは現地で観戦した時の「傘」を使った応援
ーー次はKOUGIさんにお伺いします。コンセプトや、制作時間や方法など、作品についてお聞きできればと思います。
KOUGI:神宮球場は東京の中心部なので、和洋折衷でおしゃれなかわいいモチーフを考えたことですね。ヤクルトスワローズらしい色を使い、遊び心のある住み心地の良い家ができたらなと思って描いていました。
私も飯島さんと同じく、仕事終わりに少しずつ描きました。資料を集めて大体のラフを描き、清書は2日間ぐらいです。
ーーデザイン選考の番組でも、非常にキャッチ―で写真映えしそう、とつば九郎が評していました。ポイントはありますか?
KOUGI:屋根のてっぺんの小さいつば九郎ですね。現地に行って試合観戦してると、皆応援ミニ傘を持ってるんですよ。オモチャみたいに飾っていて、それがいいなと思ってデザインにも描きました。
ーー場所の景観や建築のルール上、デザインの実現には相当な工夫が必要だったようで、残念ながら屋根の上の部分は帽子だけなんとか残した形になったそうです。傘は看板に活かされています。
KOUGI:帽子もすごくかわいいですね。
ーー受賞のご感想や、周囲の反応についてはいかがでしたか?
KOUGI:受賞がわかった瞬間はすごくうれしくて、何度もホームページを更新して確認しました。私がオープンハウスさんのつば九郎ハウ巣 公式TwitterのニュースをRTしたので、それを見た周りの友人達が驚いて、喜んでくれました。ヤクルトファンの友人もいるので、結構チェックしてくれています。
ーー応募のきっかけはなんだったのでしょうか?
KOUGI:元々ヤクルトの公式Twitterをフォローしていて、そこでオープンハウスさんのコンテスト募集ツイートがRTされたのがきっかけです。セ・リーグではヤクルトを応援していて、つば九郎も好きだったので、応募しました。
自他ともに認めるつば九郎好き! つば九郎愛あふれるつば九郎ハウ巣
ーー最後に桜庭ゆいさんです。後ろのデザインも描いてくださいました。コンセプトやポイントをお聞かせください。
桜庭:制作時間は、私も仕事の合間に描いて3日ぐらいかかりました。ポイントはつば九郎の等身大オブジェです。一緒に写真を撮りたかったので、等身大つば九郎がいたらいいなあと。
ーーなるほど、等身大のつば九郎と一緒に写真を撮れたら、楽しそうですね!
桜庭:グッズショップに等身大のつば九郎が置いてあるので、そんな感じで「つば九郎ハウ巣」にもあるといいなと思ったのですが、いなかったので残念ですね。
ーーこちらも景観ルール上難しかったようです。現地レポートでは、つば九郎がこの絵の通りに座って、くつろいでいました。巣箱のデザインの部分は実際に作られていて、かわいいです!
桜庭:ありがとうございます。巣箱の中に人形が入っていて、かわいかったです!
ーー受賞の感想や、周りの反応などをお聞かせください。
桜庭:私が投稿したのは募集期間の早い時期だったのですが、時間が経つにつれて応募がどんどん増え、盛り上がりに驚きました(笑)。たくさん素敵な作品があったので、その中から選んでいただいて、うれしかったです。
周囲の反応としては、家族が一番喜んでくれました。私がつば九郎をずっと好きだったのを知っていたので、「良かったね」と。
ーーもともとつば九郎がとてもお好きだったのですね。では応募のきっかけも?
桜庭:もちろん、つば九郎です! 日ごろからTwitterなどでつば九郎の写真や情報をよく検索していたので、オープンハウスさんのツイートでコンテストをやると知り、応募しました。
野球、つば九郎との縁や思い出
ーー飯島さんは野球や球場にとても馴染みがあったというお話でした。KOUGIさんと桜庭さんも、野球はもともと好きでしたでしょうか?
KOUGI:私は、2022年に入ってから野球に興味を持ちはじめました。今では何度も現地で野球観戦をして、すっかりハマっています。友達がヤクルトファンで一緒に現地に行き、ちょうどその時に勝って好調だったので、すごく盛り上がっていて好きになりました。
ーーヤクルトは好調で優勝も続き盛り上がっていますね! 球場は楽しいですか?
