友達から頼まれた同人誌の表紙、どうデザインする?【盛れる! グラフィックデザイン部】

グラフィックデザインってなんだか難しそう。誰か親切な人が教えてくれないだろうか。できれば優しいギャルだといいんだけど……。そんなことを考えていた初郎(ういろう)君のもとに、どこからともなくグラフィックデザインに詳しいギャルが現れました! グラフィックデザインの初歩を学ぶ連載です。

この記事でわかること
  • 同人誌の表紙デザインの進め方と実例
  • グラフィックデザインの基本的な考え方

登場人物


ぎゃるの
グラフィックデザインに詳しい謎のギャル。その時の気分で優しくしたり詰めたりする。


初郎(ういろう)
グラフィックデザインについては右も左もわからない。できれば優しいギャルに教えてもらいたい。

まずは依頼者の「要望」を聞くところから! 


絵描き友達と同人誌を作ることになりまして。そして、僕が表紙デザインを引き受けることになってしまって……。でもどうしたらいいかわかりません!


なるほど〜★ 表紙って本の「顔」だから爆盛りたいよね〜。


そうなんです……かれこれ3時間ほどこねくり回していまして……。いつものように絵を描く感覚でやってるうちにピン!と来るのかなと思ったのですが、全く降りてこなくて困っています。


まじ? その時間、超無駄〜。3時間あればネイルサロン行くわ〜。


人が悩んでいるのに、ひどくないですか? ああ、こうしている間にも時間が過ぎていく……!


イラストとデザインは似たところあるけど、アプローチが結構ちげーから。あまりセンスとか閃きに頼り過ぎない方がいいよ〜。


そうなんですか?? 僕にデザインセンスが無いからできないのだと思っていました。


無いのはセンスじゃなくて「材料」だと思う〜。


ざ、ざいりょう……?(メガネをクイッとあげる)


例えば、ういろーの仕事がパティシエでケーキの注文を受けるとするじゃん? そしたらまず「どんなケーキにしたいか」をお客さんに聞くよね〜?


そうですね〜。デコレーションの希望とか、苦手なフルーツを詳細に聞きますね。それがわからないと作れませんからね。


デザインも同じ。
まずは、要望をしっかり<ヒアリング>して、材料集めから始める。
んで、その材料を使って<レイアウト>をする。
最後に、チョコプレートに文字を描いたり、デコレーションしたりして<デザイン>する、と。


ほうほうほう……?? ヒアリング、レイアウト、デザインですか……。


意外かもしれないけど、見た目ばかりが先行するとうまく行かないからね〜。デザインって積み重ねだから、こうやって段階的にやっていくと迷子にならずにすむって話。


ははあ。なんとなく見えてきましたよ……! つまり僕はベースをすっ飛ばして、いきなり飾り付けから始めてたってことですか??


それ〜。どんなにケーキのデコをがんばっても、味がとんこつ風味だったり、謎にタワマンばりの10段重ねだったら爆速でクレーム来るじゃん?

ヒアリングは「良いデザイン」にしていくための超重要なヒントであり、材料だから、絶対に外せないよ〜。


な…なるほど!今から依頼者にヒアリングしてきます!


してなかったんかよ。すぐしろし。

◆ヒアリングのpoint
「納期」「イメージ(かわいく、かっこよく など)」「入れたいモチーフ」「テーマカラー」はマストで聞こう。
「かわいくしたい」という単純な要望でも、自分の思う「かわいい」とその人の思う「かわいい」は違うから、より具体的な例を出してもらおう。
他の作家さんの既刊などをイメージとして添付してもらうのも全然アリ。あくまで参考だからそのままパクらないように。

レイアウトは余白とバランス命!


はい! 聞きました!!! 中身がギャグ漫画なんで、元気で楽しい雰囲気で。メインで使いたいカラーはピンク。イラストはなるべく大きく使いたいそうです!


おけおけ(最初思いっきり違うの作ってたな……こわ)


次は「レイアウト」ですよね! イラレ立ち上げて良いですか??


ちょっと待てし〜。いきなりイラレる前に、要望を踏まえながら、手描きのラフを作ってみ。ペイントソフトでも良いから。


なるほど! イラストの下書きな感じですかね?? 確かにこうして描いてみることで頭の中で整理できる気がして良いですね!


