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「すべてのドットに意図がある」ユニークなドット絵の作り方をピクセルアーティストBAN8KUさんに聞いた

 

ライターの神田(こうだ)です。みなさんはピクセルアートという絵画表現を知っていますか? 言い換えるならドット絵と呼んだほうがわかりやすいかもしれません。

ピクセルアート(ドット絵)は、画面のピクセルを巧みに組み合わせて、いろいろなものを表現する技法です。

たとえばこんなイラスト。かわいらしいネコです。

ファミコンやスーパーファミコンのようなレトロゲームが好きな人ならば、こうしたピクセルアートを一度は見かけたことがあるはずでしょう。

私はこのレトロであり未来チックなピクセルアートが好きで、ずっと「いいな〜」と思っていました。ニンテンドーDS「おいでよ どうぶつの森」でちまちまドットを打ってマイデザインも作ってましたし。

何気なく見ていたけど、いったいどういう手順で制作して、どういうコツがあるんだろう。もっとピクセルアートについて知りたい! 

というわけで、私が昔から見ていて好きなピクセルアーティストのBAN8KU(バンパク)さんにお話を伺いました。

お話を聞いた人BAN8KU
ピクセルアートクリエーター。ピクセルアーティスト。パノラミックでポップな作品で自主作品のみならず企業やイベントとのプロジェクトも積極的に行う。
主な仕事に ゆず×渋谷PARCO・MIXI GROUP Office Entrance LED Signage・東急街びらき・109・不二家・googleplay・Eテレ番組など。いつもピクセルのことを考えています。

インタビューした人神田
かわいいものが好きなライター・編集者。オモコロなどで活動中。小学生のときに「おいでよどうぶつの森」のデザインブックを読んで初めてドット絵を作った。自分でもこんな絵が作れるんだと、ピクセルアートのおもしろさに気づいた。

 

自作の「素材」を組み合わせて大きなピクセルアートを作る

ニコニコ超会議 超絵師展 ~IFの楽曲世界展~ 
アゴアニキ / 楽曲「ダブルラリアット」ビジュアル
640×360のサイズで、全部で23万400ドット

神田
BAN8KUさんの作品は大きな建物が立ち並ぶ中にたくさんの人々が散りばめられていて、けっこう複雑ですよね。こうしたピクセルアートも、やっぱりひとつづつドットを打ち込んで作っているんでしょうか?

 

BAN8KU
そうですね。まず大前提として、ピクセルアートは1ピクセルのドットをひとつずつ打ち込んで作ります。

 

神田
気が遠くなりそうです……! 

 

BAN8KU
このくらい大きな作品の場合は、「何がどこにあるのか」を決めるために、まず大まかなイメージラフを作ります。これは一般的なイラストなどでもいっしょの工程ですね。ちなみに小さい作品の場合はラフはなくても問題ありません。

作品のどこに何を配置するのかイメージを固めるラフ

BAN8KU
ラフができあがったら、いよいよドットを打ち込んでいきます。人それぞれやり方はあると思いますが、僕は人や建物といったピクセルアートを構成するオブジェクトから先に作っていきます。

キャラクター

ビル

BAN8KU
これらを素材にして、ピクセルアートの中に配置して、組み合わせや色合いを微調整しつつ最終的な作品に仕上げます。

 

神田
そうやって作るんですね! てっきり隅っこから打ち込んでいくのだと思っていました。

 

BAN8KU
作風にもよりますが、こんなふうに素材を組み合わせていくのがよくある作り方だと思いますね。

案件によってはとても納期が短い場合もあるので、空いている時間があれば新しい表現だったり、建物やキャラクターの素材などを作るようにしています。

 

神田
なるほど……。素材をあらかじめ作っておいて、組み合わせることができるのも、ピクセルアートならではですね。一般的なイラストだったら難しそうです。

 

BAN8KU
素材を作った後は、レイヤーで配置します。素材の組み合わせや色合いを微調整しつつ、最終的な作品に仕上げます。

こうすると、絵の修正もやりやすいですし、組み合わせる段階でまた新たな見せ方を発見することもできます。

 

神田
BAN8KUさんがピクセルアートを作るときに表現でこだわっていることはなんでしょう。

 

BAN8KU
解像度の違うドットを織り交ぜてみたり、さまざまなサイズのドットを組み合わせてみたりと、ドットだけでもいろんな見せ方を模索しています。

ドットひとつとっても、「ゲームのドット」なのか「デザインのドット」なのか、といろいろあるんです。ひとつの作品でいろんなドットのスタイルが共存するような作品を作ろうとしていますね。

 

すべて描いた後に色を変更する

神田
カラーリングはどのように決めているんでしょうか。

 

BAN8KU
割と悩むタイプなので、素材を作るときに色を決めようとすると手が止まってしまうんです。だからいったん得意な色で全体を作ってから、レイヤーを統合します。

その後にPhotoshopでそれぞれの色を選択して、どんな色があうのかを後から決めていくようなスタイルですね。色のバリエーションのパターンを作って検討していきます。