KOUGI:そうですね! あと、食べ物がすごくおいしくて(笑)。「つば九郎のくずもっちりアイス」が好きで毎回食べてます。
ーー観ながら食べられますし、おいしそうですね! では、今後も観に行かれますか?
KOUGI:そうですね。来期もちょっとずつ見に行こうかなと思います。
飯島:いろんな球団の応援も始まると、もっと盛り上がっておもしろいですから、ぜひ(笑)。
KOUGI:はい(笑)!
ーー桜庭さんは、つば九郎ファンということですが、野球を観るのも好きですか?
桜庭:10年ぐらい前に野球ファンの友達に誘われたのがきっかけです。私はゆるキャラが好きなのですが、球場に行くとマスコットキャラ達が出てくる時間があるんですよね。つば九郎や、レオ(埼玉西武ライオンズマスコット)がかわいくて観るようになり、段々と野球自体も好きになっていきました。
KOUGI:私も同じです! レオはすごくかっこいいですね。
桜庭:球団のマスコットキャラクターはみんな素敵ですよね。最初の方はスワローズだけではなくて、いろいろな球団の試合に行っていたんです。でも、現場でマスコットを見ているうちに、とくにつば九郎が気になる存在になっていきました。それ以来ずっと、つば九郎ファンです。
ーー皆さん「つば九郎ハウ巣」は現地に見に行かれましたか?
飯島:夕方のニュースで偶然目に入ってきて「あっ、できたんだ」という感じで完成を知りました。デザイン選考の番組も見ましたね。
現地は仕事の合間に寄りましたが、すごい行列で入るのは諦めました。ただ、写真を撮ったり、横から中を覗くことはできましたが……。
KOUGI:私はTwitterでヤクルト公式アカウントをフォローしていたので、完成ツイートで知りました。その時はすでに飯島さん、桜庭さんのデザインも見ていたので、「皆のデザインを合わせて作ったな」と感じられたのがすごくおもしろくて、かわいいと思いました。仕事が忙しくて、まだ実際には行けていないのが残念です。
桜庭:私はオープン当日に現地に行ったんですが、すごい行列でした。実物を見てすごくうれしかったです。中も遊べるようになっていて、すごくおもしろいです。
ーー内装は皆さんのデザイン画が飾られている所もありますね。桜庭さんが、ファンとしてうれしいのはどのあたりでしたか?
桜庭:フォトスポットで写真を撮りました! とくにトリックアートが良かったですね。ビールの中に入ったかのような写真が撮れて、インパクトが強かったです。
KOUGI:そんなところもあるんですね!
桜庭:観光スポットのようになっていたので、これからもいろんな方に来てもらえたらいいなと思います。
経験豊富な飯島氏、長くクリエイティブを続けてきた秘訣は「楽しむこと」
ーーここからは、皆様が今どういったご活動をされているか、その分野に行くことになった経緯などを、教えて頂ければと思います。
飯島:僕はイラストが本職ではなく、映像やCMのディレクターをずっとしています。他のお二人がゆるキャラが好きということなのでそれを例にあげると、「カッパとたぬきのDCカード」(三菱UFJニコス)を30年ほど手がけていますね。CMばかりじゃなく、いろいろな映像プロモーションやPVも制作しています。
ーークリエイティブ業界に入った経緯を教えてください。
飯島:もともとは美大でグラフィックデザインを勉強していたのですが、ポスターを描いているより動いてるCMを作る方が好きだったんです。大学4年の6月にはCMを作る人になろうと思っていました。新卒でCMプロダクションに入社し、6年間所属していました。32年前に独立してからはずっとフリーで活動しています。
ーー当時と今だと、ネットの有無が大きいと思いますが、業界に与えた影響や変化はありましたか?
