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コンセプトアート制作ってどんな仕事? 向いている人は? 長砂ヒロ(ゴキンジョ)に聞く

こんにちは。ライターの斎藤充博です。「コンセプトアート」という言葉をご存じでしょうか? ゲームやアニメの設定資料集などを買うと、最初の方のページに出てくるアレです。

 

僕の絵なので、画力が足りないのですが……。なんとなく言おうとしていることは伝わるでしょうか。あれ、カッコいいですよね。いつかはあんな絵を描いてみたい、とあこがれる人も多いのでは?

 

今回はこの「コンセプトアート」について、多数のコンセプトアートを制作しているゴキンジョ株式会社代表の長砂ヒロさんにお伺いしてきました。

  • そもそもコンセプトアートって何?
  • コンセプトアートはどのようにして作られる?
  • コンセプトアートを作るのに必要なスキルとは?

こんな内容のことを聞いてきましたよ~!

お話を聞いた人長砂ヒロ

京都精華大学テキスタイルデザインコース卒業。アニメ背景スタッフとしてキャリアを開始した後に、アメリカに留学。アニメスタジオ「トンコハウス」に参加する。

コンセプトアーティストとして、ポケットモンスター『薄明の翼』シリーズ、アニメ『呪術廻戦』、アニメ『SPY×FAMILY』オープニングなどに携わる。現在ではイラストレーターコミュニティ「ゴキンジョ」の運営にも力を入れている。


インタビューした人斎藤充博

ゲームの資料集を見る度に「コンセプトアート」にあこがれるのだけど、よくわかっていない。

コンセプトアートとは「コンセプトを可視化したもの」

斎藤
そもそも、「コンセプトアート」とはどういったものを指す言葉なんでしょうか。僕の中では、アニメとかゲームの設定資料集に載っている、超カッコいい一枚絵……というような認識なのですが、それであっているんでしょうか?

 

長砂
広い意味では、それもあってはいると思います。ただ、より正確に言葉の意味を考えると……コンセプトアートとは「コンセプトを視覚化したもの」と捉えた方が実態にあっていますね。

 

斎藤
うーん。なんかちょっと難しそうですね。

 

長砂
例えば、アニメの監督が「こんな雰囲気のアニメを作りたい」という考えを持っているとします。これがコンセプトです。この段階ではまだ視覚化されていませんよね?

 

斎藤
そうですね。まだ考えているだけの段階ですからね。

 

長砂
アニメなど大きなチームで制作をするときには、監督のコンセプトをチーム全員で共有する必要があります。このときに「全員が一目でわかる」ようにしなければいけません。これが視覚化ですね。

 

斎藤
だんだんわかってきました。コンセプトアートというと「超カッコいい一枚絵」というイメージがあったんですが、そこからはちょっと離れているような気もしますね。

長砂
実際には、コンセプトを視覚化をするのにイラストを用いることがほとんどです。また、チームメンバーのモチベーションを上げるためには、イラストが魅力的である必要もあります。

 

斎藤
なるほど……。結果として、やっぱりコンセプトアートは「超カッコいい一枚絵」になることが多いというわけですね。

コンセプトアートは「作品の本質を表すもの」

斎藤
コンセプトアートは制作チームに向けて作るもの。すると、コンセプトアートって一般の人向けのイラストではなく、クリエイター向けのイラストなのかな、と思いました。

 

長砂
そもそも、どんなイラストでも作られる目的がありますよね。そう考えると、一般向けか、クリエイター向けかを区別する必要はとくにありません。それに、良いコンセプトアートはそのまま広告に使われたり、メインビジュアルに使われることもあるんです。

 

斎藤
確かに! そういえば、ポスターに使われているのを見たことがあります。

 

長砂
コンセプトアートは制作チームの理解のために作られるのですが、それを超えて一般のお客さんにも理解してもらえる。コンセプトアートは作品の本質を表すものでもあるので、こういうこともあるんです。

 

斎藤
ちなみに、アニメやゲームの他にもコンセプトアートが作られることって、あるんでしょうか?

 

長砂
建築の現場などで「イメージ図」のようなイラストが作られますよね? あれも建築家が「こんな建築物を作りたい」というコンセプトを一目でわかるにしたものです。コンセプトアートの一種だと僕は考えています。

 

斎藤
見たことあります! あれも「コンセプトの視覚化」か……。

 

長砂
他にも、自動車を作るときにもイラストが先行して作られているそうです。どんな業界であっても、大きなチームで制作をするときには、コンセプトアートが必要となってくるのでしょうね。ただ、業界ごとにその名称は違ってくるようです。

コンセプトアートの作り方

斎藤
実際にコンセプトアートはどんなふうに作られるんでしょうか?

 

長砂
最初にクライアントから打診を受けます。ざっくりとしたプロジェクトの概要を聞いて、そこで引き受けるかどうかを決めます。

引き受けた後はミーティングが設定されるので、そこで「監督のコンセプト」や「どういった絵が欲しいのか」についての細かいヒアリングを行います。

その後は具体的な制作ですね。イラストを描いて、クライアントに提出します。

フィードバックを受けて修正を入れ、納品します。

この流れに特別なことはなくて、一般的なデザインなどの仕事と同じなのではないでしょうか。

斎藤
一連の作業をする中で、大変なのはどのあたりでしょうか?

