GENSEKIでは「学生応援プロジェクト」を企画・推進しています。
今回はイラストレーターのさいとうなおき先生を審査員にお招きし、滋慶学園グループ6校とのイラストコンテストを開催しました。
この記事では、さいとうなおき先生と受賞された5名との、1on1レッスンの模様をお届けします!
さいとうなおき(X:@_NaokiSaito/YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
進行
齋藤佳輝
GENSEKIコンテストの企画設計やBtoB営業を担当。学生応援プロジェクトの1on1レッスンでは全体進行を務める。趣味は飼ってる魚を眺めること。
齋藤
滋慶学園グループのコンテストは昨年に続き2回目となります。今回は6校の学生のみなさんから、134作品のご応募をいただきました。その中から受賞された大賞1名、優秀賞4名の方とさいとう先生とで、1on1レッスンを行います。
さいとうなおき先生
今日は全力でレッスンさせていただきます。持ち帰ってもらえるものが多くなるようがんばりますので、よろしくお願いします!
面と向かって「ここはいい、ここは直して」とお話をする機会はなかなかありません。せっかくなので僕にもボールを投げてもらえるとうれしいし、その方がお互いに得るものが増えます。いい会にしていきましょう!
<目次>
【大賞】画力と根気で高いクオリティにできている。挑戦が次の上達に繋がる(緒川りお)
【優秀賞】想像がふくらむ構成がおもしろい。クリエイターは悩み続けることも大事(あおむぎ)
【優秀賞】描写のバランス感覚が抜群。イラストには「設定の情報」をたくさん入れよう(じるを)
【優秀賞】キャラを魅力的に描く力がある。自分の長所を活かせるのはどこかを探そう(たかみず)
【優秀賞】センスと描写力が光る、上品な作品。ポートフォリオには需要を考えた絵も入れよう(穀BAT)
【総評】全力で仕上げたからこそ次の課題が見える。自分と真剣に向き合おう!
【審査するポイント】
・絵の中に「星座」のモチーフがきちんと使用されているか
・テーマを意識したイラストになっているか
・絵の魅力が発揮される構図になっているか
【大賞】画力と根気で高いクオリティにできている。挑戦が次の上達に繋がる
齋藤
大賞に選ばれたのは緒川りおさんです。おめでとうございます! 東京コミュニケーションアート専門学校、4年制のコミックイラストマスター専攻2年生で、将来はゲーム会社への就職かフリーランスイラストレーターを目指すかで迷っているそうです。
緒川
ペガスス座を擬人化しました。逆さまに見える星座なので、構図も逆さまにしました。
キャプションにいろいろ書きましたが、実は設定は後付けで、最初は「こんな雰囲気がいいな」というところから描き始めました。
さいとうなおき先生
見た目と顔のいいペガススを描きたい、というところから始まったんですね。それでいいと思います。たとえ後付けでもトリビアっぽく設定を話せるし、単純に一枚絵としてクオリティがとても高いです。
齋藤
大賞になった決め手や、よかったポイントはどこでしたか?
さいとうなおき先生
構図、色使い、表情、顔の位置、羽が少し浮いていてあとは沈んでいるところなど、全ての要素が「これ以上ない」というところまでバッチリはまっています。これは相当の画力と根気がないとできません。凄みや風格さえも出ています。
身体を正面から描こうとすると、奥行きや立体を出すのは難しいんです。しかし、ボタンやシワなどでうまく表現できています。触れそうな存在感がある。描きにくい角度をあえて描くからこそのオシャレ感と、ちゃんと描けている感のバランスがよく、緒川さんの力を感じました。
カメラが若干広角レンズで、本来はまっすぐに見える羽に角度をつけています。気づかない人は気づかないぐらいの高度なテクニックです。
また、キャラには見えていても、絵を見ている人には見ることができない角度の星空を、水面に映して描いているのもうまい。漫画なら2コマ使って描くことを、一枚の絵で表現できています。お約束の演出ですが、絵をよく研究していますね。
齋藤
作品について、聞きたいことはありますか?
緒川
私は普段、ここからさらに厚塗りしています。どんどん描き足すことはできるのですが、引き算ができません。
描き込みすぎるとくどくなるので、今回は情報量が増えすぎないように意識しました。どうやったらうまく引き算できるようになるでしょうか?
さいとうなおき先生
なるほど、そういうことなんですね!
