24時間インターネットにつながっているこの時代、Webメディアの記事を読まない日なんてないのではないでしょうか。
私は家にいるときには、スキマ時間にさまざまなWeb記事を読んでいます(Google Discover最高!)。出掛けたときにも現地での情報をWeb記事で調べまくっています。たくさんのWebメディアに触れることは、もはや当たり前になりました。
そして、Webメディアの制作者は、数あるWebメディアから自社の記事を読んでもらうべく「わかりやすく・伝わりやすく・目を惹きつける」ように苦戦しています。
さて、そんな状況の中で私が注目しているのは「Web記事におけるイラスト」です。文字だけでなく、イラストを使うことでもっと記事を読んでもらえるのではないでしょうか。GENSEKIマガジンでもイラストを多用した記事を作成しています。
今回お話しを伺ったのは、GENSEKIマガジンの人気ライターであり、イラストも手掛ける斎藤充博さん。
- 斎藤さんがイラストを描き始めたきっかけは?
- Web記事のイラストにおいて求められるものは何か?
- 斎藤さんはどんなところに気を配ってイラストを描いているのか?
こんなことを聞いてみました。
お話してくれた人
斎藤充博
埼玉県で妻と子どもの3人暮らし。マンガ制作とライターとWebコンテンツ制作(ディレクション、編集)をして暮らしているフリーランス。 指圧師でもある。
インタビューした人
坂本
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
9年前、ひょんなことからWebメディアを立ち上げ、現在はGENSEKIマガジン担当に。オウンドメディアの担当として広報会議に取材されたことがある。
「路上で四コマ漫画を描いて、有名になって脱サラ」を夢見ていた
坂本:
「イラストも描けるライター」として引っ張りだこの斎藤さんですが、こうした人は珍しいですよね。イラストは昔から描いていたのでしょうか?
斎藤:
特にイラストの専門的な教育を受けたことはないです。高校生の頃に美術部には入っていましたが、そこでちゃんとした絵を描いていたわけでもないです。大学は教養学部です。新卒で金融系の営業の仕事に就いていました。
坂本:
金融系の営業!? 失礼ながら、ちょっと今の斎藤さんのイメージとは違うような……?
斎藤:
そうなんですよ。僕が金融で営業なんて、無理があるんですよ。あれは、もっときっちりした人がやる仕事だと思います。僕にはまったく合っていなくて……。
そして、僕は仕事のストレスがあまりにすごくて、原宿の路上で四コマ漫画を描くようになりました。この行動が今の僕につながっていると思います。
坂本:
路上で四コマ漫画を……!? どういうことですか?
斎藤:
当時、原宿の路上詩人をインタビューしているNHKの番組を見たんです。その詩人は「あなたを見て、インスピレーションで詩を描く」ということをする人でした。
これを見て、僕は四コマ漫画で同じことをしてみよう!と思い立ったんです。つまり原宿で「あなたを見てインスピレーションで4コマ漫画を描きます」ということを始めました。
そうすれば僕にもNHKが取材に来て、有名人になり、会社を辞められるのでは、と思ったんです。若さって怖い。
坂本:
すごい行動力……! その頃からすでに現在の絵柄だったのでしょうか?
斎藤:
当時の漫画を出してみますね。……どうやら、そのようです。
坂本:
すごい! この絵だけ見ても斎藤さんの絵だ! ってわかりますね。
斎藤:
ここまで変わっていないとは思いませんでした……。かなり変な行動だったと思いますが、17年前くらいは代々木公園付近に僕みたいなことをしている人が結構いましたね。
坂本:
即興で四コマ作るのは大変そうですよね……。
斎藤:
そうなんです。路上四コマ漫画時代の後半は、四コマ漫画をあらかじめ考えておいて、来た人に当てはまりそうな四コマ漫画をその場で描いて渡していました。同じ内容の四コマ漫画を渡された人もいたはずです。
坂本:
斎藤さんはその後、活躍の場をWebメディアに移行していますよね。印象深いのはデイリーポータルZの記事です。
斎藤:
はい。路上四コマは、僕が期待していたほどウケなかったんです。当然、NHKの取材も来ませんでした。会社を辞められない。
そこで、なぜウケないのか……と考えます。その結果「自分の認知度が低いからだ!」という答えに行き着いたんです。
坂本:
すごくちゃんと課題を捉えている……!
斎藤:
僕は自分の認知度をあげるべく、人気Webメディア、デイリーポータルZのユーザー投稿枠である「デイリー道場」に自分の路上四コマ活動を投稿しました。
これがきっかけで有名になり、NHKから取材が来て、僕は無事、会社を退職……好きなことをして生きていく人生……
……なんてことにはならず(笑)。
坂本:
ならなかったのかー!
斎藤:
ただ、デイリーポータルZの編集部の方がおもしろがってくれて、何度か投稿するうちにデイリーポータルZのライターとして活動するようになりました。
坂本:
その頃から記事にはイラストを入れていたのでしょうか?
斎藤:
入れていました。デイリーポータルZのライターさんって、みんなすごくおもしろいじゃないですか。僕はぜんぜん敵わないので、せめて絵を入れて読者の目を引こうと思ったんです。
坂本:
なるほど……。段々と今の斎藤さんに近付いてきていますね。
斎藤:
ここで僕の人生に急展開が訪れます。デイリーポータルZに初めて寄稿した少し後に、会社を辞めるんです。そして、指圧の専門学校に通うようになりました。
坂本:
斎藤さんといえば、指圧師のイメージだったのですが、経歴としてはWebライターのほうが少し長いんですね。
斎藤:
ほんの数か月くらいですが、そうなりますね。専門学校は3年間あって、いろいろなバイトと同時にWebライターを続けていました。
学校を卒業してからは指圧師が8割、Webライターが2割くらいの割合で活動をしていたと思います。指圧師とライターって相性が良いんです。指圧師は体を使う仕事、ライターはパソコンを使う仕事で、それぞれがちょうど良い気分転換になって。
坂本:
でも現在は、ライターやイラストがお仕事のメインになりつつありますよね?
斎藤:
そうですね。僕がデイリーポータルZに参加した時は、まだスマホを持っている人が少なくて、ガラケーでmixiモバイルを見ていて、Webメディアも少なかったです。
その後、どんどんWebの世界にいろんな人が参加するようになってきて、爆発的にコンテンツが増えていきました。「オウンドメディアブーム」もありましたよね。そんな状況で、少しづつWebライターの仕事が増えていったんです。
坂本:
私が立ち上げにも携わった「みんなのごはん」にもご参画頂いていましたよね。ただ、当時は確か指圧師とライターの掛け持ちになっていたかと思います。
現在は、指圧師の仕事はされているんでしょうか……?
斎藤:
現在はちょっとできていなくて……。
僕は2019年に指圧師を一時的にお休みしていました。いずれまた指圧師としての活動を再開しようと思ったんですが、2020年には新型コロナウイルスが流行してしまいます。
人と対面して行う仕事を再開することが難しい状況になりました。その結果、ライターの仕事がメインになったんです。
坂本:
世の中の全てが一変するような出来事でしたよね。
斎藤:
ライターだけでなく編集もできるようになろうと、Webコンテンツの制作会社で働いたりしています。その後に株式会社はてなの編集部に参加して、主に「ソレドコ」の編集を手伝ったりしていました。
坂本:
ソレドコ、おもしろくて個人的によく見ていました! 私も下記の記事を読んで実際に、母の日に義母へ「リラギョ」をプレゼントしました!
斎藤:
ありがとうございます。ソレドコでは企画・編集を手伝うということになっていたのですが、自分で記事を書くこともよくしていました。
坂本:
そして現在では、GENSEKIマガジンに寄稿いただいたり、編集に参加していただいたりしていますよね。たいへん助かっております……!
イラストは記事の読了率に寄与する
坂本:
さて、ここからが本題です。Webメディアが当たり前の存在になっている今、「イラスト」って非常に重要だと思うんです。
斎藤:
僕のところにも「イラスト入りの記事を作ってほしい」とか「他の人が書いた記事にイラストを入れてほしい」という依頼は増えていますね。
坂本:
斎藤さんは、なぜWebメディアの記事にイラストが求められていると思いますか?
斎藤:
ある編集者に「イラストをたくさん入れている記事は読了率が高い。今回はKPIとして読了率を重視したいので、斎藤さんにイラストを入れてほしい」と依頼されたことがありますね。
坂本:
イラストがあることで、読者を飽きさせない……ということでしょうか?
斎藤:
多分そうなのではないかと……。自分でも「読者を飽きさせないようなタイミングでイラストを入れよう」とは心がけています。その結果として、離脱が少なくなって、読了率が高くなるんじゃないでしょうか。
坂本:
なるほど……! おもしろいお話なので、実際にGENSEKIマガジンのデータでも調べてみましょう。
坂本:
読了率をとるための計測準備をしていなかったので、滞在時間での比較を出してみました。
滞在時間なので、記事の長さや企画の内容によっても色々変わってくるものはあると思うのですが、こうしてみるとちゃんと挿絵がある方が滞在時間にプラスの影響が出ていることがわかりますね。
斎藤:
ちなみに時々「Webの記事におもしろいイラスト入れてバズらせて!」という依頼をいただくこともあります。でも、これってちょっと難しいと思うんですよね。
坂本:
そうですねぇ……。Web記事がイラストきっかけでバズっているのは見たことないかもしれない……。
斎藤:
僕も見たことがないような気がします。きっと、記事がバズるかどうかは、イラストがあるかどうかではなく、記事自体のおもしろさですよね。だから「イラストで記事をバズらせようとする」のは役割として違うんじゃないかなと思います。
グラフもコミカルな雰囲気にしてほっと見られる印象に
坂本:
ここからは斎藤さんの事例をもとにイラストのポイントを考えていけたらと思います。
斎藤:
どんな意図で描いたのかを、自分で解説するのって恥ずかしいですが……。行ってみましょうか。こちらのイラストは埼玉県のうどんマニアにインタビューした記事内のものです。グラフって、それだけだとちょっと見るのが大変じゃないですか?
坂本:
わかります……。データって文字も小さくて読みづらいし……。そもそも数値を読み解かせるのか!? という気持ちが先行して「うううう」ってなります。
斎藤:
やっぱりそう思いますよね。ここではグラフ自体をイラスト化して、さらにグラフを見て「リアクション」をしている人を入れています。これで、だいぶとっつきやすくなるんじゃないでしょうか?
坂本:
たしかに……!
冷たい印象を持たせないためにイラストを使う
斎藤:
こちらも、同じ記事内のイラストです。こちらのイラストでは僕が取材対象者に「それでいいのか」とツッコミを入れています。
ただ、この「それでいいのか」という言葉って、テキストだけで書くと人によってはきつい印象に捉えてしまう場合がありますよね。イラストにすると、表情もあるので「楽しくツッコんでいる」印象になったと思います。
坂本:
たしかに、テキストは受け取る側の印象に左右されてしまいますもんね。
難しくて退屈……にしないために「個人の体験」として描く
斎藤:
こちらはGENSEKIマガジンの「世界堂に行ってイラストを額装してもらう」という記事のイラストです。
額装って、ちょっと調べるとものすごく奥が深くて、専門的な領域なんですよ。ちゃんと書こうとすると難しくなりすぎるし、人によっては退屈に感じることもあります。そこで、この記事ではあくまでも個人の体験として強調するためのイラストを意識しました。
坂本:
なるほど……記事全体が与える印象を考えながらイラストを描いているんですね。
コミカルに描くことで暗く重苦しい雰囲気をなくす
斎藤:
こちらはGENSEKIマガジンで「マンガ家をやめてアシスタント専門になった」というアッツーさんをインタビューした記事のイラストです。
イラストの内容としては「マンガ家を目指していたけど自分に向いていないことが判明したという」ちょっと重いものです。ただ、このくらいコミカルに描くと、読者も読みやすくなるのではと思いました。
坂本:
そうですね。現にアッツーさんも、心境としては晴れ晴れとしていたのでしょうし、その気持がすごく伝わってくると思いました。
斎藤:
実際には「サイコー」とまでは思っていなかったでしょうが、イラストで表現するならアリかなあ、という気がします。
情報を整理して分かりづらい話をわかりやすくする
斎藤:
こちらはGENSEKIマガジンでテクニカルイラストレーターのぬっきぃさんをインタビューした記事のイラストです。内容はテクニカルイラストレーターの適性をイラストにしたものです。話を聞いたときには、文章で説明するのには、ちょっと要素が多くて複雑かもと思ったのですが……。
坂本:
でも、このイラストは情報が整理されてて、見やすい印象でした。
斎藤:
そういうふうに言っていただけるとありがたいですね。パッと見てわかるように構成したつもりでした。こういうのもイラストの役割じゃないのかなと思います。
親しみやすく! 楽しく!!