 

神田
すごい! こんな作り方をされていたとは。

色のバリエーションを作って比較する

BAN8KU
いろんなパターンの組み合わせを全部試さなければ気が済まない性分なので、このような進め方になっています。使う色も5、6色とそこまで多くないので、いろんなパターンの中からいい塩梅のものを見つけられればと。

色の選択がしやすいようにすべてのキャラクターやオブジェクトは最初から統一した配色で作ることが多いです。僕も最初の頃はたくさん色を使って制作していたんですが、今は色を絞って見せていくことが多いです。

 

神田
確かにこの作り方だと、初心者の方も「色どうしよう」「全体のバランスどうしよう」と制作時に悩むことが少なくなるように思いました。

 

BAN8KU
初めてピクセルアートに挑戦する方はそこでつまずいてしまう人も多いと思いますね。サイズを小さくしたり、色数を絞ったりすると形だけに集中できます。最初はそうした方が作りやすいのではないでしょうか。

 

ピクセルアートの制作に特別な道具はいらない

神田
先ほどPhotoshopの機能を使用しているという話が出ましたが、ピクセルアートはどのようなソフトを使って制作されているんでしょうか?

 

BAN8KU
僕は基本的にPhotoshopだけでピクセルアートを作っています。Photoshopのほうが納品データの作成や描画の設定がスムーズなためです。

とはいえ、ピクセルアートはドットが打てればいいので特にこのソフトでないとダメ、ということはないと思います。

iPadなどにもピクセルアートを作るアプリはあるので、移動中にポチポチドットを打てますし、特別な機材を必要としないので初心者でも始めやすいと言えるかもしれませんね。スマホアプリで気軽に始めてみるのもいいかと思います。

 

神田
BAN8KUさんはGIFアニメも作られていますよね。どんなソフトで作られているのでしょうか?

 

BAN8KU
GIFアニメもほとんどPhotoshopで完結しますね。ただし、複雑なアニメはAdobeの「Animate」を使います。

GIFアニメ

神田
Photoshopでの制作時に気をつけたほうがいいことはありますか?

 

BAN8KU
画像を拡大するときの設定には注意したほうがいいです。

BAN8KU
設定で「ニアレストネイバー」にしておくと、アンチエイリアスがかからないので拡大してもぼやけません。

しかし「バイキュービック」にしちゃうと、アンチエイリアスがかかるので拡大するとぼやけてしまいます。

ピクセルアートを仕事で納品する人はみんなニアレストネイバーで拡大していると思います。もし最終的に書き出してプリントしたときにぼやけていたらすごく悲しいことになります。

 

神田
泣いちゃうかも。

 

BAN8KU
また、拡大するときの倍率にも注意する必要があります。150%などの半端な倍率にするとドットの正方形の比率が崩れてしまうので、これはよくないです。ドットの制作物に慣れていないと見落としがちなポイントですね。解像度の変更で対応したり、目視でチェックしたり納品前など特に気を付けています。

 

神田
ちなみにドットを打つときって何か特別な道具を使っているんですか?

 

BAN8KU
人によってはペンタブレットを使ったりする方もいると思いますが、僕は特に道具にこだわりはないので、買ったパソコンに付いてたマウスを使って、ひとつひとつ打ち込んでいます。自分にあったツールを使えば大丈夫です。

 

神田
なるほど。パソコンのスペックに関してはどうでしょう。

 

BAN8KU
僕はひとつの素材にひとつのレイヤーを使っているので、レイヤー数が非常に多くなります。そのため、ある程度スペックが高いほうがいいのですが、そこまで気にしていません。僕もスマホで作ったりもするので、これからピクセルアートをやってみたい方は極端にスペックが高い高額な機材を揃える必要はまったくないです。

 

ピクセルアートは「データとして完璧」

神田
ピクセルアートを作っていて、楽しさを感じるところはどんなところでしょうか。

BAN8KU
やはり「データとして完璧なところ」ですね。僕がピクセルアートにのめり込んだ理由でもあります。1ピクセルといったデータとして区切りが付いていて、1ピクセルは拡大しても縮小しても1ピクセルです。絵としても美しいし、ごまかしもなくデータとして見ても調和がとれています。

僕は、イラスト全体でここはこういう意味だからこの色を使うとか、作品をすべて自分の意図したようにロジカルに作っていく気持ちよさがあるんです。曖昧さがなく、自分のイメージをドットに重ねてすべて落とし込むことができるのがピクセルアートを作っていて楽しいところですね。

 

神田
建築的な調和というか。ピクセルアートってその作品にならって、ドットを打って色を設定すれば、誰でも100%同じ作品を作れるのが大きな特徴だなと思います。

 

BAN8KU
そうですね。初心者の方でも時間をかければお手本どおりの作品を作れますし、再現性が高いのもおもしろいところです。それって初心者としてはすごくうれしいことだと思うんですよね。生み出す楽しみを味わったあとは、どう自分で作り出すかを考えていく楽しさがあります。