実は、羽と、手前の水面の波紋を見て「こんなにうまいのになぜここだけ描いていないんだろう?」と感じていました。
緒川
そのあたりは、どこまで描き込んでいいのかよくわからなかったです。
さいとうなおき先生
これはブラシの問題のような気がします。今は平坦な丸ブラシを使っていますよね。少ない手数でもよく見えるブラシがあるので、それを見つければ解決するでしょう。
また、イラストレーターの吉田誠治さん(X:@yoshida_seiji)が丸ブラシでもいい感じに見える描き方をされています。あまり描き込んでないけど遠くから見るとよく見えているところを観察して、参考にしてみるといいかもしれません。
描き込みすぎないコツとして「形」か「描き方」の片方だけでもていねいに描く方法もあります。
今は、波紋の「形」と「描き方」の両方がラフなので、アタリのように見えてしまっています。どちらかだけでもしっかり描くとよく見えるので、例えば波紋の円の形をパスでしっかり取ってみてください。「手数は少ないけど形は取れているから、あえてこうしているんだ」というように見えると思います。
緒川
ありがとうございます! ブラッシュアップの参考にします。
さいとうなおき先生
それから、これは本当にちょっとだけですが、ペガススの影が気になりました。キャラの下の地面はどんなイメージでしたか?
緒川
星空を描きたい、というイメージです。
さいとうなおき先生
なるほど。でも、空に影は落ちないですよね。影を描くなら、水面の下には地面があるということになります。
水面の浅さを見ると、砂浜の波打ち際が想像できます。でも、砂浜にしてはしっかりした影が落ちているので、コンクリートの地面のように見えています。どちらかといえば、砂浜をイメージして描いた方が設定としてはロマンチックかもしれません。
齋藤
キャラを水に浸した意図はあったのでしょうか?
緒川
星座なので星空を描きたいけれど、地面に寝そべっている人物も描きたい、というところからのアイデアでした。
神話では、ペガススはベレロポンとともに様々な活躍をしますが、ベレロポンの慢心が神の怒りを買い、放たれたアブにペガススは刺されてしまいました。それにより暴れたペガススはベレロポンを振り落として空へと駆け上がり、星座になったとされています。
このペガススは、当時のベレロポンに思いを馳せているようなイラストにしています。
空へと駆け上がったペガススを見上げ、静観しているベレロポンの様子を、ペガスス自らが再現しているようなイメージで描きました。
さいとうなおき先生
「水」は少し「死」を連想するので、ストーリー的にはいいですよね。設定は後付けと言っていましたが、ペガススが星になっていったとか、お腹に手が置いてあるから実はここを刺されたのかな? とか、舞い散る羽も散りゆく命を象徴しているようで、意外とうまくはまっています。でも掘り下げるとちょっと穴があった感じですね。
星になったことを水面の星空でもっと表現したいなら、水面についた羽の部分を少し黄色く光らせて消えゆくように描くとか、羽自体が少し光っているのもいいかもしれません。
また、星座の絵を描くときに僕が毎回気になるのは、「星座をそのまま絵に入れると浮いてしまわないか?」 という点です。星座の絵とわかりやすいが、安っぽくなるんじゃないかと思って、毎回迷います。
だから、その代わりになる黄色い何か……羽が水面についたところが星になっていて、それが奥に行くにつれて点に見えて、星座になっている感じにしたら、おしゃれかな?と、ちょっとだけ思いました。
齋藤
他に、聞きたいことはあるでしょうか?
