こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。
イラストレーター、キャラクターデザイナーのサタケシュンスケ先生を審査員にお迎えした『5歳になった君に伝えたい物語』キッズイラストコンテスト。
さまざまな「5歳の君」への想いがつまった作品が集まりました!
イラストにこめられたみなさんのメッセージからサタケ先生のコメントまで、すべてが温かい選考レポートになりました。
イラストレーター、キャラクターデザイナー。動物や人物をデフォルメし、平面的に構成する表現が特徴。著書『サタケシュンスケ作品集 PRESENT』(玄光社)など、広告や出版、プロダクト分野で活動。株式会社ひととえ代表、京都芸術大学講師。
インタビューした人
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
最近、息子が5歳になった。
【大賞】光と影が美しく、ストーリーを想像したくなる深い1枚
サタケシュンスケ
大賞はないとう たかしさんの『われないシャボン玉をもとめて』です。
絵としての魅力が頭ひとつ抜けていました。いろいろ考えさせられる作品で語りつくせない深さがあり、大賞にふさわしいと思いました。
坂本
キャプションの文章が詩のようです。
5歳になった君へ
好きなこと 楽しいこと 苦手なことも増えて なにか素敵な夢を描いている頃かな。
夢を叶えることって 割れないシャボン玉を作るくらい難しいことだけど
何度だって諦めないっていう強い心を持ってほしいな。
そうすれば夢はどんどん広がって繋がっていくよ。これからの君の人生がきらきら虹色に光りますように。
サタケシュンスケ
モチーフにシャボン玉を選んだ視点がおもしろく、こういう表現があるんだな、と感心しました。
割れて消えるはかなさの象徴のようなもので、未来に向けたテーマで描くことはあまりないと思うのですが、あえて描いている。私には思いつけないし、一般的に見てもなかなかないと思います。
坂本
絵を描く前のアイデアの時点で、すばらしいですね。
サタケシュンスケ
それに加えて表現力もあり、光と影の描きわけがきれいです。メリーゴーランドが描かれているところなど、光もあれば影もある……困難があることも感じさせつつ、「夢を追い続けていくのは素敵なことだよ」というメッセージを感じます。
坂本
くたびれたおもちゃたちには苔が生えていますね。
サタケシュンスケ
そうですね。全体としては絵本の1ページのような温かみがあるのですが、この苔によってミステリアスさが出ています。ストーリーが気になりますね。
坂本
苔は時間の経過の象徴でしょうか? 不思議な世界観で、なんなんだろうな? とつい考えてしまいますね。
サタケシュンスケ
世界観がすばらしい。ないとうさんの説明をもっと聞いてみたいです!
ひとことで語りつくせないぐらい、見れば見るほどひきこまれます。大人が見ても楽しめる、すごい作品だと思いました。
このたびは大賞という知らせをいただき、とても嬉しいです。サタケさんや坂本さんにも絵をしっかり見て深掘りしていただけたことも光栄です。ありがとうございます。
選考でコメントいただいたことも含め、絵の詳細をお伝えします。まずこの絵は、自分の子どもに向けて描きました。
夢はキラキラしていて、でも叶えることが難しいものです。キラキラしてわれやすいシャボン玉は夢に似ているな、と思いモチーフに選びました。
そしてこの絵の主人公は「われないシャボン玉」を作ろうとしています。しかしそんなものはありません。ありっこない、できっこない。でも、それは私たちが知らないだけなのかもしれない。自分のこどもにも、周りからなんと言われようと突き進む強さを持って欲しい、という願いを込めました。
メリーゴーランドは夢に向かって努力しているときの「ぐるぐると同じことを繰り返してるんじゃないか?」「ちゃんと前に進めているのか?」という不安を表しています。
ただ、この絵のメリーゴーランドは傾いています。夢に向かって努力することで、いつかきっとその不安はメリーゴーランドとともに崩れ、木馬も天高く羽ばたくことができる...…という希望を持って。
苔が生えている表現はおっしゃる通り、時間の経過もありますが、「今までいろんな夢を追いかけて紆余曲折してきた証であり、追いかけてきた夢の残骸」です。夢の楽しいイメージを、子どもの大好きなおもちゃというモチーフで表現しました。
また、この絵は夕暮れの時間帯を描いています。僕も好きなこの夕暮れどきのピンク色の空のことを『マジックアワー』と呼ぶそうです。なんだかあっと驚く素敵なことが起こりそうな予感が伝わると嬉しいです。
少し作品説明が長くなりましたが……素敵な賞をいただき、本当にありがとうございました!
【佳作】子ども目線、親目線、あのときの自分へ……伝えたいメッセージが工夫して表現された作品たち
サタケシュンスケ
うちの子は5歳で「大きくなったらこうなりたい」とよく言っています。5歳というのは将来を理解しはじめる時期で、頭の中が希望でいっぱい。
ただ「なりたい」と言っていることの内容は毎日変わるのですが(笑)。そんな様子がよく表現されています。
坂本
幹の先が明るいところからも、希望を感じます。
サタケシュンスケ
幹をまっすぐでなく、斜めにしているところなど、構図を使った見せ方がうまいです。画面に動きをつけたほうが伸びていく感じが出やすいんです。
絵に込められた素敵なメッセージを感じさせる工夫ができていますね。応募作品の中でもトップクラスの絵のうまさです。
サタケシュンスケ
「未来」がテーマだと、明るく元気いっぱいなイメージを連想することが多いと思いますが、この作品はちょっと違う見せ方をしています。
部屋の物を積んで、そこに乗って窓を見ている。絵の中であえて明るい場所を一か所だけ作って、そこに目が行くようにしています。
坂本
絵から温かみも感じます。絵本のようですね。
サタケシュンスケ
メッセージ性が強くて、じっと見てしまいます。あえて説明しなくても伝わってくるものがあるイラストですね。
サタケシュンスケ
自分の子ももうすぐ5歳になるんですが、本当にこういう感じです(笑)。
どれも欲しくて、よくばりで。でも、それは好奇心だから、人としてすごく大事なところ。それをかわいく表現できていて、見ていてほほえましいので、選びました。
坂本
保育園の絵本や冊子にも載っていそうですね。
サタケシュンスケ
みんなが思っていることを表現してくれたような、「それでいいんだよ」と肯定してくれてるような絵ですね。大人も子どもと考えるきっかけになりそう。完成度の高い一枚だと思います。
坂本
「ろう石」はコンクリートの地面などに絵を描くのに適した石、のことだそうです。
サタケシュンスケ
僕も絵を描くのが好きな子どもで、こんなふうに公園の砂で好きに描いていたことを思い出しましたね。
坂本
子どもの頃って、落ちてるものから「これは絵が描けそう!」と見つけては、地面に落書きしていましたよね。
サタケシュンスケ
しましたね! 地面がキャンバスだと、無限に広げて描けますよね。
この作品においては、描き方も上品です。ふわっとひろげて消えていく感じが、記憶の中のような、これから広がるような、頭の中のイメージ世界をうまく表現できていると思います。
サタケシュンスケ
5歳だとまだまだ大人の言うことをまっすぐ信じてくれますよね。物語と現実がごちゃまぜで、いい意味でなんでも信じられる純粋な心を持っている。
それをこの優しい表情や動きで、うまく表してくれています。絵の技術もとても高いですね。
坂本
お母さんの手かな? うっすら見えていますね。後ろに小さいドラゴンがいたりしますね。
サタケシュンスケ
あくまで主役は5歳の子なので、頭の中の空想世界や手は、本当にそっと添えてくれています。優しさが伝わってきてすごくキュンとしました。
サタケシュンスケ
「未来」を想像するときに何かに例えて描くのは、イラスト仕事でもよくあります。
「扉」というのはすごくいいモチーフですね。
坂本
扉の中に入っていたり、これから入ろうとしているキャラクターもいますね。
サタケシュンスケ
のぞいている人がいたり、ただ扉が存在するだけではなく「つい開けたくなる扉」になっています。そういう絵としてのワクワク感が描かれているところに、惹かれましたね。
サタケシュンスケ
お子さんがいらっしゃる方にとっては、おそらく「わが子に伝えたいメッセージ」とイラストテーマが重なるんじゃないかなと思っていました。
できあがったイラストをまずはお子さんに見せる。お子さんがほめてくれて、作者さんもうれしい。そんなやりとりが目に浮かぶようです。
坂本
娘さんからほめてもらっている時点で優勝! ですね。
サタケシュンスケ
娘さん大賞ですね(笑)。一緒に見る中で、また新しい発見があったりするんだろうな、とイメージできて、いとおしく感じられるイラストでした。
平日のお昼。 息子の喜ぶ顔を想像しながらハムや海苔の切れ端を食べました。
5歳が終わりに近付く頃、突然「ご飯にお顔をつけるのは恥ずかしい」と言われ、 面倒だったキャラ弁を、急に作らなくてよくなりました。
かわいいご飯をご機嫌で食べていたのも、 子どもっぽいご飯が恥ずかしくなったのも5歳。
大切な1年をイラストにしました。 描いていてとても楽しかったです。
坂本
目覚めが早いですね。お兄ちゃんやお姉ちゃんの影響、なんてこともあるのかな?