斎藤:
最後に紹介したいのはこれです。
坂本:
こちらは額装の記事の最後に使用したイラストですね。
斎藤:
はい。額装の仕事をされている方が、カラフルな額に囲まれて「テンションアゲアゲなんです~」と言っているという。とにかく全力で親しみやすさに振ってみたイラストです。
坂本:
世界堂の担当者の方も実際に「良い額装ができた時、テンションが上がる!」と仰ってましたもんね。
こうして、事例を見ているとすごくわかりやすいと思いました。
Webメディアのイラストは屋台のやきそばみたいなもの
坂本:
こうしてみると、本当にいろいろなことを考えてイラストを作られているというのがわかりますね。斎藤さんの中でイラストを入れるときのポイントのようなものはあるのでしょうか?
斎藤:
いつもこんなふうに考えています。
- 記事の中で目的を持ったイラストにする
- 読者を飽きさせない工夫を入れる
- 文字が見やすい
- パッと見て理解しやすい
- できるだけ明るい雰囲気にする
坂本:
たしかに、紹介してもらったイラストにあてはまっていますね。
斎藤:
僕はWeb記事のイラストは「お祭り屋台の焼きそばみたいなもの」と思っています。
坂本:
焼きそば……ですか……?
斎藤:
お祭り屋台の焼きそばって、匂いと音で「やきそばだ!!」ってわかるじゃないですか。なんとなく楽しい気分になって、そんなに食べたいわけでもないのに、つい寄ってみたくなる。そんなイラストがいいんじゃないかなと思うんです。
GENSEKIマガジンではさまざまなイラストコンテストを行っていますよね。受賞作品はどれも素晴らしくて、じっくりと見てしまうのですが、そういったイラストは「予約の必要なレストラン」みたいなものかと思います。
鑑賞するのにちょっと気合いが要るけど、じっくりと見ると素晴らしい体験が約束されている、みたいな……。
坂本:
なるほど、屋台の焼きそばと、予約の必要なレストラン。このたとえは、作画コストにも言えるのかなと思ったのですがどうでしょうか?
斎藤:
そうですね、Web記事のイラストは、じっくりと見る絵ではないからこそ、作画コストも抑えたほうが良いと思います。
ちなみに僕は、ラフは1枚あたり5分くらい、清書は40分くらいで描いています。
坂本:
ラフ、5分で描いていたんですね……!
斎藤:
イラストのポイントの話に戻ると、Web記事のイラストを描くときに参考にしているものがあるんです。『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)に出てくるイラストです。
あの番組は基本的にマツコと有吉2人の会話で進んでいきますよね。2人だけで話し続ける画面に飽きさせないために、イラストを使っているんだと思うんです。
坂本:
なるほど、その目的においてはWebメディアのイラストと同じなんですね。
斎藤:
もちろん、あちらはテレビなので作画コストも高くなってはいますが、勉強になることは本当に多いんです。
坂本:
なるほど、斎藤さんは常に読者目線に立ちながらも、記事をいかに最後まで読んでもらうかを考えているんですね。
非常に学び多き時間になりました。ありがとうございました。
編集・執筆
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
挿絵
きびのあやとら(@kibinoayatra)
求む!GENSEKIマガジンのイラストレーター ※コンテストは終了しました
みなさん、お気づきですか?
この記事はところどころに、【イラスト入れる】というテキストが入っています。
GENSEKIマガジンでは毎週、火・水・木に記事を公開しています。様々なライターさん・漫画家さんに依頼をして執筆いただいているこのメディアですが、直近ではGENSEKIマガジン編集部が執筆する記事も日々増えております……。
そこで困っているのが「記事のイラストを描く人が不足していること」です…。
というわけで、今回はGENSEKIマガジンで活躍しているライター・イラストレーターである斎藤充博さんをお迎えして、GENSEKIマガジンのイラストレーターを募集するイラストコンテストを開催します!!
お題は、この記事内で【イラスト入れる】と記載されていた箇所のイラストです!
詳しくは下記よりご覧ください!
今回は最優秀賞の他、佳作に選ばれた方もGENSEKIマガジンのイラストをはじめとしたviviON案件をご紹介や特別なイベントにご案内する「GENSEKIギルド」にご招待いたします。
是非、ふるってご参加ください!