緒川
絵を描くときに時間をかけないと不安になってしまい、肌や髪など、一つ一つのパーツに5時間ずつぐらいかけてしまいます。今回は、髪が短い時間でもいい感じに塗れたのですが、他の部分を描いているときも本当にそれでいいのか気になってしまいました。
さいとうなおき先生
描写をはしょったのも、そこに課題を感じていたからなんですね。確かに、「時間をかけること」で絵に保険をかけているような、時間にすがる感じがあるなら、制限していった方がいいかもしれません。
時間をかけなさすぎるのもよくないですが、短くても描けるならそれに越したことはありません。10分でもいいものが描けるときもあります。「時間をかけること」は、必ずしもいい絵の条件ではありません。
この絵の髪の毛は、時間が短くてもよく描けています。そういった「時間をかけなくても描けた成功体験」を繰り返しましょう。そうすれば、自分なりのいいバランスが見つかっていくと思います。
この作品はまさにいいバランスを掴みかけていて、やっぱりもう少し描いた方がよかったなど、課題が見つかった状態。いいチャレンジだったんじゃないでしょうか。
緒川
ありがとうございます。
【優秀賞】想像がふくらむ構成がおもしろい。クリエイターは悩み続けることも大事
齋藤
次は、優秀賞に選ばれたあおむぎさんです。仙台デザイン&テクノロジー専門学校、3年制のコミックイラスト&マンガ専攻3年生で、将来の夢はイラストレーターということです。
あおむぎ
最初は自分の星座のおとめ座を描こうと思ったのですが、少しありきたりかと思い、あまり有名ではない「アルゴ座」を選びました。神話のストーリーが個人的に好きだったので、自分の力で絵にしたいと思い、描きました。
さいとうなおき先生
「アルゴ座」は初めて聞いたのですが、神話に出てくる大船「アルゴー」がモチーフなんですね。キャプションを読むと、神話と双子を絡めて旅する物語にされていて、おもしろいです。
「アルゴ」って何? というところから入るのもうまい。財宝を探しに出かけたのに、結果として自分たちが財宝だった、この経験自体がよかったね、というエモい物語になっています。
この子たちのビジュアルとマッチしてほっこり感があり、「いい絵本になりそう」というところまで想像できます。一枚の絵でそこまでふくらむ作りにできているのは、既にクリエイターだと感じました。
あおむぎ
クリエイターと言ってもらえてうれしいです。
さいとうなおき先生
キャプションを見ると壮大な内容で、絵にまとめるのは難しいのですが、それをうまく収めている構成力もすばらしい。また、枠を使った構成は小さくまとまりがちですが、船のパーツのような装飾を使って、おもしろく作れています。いやあ、うまいです。
齋藤
あおむぎさんがアピールしたいポイントはありますか?
あおむぎ
色のバランスです。私は色を塗るのがとても苦手だったのですが、今回のイラストは今までよりまとまった絵にできました。
さいとうなおき先生
確かに。全体を青系統でまとめていますが、黄色をうまく使って、沈みすぎず派手すぎず幻想的にまとめられています。
ただ、若干きれいにまとまりすぎている面もあります。全体でまとまりすぎると、ぱっと見でキャラに目が行きにくいかもしれません。
絵本の表紙なのかキャラ紹介なのか、どんなシーンで使うのかによっても必要性は変わりますが、もしキャラを立てたいなら、色味か彩度か何かで、もう少しキャラに目が行く工夫が必要だと思います。
あおむぎ
学校の先生にも同じことを言われました。プロの目線から見て大切なものだと、改めて実感しました。
さいとうなおき先生
でも、キャラが一人一人がきちんと描けているので、これは重箱の隅をつつくような話です(笑)。
それぞれのモチーフで、レイヤー分けをしていますよね?
あおむぎ
はい、しています。
さいとうなおき先生
それなら、必要に迫られたときもレイヤーごとに調整できるので、問題ないと思います。
齋藤
他に、アドバイスできる点はあるでしょうか?
さいとうなおき先生
いい作品で特に言うことがないので、無理やり言いますね(笑)。双子ゆえに、キャラのシルエットが似過ぎているかもしれません。下半身はマントやふわふわの髪でシルエットに違いが出ていますが、顔まわりにも違いが出るといいです。キャラは顔周りだけでトリミングして使われることがあるので、例えば、帽子の形を女の子の方は丸っぽくするなどで形の違いをつけてみると、さらによくなると思います。
あおむぎ
自分でもキャラの顔回りに納得がいっていなくて、ずっとどうしたらいいかわからなかったんです。今日お話いただいて、解決できてよかったです。
さいとうなおき先生
また、編み込みの数や、角や帽子の装飾など、「繰り返しの形」がちょっと多いかもしれません。繰り返しが続くと、集合体恐怖症の人は気持ち悪く感じるそうです。あくまで若干気になるといった僕の好みですが、そういうデザインは少し減らした方がいいかもしれません。
ただ、これは現状何かしないといけないわけではなく、あくまで「ちょっと考えるきっかけ」にしてほしい、ぐらいの話です。
齋藤
作品のこと以外で、質問したいことはありますか?
あおむぎ
自分の作品が好きになれず、この作品も他の絵もずっと納得がいっていません。絵を描くのは楽しいのに、楽しみきれないところがあります。そういうとき、先生はどうされていますか? 自分の作品はどうしたら好きになれるでしょうか?