 

長砂
コンセプトアートの仕事に慣れていないときは、ヒアリングが大変でした。まず、クライアントが欲しいものをしっかりと理解しなくてはいけません。

 

斎藤
まだ作られていない作品について「理解」しなくてはいけないの、大変そうですね……。

 

長砂
そうですね。ただ、アニメについては原作があることが多いです。ゲームでもシリーズになっているのなら、過去作がありますよね。

原作や過去作を引き継ぐ場合は、それらの「解釈」を自分の中ですることが必要になってきます。これはこれで時間や工数がかかります。

 

斎藤
なるほど……。難しいですね。

 

長砂
クライアントが欲しいものがわかった後でも、「それ以上に良いもの」を作らなくてはいけないというプレッシャーがあります。このときも「自分の良い」と「クライアントの良い」が違う可能性があるので、そこもすりあわせる必要がありますね。

 

斎藤
人によって「良い」が違う……! 僕はライターをしていますが、ライターの世界でもよくあります。

 

長砂
そうですよね。これって、世界中の仕事をしている人の全てに共通する悩みかもしれません。

 

斎藤
コンセプトアートを制作するときに工夫していることや注意していることはありますか?

 

長砂
イラストに補足の文章を添えたり、参考にした資料をまとめて渡したりします。絵を見たときの解釈は人それぞれですから、自分の解釈を明確に共有します。

コンセプトアーティストに向いているのは「カメラの意識を持って絵を描く人」と「コンセプトを理解する能力がある人」

斎藤
コンセプトアートの仕事をするために必要なスキルを教えてください。

長砂
まずは頭の中にあるイメージを出力できる能力、いわゆる「絵のうまさ」は必要です。絵のうまさといってもいろいろあるのですが、とくにゲームやアニメのコンセプトアートを制作するには「カメラの意識を持って絵を描く人」がいいと思います。

 

斎藤
カメラの意識……?

長砂
別の言葉で言い換えると「厳密に一つの視点を固定した絵を描くタイプの人」ですね。ゲームやアニメを作る場合って「視点」の意識がどうしても必要になるんです。だからコンセプトアートを作る場合も、そうした意識があった方がうまくいきます。

斎藤
なるほど。コンセプトアートってイラストレーターの中でもすごく絵のうまい人がやるというイメージがあったのですが、それはあっていたんですね。

長砂
ただ、スキルを積み重ねていくと、絵はいつかうまくなれるんです。いまうまく描けなかったとしても、大丈夫。コンセプトアーティストを目指す人たちに、単なる気休めではなくて本心から伝えています。

長砂
それよりも、もっと重要なことがあります。それは「コンセプトを理解したり整理したりする能力」です。こちらは目に見えない能力なので認識されづらいスキルだと思います。

 

斎藤
先ほど「ヒアリングが大変」というお話もありましたね。このスキルは、どんなタイプの人が持っていることが多いでしょうか?

 

長砂
会話において「相手の言いたいことがきちんと理解できる」タイプの人ですね。さらにコミュニケーションの中で「自分だけではなく、相手を幸せにして、良い場を作っていこう」というような態度の人だと、なお良いと思います。

 

斎藤
なるほど~。そういうタイプの人って、いますね。僕もインタビューをする人間として、目指してはいるけど、難易度は高いです……。

 

長砂
持っているスキルが片方だけでも、チームでやっていくという手もあると思います。漫画家だって、原作と作画に分かれることがありますよね。コンセプトアートもそんなふうに取り組んでもいいと思うんです。

 

斎藤
以上を踏まえて「本気でやってみたい!」と思う人はどうすればいいでしょうか?

長砂
どんな形でもいいから、アニメやゲームの会社に入る、業界に入ってしまうことだと思います。そこで良いイラストを描いていればきっとチャンスは回ってくるはずです。

……ただ、ここで注意しておきたいのは「良い」の基準って、現場によって変わるんですね。自分が良いと思っていることが、現場で求められているとは限らない。

そこで「現場の役に立つにはどうしたらいいか?」を常に考えるようにしましょう。そうした人は重宝されて、チャンスも回ってきやすくなるんじゃないでしょうか。

 

斎藤
コンセプトアートの制作の際にも「自分の良い」と「クライアントの良い」をすりあわせることが必要、というお話がありました。意識しておくと実際にコンセプトアートを作ることになったときにも役に立ちそうですね。

 


 

僕はWebメディアや雑誌のカットイラストをよく描いています。イラストを依頼されるときには(コンセプトアートと同じように)クライアントに対するヒアリングをします。

ただし、僕がやるヒアリングは非常に単純なもので「クライアントのヒアリングが難しい」と思ったことはこれまでに一度もありません。それはカットイラストが単純なものだからでしょう。

僕もコンセプトアーティストのように「難しいことを理解するスキル」を身につけたら、もっと仕事が広がるのかも……? そんなことをインタビュー後に思いました。

取材協力
長砂ヒロ
Web:ゴキンジョ
X:@hiro_gokinjyo

 

コンセプトアートに興味を持った人に

コンセプトアート研究所【動画クラス / 動画セット】

長砂ヒロさんが主宰するイラストレーターコミュニティ「ゴキンジョ」によるコンセプトアートの解説動画です。

 

長砂ヒロさんの書籍

デジタルスケッチ入門 ー光と色で生活を描くー

 「デジタルツールを使って絵を描いてみたい」
「繊細な色を表現したい」

本書は、そんな人に向けた、色を使って絵を描くハードルがぐっと下がる本です。デジタルならではの強みを活かして初心者でも綺麗な色を作れるようになる方法をお伝えします。

 

ドクターバク

「苦しんだっていいさ。ぼくがかならず、そばにいる」

ドクターバクとは、こころにできたクラヤ実を食べることができるおいしゃさんです。

そんな主人公をもとに描かれるこの物語は、たいせつな人がもしも苦しみの真っ只中にいるとしたら、近くにいる人間として
「力になりたいけど、一体何ができるだろう?」
「力になるって、本当はどういう意味なんだろう?」
といったことをテーマに書き上げたものです。

 

取材・執筆・イラスト斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI