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漫画のコマ割りでどう遊ぶ? しりもと先生「『枠を超えた』漫画コンテスト」レポート

 

こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。

シンプルでポップ、そしてちょっと不思議な世界観がクセになるイラストレーター・漫画家のしりもと先生を審査員にお迎えした「型を破れ!『枠を超えた』漫画コンテスト」

応募者の方には2〜4コマのマンガを描いていただきました。

しりもと先生にはその中から大賞1作品、佳作5作品を選出いただきました。コマを使ってどのように遊び心を出すか。先生のコメントもぜひご覧ください!

審査員
しりもと(X:@SHIRIMOTO
イラストレーター・漫画家。
東京都出身。漫画や本の挿絵からゲームのキャラクターデザインなど、色々と活動しています。

インタビューした人
斎藤充博(X:@3216
GENSEKIマガジンの編集スタッフ。プライベートでは4コマ漫画を描いていることもある。

 

【大賞】こういう描き方があるのかと驚き!「ハマる人材募集。」

ハマる人材募集。/タカミン

しりもと
今回の最優秀賞は「ハマる人材募集。」に決めました。

 

斎藤
モチーフはテトリスですよね。おもしろいです。

 

しりもと
こういう表現の仕方があるんだと驚きました。疲れている人、部下が欲しい人、採用したい人のスキマに意欲にあふれた就活生が落下してきているという……。

 

斎藤
これ、テトリスだったら揃って消えちゃいますよね(笑)。

 

しりもと
この人たちもハマった瞬間に消えちゃうでしょうね。

 

斎藤
ゾゾゾ……。そう考えるとちょっとダークにも見えて、4コマでいろいろ想像できます。

 

しりもと
絵柄も色使いも非常に完成度が高く、私も刺激を受けました。

作者のタカミンさんのコメントに、「実際に紙の上でコマが動く漫画があったら楽しそう」と書かれていますが、すごくいいアイデアですよね。今回の募集要項とはちょっと異なりますが、GIFアニメにして、実際に動いているとおもしろそうだと思いました。

 

受賞者コメント

この度は最優秀賞に選んでいただき誠にありがとうございました!

漫画を描くのが大好きで、コマ割りをよく研究しています。
どうすれば読みやすいか、よく伝わるか、素敵に見えるか……奥の深いコマ割りの手法は漫画表現の魅力のひとつだと思っております。
そんなコマ割りのおもしろさをテーマにしたこちらのコンテスト、出品しないわけにはいきませんでした!

今回は漫画のコマの「四角さ」に注目し、同じく四角いテトリスのイメージと重ね合わせて「ハマる」をテーマにネタを考え、制作しました。
ハマったらどうなるの?もしかして消えちゃう?と、想像をかきたてる作品になっていればいいなと思っていたので、講評コメントがとても嬉しかったです。

募集要項に合わせて静止画で制作しましたが、描いているうちにだんだんコマが動いているように見えてきたのがおもしろかったです。
しりもと先生も講評コメントで仰っていましたが、GIFアニメにもしてみたいと思います。
今後も新たな漫画表現を追求し、良い作品を作っていきたいと思います!

 

【佳作】作者の個性があふれてる! 「型やぶり」漫画5選

くらげのしんぞう/蒔

しりもと
この作品はクオリティがすごく高いですね。

 

斎藤
漫画としても読めるし、1枚のイラストとしてもいいですね。

 

しりもと
視点誘導がうまいですよね。右上から右下、そして左とくらげの周りを取り囲むような見せ方が素敵です。うまく枠を使っているなと感じました。

 

斎藤
左のコマのオオカミのような生き物が最後黒くなっていて、白いくらげと対比になっているのかな、と思いました。背景はくらげがこちらを見つめているようにも見えます。

 

しりもと
今回のコンテストのテーマに沿って1枚で完結となっていますがこの後のストーリーも見てみたいですね。
彼の心臓が透き通ったらどうなるのかな?なんて気になってしまいました。

 

本を閉じたらこんにちは/にのまえ はじめ

しりもと
この作品は発想がユニークですね。

 

斎藤
手前の人物のセリフが鏡文字になっていますね……?