サタケシュンスケ
ちょっと大人びているけど、成長過程の子が「子どもっぽいのイヤ」と言いたくなる気持ちもわかります。
親としてはちょっとさみしくもあり、でも成長したんだなって感じる。5歳の日常ってその連続だなと、この絵と文で思い出させてもらいました。5歳のころの親と子の気持がうまく表現されていて、いい絵だと感じます。
サタケシュンスケ
イラストもキャプション文も、思いがあふれんばかりの熱量とボリュームです。絵にすごく力があって、メッセージ性がトップクラスの強さを持っています。
坂本
気持ちがすごく伝わってきますね。
サタケシュンスケ
「子ども向けテーマ」というと優しく語りかけがちですが、大人だから言える強さもいいな、と思いました。
サタケシュンスケ
見たときにクスっと笑ってしまういい絵ですね。過去や未来ではなく、「今しかできない」ことを肯定してくれているアイデアも珍しく、印象に残りました。
坂本
ロボットの字や後ろの絵など、すごくあるあるな感じですね!こういうの、園にいっぱいあります。
サタケシュンスケ
再現度がすごいですよね。こういう子どもが描く絵や字は、大人が描こうと思ってもなかなか描けないんですよ。どうやったらこんなふうに描けるんだろう?
お子さんがいらっしゃるのかもしれませんが、よく見ているな、と思いました。
【総評】空想と、自分を通したリアリティのバランスを大切に
坂本
イラコン全体を振り返って、いかがでしたか?
サタケシュンスケ
イラコンのお声がけをいただいた当初は、絵本イラコンで、というお話でした。でも「5歳に向けて」とテーマをしぼったことで、よりリアルな声やメッセージの強い作品が集まり、良かったなと思います。
子どもを見る温かいまなざしや気持ちが、応募作品それぞれから伝わってきました。絵も文も、見ていてうなずくものが多かったです。
坂本
個人的にも見ていて泣きそうになりました。
サタケシュンスケ
子ども向けモチーフのテーマなのに、大人も楽しめるコンテストでしたね。今後自分が描く上でも、いい刺激をいただきました。
坂本
たくさん候補があがっていて、かなり悩みながら選んでいただきました。この11作品にした点や、佳作と大賞の差は、どんなところにあったのでしょうか?
サタケシュンスケ
大きなひとつは、リアリティです。実際に自分が見てきた世界や、子どもを通して見た世界などが、リアルに表れていている作品が残ったな、と感じます。
もちろんイラストは空想の世界でいいのですが、共感できるという点で、現実と空想のバランスがうまく取れてるかどうかが大切だったと思います。
坂本
今回、サタケ先生にもイラストコンテストのためにかわいらしいイラストを描きおろしていただきました。こちらはどんな思いで描かれたのでしょうか?
サタケシュンスケ
ちょうど今月5歳になる我が子をイメージしています。最近絵を描く楽しさを覚えたようで、夢あふれる空想や妄想を白い紙の上で表現するその姿が、今回のテーマにぴったりだなと思い描きました。
コンテストの顔になる絵なのでなるべく偏らずに、わかりやすい王道な解釈がよいかな、という考えも込めています。
坂本
ありがとうございます。絵本のようなあたたかいイラストで、コンテストのテーマがよりわかりやすくなると感じました。GENSEKIとしても、絵本が描ける方には集まってほしいと思っていましたので、その点でも今回のイラコンはありがたかったです。ぜひまた、ご一緒できればうれしいです。
サタケシュンスケ
はい! ぜひ次回もよろしくお願いします。
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編集
斎藤充博(Twitter/potofu)
企業オウンドメディアを中心に企画・制作・編集を行う。
執筆
kao(Twitter/Web)
イラストレーター&ライター。GENSEKIではインタビューやメイキングを中心に担当。子の親離れが近いので、応募作品を見て5歳のときを思い出しては泣いていた。