海外から見た「日本のクリエイター環境」は? 漫画家オーサ(スウェーデン)×イラストレーターYOOKI(マレーシア)対談

こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。近年、海外出身のクリエイターが日本で多く活躍しています。
今回は、スウェーデン出身の漫画家オーサ イェークストロムさん、マレーシア出身のイラストレーターYOOKIさんに、どのようにして日本に移住しクリエイターになったのか、日本の魅力や母国との違いについてまで語っていただきました。
楽しいことも大変なこともポジティブに向き合うおふたりの言葉が、励みになる対談です。
お話を聞いた人

オーサ イェークストロム(X:@hokuoujoshi/blog)
スウェーデン出身の漫画家、イラストレーター。多様な視点で「日本の不思議」を漫画に描く。代表作に『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』『北欧女子オーサ、日本で恋をする。』『北欧女子オーサ日本を学ぶ』『さよならセプテンバー』など。

YOOKI(X:@YOOKIkiku/Web)
マレーシア出身のイラストレーター、アニメーター。『GENSEKI art book 2024』表紙、にじさんじ Speciale MV、ホロライブ miComet MV、初音ミク・各種IPのグッズイラストなど、広く活躍中。
移住したのは「日本に恋をしたから」
――今回、おふたりには「海外出身で日本で活躍しているクリエイター」ということでお話をおうかがいしようと思います。まず、出身と活動内容を教えてください。
オーサ
スウェーデン生まれ育ちの漫画家・イラストレーターです。留学で来日し、2015年に『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』で漫画家デビューしました。現在は結婚・出産を経て、子育てのためスウェーデンに帰国しています。朝日新聞の連載『オーサ 北の国から ルポfromスウェーデン』など、生活と仕事のバランスを担当さんと相談しながら活動しています。

YOOKI
マレーシア出身、イラストレーター・アニメーターのYOOKIです。日本のサブカルチャーに惹かれて17歳のときに留学しました。今は広告代理店に勤めながら、フリーランスとしても活動しています。
最近ではMVのアニメーション制作やVTuber、書籍、IP系などのイラストの仕事が多いです。また、GENSEKIでは『GENSEKI art book 2024』の表紙を描かせていただきました。
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――おふたりとも日本に興味を持ったきっかけは、漫画やアニメですか?
YOOKI
マレーシアではアニメ専門チャンネル「アニマックス」を見られたので、小さいときから『ミルモでポン!』『とっとこハム太郎 』『NARUTO』などの子ども向けのアニメに慣れ親しんでいました。
12歳のとき初音ミクに出会って、MVやイラストをアマチュアが作っていると知り、とても驚きました。アニメや漫画はプロが作る遠い存在だと思っていたので、「私もすごくがんばれば描けるってこと?!」と、イラストにはまっていきました。
オーサ
14歳ぐらいのときにスウェーデンのテレビで『美少女戦士セーラームーン』が放送され「これはなんだ?!」と驚きました。当時スウェーデンでポピュラーな漫画といえば男性主人公ばかりだったので、女性のための作品は新鮮でした。日本の漫画はキャラが死んでしまったり重いテーマも多く、女性キャラがたくさん出てくるのも印象的でした。
私が子どものときはYOOKIさんのようにネットや配信契約もなく、大きな街に行かないと日本の漫画も手に入らなくて。
そのためだけに、家からバスと地下鉄を乗り継いで1時間くらいかかる首都のストックホルムへ行き、アメリカから輸入された漫画や古本を探しました。『らんま1/2』の1巻がなくて、2巻からスタートしたこともありました(笑)。
――日本に移住しようと思ったのはなぜですか?
オーサ
19歳で初めて日本に来ました。1ヶ月ぐらいの旅行でしたが、そのときに漫画だけじゃなく、国も食べ物も人も全部好きになって、まるで恋したみたいでした。
漫画を描くのが好きで、日本で漫画家になるのが夢でしたが、それ以上にただただ「日本に住みたい」という気持ちが高まっていったんです。
YOOKI
恋したという表現、とても共感できます!
私が日本に来たのは「イラストを描く仕事に深く関わりたい」という気持ちからです。私はキャラクターイラストの仕事がしたかったのですが、マレーシアではそもそもキャラクターイラストが浸透しておらず、仕事も多くないです。グラフィックデザイナーや3Dデザイナーなどの募集は多いのですが……。
実際の日本の状況を調べる前に「どうしても日本でキャラクターイラストで仕事したい!」という衝動が湧き、本当に恋みたいでした。
――海外移住の足がかりは留学が一般的と聞きますが、おふたりも語学留学からですか?
YOOKI
私は高校を卒業してすぐ、17歳のとき日本に語学留学しました。初めての一人暮らし、しかも海外です。とても大変でした。
でも、イラストを描いてSNSに日本語の文章を付けて投稿するようにしていたら、絵を描く仲間や、現在の夫と出会うことができたんです。絵に助けられましたね。
着せ替え風アニメーションを描いてみた!🎀 pic.twitter.com/P4Ol1EKupY
— YOOKI(よーき)|イラストレーター✧アニメーター (@YOOKIkiku) May 14, 2024
オーサ
17歳で留学を決断したYOOKIさんは、本当にすごい。私は移住までしばらくかかりました。
スウェーデンで絵の専門学校に通い、漫画家としてデビューできたのですが、日本がどうしても恋しすぎて、行ったり来たりしながら最終的に語学留学しました。
語学学校の次に入ったデザインの学校の課題で、半年ぐらい毎日ブログに4コマ漫画をアップしていて、本にしてコミティアに出ていたんです。それをKADOKAWAの出張編集部に持ち込んだのがきっかけで日本でも漫画家デビューできました。
日本は漫画家やイラストレーターが大事にされている
――オーサさんはスウェーデンと日本の両方で漫画家として活動されていますが、それぞれの国の違いはありますか?
オーサ
スウェーデンの漫画家は漫画本のデザインやレイアウト、プロモーション、ホームページ作成まで、全部自分でやらないといけないんです。初の漫画本『さよならセプテンバー』も自分で文字を入れてデザインしましたし、学ばなければいけないことが多いです。