そうして他の人のピクセルアートを見ると、このドットにこういう意図があったんだと気づくこともあったり、思いがけないテクニックを学べたりします。作者の意図する規則性に触れることでより作品も作者のことも理解できるような気がするんです。

 

神田
そういう視点でピクセルアートを見たことなかったな……。誰でも同じように作れて、作り手ごとに違った個性を生み出せるのはピクセルアートのすごくおもしろいところだと思いました。

 

BAN8KU
いろんな個性の出し方があると思いますね。僕の感覚では10年くらい前だと二次創作でアニメやマンガのキャラをドットにしたパロディ的なものが流行っていた印象です。

そこから時間が経ってレトロゲームのような演出をしたビジュアルや動画作品が増え、広告などの媒体でも見る機会が増えました。

今はゲームのイメージからさらに発展して、ドットの四角を使った描画手法として風景や人物を描いたり、動きのあるGIF画像を作る人もいたりと、ドットが表現として認識されていろんな作品が増えてきているなと感じています。

 

神田
ドットのあのタッチと雰囲気は唯一無二ですよね。

 

BAN8KU
ゲームみたいだからいいではなく、ピクセルアートだからいいんだよという需要がどんどん拡大している気がします。

 

神田
海外でもピクセルアートは人気だと聞きます。日本と海外でタッチに違いはあるんでしょうか。

 

BAN8KU
多種多様なのでなんとも言えないですが、海外は絵画的に描かれることが多いなと個人的に思いますね。

僕はマンガ的というか浮世絵的というか、枠線しっかり取って力強さを出すのが好きなんです。海外だと枠線はあまり取らずに色で形を描くような手法が多い気がします。

 

初心者は「小さな作品」から作るようにしよう

神田
今のお話を聞いてピクセルアートに初めて挑戦しようという人もいるかと思います。そういう人はまず何から始めたらいいでしょう。

 

BAN8KU
単純にサイズが小さいものから挑戦するといいかと思います。最近では風景のピクセルアートを見る機会が増えたので、風景からやってみようと思う方も多いかと思います。

しかし初心者が大きい作品を作ろうとすると、なかなか完成せずしんどいです。時間もかかるし、作ってるうちに「なんか違うな」となってモチベーションも下がってしまうかもしれません。

 

神田
それは始める人にとっても不幸ですよね。

 

BAN8KU
たとえば16×16くらいの小さいサイズで、ある程度のクオリティを担保しながら作っていくといいでしょう。たとえば建物をいくつか作って、後に「何か大きな構造物を作りたい」となったときにそれを素材にして新しいものを生み出すこともできます。ひとつひとつの素材のクオリティが高ければ、集合したときに絵としてさらに見応えあるものになります。

 

神田
作った絵が素材として力になるというのは胸熱です。

 

BAN8KU
16×16や32×32というサイズでもコミュニティができるほど盛り上がってますし、サイズが小さいから価値がないとか、練習に過ぎないとか、そういうわけではまったくないです。

BAN8KU
私が作っているこねこの絵も、サイズは小さいですが動きをつけるとさらに表現が豊かになります。モチーフをどう動かすかを考えるのも楽しいです。

 

神田
やり方によっていろんな個性が出せそうですね。

 

BAN8KU
小さいサイズのピクセルアートを作り続けるだけでも上達はするし、ひとつのキャラやモチーフをずっと作り続けるとそれだけでも個性になりますよね。「あの人はこのキャラの人だ」という周りの認知ができてくると、それが個性を強めることにもつながります。

だから、やり続けようと思うのならやっぱり作品をどんどん完成させていくほうがいいですし、自信にもなります。それが楽しんで長く続けるための秘訣なのかなと思います。

 

神田
短編マンガを積み重ねて長編マンガが描けるようになるみたいに、まずは小さいサイズから挑戦することが肝心ですね。

 

BAN8KU
その通りです。あと、ピクセルアートという文脈で付け加えるならば、ピクセルアートは規則性を守って作るのがどちらかというと主流ではあるんです。でも、それは必ずしも規則性がある絵が素晴らしくてそれ以外がダメというわけではありません。

逆に規則性を考えずにフリーハンドな線で絵を作るのも個性的でインパクトがある絵になるんですよね。僕は規則性や意図を大事にしているぶん、そうした作品を見ると心を奪われてしまいます。

 

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というわけで、ピクセルアーティストのBAN8KUさんに作り方や機材のこと、ピクセルアートの楽しさなどたっぷり伺いました。

同じ規格のドットで、どんな絵でも(がんばれば)再現できるし、ドットの打ち方で個性が出せるという点は、絵を描くのが苦手な私でも希望が持てる話でした。

いや〜めちゃくちゃおもしろかったな。今までなんとなく見ていたピクセルアートもこれから見る目が変わるかも! それではこのへんで!

 

GENSEKIピクセルアートコンテスト第二弾 開催!

 


取材協力BAN8KU(X:@ban8kuWeb

取材・執筆神田匠(X:@gogonocoda

編集斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI