今回のイラコンは「パレット縛り春の陣」! 春らしさのある下記の3つの指定パレットから、どれかひとつを選んでご応募いただく形式でした。
今回は249点もの作品が集まり、さいとう先生は非常に迷って受賞作品を選んでいました。それでは、今回の受賞作品を紹介します!
審査員
さいとうなおき(Twitter・YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者100万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
密度が高いにもかかわらず圧迫感はなく、色使いと構成でダイナミックさを表現
さいとうなおき先生
今回の大賞は、ちゃんふあさんの「とける」です!
中村
ちゃんふあさん、おめでとうございます! ! さいとう先生、大賞に選んだ決め手を教えてください。
さいとうなおき先生
絵の構成がダイナミックで非常に良い絵です。「パレット縛り」と言われなくても、絵として非常にいいと思いました。この暖色と寒色の使い方が気持ち良いバランスなんですよね。
中村
泡の表現もすごいですよね。
さいとうなおき先生
絵としては密度が高いのに、ギチギチに詰め込んだ圧迫感がありません。泡の輪郭線は、黒じゃなくて赤っぽい色でトレスしていますよね。この絶妙な匙加減が素晴らしいと思いました。
中村
よく見ると薄い水色と濃いピンクで分けているんですね。
さいとうなおき先生
パレット縛りとはいえ輪郭線に黒を使う人も多い中で、ちゃんとパレットを意識し、なおかつここまでかみあった絵を描けることがすごいですね!
中村
ここまで縦長のキャンバスで描く人もあまりいなかったので、一覧で見ても目を引きますね。
さいとうなおき先生
そうですね。また、女の子の周りにいる金魚がちょっとずつ形を崩して描かれている点もおもしろいです。上の方の金魚は泡と一体化していますよね。
それらの金魚も、メタモルフォーゼ感があり、グラデーションをうまくかけられて表現できていて、細かい処理もレベルが非常に高いですね。
中村
セーラー服のスカートにプリーツが描かれていないのに、画面が寂しくなっていない点もすごいですよね。他の要素できれいに補われていますね!
この度は大賞にご選出いただきありがとうございます!
普段なら明暗や彩度の変化で画面の見せたいところを強調して描くことが多いですが、パレット縛りということで、明暗や彩度というよりも色の対比で見せたいところが描けたことが新鮮でした。
また、今回「女子校生」をモチーフにしました。
多感な時期の葛藤や感情、将来への夢や希望が金魚となってゆらゆら泳ぎ、次第に泡のようにとけあって一つになるイメージです。
グロテスクな表現にせず、色の良さを生かして爽やかな表現で落とし込めたかなと思っています。
まだまだ未熟者ではありますがこれからも精進していきたいと思います!
ありがとうございました!
力作ぞろいの佳作作品を紹介! 1人で2作品の佳作受賞者も……!?
さいとうなおき先生
この作品は色面構成が気持ちいいです。本人の気持ちが開放されていて、思うままに自由に色を選択して表現しているのだと思います。餅米さんはこの方向でどんどん飛躍しそうです。
特に、髪の毛に暖色の線が入っているのですが、この色でなくてはいけなかったんだろうなと思いました。
中村
背景も描き込まれていてポスターのようですね。餅米さんは、もうひとつ佳作に選ばれています。さいとう先生のイラストコンテストでひとりの作家さんの作品が複数受賞することは初めてですよね。
さいとうなおき先生
こちらは、主線を描かずに色同士の響きあいで絵を描こうという意識が見えて、かつ形もちゃんととれていています。
恐らくこの作品を描くにあたって、主線を消すという引き算の作業を行ったと思うんです。絵を描いていると、引き算の作業って非常に迷うと思うんですけど、餅米さんはやりきったんですよね。
中村
引き算は苦手な方も多いと思います……! 消して本当に良いのかな、と迷いますし。
ちなみに餅米さんは、以前の縛りイラコンでも佳作に選ばれていました。
さいとうなおき先生
(餅米さんの過去作品を見る)
なるほど……! 餅米さんはこの作風で確立しているんですね……!
中村
そうかもしれないですね。ちなみに餅米さんは今回の縛りイラコンでもう一つ作品を投稿いただいておりました。こちらも選考段階では迷われていましたが、惜しくも選外となった理由はありますか?