ラフ出来たら、イラレの最下層レイヤーに配置して、透明度20〜30%にする。最初はそれを見本にしながら、パーツを置いてこ。


は! はい! 置きましたァ!


で、次はマージンとガイドをつくれし。

天地左右内側7mmと15mm(※)、縦横センターライン(※仕上がりサイズによって異なる。同人誌に多いA5サイズはこの辺りが適度)。


うっ。なんだか線だらけになりますが??


慣れろし〜。余白とバランスを意識したレイアウトができていれば、初心者でもかなりそれっぽく見えるからがんばれ★
ある程度パーツの位置決まってきたらラフは非表示にしてOK。迷子になったらたまに表示したりするくらいで。


おお〜! すごい! ガイドがあるとバランスが取りやすいですね。先ほどの何もない状態でこねくり回していた時とは雲泥の差。素晴らしい!


まじでガイドが入ってるだけで全っ然違うよね〜! 今回は「タイトル」と「扉絵(イラスト)」と「作者名」だけだけど、それぞれのサイズ、位置関係を変えるだけで全然違う印象になるのもおもしろいよね〜。


確かに!! これはどれを採用するか悩むところですね……!


あと、「断ち落とし」にするか「余白あり」にするかでもまた変わってくるしね。


断ち落とし……??


「断ち落とし」は、端までみっちり絵柄が入ってること〜。インパクトやダイナミックな印象にしたいときはおすすめだね。「余白あり」はコンパクトにスッキリまとめたいときにいーよ。


なるほど!今回はギャグ漫画で元気よくってオーダーだから、断ち落としの方が良さそうですね〜。


いーじゃん。その調子〜ウェーイ★

◆レイアウトのpoint
必ず手描きかお絵描きアプリでラフを描くところから始めよう。そして、イラレを開いたらガイドを作成。ガイドを意識しすぎると逆に偏ってしまうので、ハミ出さないようにベストなバランスと位置関係を探っていこう! canvaなどのデザインアプリは視覚的に誘導してくれるから初心者向き。

お待ちかね。デザインの時間!


うんうん。大体レイアウト案は絞れてきたね〜。さーそんなわけで! お待ちかねのデザイン! 行ってみようかー!


やった!! ついに!!
よおーし! やるぞー! デザインやるぞーーー!
うおおおおおおおお!!!

……あれ???


……お? 完全に手が止まってるけど?? どした?? 


いやその〜……何をどうすれば良いのかわからなくて……。やはり僕にはセンスが無いんですね……。


たぶんだけど〜。今バリバリ活躍してる神デザイナーの人らも、最初はダッサダサだったと思うよ〜。

たくさんの経験積んで、クリエイティブを世に出し続けてきたから感性が磨かれていったんだと思われ。だから、落ち込まず手を動かせし。


そ……そうか…!  最初は誰しもダサダサと聞き、少し安心しました! 磨き方のコツとかあったら教えてください!


上達のコツはとにかくツッコむこと。「ここ、これで良いのかな」って。フォントの種類、角度、色、あしらい……。全ての要素をいっこずつ拾いアゲてく感じ〜。
そうやって磨いていくのだ〜。


ふわー。それはなかなか果てしない作業になりそうですね。そもそも「良いデザイン」ってどういうものなんですかね。


とりま言えるのは、「良いデザイン」ってのはオシャレでセンスが良いものだけじゃないってこと〜。

1番大事なのは発注者(漫画の作者)と購入者(読者)にとって親切であることだと、ぅちは思うんよ〜。デザインってさ、思いやりなんよ。


親切? 思いやり? つまり…どういうことですか?


視認性(目で見た時の見やすさ)や可読性(文章の読みやすさ)はもちろん、表紙を見ただけで中身を想像できたら、めっちゃ親切〜★って感じ。

だって表紙がめちゃくちゃほんわかなのに、中身がサイコスプラッタだったら、泣いちゃうじゃん。


それは確かに……! よおし! じゃあ親切なデザインを目指して、擦りまくってみます!!

◆デザインのpoint
最初のうちは「ここをこうしたらどうなるかな?」っていう興味本位でどんどんいじっていくのがベター。
SNSで見つけたtipsを試すのもアリだけど、今風のアピアランスがそのデザインにハマるのかはよく考えよう。
デザインは思いやり。作者の思いと手に取る人の気持ちを考えれば、おのずと良い方向に導かれていくはず!

