10月〜12月に行われた、背景イラストコンテスト「冬の訪れ」。審査していただくのは大手ゲームメーカーなどでゲーム背景を担当しているわいっしゅ先生です。今回はわいっしゅ先生から賞の発表と受賞した作品へのコメントをいただきました。
審査員 プロフィール
わいっしゅ
ゲームやアニメなどのコンセプトアートや背景デザインを中心に、文芸書の装画や企業のホームページに用いるアートなど、主に世界観デザインに関するアートを幅広く手掛ける。
インタビューした人
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
秋~冬の期間が一番好き。
秋から冬の絶妙な期間を、色づかいや積雪の量や場所で表現できている
わいっしゅ
今回の優秀賞は、爺久枕さんの「冬の朝」です。
坂本
優秀賞に選ばれたポイントを教えてください。
わいっしゅ
今回のテーマは「冬の訪れ」でした。冬の訪れとは、秋が終わり冬の気配を感じる、秋~冬の中間です。この作品はそういった絶妙な季節感をうまく表現できています。
海の色も含め、全体的に彩度が低くて寒々しい雰囲気です。海の奥の方には朝もやがかかっており、これがまた冬の気配を感じさせます。
坂本
たしかに夏の海のさわやかな色合いとは違いますね。
わいっしゅ
波も、細かい波と大きな波のうねりが表現できていますね。
わいっしゅ
奥の方にある山にも季節感を表現した良いポイントがあります。山の頂上だけにうっすら雪が積もっていますよね。完全に冬になると、もっと雪が積もっていると思いますが、今回は秋の終わり~冬の始まりということで、頂上にだけ雪を描き季節感を出しています。
坂本
今回、優秀賞をどれにするか迷われていたとのことでしたが、どの作品と迷われたのでしょうか?
わいっしゅ
「夜明けのホーム」と「移り変わる時」ですね。
わいっしゅ
こちらの作品は臨場感がありますね。テーマを直接語りかけているのではなく、その場の空気を伝えることで「寒くなってきたな」という雰囲気が伝わってきます。
坂本
冬でまだ日が出きっていないということは6時とかでしょうか……? 寒そうですね。冬の早朝は一番家から出たくない時間です(笑)。
わいっしゅ
そうですよね(笑)。また、時間の経過をわかりやすく伝えている点も良かったです。ビルの上の方には光が当たっていて、下の方は影になっていますよね。これはハーフライトという技術なのですが、そんなレベルの高い技術がしっかりと活かされています。
坂本
惜しくも今回は優秀賞ならず、ということになりましたが、どういった点でこちらは佳作になったのでしょうか?
わいっしゅ
正直、今も優秀賞どちらにするか迷っているくらいなのですが……こちらの作品は「夏の朝ですよ」と言ったら、夏の朝にも見えてしまいそうです。この点で、秋~冬の絶妙な季節感を描けている「冬の朝」に軍配が上がりました。
坂本
さて、もう1つの迷われたという作品は「移り変わるとき」ですね。
わいっしゅ
こちらの作品は、真ん中のツリーハウスを隔てて右側は秋、左側は冬と2つの季節を1つの画面の中にうまく表現できています。また「冬の朝」と同様に”もや”を使ってうまく季節を表現しています。冬は朝もやが起きやすい季節ですからね。
坂本
たしかに、右側の木は葉っぱがある一方で、左側の木はすべての葉が落ちていますね。なんだか幻想的な空間です。
わいっしゅ
ツリーハウスを中心として秋と冬両方の季節を描くというアイディア、そしてモチーフの選び方も上手だと思いました。
坂本
今回の優秀賞は「冬の朝」に決まりました。次点は「夜明けのホーム」と「移り変わるとき」です。こちらは佳作を贈らせていただきます。
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佳作を発表! 色・コンセプト・植物・文化で秋~冬を表現した力作ぞろい!
ここからは、わいっしゅ先生がその他の佳作に選んだ作品とコメントを一挙にご紹介します!
わいっしゅ
冬の雰囲気がとても良く出ています。キャラクターがマフラーをしていないので、真冬ではないが、吐く息が白い。秋~冬をよく表現できています。空の色もすごくいいですよね。目を引きます。
ただ、1点だけマイナスポイントがあって、向かって右側の木の影が、他の影と向きが異なっているような違和感がありました。私も時間がないときにやってしまうミスなのですが、今回はコンテストだったので、細かいところまであえて厳正に審査しました。
わいっしゅ
非常に独自性があって絵がうまいですね。画力・コンセプト共に素晴らしいと思いました。近未来のSFゲームを作る時にコンセプトアーティストとして声をかけたくなるタイプの絵ですね。
わいっしゅ
少し秋寄りの絵ではあるのですが、「寒さ」を感じる点がいいですね。朝、外に出た時に「さむっ!」と言いたくなるような印象があります。奥は茶色っぽいのですが、左の手前が寒色でまとめられていて、寒さがうまく表現できています。また寒い表現の中に赤い車で差し色をいれている点もいいですね。
こちらのイラストもまた右と左で冬と秋を表現できています。こうしたよくある風景でテーマに沿って描くのは難しいのですが、よく描けていますね。
わいっしゅ
遠くにある山は雪がつもっている一方で、手前はまだ秋なんだなと思いました。この縁側のあたりももうすぐ雪が積もるのでしょうね。
左側の木のあたりがマゼンダっぽくなっていて、これが太陽の光をうまく表現しています。秋に収穫した柿を軒先に干している点も秋~冬の雰囲気が出ていますよね。柿を干すといった文化の面から季節感を表現している点も良いと思いました。
非常にクオリティの高い作品が多く、優秀賞も佳作も迷った
坂本
それでは、今回のイラストコンテストの総評をお願いします。
わいっしゅ
たくさん応募していただけてうれしかったです。みなさん、すごくレベルが高くて驚きました。秋や冬といった直接的な表現をするだけでなく、植物を使ったり、SFチックにしたり、とても表現力が豊かです。
レベルが高いので、優秀賞も佳作も非常に悩みました。もちろん、中にはもう少し構図が良ければ……と思う作品もありましたが、アイディアや表現したいことは明確になっているんです。今後の作品が楽しみな作者さんが多いな、と思わされました。
坂本
たしかに、「刻々と」では、文化の面からも季節感を表現していて、表現の方法はいろいろあるんだと、私も学びになりました。
この度は、審査を務めていただききありがとうございました!
背景イラコンレポート