さいとうなおき先生
これは僕もなんです。たぶんクリエイターは「そういう地獄」に落ちた状態がずっと続くと思ってもらえればいい(笑)。
あおむぎ
えっ?!(笑)
さいとうなおき先生
それって、ある意味幸せな状態じゃないでしょうか? 好きになったら、描くことをやめたり違うことに行ってしまうかもしれません。だから僕も含め、描き続けている人は「好きになれない自分が好き」な状態。そういう趣味というか、娯楽だと思うんです。
もちろん、あおむぎさんは本気で悩んでいると思います。僕も自分をもっと好きになりたい。原因はわからないけど何か足りないと思って描き直し、1ミリ動かしてはしっくりこない。次はどうしようか仮説を立てて、いい感じの形を探していく。たぶん、どこまでいってもそういう人生だと思います。
齋藤
そういう人が、ずっと描き続けられる人なのかも、と感じました。
さいとうなおき先生
本当に絵がうまい人って、ずっとそれでキレている感じです(笑)。その怒りでずっと悩んでいる、そういう人ばかりだと思います。
今は学生だから悩みに向き合えていますが、どこまでいってもエンドレスなので、そのうち疲れてきます。仕事を始めると、ふとしたとき逃げたくなる瞬間がきます。
例えば、クライアントさんから自分の感覚と違った修正がきたとき。「それをしたらキャラが台無しなのに」と感じることでも、自分の主張を抑えて直さなければいけない。すると、「全力で美意識を詰め込んで描いたのに、無駄だったのかな?」「 自分はいいと思わないけど、作業と思って仕上げてしまおう」……となっていく。
そうしたら悩みからは解放されます。でも絵描きとしては死んでいく。十把一絡げの、誰でもできるただの作業者になってしまい、クリエイターとしては活躍できずスーッと消えていく。実際にそういう人を見てきました。
だから、真摯に向き合って悩み続けられるかは大事だと思います。疲れますけどね。
齋藤
思わず深い話になりました。実際に歩んで来た先生の言葉は、重みがありますね。
さいとうなおき先生
「好きになれないんです!」って、本当に魂の叫びだと思うんですよね。でも、そこから逃げないでほしいと思います。
あおむぎ
……わかりました!
齋藤
進路にお悩みということですが、将来に向けて聞きたいことはありますか?
あおむぎ
以前はゲーム会社に入りたいと思っていました。でも、自分の絵に自信がなくなってきてしまい、好きなことを仕事にするのではなく一般職で就活しようか迷っています。
さいとうなおき先生
これはタイミングや出会いもあると思います。どこにいても、わき目でチャンスを伺って、そういうタイミングが来たらクリエイターになるやり方もあります。行ける方向に行っていれば、そのうちどうにかなるかもしれない。僕はそうでした。(「イラストQ&A」第3回参照)
【優秀賞】描写のバランス感覚が抜群。イラストには「設定の情報」をたくさん入れよう
齋藤
3人目は、優秀賞に選ばれたじるをさんです。名古屋デザイン&テクノロジー専門学校、3年制のコミックイラスト&マンガ専攻2年生で、将来はイラストを中心に活動していきたいそうです。
じるを
私は、星座といえば「星座占い」が思い浮かんだので、星座占い1位を目指すしし座をイメージして擬人化しました。
さいとうなおき先生
まず単純に、キャラがよかったです。「能天気王子」みたいで好き。コミックイラスト&マンガ専攻ということは、学校で漫画も描くのでしょうか?
じるを
授業で漫画を描くことはあるので少しは描けますが、将来はイラスト中心で行きたいと思っています。
さいとうなおき先生
この絵を見たとき、イラスト的というより漫画的に見えたんです。このキャラで他のシーンも描けそうだと思いました。でも、イラスト中心でやっていくなら、もっと「イラスト的な情報量」を増やしましょう。
装飾など見た目の情報ではなく、一番を目指しているというストーリーを表現する情報が必要です。他の星座の子を踏んづけてるとか、負けた星座の残骸が散っていて「やっつけたぜ!」みたいにしたり、後ろでやられた星座が白旗ふってるとか。
イラストは漫画と違い、一枚の画面で完結しなければなりません。そこを意識すればもっと「イラスト的なうまさ」を絵に込めることができます。
でも、本当にキャラが立っていていいですね。特に口の描き方にこだわりを感じました。
じるを
はい、口は好きなところです。
さいとうなおき先生
個性が光っていていいです。好きな部位だと描きすぎることがありますが、それもない。
例えば筋肉。これ以上描くとマッチョになりますがそうはならず、でも細すぎず、中間のほどよいソフトマッチョが描けています。髪の毛の描き込みや立体感の出し方も、チョンチョンと描いて説明できています。
部位によって崩したりマットに仕上げつつ、毛皮はしっかり描くなど、変化の抜き差しがうまい。これはじるをさんの強みなので、極めていったら誰も追いつけない表現ができそうです。
齋藤
そういったことは、普段から意識しているのですか?
