こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。
GENSEKIでは動画・GIFアニメ・音楽・音声データが投稿できるようになりました!
投稿機能の実装を記念して、イラストレーター浦浦 浦 先生が審査員の「GIFアニメコンテスト テーマ:日常感」を開催しました。初の試みにもかかわらず、120作品以上のGIFアニメ作品をお寄せいただきました!
GIFアニメをおもしろくする工夫や、説得力を出すためのヒントが学べる選考レポートをお届けします。
▼結果発表と受賞者コメントはこちら
審査員
浦浦 浦(X:@urachan1629/Instagram)
イラストレーター。2000年生まれ、京都府出身。カリフォルニアの大学を卒業後、現在はフリーランス。オリジナルイラストだけでなく、アニメーションや漫画のファンアートなども制作。マクドナルドのSNS広告など、多岐に渡って活躍。
インタビューした人
サイトウ
GENSEKIマガジンの運営サポートスタッフ。
【編集部より:記事では静止画像の掲載になっております。各作品のアニメーションは、ぜひタイトルをクリックしてご覧ください!】
【大賞】画力も動きも圧巻。夏を伝えるテクニックがふんだんに盛り込まれた作品
音/周憂
浦浦 浦
大賞は周憂さんの『音』です。おめでとうございます!
まずストレートに画力がとても高い。風に揺れる風鈴や木陰を、強いコントラストで描くことで、みごとに夏の雰囲気が表現できています。下の方から、青くグラデーションにして光らせて、清涼感を出しているのもいい効果になっています。これでもかと贅沢に、夏の暑く清い空気感を表現していて最高です。
サイトウ
圧倒的な情報量ですね。動きも画面全体に見られます。
浦浦 浦
木陰が揺れているのもいいですね。風鈴や、舞っている葉の色と動きなど、テクニックが散りばめられていておもしろいです。風鈴もここまで動かせるのはすごいです!
サイトウ
この作品が大賞になった決め手はどこだったのでしょうか?
浦浦 浦
全体のクオリティを取るか、アニメとしてたくさん動いているかを取るかで、次の佳作の作品と迷いました。どちらも同じぐらいよかったので、最終的に審査ポイントを見直して決めました。
【審査するポイント】
1.GIFアニメであるか
2.テーマ「日常感」に沿っているか
3.絵から「空気感」や「温度感」「流れる時間感覚」などの雰囲気が感じ取れるか
アニメの「動き」で見ると、この作品で動いているのは風鈴、葉、猫のしっぽ、木陰などのポイントだけに見えます。でも、それを全体で見たときの空気感が、あまりにもよかった。
サイトウ
いろいろな動きがあわさることで、「全体の雰囲気」を表現できているのですね。
浦浦 浦
そうですね。仮に賞を一般公募で決めることがあったら「たくさんの人がこの作品に惹かれるだろうな」と想像できる説得力もありました。
また、独自性も評価しました。パースのかけ方があまりにも独特で、ダイナミックです。現実ではレンズを使ってもこうはならない。不思議なおもしろさがあり、本当に感心しました。
サイトウ
みごと大賞でしたが、さらに作品の魅力を引き上げられるポイントはあるでしょうか?
浦浦 浦
正直、僕が描いてもここまでできるかわからないぐらい圧巻なので……。細かい話になりますが、影の部分でしょうか。
光が当たっているすだれの奥の空間が、濃い影になっています。ここにもう少し他と同じような青い反射光を入れられると、周憂さんの意図する涼しさが、もっと出せると思います。
でも、本当にそれぐらいしか言えることがありません!
サイトウ
周憂さんの今後に向けて、応援コメントをお願いします。
浦浦 浦
風鈴や葉の動きなどいろいろな技術を使われていますね。仕掛けが多く見ていておもしろいので、今後の作品も楽しみです!
【佳作】それぞれの「個性」と「日常感」がおもしろい、表情豊かな9作品
エレベーター最上階/miritani
浦浦 浦
大賞と迷った作品です。この作品の決め手は、なんといってもアニメ技術の高さ。複数の登場人物を動かすのは難易度が高いのに、ここまでキャラを滑らかに自然に動かせるのはすばらしい。プロとして十分にお仕事ができる、高いクオリティのアニメだと思います。
女の人が手前に座っている構図は、アニメとして退屈になりがちなのですが、おもしろく見せられています。視線誘導や、画面を揺らすエフェクト、光源が点滅する演出もいいですね。個人的に配色も好みです。
サイトウ
アニメ作品のワンシーンを切り取ったようで、本当によく動きますね。今回のテーマ「日常感」というところからではいかがでしたか?