 

しりもと
作品の説明に「漫画を閉じるとコマが重なるので、キャラクター達がコマ越しに話していたらおもしろいのでは」とあります。2枚のページが重なっているシーンを描いたものですかね。

 

斎藤
なるほど、だから手前のモブの人のセリフが裏返っているんですね。

 

しりもと
よく見ると、服の柄もスクリーントーンを使って漫画チックにしていて芸が細かいです。今回は1コマ同士ですが、周りの他のコマも重なっている描写があったりすると、もっとおもしろくなる余地がありそうです。

 

救出/@miwako

しりもと
こちらも発想が秀逸ですね。色のタッチもかわいいです。

 

斎藤
折り目に沿って折りたたむと、木の上のネコちゃんが下に降りられるような仕掛けになっているんですね。

 

しりもと
ゲームブックのような作りになっていて遊び心がありますね。でも、折り目に沿って折りたたむと下の2人が消えちゃいますね。

 

斎藤
たしかに……。

 

しりもと
折りたたんだときに何かもうちょっと仕掛けがあると、ぐっと魅力が引き立つと思いました。もっといろいろな作品を見てみたい作風です。

 

脱獄/カレースライス

斎藤
お次はこちらの作品です。

 

しりもと
縦長で枠をのびのび使っていて、縦軸でシチュエーションが異なるのがいいですね。

 

斎藤
囚人がスプーンで壁を掘り進めるとその先には看守がいるという……。そういえば、囚人が脱獄しようと穴を掘ったら看守室につながってしまったという海外のニュースを見かけた記憶があります。この漫画にそっくり(笑)。

 

しりもと
それはかわいそう。

 

斎藤
よく見ると背景の落書きもあって細かいですね。ひとりで自画像描いてるし、ひとりで陣地取りゲームしてる。数の数え方も縦棒で、海外の数え方をしています。

 

しりもと
いろいろ想像できていいですよね。右の看守視点の1コマ、2コマ目が暗闇なので、看守が仕事してたり寝てたりするシーンを描くと、時間の流れが漫画内で表現できてもっと動きが出ると思います。

 

チャチャいれねこ 大満腹/ミズノマオ

斎藤
こちらが最後の作品です。「登場するのはオリジナルキャラのチャチャいれねこ」だそうです。

 

しりもと
チャチャいれねこがご飯を食べていたら、満腹になって太って下に落ちてしまうというわかりやすい構成ですね。複雑な構成の作品が多い中で、シンプルさが光りました。
3コマ目の下部分が重さでミシミシしているのも楽しいです。

 

斎藤
シンプルなので、サムネイルの段階から目立っていました。

 

しりもと
そうですね。こういったコンテストでは、サムネイルでも目を引くように意識するといいかもしれません。

また、これは私の好みですが、4コマ目で、今まで食べた物やそのゴミがたくさん落ちてくると画面がもっとおもしろくなるかなと思いました。

 

斎藤
なるほど……。今まで登場した小道具が最後に出てくると「つながってた!」という気持ちよさも出てきそうですね。

 

【総評】コマ枠をうまく使う秘訣とは?

斎藤
今回のコンテストを振り返ってコメントをお願いします。

 

しりもと
作品が全然来なかったらどうしようと思っていたのですが、こんなに送ってもらえるとは思わなかったのでうれしいです。皆さんのいろいろな作品を見てすごく勉強になりました。

 

斎藤
今回の応募作品では、コマ枠にこだわったいろいろな投稿作品がありました。先生は普段漫画を作るときはコマ割りから考えますか? それとも話から考えますか?

 

しりもと
私は「こういう場面を描きたい」というひらめきから漫画を描いていきますね。イメージをコマ枠に落とし込んでいく形です。

 

斎藤
先生には今回サンプル作品を描き下ろしていただきました。こちらは、どういうところがポイントだったのでしょう。

しりもと
右上から右下に向かって、ニワトリと人間の動きがつながっている様子を描いたものです。ストーリーと時間の流れを意識しつつ、構図もあまり動かさず全体で見たときに統一感が出るようにしています。

色使いについては、ニワトリのトサカの色と少年の着ている服の色をあわせたりと、たくさん色がある中で、まとまりが出るようにしました。

 

斎藤
しりもと先生の絵はシンプルでとても見やすいと感じています。制作の際はどんなところを意識されているのかを教えてください。

 

しりもと
おっしゃる通り、できるだけシンプルに伝わるようにしたいと思っています。描き込みすぎると絵の情報量が増えてしまうので、省略できるところを探しつつ、それでいて内容が伝わるような落とし所を毎回探っています。毎回線画には時間がかかっていますね。描き込む部分はペンの太さを分けたりとバランスをとっています。

 

斎藤
漫画の展開について、意識しているところはありますか?

 

しりもと
「チャチャいれねこ 大満腹」でもコメントしましたが、私はできるだけ、ひとつのコマ枠の中で時間の流れがわかるようにしています。

 

斎藤
シンプルな絵で時間の流れが表現されると「間」が強調されておもしろいですよね……。今日はありがとうございました!

 


 

執筆神田匠(X:@gogonocoda

編集斎藤充博(X:@3216Web