こだわりポイント見つけてもろて


はあ……はあ……。


なんか干からびてね?大丈夫そ?


いや〜その〜……。わからないなりにデザインを擦っていく作業は楽しくて、夢中になっていました。

でも、フォントが決まったと思ったら、次は背景が気になって、そのまた次はあしらいが欲しくなって……着地点がわからなくなってしまったんです!!


あ〜あるあるよな〜。
そういうときは一旦落ち着いて「こだわりポイント」を決めた方が良さげ〜。
実例を出すね〜。


表紙の要素や中身の内容によって変わるのか……! 確かに全てにこだわっていたら、時間がいくらあっても足りませんね……。


そうそう、背景やあしらいはフリー素材を使うのも全然アリだよ〜。


な……なるほど……! 無料のサイトもありますもんね!


そうそう〜今流行りのメンフィス(図形やラインで構成されたデザイン、背景に使われることが多い)とかね。自分で作ろうと思ってもそう簡単にできるもんじゃないし、他の調整に時間使った方がタイパいいよ〜。


そうか……。じゃあ僕は、あしらいにリソースをさこう……!


頑張れし〜。ある程度仕上がってきたらプリントアウト! これまじ大事。印刷物は必ず実寸で!kindle本とかはサムネイルサイズに縮小しても文字が見えるか検証マスト!


はわあ! 確かにプリントしてみるとなんかアンバランスなのが分かりますね!


じゃろ?色やレイアウトのバリエーション違いで悩んだら、お客さんに聞くのが1番いいよ〜。いくつか候補を出して「どれが1番良いですか?」って。

早めの段階で相談しておけば、やり直しのリスクをグッと減らせるし。入稿日の前日に「全然だめだからやり直し〜」ってなったらヤバすぎっしょ。


確かにそれは怖い! 一人で悩むより、少しでも早く共有した方がよさそうですね。じゃあ100案ほどおすすめを見せて相談してみます!


いやもうちょい絞れし。

◆提案のpoint
100案はやりすぎだけど、1案だけよりもバリエーションで複数提案した方がお互いに安心。
要望を忠実に再現したA案と、要望抑えつつアレンジを加えたおすすめのB案(本命)、変化球のC案(意外とこれに決まったりもある)など。
3~4案くらいがちょうど良い提案数かと思われ。ファイト★

ノリでデザイナーなっとく〜?


ぎゃるのさんやりました!
4つ提案したうちの1つを気に入ってくれて、あとちょっと修正したら完成しそうです!


良かったじゃ〜ん♪ 今回はデータ渡したらOKだっけ?

データが圧縮される可能性があるからSNSのDMはNGな。納品にはギガファイルとかのストレージを使えし。お疲れウェーイ★


ありがとうございました!めちゃくちゃ勉強になりました! ただ、依頼してくれた友達からデザイン料もらうのは少々申し訳ないですね……。
僕素人なのに……。


は? 素人とかプロとか関係なくね?

 こーして自分の時間を使って、自分の頭で考えてデザインしたんだから、当然の対価じゃね? もらっとけし! てか、これを機にガチプロ目指してみたら〜?


ぷ……プロ!? 僕が……? デザイナー??


いけるいける〜★ デザインを楽しむ気持ちさえあれば大丈夫! 

……あと、思いやりと、根性と、しつこさと、粘り強さと、できれば変態性と、イラレとフォトショとパソコンとプリンタと〜。


けっこう要るもの多い! でもデザインを学ぶことで、イラストにも良い影響がありそうなんで、もっとやってみたいです!


い〜ね〜。じゃあういろーは今日からぅちの弟子ってことで。とりま打ち上げでケーキキメよ〜★


はい! お供します!!! 先生!


執筆・イラスト

きびのあやとら(GENSEKI/X:@kibinoayatra
元ギャル。グラフィックデザイナー歴16年の漫画家。書籍『今すぐ痩せ見え!!-5kgコーデ』(はちみつコミックエッセイ)発売中。デザインはあらゆるクリエイティブの根底にあるズッ友のような存在。基本的なことやコツさえ抑えたらデザインはとても自由で楽しいからマジでみんなやろ〜?ということをギャルのノリで伝えていきたいと思っています。

編集

斎藤充博GENSEKI/X:@3216Web

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