じるを
自分としては、色塗りが苦手なので全体を見ながら描いて、目についた場所があれば描き込んで……というのを繰り返しています。
さいとうなおき先生
「これでいいのかな?」「嫌な感じにならなかった」と確かめながら描いているんですね。それは感覚が優れているからできることだと思います。
だから、世の中の「これが正しい」という情報にあまり振り回されずに、自分の気持ちいい形の感覚に従えばいいと思います。
齋藤
絵を描いていて、お悩みなどはありますか?
じるを
キャラデザを考えるのが苦手です。
さいとうなおき先生
そうですね……若干ですが、あおむぎさんのときの集合体の話のように、密度のある柄がたくさん並ぶマントが気になります。デザインを考えるとつい並べたくなりますが、羅列に頼りすぎるのもあまりよくありません。同じ話が続くとくどいと思われるのと同じです。
ただ並べるだけでなく、大きさを変えるなどいろいろなやり方があると思いますので、変化をつけてみましょう。
また、ファンに「描くのが面倒」と思われないように意識しましょう。キャラデザでは他の人が描きやすく、二次創作してもらえそうか考えるのは大切です。そういうことまで考えられると、プロっぽい視点になると思います。でもこれは、相当レベルの高い話をしていますよ。
じるを
勉強になります。ありがとうございます。
齋藤
他に質問したいことはありますか?
じるを
目を描くのも苦手です。キャラは目が大事とよく言われるので描き込まないといけないのに、単純になってしまい困りました。
さいとうなおき先生
じるをさんは、世間で見かける情報と自分でいいと思う感覚が違うから、困っているんじゃないでしょうか? 先ほどの話と同じで、基本的に「私が正しい」と思っていいですよ。
男性向けコンテンツの女性キャラなら、目のキラキラ感を求められるかもしれません。でもこの作品は女性向けの作風だと思うのでこれぐらいでいいし、もっと簡素でいいかもしれません。ちょっと冷たくされたいキャラの需要もあり、ハイライトすら入っていないこともあります。
また、このイラストで気にするなら、目よりも耳を大事にしましょう。
せっかく、しし座ということで獣の耳を描いているのに、言われないとわからないぐらいにしか見えてないので、しっかり描くといいと思います。
齋藤
他に、質問したいことはあるでしょうか?
じるを
背景が思いつかないまま描き始めてしまいます。この絵の場合、背景はどうしたらいいでしょうか?
さいとうなおき先生
情報量が少ないと感じる原因のひとつに、「背景の上と下の世界観が同じ」ということがあります。先ほど提案した、踏んづけられる者たちを描けば解決します。いろいろ描くのが面倒だと感じるときは、シルエットで描けばいいです。
全てのキャラのデザインを考えるのではなく、「カニっぽいシルエットの髪型の人が白旗を上げて倒れている」とかなら、そこまで描かなくても成立します。
下の紫色をちょっと濃くした色で、倒れている人のシルエットを描くとか。
全部シルエットにしたら不自然な場合は、カニと羊だけは顔回りもちょっと描くとか。遠くに行けば行くほど、あまり描き込まないシルエットでも十分背景になります。そうすれば、上の方はこのまま真っ赤でもいいです。
空間が狭くて描く面積が少ない場合は、脚がはみ出てる部分まで背景を伸ばせばOKです。僕ならそんな感じにすると思います。
じるを
はい。ありがとうございます。
齋藤
将来や進路について、聞きたいことはありますか?
じるを
今、デザイン系の会社に就職した後、イラストレーターになりたいと考えています。でも、それでいいのか悩みます。
さいとうなおき先生
これは、なるようにしかなりません。無責任な答えかもしれませんが、クリエイターはやっぱり「運」や「出たとこ勝負」な面もあります。行きたい気持ちや「こっちなら行けそう」などの算段もあるかもしれませんが、実際のところ計算なんて働かない。行けるところへ突き進んでいくしかありません。
デザイン系の知識というのは、その後何になったとしても、とても役に立ちます。
タイトルを入れるスペースを考えずに絵を描いてしまってうまくいかないとか、最終的にデザイナーさんがやってくれるところを想像できないイラストレーターは意外と多い。余白の取り方や修正の苦労をデザイナーとして経験していたら、イラストレーターになったときに気遣いができます。それはクライアントへの思いやりになり、結果として「その人と仕事をしたい」と思ってもらえることに繋がります。間違っていないと思いますよ。
じるを
はい! ありがとうございました。
【優秀賞】キャラを魅力的に描く力がある。自分の長所を活かせるのはどこかを探そう
齋藤
4人目は、優秀賞のたかみずさんです。東京コミュニケーションアート専門学校、4年制のコミックイラストマスター専攻2年生で、将来はイラストだけでやっていけるか、お悩みだそうです。
たかみず
自分の星座のやぎ座をメインに、同じ冬のいて座、みずがめ座、夏のしし座、ふたご座を擬人化しました。調べていたら、やぎ座の隣のみずがめ座が大きくてサイズが全然違っていたので、いろいろなキャラを出しつつ、お世話をしているところを描いてみたいと思いました。
さいとうなおき先生
真ん中がいて座で、手前右がみずがめ座。二人で手前左のやぎ座の子をお世話しているんですね。後ろがふたご座としし座でしょうか?