飯島:今はいろんな映像媒体があって、発表の場の数もあるので、若手がやりやすくはなっている気はします。今も昔も、若手を大きい仕事に起用しようというのはなかなか難しいのですが、映像をやるきっかけはたくさんあるなと思います。
ーーチャンスが多いと、まず身近な媒体で経験を積み、次第に大きい仕事を受けるという段階が踏めるのですね。
飯島:経験を積むというか、やってみておもしろければ続けていけるから、でしょうね。
ーーイラスト中心のGENSEKIの中では貴重な映像業界のお話を、ありがとうございます。制作に際して、ご自身が意識していることはあるでしょうか?
飯島:CM制作は、依頼主の注文に沿って制作する以上、こだわりはあまりないですね。ただ、みんなが楽しめるように仕上げようと思ってます。そして、自分が楽しめるものは、みんなにも楽しんでもらえるはず。そう考えてずっと作ってきています。
ーー好きな作家やクリエイターはいらっしゃるでしょうか?
飯島:好きというか……尊敬する人といえば、赤塚不二夫さん。あとは阿久悠さん、小林亜星さんなど、歌謡曲の方が多いですね。
ーーみんなが楽しめる、というところに通ずる方々ですね。音楽は仕事中などに聴いているのでしょうか?
飯島:音楽は聞かないんですよ、歌うんです(笑)。仕事中も歌いながら作業します。鼻歌でなくてちゃんと歌います、全部歌詞も覚えてますから。iPodが無くても頭の中に1,000曲くらい入っていますね。全部2番まで歌えます。他のものに引きずられたりもしないですし、CMの編集してる時に、別の歌を歌ったりもしています(笑)
(一同驚き)
ーーそれはすごいですね! ご自身で上達を感じられたタイミングや、役立った勉強方法などはありますか?
飯島:クリエイティブは、基本的におもしろいかおもしろくないかです。そういう観点から言うと、あまり上達はしてないんじゃないかな(笑)。
「こうやったらこう見える」などを考えてたのは、多分22歳ぐらいまでで、それまでに見たものや覚えたものを使っている感じです。勉強しようと構えたり、無理に自分で追っかけたりは、あまりしません。
あまり情報を積極的に集めるようなことはせず、目の前に来たものを運命と思って楽しんで取り組んでいます。今回の「つば九郎ハウ巣」もそうですね。
ーーお仕事を続けていく中で「これはおもしろいのか?」と迷うなど、スランプはありましたか?
飯島:スランプはないですね。今までで困ったのは、大学時代に高校の軟式野球の監督をやった時だけです(笑)。その時はうまくいかなかったですね、難しいです。仕事でも教育を任されましたが、それなら自分で仕事に集中したいと事務所を立ち上げました(笑)。
ーー同じ業界で仕事を長く続けられてきた秘訣は、何でしょうか?
飯島:やっぱり楽しむことじゃないですか。CMは撮影する時に100人など大勢でやることもあるのですが、1対1で喋るより大勢の中でやるのが好きなので楽しめました。
あとは複数の仕事を並行して行うのもコツかもしれません。僕はたいてい3〜4件の仕事を並行して行っています。これは僕の集中力が短いから(笑)。集中力が切れたときに他の仕事に移ると、ちょうどいいんです。今回も他の仕事の合間に「あ、つば九郎もやらなきゃ」と思って作業する。こんな感じが気楽ですね。
アニメーションの滑らかな美しさをイラストに取り込むKOUGI氏
KOUGI:私は美大で工業デザインを勉強していたのですが、絵が好きで、仕事にしたい気持ちがありました。そこで大学卒業後にゲーム会社に入社し、ずっとイラストを描いています。アニメやソーシャルゲームのイラストが主ですね。
ーー学生の頃から、イラストレーターを募集する会社に就職できるように、イラストを描きためていらっしゃったんですか?
KOUGI:はい。プライベートの時間に趣味で描いていました。画風もだいたい今の通りで、ずっとアニメ塗り風のイラストを描いています。
ーーご自身が絵を描くときの画風の意識や、絵へのこだわりはありますか?
KOUGI:仕事の場合はIP(Intellectual Property:知的財産、各社のシリーズ作品)関連の仕事が多く、そのコンテンツの絵柄に合わせて描いていますので、IPのイラストに似せたりキャラクターらしさを出せるよう意識して描いています。
ーーより似せる秘訣は何でしょうか?
KOUGI:レギュレーション(規則、規定)を頭に入れて描くのはもちろんのこと、キャラクターデザインを描かれた方の絵をたくさん見ます。あとは、とにかくかわいくカッコよく仕上げる意識を持つのが大事だと思っています。
ーーもともとのKOUGIさんの作風があると思いますが、そちらでのこだわりはいかがでしょうか?
KOUGI:以前は趣味でも好きな絵柄に寄せて描くことがありましたが、今は自分の個性的な部分を意識して描くようにしています。ただ、個人でイラストの依頼をいただいた際は、会社の仕事と同様に、コンテンツに合わせて描くこともあります。
ーー会社でイラストを描き、帰宅してからも個人のお仕事、趣味と描かれているのですね。参考にされたり、尊敬しているクリエイターさんはいますか?
KOUGI:尊敬しているのはアニメーターさんで、『ラブライブ!』のキャラクターデザインの室田雄平先生(Twitter:@muromuromurota)です。かわいい女の子をたくさん描いていらっしゃる方です。人体の構造把握がすばらしく、とくに女の子の体の柔らかさなどが、すごくうまく表現できている方だと思います。
それから、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のキャラクターデザインなどをされている高瀬亜希子先生。制作会社の京都アニメーションは、クオリティの高い作品を制作しています。そのなかでもキャラクターデザインが良く、髪の毛の描写もすごく細かくなめらかで、とても尊敬しています。
ーー絵柄やデザインだけではなく、動きや滑らかさといったアニメーションも参考にしてらっしゃるんですね。
KOUGI:そうですね。動き自体の美しさに興味があります。自分はどちらかというとアニメーターの先生を参考にしています。
ーー絵を描く上で役立った勉強方法はありますか?
KOUGI:自分はキャラクターをメインで描いていますので、人体の構造や構図がかなり重要だと思っていて定期的に練習しています。今は5分位でひたすら写真を見て人の動きを描くこと(ジェスチャードローイング)もしていますね。
ネットで上手い方の描き方を見る時もありますし、人体構造や筋肉がしっかり載っている技術本もたまに買います。ひとまず模写してから、自分の絵柄に変換するような感じです。
ーーどんな時に上達を感じますか?
KOUGI:うまく描けたと思う時と、そうでない時で波があるんです。これは私の自己肯定感があまり高くないのが原因なのかもしれません。ただ、1〜2年くらい経つと、客観的な目で自分の絵を見られます。そのタイミングで「上達していていたんだ」とはっきり感じられますね。
世界観を大切にする桜庭氏、コツコツと積み重ねた漫画人生
桜庭:私は漫画家で、主に少女漫画を描いています。以前は雑誌のお仕事が多かったですが、最近はWebが多いです。ただ、縦読みのような形式ではなく、本と同じように横読みの形式です。
ーー漫画家を始められた経緯はどういったものでしょうか?
桜庭:きっかけは投稿や持ち込みです。雑誌の編集部に持っていっていました。当時は持ち込み募集が雑誌や看板に載っていて、出版社に「何時に来てください」とアポを取って行くことが多かったです。
持ち込みした時に編集さんから「勉強のためにアシスタントをしてはどうか?」というお話をいただきました。それでアシスタントしながら自分の漫画を投稿し、デビューしました。また、漫画の合間に挿絵や小説の表紙のイラストの仕事をしたりもしています。
ーーご自身の作風について、ストーリーに込める思いや、こだわりはあるでしょうか?
桜庭:まだまだ自分の絵に満足してないところがあり、常に自分が納得するものに近づくためにがんばっています。自分の考える理想の絵を見たり、流行りの作風についてリサーチをしたりしています。
漫画家さんだと山川あいじさん、高松美咲先生の『スキップとローファー』の絵がすごく好きです。お2人とも背景を含めて独特の世界観やこだわりを持ってるところが、共通点ですね。
ーー漫画を描いていて上達を感じる時はありますか? これをやったから漫画がうまくなった、というような勉強方法はあったでしょうか?