(クリーク・アンド・リバー社)
また、漫画家になるためにパッション(情熱)が必要なのは、日本でもスウェーデンでも共通していますが、意味がちょっと違います。
日本の漫画家は、仕事のスピードが早く忙しい中パッションで描いて、人気が出たらお金持ちになれるイメージ。でもスウェーデンでは、漫画家になる=貧乏になる(笑)。いつまでもお金にならないので、生活が大変でも描き続けるパッションがいるんです。
漫画で生活しにくいので、スウェーデンの専門学校では絵より「どうやって絵で稼いで生活するか」「どう仕事を得るか」みたいな授業が多かったです。私もイラストレーターの仕事をしたり、政府からの奨学金をもらったりしてやっと、本を完成させることができました。
――海外クリエイターの視点から見たときに、日本で仕事することの良さはあるでしょうか?
YOOKI
日本はイラストのお仕事が圧倒的に多いです! 本の表紙、飲料ボトル、パッケージなど、日常でイラストを使うことがとても多く、街中にイラストが活かされています。マレーシアでは見られない光景です。
マレーシアでは、アニメ系のイラストはいまだに子ども向けとして見られがちで、いまだに「よくわからないアレね?」みたいな雰囲気があります。アニメ系のイラストレーターさんは増えてきたし、前よりはよくなりましたが、今でも昔の価値観をちょっとひきずっています。
オーサ
確かに、日本は絵の文化で、絵に慣れている印象があります。スウェーデンもマレーシアと同じで、そこまで慣れていません。
「漫画=子ども向け」で、日本の漫画は子ども向けから大人向けまで幅広くある、というのがあまりわかってもらえません。青年向けのアニメでも「子どもが見るには暴力が多すぎる」と誤解されます。
新聞などのオフィシャルな場で漫画が取り上げられたりレビュー(批評)されることもないです。『鬼滅の刃』はスウェーデンでも大流行していますが、テレビの映画チャンネルで取り上げたりすることはあまりないですね。
YOOKI
マレーシアもです。今回のように漫画家やイラストレーターがインタビューされるということ自体、ないかもしれません。
日本ではイラストが大事な資源と見られているのがいいですよね。
日本で困ったのは「名前の呼び方」
――日本好きなおふたりですが、日本で働く大変さはありましたか?
YOOKI
難しいと思ったのは、姓で呼ばれることです。マレーシアは最初から名前で呼ぶのですが、日本は最初は姓で呼び、仲良くなると名前で呼びますよね。姓で呼ばれるのが、最初は怒られているように感じて怖くて、慣れるのに時間がかかりました。
オーサ
それは私もあります! スウェーデンは敬称がないので、いつも名前だけなんです。ていねい語もなく、フラットです。それで相手の名前に「さん」をつけるのを忘れてしまい、担当さんに「絶対つけて!」と注意されました(苦笑)。
YOOKI
私も専門学校で先生を呼び捨てにしてしまい、「先生ってつけてね」と注意されたことがあります(笑)!
オーサ
ただ、日本人はとてもていねいなので、こちらが失礼なことをしても注意なく終わることが多いんです。だからこそ、指摘されたときは本当にすごい間違いをしてしまったのかな、と心配になります。
YOOKI
わかります、間違っていたらすぐ教えてほしいです……!
――日本での仕事のスピード感はどうでしょうか? 日本人は忙しそうなどとよく言われますが……。
YOOKI
締め切りや時間に厳しいのは日本のイメージですね。マレーシア人はだいぶのんびりしています。飲食店の看板なども、そろそろ新しいのに変えて~と思うぐらい変わらないし、「やりますよ~今建築中ですよ~」と言いながら何年もズルズルやってたりします(笑)。
マレーシアで働いている友達の話を聞いても、30分や1時間の遅刻は普通。私が「やばい! 会社に2分遅れちゃう!」って言ったら驚かれます(笑)。
オーサ
スピード感はぜんぜん違いますよね。スウェーデンは余暇が人生のメインという考え方です。
生活のためにお金が必要だから仕事はするけど、夏休みは全部止まります(笑)。仕事の連絡をしても、5週間後にしか返事が来ないです。みんなそうだとわかっているので、もともと連絡が返ってくるとは期待していません(笑)。
――日本といえば、地震の多い国です。怖くなかったですか?
オーサ
スウェーデンは災害がほとんどない国です。日本では「いつか大きな地震がくるかもしれない」と不安はありますね。
ただ、地震になどの災害に関しては、逆に日本に住むきっかけになりました。「人生何があるかわからないから、やりたいことがあるならやっちゃえば?」という気持ちになったんです。
YOOKI
マレーシアもほとんど災害はなく、あるとすれば洪水ぐらい。初めて地震を経験したときはびっくりしましたが、「死ぬんだったら日本がいいかな」と思いました。
それに災害が多い国だからこそ、いろいろな対策や偉人の知識がたくさん蓄えられていて、建築も対応して作られているので、改めて尊敬しました。
悩んだら自分を信じて突き進む
―― 日本でのお仕事の獲得はどうやってされていますか。外国人だからこその事情はありますか?
オーサ
私は初めての持ち込みでデビューしてそのまま描き続けているので、あまり言えることはないのですが、日本人が描けないものが描ける外国人だからこそのチャンスはあると思います。出張編集部に持ち込んだ当時は本当に下手でしたが、「日本人にはないポテンシャルがある」と判断してもらえたのかな、と思います。
(現担当さん談:オーサさんは外国の方ながら、お話を4コマ漫画に落とし込む感覚が日本人に近かったので、珍しい内容でも読みやすく、受け入れられやすかったと思います)
YOOKIさんも、きっと日本人にはない感覚が強みになっていると思います。