たかみず
はい。ふたご座たちが怪物パペットで驚かしたら、やぎ座の子が思ったよりもびっくりして泣いてしまい、みずがめ座といて座に慰めてもらっています。やぎ座の「怪物のテュポンに追いかけられている」ギリシャ神話からイメージしました。
さいとうなおき先生
それでふたご座が怒られてるんだ。おもしろいですね。
神話は取っつきにくい話も多いですが、うまくカジュアルに表現できています。一枚の中に物語が詰まっていて、いい意味で絵の中では収まらない。漫画か小説か、連作イラストなのかはわかりませんが、もっと見たいと思わせられました。
たかみず
ありがとうございます。一枚の絵以上のストーリーを入れたいと思って描いたので、伝わってうれしいです。
さいとうなおき先生
言葉にするのは難しいのですが、キャラクターの表現がふくらんですごくいいですね。手前のやぎ座の子が、見た目の表情以上に表情豊かで感情が漏れ出ている感じで愛らしさがある。お姉さんキャラも「しょうがないね」という感じが描けているし、いて座はお茶を注ぎながら結構エグいこと考えていそう(笑)。後ろの3人は裏表がなさそうとか、それぞれに愛せるポイントがありそうです。
齋藤
絵をよりよくするために、アドバイスできるところはありますか?
さいとうなおき先生
一枚絵としてアドバイスするなら、左上のライトです。そこまで設定に関係ないモチーフですが、ここまで存在が大きいと意味が欲しくなります。意味がないならライトは取って、もう少し違うものでこの空間を埋めたほうがいいですね。
齋藤
ライトには何か意図があったのですか?
たかみず
今まで光源を意識して描くのが苦手だったので、きちんと光源を決めて描こうと配置しました。
さいとうなおき先生
なるほど。じゃあ、たくさんのライトが後ろに続いて星座の形になっているとか、星座っぽいデザインの枠にするのもいいかもしれません。
ただ、構図など、絵として何か言うことはできますが、あえてアドバイスしない方がいいんじゃないか、とも思います。そこが気にならないほどキャラ作りがうまいので、そういう次元の話じゃない気がするんです。
齋藤
コンセプトや表情を描くのが抜群にうまい点が、大きな長所になっているんですね。
たかみず
一枚絵でいろんな感情を見る人に伝えたいと思い、何度も描き直したので、キャラを褒めてもらえてよかったです。
さいとうなおき先生
たかみずさんの場合は、一枚絵にこだわらない方がいいかもしれません。イラストはあまり長時間見てもらえるものではないので、もったいないかもしれません。
齋藤
他に、たかみずさんから質問したいことはありますか?
たかみず
2つあります。まず、私は絵を描くのにとても時間がかかります。この絵も50時間かかってしまいました。先生は忙しい中でたくさん仕事の絵を描かないといけないと思いますが、時間管理はどうしていますか?
さいとうなおき先生
僕は、飽きてしまうのであまり長く描き続けたくないタイプです。一気に完成まで描いて、寝かせる時間があれば寝かせて、最後に加筆して完成させます。でも、学生の時はたかみずさんと同じぐらいかけていたかもしれません。具体的には、どこに時間がかかりますか?
たかみず
ラフから下描きまでが長いです。思い通りにいかなくて、何度も直しています。
さいとうなおき先生
なるほど。それなら今はとにかく時間がかかっても、納得できる絵を作りましょう。学生のうちは時間がありますが、仕事を始めたら時間はかけられなくなってしまいます。納得できる絵を描いてから、かかる時間を短縮していけばいいと思います。
たかみず
ありがとうございます。
質問の2つ目ですが、私は少し前からNFTに興味があります。先生はNFTをされていますが、実際はどういうものでしょうか?