桜庭:自分の漫画はすぐには客観的に読めないので、辻褄が合ってるかどうかも含めて自分では気づけないですね。数年たって読み返してやっとわかる、という感じです。勉強の面では、アシスタント時代の経験はとても活きていると思います。
ーーアシスタントは具体的にどういったお仕事をされるのでしょうか?
桜庭:どこでも仕事の基本は、スクリーントーン(白黒ドットでの諧調)を付ける作業や、背景を描いたりする作業だと思います。
とくに私がアシスタントで描いている時はまだアナログが主流だったので、背景も定規でパースを取って描いていました。最近ではこうしたパースもデジタルのパース定規を使って描けますが……。
ーー今回のデザイン画も、漫画の背景を描いてきた経験やパース知識が活きていると感じます。
桜庭:アシスタント経験で背景が描けるようになっていたので、今回のコンテストも「建物の外観が描ける」という気持ちで応募できました。アシスタント時代の知識は、今回のデザイン画にも、とても活かされたと思います。
業界ごとの作業環境の特色と、共通の悩み
ーー皆さん業界はいろいろですが、機材やソフトはどういった物をお使いでしょうか?
飯島:僕は30年以上ずっとMacです。仕事によってはWindowsでやる場合もありますが。
ーー映像業界ではイラストを描くのと違った環境かもしれませんが、よく使われるソフトはありますか?
飯島:僕はPhotoshopばっかりですね。仕事以外では写真の合成とかもやるのが好きなので、今回のコンテストの作品もそうです。
イラストで言うと、大学時代の頃アナログ画材での色塗りがあまり好きじゃなかったんです。デジタルでPhotoshopになってすごく楽になったので、それでさらに楽しくなりました。自分にぴったりで、感覚的に使えるところが好きです。
ーーリアルの画材よりPhotoshopのほうが合っていたんですね。ペンタブレットは何をお使いですか?
飯島:タブレットはXp-penの液タブを使っています。買った後で、もっと大きい方にすればよかったかな、と思いましたが、不自由はそんなにないですし、価格も手ごろでいいですね。絵以外にもいろいろ使えるので、今もその画面で桜庭ゆいさんの漫画を見ています。
桜庭:えっ(笑)。ありがとうございます。私はほとんど12.9インチのiPad Proで描いています。ソフトはCLIP STUDIO PAINTです。家にずっといると、外で作業したくなってくるんです。そんな時にも持ち運べて便利ですね。
ネームから仕上げまで、全部iPad Proで描けます。複数ページを開いても大丈夫で、パソコンより速くて軽いと感じています。
ーー漫画の作業すべてを快適に行えるとは驚きでした! KOUGIさんは、どんなものをお使いですか?
KOUGI:私はWacomのIntuosなど、板タブを仕事用と自分用で2つ持っています。ソフトは同じくCLIP STUDIO PAINTです。
ーーPCはWindowsとMac、どちらですか? ゲーム関係の仕事ではどちらかが向いている、ということはあるでしょうか。
KOUGI:PCはWindowsです。そこまで詳しくないですが、自分の業界での作業は多分Windowsの方がいいのかな、と思います。ただMacもグラフィックがいいとよく聞きます。個人的にはどちらも好きです。iPhoneも使ってますので、Apple商品も好きですね(笑)。
飯島:KOUGIさんは液タブではなく板タブをお使いとのことですが、体の調子が悪くなることはないですか?
KOUGI:それが、以前は液タブを使っていたのですが、下を向いて描くので首の負担がすごく、板タブに変えたんです。
桜庭:私もそれは同じです。今は液タブですが、体の調子は板タブの方が良かったです。やっぱり下を向いて描くのが身体にこたえますね。
飯島:そうなんだ、僕と逆ですね。僕は板タブを使ってた時、完全に野球ができないぐらい腕が動かなくなってしまいました。顎をあげて描く姿勢がダメージだったようで、液タブに変えたら全然大丈夫になりました。
KOUGI:それぞれの相性があるのですね。
飯島:そうなんですよね。
ーーiPadの姿勢はいかがですか?