さいとうなおき先生
これも候補には上がっていたのですが、色の響きあいや自由さという点で佳作に選んだ2作品よりはおとなしめに見えました。今回は「パレット縛り」というテーマがあったからこそ選外にさせてもらいました。
個人的には、佳作に選んだ2作品の方が、餅米さんの気持ちや感性がよく出ていて将来性を感じます。
中村
GENSEKIスタッフは毎日イラストコンテストの応募を見ているので「この人が応募してくれている」とすぐ気づきます。でも、さいとう先生にじっくり絵を見てもらう場は選考会のときだけなので、同じ人が何度も選ばれるってすごいですよね。
さいとうなおき先生
僕もこの人だから、と選んでいるのではなく毎回「絵」だけを見て選んでます!
さいとうなおき先生
色の配分が気持ちいいですよね。トリコロールカラーのような「赤・青・黄」という子どもっぽい雰囲気になりがちな色構成なのですが、全然子どもっぽくありません。
中村
今回のパレットの中で一番難しいものに挑戦してくれていますね。
さいとうなおき先生
黄色を帽子と光が当たっているタイル部分に使っています。光の色が黄色という点も納得感あるし、絵と無理なくかみあっています。
中村
パレット縛りとは思えないくらい、1枚の作品として完成していますよね。
さいとうなおき先生
ここからは僕の妄想です(笑)。標識で顔の見えない女の子が駆け寄ってきていますよね。もしかしたら裏テーマにちょっと怖い話があるのかなと思ってしまいました。
手前の女の子と奥の女の子の関係性とか、標識に書いてある「日曜・休日を除く」という言葉も、もしかしたら意図があるのかな……と。
中村
たしかに……言われてみるとそんな雰囲気も感じます……。
さいとうなおき先生
この妄想にはちゃんと理由もありますよ! 青い影が光の黄色でより強調されています。それにより影が引き立ち、ちょっと怖い印象になっているんです。
ポイントで使っているグレーもいい仕事をしていますね。彩度の高い色を多用すると、子ども向けのような雰囲気になりがちです。ここでは、グレーを彩度の高い黄色の隣りに配置することで、ぐっと落ち着いた、大人が鑑賞する作品に昇華しているのだと思います。
中村
細やかにバランスと比率が計算されているですね。
さいとうなおき先生
見れば見るほど……もはやタイトルの「おはよう」すら勘ぐってしまいます(笑)。どんなストーリーがあるのか気になる作品です。
さいとうなおき先生
体温がある肌は暖色を使いたくなるところなんですが、寒色を使用し背景を赤にすることで、見た人をぎょっとさせる強さがあると思いました。
中村
肌の色を寒色にすると、人外やモンスターみたいな雰囲気になるので、あえて水色を使うのって難しいですよね。
さいとうなおき先生
そうなんです。だからちょっと怖い雰囲気もありますよね。
中村
でも、かわいいと思わせるあどけない表情もあって、見れば見るほど素敵です!
中村
女の子がシャベルをもってますね!
さいとうなおき先生
葉っぱと魚が赤いから……植物が魚になるみたいなストーリーがあるのかな……?
中村
今日のさいとう先生はストーリー探偵ですね……!!
ぱっと見た感じ、植物から魚へ変化している途中の子はいなさそうです。
さいとうなおき先生
ちょっと妄想しちゃいました(笑)。
この作品は、一見しただけでストーリーを考えてしまうほど、独自の世界観があります。さっき僕が妄想したことは、見当違いかもしれません。本当はどんな設定があるのか、気になってきますね。
色使いは無彩色をメインにしていますよね。メインに使われがちな「赤」をあえて脇役に使っていて意外性があります。そのバランスの割り切りも気持ち良いです。
中村
背景の抜き方が個人的には好きです。
さいとうなおき先生
うんうん、わかります! 良いバランスですよね。
中村
夏っぽさがあって、今の時期に見るととても気持ち良いですね。
さいとうなおき先生
季節が感じられる色使いができる時点で構成力が高いですね。
中村
モチーフを絞っている点もおもしろいですよね。
さいとうなおき先生
線も色も極力少なくして、シルエットのおもしろさと色の比率だけで見せるんだという割り切りがうまいですね。このシンプルな絵が穀物かじつさんの強みなんでしょう。
中村
筆のタッチに温かみがありますね。
さいとうなおき先生
この作品、僕は好きです。絵としてぐっとくるんですよね。
中村
あ、ここにも止まれの標識が……。
さいとうなおき先生
ありますね。この子は誰と待ちあわせしてるんでしょう……? すごく純朴そうな少女なので心配になっちゃいます。もしかしたら不穏な展開が……?