さいとうなおき先生
現在のところ、NFTを取り巻く環境はずっと変化しています。世の中がポジティブな捉え方をしているときもあれば、一気にネガティブに評価されることもあります。NFTで使う仮想通貨のETF(イーサリアム)一つとっても、相場の上下が激しい。最近、クリエイターが大型詐欺にあった影響もあり、今の市場はネガティブ期です。クリエイターも詐欺にあった被害者ですが、購入者側からすると「詐欺に加担した一人」という見え方になってしまう側面もあり、表立っていることでヘイトが集まってしまうような危険性もあります。
なので、滅多なことでは影響されない「確固たる自分」がないと環境に右往左往することになります。それを覚悟してやるならいいですが、活動の最初からやるメリットはそこまでなさそうですね。
齋藤
将来や進路について、聞きたいことはありますか?
たかみず
将来、イラストだけでやっていけるか迷いが出て、最近は3Dを触ったりもしています。でも先生のレッスンを聞いて、漫画を描いた方がいいのかな? と思いました。この先をどう考えていったらいいでしょうか?
さいとうなおき先生
ストーリーを作るのが好きなら漫画を描くのもいいし、表情を描くのが得意なら表情が命のLive2Dを作ってみる、などもあります。「自分が得意ことを活かせる職業って、どんなものがあるのかな?」という目線で世の中を見てみると、いいと思います。
たかみず
ありがとうございます。お話を参考にしたいと思います!
【優秀賞】センスと描写力が光る、上品な作品。ポートフォリオには需要を考えた絵も入れよう
齋藤
最後は優秀賞の穀BATさんです。東京コミュニケーションアート専門学校、3年制のコミックイラスト専攻2年生で、将来はゲーム会社への就職を目指しているそうです。
さいとうなおき先生
すばらしい。
齋藤
フライングで言葉が出ましたね(笑)
穀BAT
ありがとうございます。このイラストは自分の星座のみずがめ座を擬人化しました。金髪の美少年ガニュメデスが神々の杯に酒をつぐストーリーがあり、それをイメージしています。額縁のデザインにこだわり、水や神殿を連想させるようなデザインにしました。もともと布を描くのが好きで、服をいつもより意識して塗っているのが見てほしいポイントです。
さいとうなおき先生
うまいなあ、と思って見ていました。服のシワは描きすぎると変に見えて難しいのですが、上品に描けています。うまい具合にいい香りのしそうな少年が描けています。
また、白の階調をつけるのも上手です。白は描けば描くほどグレーや汚れた感じになりがち。でも、明度を落として描いているはずなのに、ちゃんと白に見えています。いい白の感覚をお持ちですね。
齋藤
確かに、いろいろな色が使われているのに、全部白く見えますね。
さいとうなおき先生
そうなんです。白と黄色だけで存在感のあるイラストにできています。
それから、下の方の神々の表現も好きです。神々しさがあるけど、ちょっと不気味で何を考えているのかわからないのがいいですね。
齋藤
この作品をもっとよくできるところはありますか?
さいとうなおき先生
「雲」ですね。雲だけちょっと興味が無さそうに見えます。最初は、構図にスペースがあったから雲を入れたなら、消して枠を拡大すれば解決するかと思いました。
でも、ガニュメデスを調べてみたら「大地に雨をもたらす神」。垂れている液体が実際は雨になって、それが神々に捧げるお酒でもあることを表現していると思いました。そうすると雲は大切なモチーフなので、もっと描くほうがいい。
どう描いたらいいかは現時点でイメージできませんが、記号的でもリアルでも、どちらもアリだと思います。今はどちらにもなりきれていない印象があるので、そこを着地させられたら、もっと凄みのある絵になると思います。
また、雨雲なのにあまり水分を含んでいなさそうに見えるので、液体が垂れてきそうな説得力が欲しいですね。
穀BAT
お話は全くその通りだと思いました。厚い雲を描こうとしたんですが、うまくいきませんでした。
さいとうなおき先生
ガニュメデスくんが垂らしている感じはとてもいいんです。美少年へのキャラ愛をとても感じるので、この情熱を雲にも持ってほしい。この雲はガニュメデス君なんですよ……とニタニタして描くなど、いいかもしれません(笑)。
逆に、言うことはそこしかないです。あとは完璧。枠のデザインもすごくいい。月の満ち引きで水かさが変わりそうとかガニュメデスくんの何かが変わりそうなどとイメージできる、色気もありますよね。そういう表現が最高です。
液体の注ぎ方もいいですね。普通はこんなに真正面から描こうと思わない。ちょっと傾けて右から注ぐなどにすると思うんだけど、あえて正面にすることで相当おしゃれな見せ方になっています。意識的にチャレンジしたのですか?