浦浦 浦
ハッチを開けたときにこの作品の世界観を想像させられるのですが、「このキャラたちは普段からこういう非日常な世界に生きているんだな、それが日常なんだ」と感じられるのもよかったです。
サイトウ
この作品をさらによくできる点や、先生ならこうする、といった点があればお願いします。
浦浦 浦
いい作品なので、もう重箱の隅をつつくような話しかありませんが……。少しだけ、テーブルの空間にパースの狂いを感じます。そこに違和感が生じない絵の技術を身に付けていけたら、さらに発展できると思います。
miritaniさんにはこれからも、どんどんすばらしいアニメーションを作って見せていただきたいです!
いつもの寄り道/アルヰ
浦浦 浦
第一印象は、背景がとにかくうまい!配色もレトロで、金属の表現がとても好みです。サイバーパンクかダークファンタジーのような世界観も大好きです。
サイトウ
一枚絵としてもすてきな作品ですね。特によかった点はどこでしょうか?
浦浦 浦
天井の金属の質感です。これは寒色の中にいろいろな色を混ぜてやっと描ける質感で、金属の冷たさや硬さ、重厚感がしっかり描けています。イラストとしてもレベルが高く、今までも試行錯誤を繰り返して描いてこられたのだと感じました。
サイトウ
大賞を目指して、さらに作品をよくできる工夫はありますか?
浦浦 浦
せっかく背景をしっかり描き込んでいるので、キャラの色味を見直すと、さらによくなりそうです。
例えば左の子は、髪が彩度の高い水色に対して、服が紺色です。色味はいいのですが、色の対比のバランスが目につきすぎてしまうので、もう少し髪の彩度を抑えるといいかもしれません。
でも、言えるのはそれぐらいです。今後もこの表現の方向で探究して、すばらしい作品を作り続けてほしいです!
鼻先が冷たくなる冬の風/深月
浦浦 浦
この作品をひと目見てすぐ、賞に選ぼうと思いました。動画に流れる空気や時間の感覚が、手に取るようにわかります。風が吹いていて、空気もちょっと冷たそう。そういったことが全部、キャプションの設定を読まなくても伝わるのが、とてもいいですね。
サイトウ
4秒という短いループアニメですが、それを感じさせず、ずっと見ていられます。
浦浦 浦
空の色や、なびく髪、奥に橋のアーチを描くことで川の場面設定ができるなど、空間演出能力の高さにも脱帽です。
サイトウ
この作品をさらによくできる点はあるでしょうか?
浦浦 浦
これは僕が空を描くのが好きなので、つい目が行ってしまうのですが、もう少し雲の描画をがんばると、さらにいい作品になると思います。
サイトウ
雲を動かした方がいいのでしょうか?
浦浦 浦
いえ、この作品は動かさなくてもきれいだと思います。単純に、深月さんの描写力ならもっとすてきな空が描けると思いました。
また、動きが自然で空間演出もいい反面、アニメとしてもう少し味を足せるかもしれません。今でもすてきですが、人物がこっちを振り返るような動きがあると、さらにひっかかりができておもしろくなりそうです。
笑顔の伝染/poffso(ポふそ)
浦浦 浦
こちらも迷わず賞に選びました。揺れるカーテンや、さりげなく設置されている緑が、優しさや温かみをとても効果的に表現していてすばらしいです。雰囲気もいいですし、キャラの動きや小物など、しっかり小技が効いています。キャラクターの表情も上手で、見ていて癒されました。poffsoさんにはこういう絵のお仕事が来てもおかしくないですね。
サイトウ
小さなペンギンのようなキャラクターもかわいいです。こちらの作品へのアドバイスはあるでしょうか?
浦浦 浦
全体の柔らかさと温かみに対して、アウトラインが強いのが気になりました。輪郭線に黒を使うと、硬い印象になってしまい、もったいない。黒ばかりでなく、例えば僕がよく使う色でいうと、濃いオリーブ色などを使ってみてください。
外壁も、ネイビーだと締まりすぎるので、ベージュやオレンジなど、暖色寄りでもいいと思います。
この作品は温かさを表現するコンセプトだと思うので、より温かく柔らかく、と全体的に暖色を混ぜていくのがいいでしょう。
野良恐竜/じみにしじみ
浦浦 浦
昭和レトロ感のある裏路地に、ジュラ紀を彷彿とさせる活火山と恐竜の掛けあわせが最高です。写実力の高さと独自の色味によって、世界観を確立していてすばらしいです!