桜庭:iPadを置くスタンドみたいなものを使っています。自分の好きなように調整できるので、それが助かります。
飯島:最近は広告会社のCMプランナーなども、ほとんどiPadで絵コンテなどを描いてますね。
ーー絵コンテも! 広告系は機動力がいるから、持ち運べたほうが良さそうですね。
飯島:そうですね。とくに売れてる人はスタジオの片隅でバーッと描いていますよ。
ーーすごい。なんともクリエイティブな現場の光景ですね。KOUGIさんのような、高解像度のデータを扱うお仕事だと、iPadでは難しいでしょうか?
KOUGI:私の仕事では、とくに持ち運ぶ必要がないのでPC環境で描いています。ただ、iPad Proも持っていますし、作業するのに使えると思います。美大在学時は図書館にiPadを持ち込んで描いていました。
飯島:大学時代にiPadって、とても現代らしいですね。
今後が楽しみな、それぞれの抱負
ーー最後に、これからのご活動の抱負などをお伺いしたいと思います。
飯島:僕は年齢的に、仕事も落ち着いてきて自分の時間が持てるようになったので、新しいことをやろうと思ってます。内容はまだ言えないんですけど、今ちょっと取り組んでいることがあります。
ーー今のお仕事の業界に関連してくるものですか? それはどこかで後々見られるのでしょうか?
飯島:仕事もちょっと絡んでますけど、まったく違うことですね。大々的にお見せできればいいんですが、できない可能性もあるし、まだ秘密です(笑)。あとイラストも描いていて、GENSEKIコンテストにもたまに応募しています。
野球の方では、今のチームでピッチャーとして通算364勝なので、400勝行きたいと思ってます。
ーーぜひ達成していただきたいです! 制作でも運動でも、腕や肩が大事ですね。
飯島:先程お話したように、ペンタブで全然肩が動かなくなり、投げられなくなった時期もあったのですが、調整をしながらまだまだ行こうと思っています。
KOUGI:今は本業のほか個人でもイラストのご依頼を受けていますので、アニメ関連のキャラクターイラストの制作や、今回の様なデザインコンテストなど、いろいろ挑戦していきたいと思っています。
ーー キャラクターイラストだけではなく、デザイン全般の制作をされるのですね。
KOUGI:そうですね。キャラクターデザインはもちろん好きで、メインで仕事をしていますが、大学が美術系のデザイン関連の学科だったので、他のデザインにも興味があります。
つば九郎のウイスキーのコンテストなども見ていて、また何か応募したいです。
ーーさまざまな作品が見られるのを、楽しみにしております!
桜庭:私は自分の作品が映像化やアニメ化が実現できたらいいな、と思います。
ーーそれはやはり、漫画家さんの大きな目標としてあるのでしょうか?
桜庭:そうですね。漫画の行き着くところは映像化、アニメ化だと思いますし、私もそういう希望でやってきています。
ーー今後の抱負はありますか?
桜庭:歳を重ねていった時に「その時にしか描けないもの」がもしできたら、それにチャレンジしたいですね。
あとは、私自身が漫画とイラストにしか携わったことがないので、またつば九郎の何かには関われたらいいな、というのは思っています!
ーーファンとしての思いが伝わってきます。今回も関わっていただけて、本当に良かったです!
—
今回、つば九郎の魅力のもとで、さまざまな業界で活躍するクリエイターが集まりました。そして、ハウ巣のデザインや野球についてだけでなく、思いがけず各業界の特色まで聞けたボリュームのある座談会になりました。
このインタビューで、各クリエイターがどんな気持ちでデザイン画を描いたか、ルーツやバックグラウンドを知った上で「つば九郎ハウ巣」を見に行くと、さらに楽しく見ていただけると思います!
長期公開されている「つば九郎ハウ巣」を現地で、また各公式サイトのレポ―トで、ぜひ一度ご覧ください!
・つば九郎ハウ巣 公式アカウント🏠 (@tsubakurouhouse) / Twitter
執筆:kao(Twitter:@kaosketch/HP)
イラストレーター&ライター。油絵科出身、名古屋在住。地元球団のドアラはつば九郎のビジネスパートナー。つば九郎のフリップ芸がとても好き。
編集:斎藤充博
企業オウンドメディアを中心に企画・制作・編集を行う。