穀BAT
タロットカード風にしたくて、正面から描いた方がそれっぽいかと思いました。
さいとうなおき先生
すばらしい。センスが光りますね。
齋藤
穀BATさんから聞きたいことはありますか?
穀BAT
自分の画風的に彩度の低い絵が多いのですが、そうすると顔にあまり目がいかなくなる気がします。絵を鮮やかにする対処法があったら知りたいです。
さいとうなおき先生
そうですね……穀BATさんの好みは、あまり「顔を描きたい」方向でもない気がします。顔に目が行くイラストって、言ってしまえばちょっと下品な見せ方ともいえます。でも、タロットカードを描きたいということからも、上品に見せたいんですよね。
悩みと思っているかもしれませんが、描きたいことではないから、やっていないだけかもしれません。必要があって、やろうと思ったらできると思います。仕事の上で「もっとキャッチーにしてほしい」「キャラが立った方がいい」と言われたら、「あ、そっちですね」と、顔を鮮やかにしたり目に色を入れるなど、解決策も持っていそう。
もし何かやるなら、そこまで鮮やかでなくてもいいので、顔にもう少し光を当ててもいいかもしれません。今は完全に影になっているので、前髪付近に少し光を入れるだけでも目立つと思います。
穀BAT
ありがとうございます。もうひとつ、このイラストを描き終わるころに、下の方が寂しいと気づきました。どうしたらいいでしょうか?
さいとうなおき先生
余白が多いということでしょうか。でも、そこで神々のシルエットまで描き足すと、ミステリアスな演出がなくなってしまいそう。
新たに何か描き足すよりは、全てのモチーフをレイヤー分けして、モチーフのバランスで解決するのがよさそうです。神々のパーツごとに位置をずらしたり、奥の枠を大きくするとか、タロットカード風の枠をつけるとか、その程度のことでいいと思います。
齋藤
将来のことなど、相談したいことはありますか?
穀BAT
卒業したらゲーム会社に行きたいです。ただ、漠然としすぎて、自分が行けるのだろうか?という気持ちがあります。
さいとうなおき先生
行けます! 言い過ぎかもしれませんが、この絵だけ見ても何でもできそうな感じがします。デザインもできそうだし、基本的な画力も高い。ゲーム会社も人材として欲しいと思います。むしろ引っぱりだこではないでしょうか。
穀BAT
一枚絵が多く、立ち絵をあまり描いてきていません。ポートフォリオは一枚絵ばかりでもいいですか?
さいとうなおき先生
そんなに多くなくてもいいので、立ち絵はあったほうがいいでしょう。一枚絵を描く仕事はあまりないと思います。また、絵柄寄せの仕事が多いので、行きたい会社の方向性にあわせて人気コンテンツの新キャラをオリジナルで描いて入れてみるのもわかりやすいと思います。
【総評】全力で仕上げたからこそ次の課題が見える。自分と真剣に向き合おう!
齋藤
最後に、コンテストの総評をお願いします。
さいとうなおき先生
全体的にとてもレベルが高く、選考は悩みました。その中で受賞した5作品は、特に絵に真剣に向き合っていることが伝わってきました。たまたまいい作品が描けたのではなく、描くべくして描けたという、「人」を見て選んだつもりです。そういう意味でも受賞に対してテンションを上げて、調子に乗って(笑)いただければと思います。
また、どれもぱっと見で高いレベルまで仕上げていますが、それぞれが今悩んでいる課題に取り組んでいる途中だと見て取れたのもよかったです。
齋藤
自分の課題を認識したうえで、先生から焦点を絞ったアドバイスをいただけたので、よかったですね。
さいとうなおき先生
課題が見えていたらダメかというと、そうではありません。むしろ、「これで完璧だ!」と思えるところまで仕上げないと、次の課題は見えてきません。
今回は、そこが逆にご自身の意気込みになるまで仕上げられていて、よくがんばったと思います。それぞれに拍手を送りたい気持ちです!
齋藤
これで終わらず、またコンテストなどで関わっていただいたり、キャリアのきっかけにしていただけるとうれしいです。学生のみなさん、本当にお疲れ様でした!
▼GENSEKI学生応援プロジェクト
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kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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