『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』2巻より一部抜粋
YOOKI
ありがとうございます。私も、外国人ならではの仕事獲得の話があればいいのですが、メールでわからない日本語を調べる手間がときどきある以外、あまり違いを感じたことがないんです。
日本の多くのクリエイターと同じように、企業への売り込みやコンテスト応募、SNS投稿をする中で仕事をいただけるようになりました。今はお仕事を見て、と連絡をいただけるようになったので、ありがたいです。
……でも、実は私、仕事がずっと来てくれるのが不安で、専業に踏み出せないんです。オーサさんは来日してから長く専業でお仕事をされていますよね。どう考えてこられたのでしょうか?
オーサ
フリーランスは毎月確実にお金が入ってくるわけじゃないですよね。
私の作戦は「お金を使わない」です。お金が入ってきたらとりあえず貯金して、貧乏学生みたいな生活をしていました(笑)。今は家族がいてできませんが……でも、なんとかなると思うんですよね。
YOOKI
「なんとかなる」と信じて突き進めばいいんでしょうか。
オーサ
そうそう。やってみないとできるかどうかわからないけど、やらなかったら後悔する! って。最悪失敗しても、再就職すればいいですから。
YOOKI
確かに! 一度失敗しても、そこで終わりじゃないですね。
オーサ
クライアントから依頼されるイラストのように、漫画連載もテーマをもらって描くことがあるのですが、ときどきアイデアが出ないことがあるんです。でも、パソコンの前に座って少し考えると、何かのアイデアは出てきます。
だから、自分に自信を持つ。私は絶対できるからって。勇気を出して。
YOOKI
はい! がんばります。
海外で仕事したいクリエイターへのエール
――おふたりとは逆に、日本から海外に出て仕事をしたい、興味があるというクリエイターも増えているのですが、おふたりの視点から見て、どう思われますか?
オーサ
日本人が海外でお仕事をしたい、ということですね。
日本人の方は、英語が話せないとか、失敗が怖いといったことをよく思うかもしれませんが、そんなに心配しなくていいです。みんな海外では失敗します(笑)。学ぶきっかけになりますから、どうか恐れないで。
それに、日本のクリエイターはレベルが高く、たとえばスウェーデンに来さえすれば仕事ができますし、多く稼げると思います。
YOOKI
確かに、日本にはすごいスキルを持っているクリエイターさんがたくさんいます。アニメ会社にいたときも「なぜこんなにストイックな環境でこんなにすごい仕事ができるの?」と思っていました。
英語は難しいかもしれないけど、逆に言うと英語さえクリアすればいいですよね。勇気を出して言語の壁を超えたら、もっと活躍できる人がたくさんいると思います。
オーサ
そうそう。それに海外に引っ越さなくても、ネットを駆使して英語のメールを作ってやりとりすれば、日本にいても海外のお仕事はできますよ。
YOOKI
海外から見た日本の印象は「絵の国・技術の国」だと思います。コミュニケーションが取れれば、海外とのお仕事は十分できると思います!
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聞き手・執筆
kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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