他の投稿作品も似た色味を出されていますが、どれもきれいだしクオリティが高い。個人的にも好きです。特に赤の使い方がとても上手で、かわいいです!
サイトウ
じみにしじみさんは2作品応募いただきましたが、こちらを選ばれたのはどういった理由でしょうか?
浦浦 浦
コンセプトの強さです。この街並みに恐竜がいる、というおもしろみがあります。
また、こちらの方が描写力の高さが発揮されています。特にブロック壁や民家の描写に、情景への解像度の高さが表れていていいですね。
サイトウ
作品をよりよくするためにできる工夫はあるでしょうか?
浦浦 浦
背景はうまくて、色味のよさも応募作品の中で群を抜いていたと思いますし……。あるとすれば、動きでしょうか。今回のコンテストでは「アニメーション」を評価しているので、もう少しフレームを増やしてもいいと思います。GIFなので仕方がないところでもありますが、アニメをスムーズにするか、動きを増やすかのどちらかですね。
いつもの息抜き/ふあこし
浦浦 浦
光の使い方がうまく、作品から温度が伝わってきてすばらしいです! なにより場面設定をエレベーター内にしているセンス。嫉妬するほどのアイデア力です。建物の影を上から下にスライドさせて、エレベーターの表現にしているのがとてもいいですね。
サイトウ
短いループなのにずっと見ていられますね。大賞を目指して、よりよくできる点はあるでしょうか?
浦浦 浦
「アイレベル」が気になります。エレベーター内のアイレベルは、女の子のおへそのあたり。となると、背景のパースがずれてしまっています。アイレベルを揃えて、もっと画面に説得力が出せるといいですね。
サイトウ
エレベーター内は魚眼パースもかかっているようですね。
浦浦 浦
魚眼パースは描き込み量が増えるのでいいですね。魚眼で描くのはけっこう覚悟がいることなので、選んだこと自体が、すごいと思います。
夢の中へ/ゆらぎ
浦浦 浦
制服が壁に掛けられていて、彼女たちの「日常」を見る側に想像させています。振り子時計や光源をうまく使った視線誘導など、絵に細かい工夫が散りばめられていて、とても楽しい作品です。色味もかわいいですね。受賞作品の中でもっともテーマやルール設定を理解して応募してくれた作品だと思いました。
サイトウ
「日常感」がよく出ている、ということでしょうか?
浦浦 浦
そうですね。女の子とこの生き物が、いつも一緒にいることが見て取れます。窓の外に雪が降っていて、この光は暖炉なんだ、あたたかそうだな、というのもわかる。上手ですね。
サイトウ
さらに魅力を引き上げるアドバイスはありますか?
浦浦 浦
ベッドでしょうか。スペースが大きすぎる印象があるので、そのぶんキャラを大きく描いてもいいと思います。生活感を出すなら、ベッドの上や掛布団が、もう少し乱れていてもいいかもしれません。
サイトウ
アニメで動くからこそ、絵に違和感を生じさせないことが必要なのでしょうか。
浦浦 浦
奥の壁のように、背景にフリーハンドの魅力があることはいいことです。ただ、ベッドのようなものはプロダクトとして共通認識の形が決まっています。そういったモチーフに説得力を持たせられるようになると、絵がよりよくなると思います。
待ち合わせ/ゆっけ丼
浦浦 浦
青年がイヤホンを外すときの動きが、とても気に入りました! ひと目見ただけで待ち合わせというのがわかります。
サイトウ
誰でも一度は見たことある動きですね。
浦浦 浦
このシーンをアニメにすることを選んだのが、すごくいいですね。キャラクターをリアルに動かすのは、想像以上に難しいことなので、ここまでキャラを自然に動かせるのは、本当にとてつもなくすごいことです!
サイトウ
こちらの作品へのアドバイスはあるでしょうか?
浦浦 浦
背景をもっとがんばって、時間の情景まで出せるようになるといいですね。例えば、真っ暗な夜の風景が見える窓を配置して、店員さんのいる部分をシャッターにして「深夜の待ち合わせ」にする、などです。
背景に直線が多すぎるのも少し気になりました。『崖の上のポニョ』のような、柔らかい線も使った背景にすると、さらにおもしろくなりそうですね。
たぶん、制作時はアニメの動きに集中していたんだと思います。だからこそ、背景に表現を加えられたら、もっとよくなると思います。
「…いらっしゃい!」/honöca*
浦浦 浦
ピクセルアートという手があったか!と意表をつかれました。温かみのある世界観に、かわいいキャラデザ。すばらしいです!