中村
ミステリーの始まりを感じますね。
さいとうなおき先生
これは僕調べなのですが、絵描きってちょっとネガティブな要素を絵のどこかに紛れ込ませたいという欲求があるのではないかと思っています。そういう要素があると大人っぽい雰囲気がでるような気がするんです。僕自身も作品を作るときによく考えます(笑)。
中村
木や岩といった自然物の中に「止まれ」の標識という人工物を入れることで、そうした不穏さをいれたのでしょうか……?
さいとうなおき先生
そうかもしれません。絵として、配置や比率がきれいにまとまっています。黒から赤のグラデーションもハマっていますよね!
さいとうなおき先生
この絵は発想の勝利です! イラストコンテストで、間違い探しの絵を描こうと思う人は少ないと思います。見る側を楽しませようという意図があって、プランナーみたいな頭の使い方をする人なんだなと思いました。
中村
素晴らしい絵を描こう、ではなく見る人を楽しませよう! と。
さいとうなおき先生
それがおさる なんどさんのアイデンティティの一つなのかなと思いました。非常に良いと思います。
中村
前回のイラコンで応募いただいていたのはこちらの絵でした。今回は新しい挑戦をしてくださったんですね。
さいとうなおき先生
良い発想とアイディアでした!
さいとうなおき先生
羊23号さんのイメージ通りに色を使っている印象です。灯りに暖色を使い、明るさや反射を表現しています。また、灯りが金魚になって部屋中を飛びまわっているのが、幻想的で本当に素敵ですよね。
中村
見ていてすごく気持ちの良い作品だなと思いました。
さいとうなおき先生
灯り以外には、全部青を使うという割り切りもすごく良いですよね。
中村
確かに灯り以外、ほぼ青一色ですね。
さいとうなおき先生
そうなんです。でも、一色に見えない。これは描き込みの密度を意図的に変えているからでしょう。
クッションと本は同じ色を使っているはずなのに、まったく違うように感じてしまうんです。テクスチャで色分けするという手法は上手いなと思いました。
本の模様も種類で変えています。そういった細かな配慮で、使っているのは一色なのに、単調に感じない工夫が行われています。色を表現するのは、塗るだけじゃないんだなと気付かされました。
中村
質感の違いで絵をおもしろくしているんですね。
さいとうなおき先生
この絵は……異世界に誘われそうです……。
中村
赤い桜と女の子の眼差し、表情も絶妙です。
さいとうなおき先生
タイトルに桜とあるので、おそらくこの赤は桜なんでしょう。赤い桜は事件性を感じます! この女の子があちらの世界から、こちらの世界の僕たちを呼んでいるのではないでしょうか……! それくらい魅力と影がある女の子です。
僕がこの絵を選んだ一番の理由は、この魅力に抗(あらがえ)えなかったからなのかもしれません……。
中村
この女の子に導かれたと……!
さいとうなおき先生
もちろん絵として素晴らしい点は他にもあります。
水面の花びらの隙間に、ちょっとだけ青を使っていますよね。この微妙な表現で、ちゃんと水面を表現しているところがすごいです。
その少しの青で、画面の奥まで水面が続いているのだな、と思わせることができる。色面構成力の高さとデザイン力が素晴らしいです。
中村
なるほど……!
さいとうなおき先生
地面は桜でほとんど隠れているんですけど、階段になっていることがわかるように最小限の面積で見せています。
こんなふうに、ちょっとだけ見せて形を表現することが非常にうまいです。おしゃれな見せ方するなぁ~! って思っちゃいました。
中村
説明的ではなく上手に見せていますね!
さいとうなおき先生
向こうの階段にも、別の女の子がいるのかな……?
中村
気になりますね! 想像がかきたてられます。
今回もレベルが高く選考は難航!
さいとうなおき先生
今回も課題に対してアグレッシブでレベルの高い絵が多くて選ぶのが大変でした。結果として、受賞候補を想定の2倍くらい選んでしまいました。パレット縛りは応募するハードルが高いだけに、ガチ勢が集まってくれたのかもしれません。
中村
みなさんのやる気を感じましたね!
さいとうなおき先生
パレット縛りはけっこうキツイと思うんですが、あえてチャレンジすることで自分の絵を確立する人もチラホラ見えて、やる意義を感じます。
中村
パレット縛り、またやりましょう!!
さいとうなおき先生の「縛りイラコン」、定期開催中!
編集・執筆
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。