森の動物や、このキャラのような獣人たちがここに来るんだろうな、と設定を想像する楽しみもあります。
サイトウ
ドットですが、全体的にしっかり描き込まれていますね。
浦浦 浦
小物も多く、絵のリッチ感もあって、いいですね。ピクセルアートのドットでこれだけの温かみが出せるのなら、今後もこの路線で十分に活躍されていくだろうな、と感じます。
サイトウ
アニメの動きについては、いかがですか?
浦浦 浦
動きもいいですね。振り向いてニコっとする動作も自然でかわいいです。
よく、アニメで一番手がかかるのは「首が動く瞬間」と言われますが、この作品はしっかりと首を動かせています。3分割ぐらいで自然な動きにできています。横を向くときに目を描くのは大変なので、つむるというのもアニメでよくある手法です。無意識で描いていたのならすごいのですが、もしかするとhonöca*さんはアニメをたくさん描いてこられた方かもしれませんね。
サイトウ
作品をよりよくするために、できることはあるでしょうか?
浦浦 浦
ピクセルアートは専門外なので、僕が何か言うのは申しわけないのですが……この絵の雰囲気なら、もうちょっと暖色を入れてもよさそうです。
ドットのどこに、とはうまく言えませんが、イラストとして見ると、左側の大きい木の陰の境界線に、暖色を入れるといいのではないでしょうか。そういう工夫はもっと見たいと思いました。
【総評】見る人を退屈させない工夫を散りばめて、おもしろい作品に
サイトウ
今回は、GENSEKI初の「GIFアニメコンテスト」でしたが、120作品以上のご応募をいただきました。全体を振り返って、いかがでしたか?
浦浦 浦
「GIFアニメ」というお題の中、たくさんのご応募ありがとうございました。当初は僕が審査員をさせてもらっていいのかな? と思っていましたが、いざ作品を見てみると、自分の中からいろいろな視点の評価が出てきました。実りが多く、僕自身の成長にも繋がりました。
サイトウ
先生はGIFアニメを作るときに意識されていることはありますか?
浦浦 浦
退屈になるのが一番よくないと思っています。そのため「動き」や「モチーフ」で情報量を増やすように気をつけています。
例えば、僕がマクドナルドのお仕事でキッチンのシーンを描いたとき、お鍋の焦げや細かい小物、ビニール袋や机が欠けた部分など、小技をどんどん足していきました。雰囲気として小さな日常感を出せるようにしたんです。見た人が気づかなかったとしても、感覚として受け取ってくれると思うので。
サイトウ
「日常」というのは皆の中に共通認識があるため、身近に感じやすいんですね。
浦浦 浦
そうだと思います。
『目指せラーメンマスター』/オリジナル作品
(アニメはリンク先でご覧ください)
サイトウ
先生がアニメ作品でお仕事をしているのには、どういった経緯があったのでしょうか?
浦浦 浦
最初はイラストレーターとしてスタートしました。ただ、もともとアニメが好きで、作ることにも興味があったんです。その流れで自然とGIFアニメも作るようになりました。
それでInstagramに投稿したラーメンのGIFアニメが、クライアントさんの目に留まり、『マクドナルド』のCMのお仕事をいただきました。そのCMがきっかけで、その後も同じようなお仕事の依頼に繋がりました。
サイトウ
先生の中で、イラストとアニメの制作に違いはありますか?
浦浦 浦
個人的にはあまりないですね。どちらも背景を描いてから人物を乗せるので、作業工程は変わらないです。
僕はもともと、人物に影を落としすぎないとか、線がシンプルといった作風です。あえてイラストでもアニメでも応用が効く構成にしています。ただ、作業工程はイラストの方がシンプルなので好きですね(笑)。
サイトウ
誰でもできることではないでしょうが、先生にとっては自然な流れだったのですね。
浦浦 浦
これは、僕が日頃から思っていることなのですが……今、イラストレーターとしてやっていけるぐらいの実力がある人なら、誰でもお仕事ができるぐらいのGIFアニメが描けるんじゃないでしょうか。
受賞者に限らず応募してくださったみなさん、本当にすごく上手でした。みなさんがこれから、GIFアニメの分野で活躍されるのを楽しみにしています!
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