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きっかけは育休中にSNSで見たコピックイラスト。育児と仕事も両立しながら、描き始めてたった4年でフォロワー2万超えの兼業イラストレーター・彩木ぴすこの素顔

アナログにしか出せないコピックの塗りの質感、画材にこだわり、透明感のある愛らしいキャラクターイラストを得意とするイラストレーター・彩木(さえき)ぴすこ氏。

今回は、4児の母でありながらも、創作活動にストイックな姿勢で急成長を遂げることができた彩木氏の経緯や、コピックの使い方まで、詳しく教えていただいた。

インタビューに答えてくれた人

彩木ぴすこ(Twitter:@saeki_p/Instagram:@lightning.pis95)
イラストレーター。コピックを使用したアナログイラストを数多く描く。4年前に育児と並行して描き始めたイラストレーションは、ストイックな練習と観察を積み重ね、Instagramフォロワー2万人の人気を博す。(2022年9月現在)こだわりの詰まった美しい技法で、色鮮やかでメリハリのある、可愛い女の子の絵を得意とする。

 

ラフはデジタル、清書をアナログで描く

Singin’ in the Rain
【手描き・アナログ限定】コピックでお絵かきがしたくなるイラストコンテスト
グランプリ受賞

ーーこの度は、『【手描き・アナログ限定】コピックでお絵かきがしたくなるイラストコンテスト』グランプリ受賞おめでとうございます。今回の作品について、詳しく教えてください。

彩木:ありがとうございます。今回のイラストは『Singin’ in the Rain(雨に唄えば)』をテーマに描きました。曲を聴きながら、映画のザーザー降りの雨の中で踊っているシーンの空気感をイメージしました。
イラストを描いていたのが梅雨の時期で、遊びに行けず、洗濯物も乾かない、ジメジメした憂鬱な気持ちを払拭するために、雨でも気分が上がるようなイラストにしたくて、雨粒が下から沸き上がるような構図を意識しています。

 

ーー今回はアナログ限定のコンテストでしたが、普段からアナログイラストを描かれているのでしょうか?

彩木:普段からコピックを使用してアナログイラストを描いています。下描きや色のラフはデジタルで作りますが、そのあとは全部アナログ作業です。

 

ーーデジタルで描いたラフからアナログの本番用紙へは、どうやって描き写しているのですか?

彩木:線画は、下記のような手順で描き写しています。

  1. 【印刷】デジタルで描いたラフをプリンターで印刷
  2. 【転写用の下絵】印刷したラフの上に、新しい紙を重ねてシャープペンで描き写す
  3. 【転写用の下絵を清書】「2」で描いた下絵をさらにシャープペンと消しゴムできれいに整える
  4. 【転写の準備】「3」で作成した下絵の紙の裏面を鉛筆で黒く塗りつぶす
  5. 【転写】本番の用紙に「4」の紙を重ねて下絵をなぞり、転写する
  6. 【ペン入れ】転写した下絵の線をもとにペン入れして線画が完成

左からデジタルのラフ→転写用の清書→色紙に転写してペン入れした最終の線画

印刷したラフをトレース台で透かし、重ねたコピー紙に描き写す段階
Twitterや各SNSでは、このような経過も沢山見ることができる

ーー線画を2度クリーンアップしていることになり、手間が多く大変ですよね…!なぜ、そういった手法で描かれるんですか?

彩木:紙に下描きを直接描く方もいるのですが、私は失敗したら怖いのと、完成のイメージをつけておきたいので、この方法をとっています。それに私は筆圧が強くて(笑)直接本番用紙の上で線を描いたり消しゴムで消したりしていると、鉛筆の跡が残ってしまうので。
デジタルも試しましたが、アナログほどの線画は描けなかったので、手間はかかりますがこの方法が一番きれいに線画が描けると思っています。

 

ーーこの作品の制作時間はどれくらいかかりましたか?

彩木資料集めを含めて5日間くらいです。時間数でいうと20~25時間ほどでしょうか。
子どもが4人いるので、一緒にいる時はなかなか時間が取れません。なので、夫の協力を得られる時と、子どもが学校に行っている時間で、1日5~6時間ずつ確保して進めていました。

 

ーー忙しい中でも、工夫して時間を作っていらっしゃるんですね。作業は1枚ずつ集中して描かれますか?それとも何枚か並行して描かれるのでしょうか?

彩木:私の場合、イラストを描くときは基本的に一つの作品に集中して描くことが多いです。今回のイラストも5日間このイラストだけを描いています。

 

ーー今回受賞されて、コンテストやGENSEKIについての感想をお聞かせください。

彩木:GENSEKIコンテストは有名な会社やイラストレーターさん、芸能人の方などが審査員を務められていますよね。こうした人達とは普段あまり関わることができないので、自分の絵を見てもらえる機会を頂けてとても嬉しいです。
また、GENSEKIさんに限らず、最近のイラストコンテストはデジタル作品が多い印象がありますので、アナログイラスト派として今回の”アナログ限定”は嬉しかったですね。
GENSEKIさんのサービスは、受賞のプロフィールページにも自分のイラストを載せられたり、これまでの経歴や展示会、イベント参加のお知らせをまとめるページがあったり、自分のスキルを公開できたりと、仕事に直結するようなページが簡単につくれるところがいいなと思いました。

 

ーーGENSEKIの機能をたくさんご活用いただけて嬉しいです!ありがとうございます。

 

3人目の育休中に「コピック」を知り、イラストの世界へ

 カードキャプターさくら』/CLAMPの日 お祝いファンアート

ーー絵を描き始めたきっかけは何だったのでしょうか?

彩木:小学生の頃は人並みに自由帳と鉛筆で楽しくお絵描きしていた思い出がありますが、中学以後は部活の吹奏楽や仕事に打ち込み、特に絵を描いてはいませんでした。なので、本格的にイラストを描き始めたのは2018年から。本当に初心者からのスタートでした。

 

ーー自由帳と鉛筆ということはその時も白黒で、カラーイラスト自体2018年から始められたということでしょうか。それは驚きです…!

彩木:そうなんです。3人目の子の育児休暇の時でした。その頃に私はInstagramを始めて、色々見ていたら、偶然コピックで絵を描いている方の投稿を見かけました。そこで、初めて「コピック」というペンの存在を知ったんです。
ちょうどその時期、小学生の頃に好きだったCLAMP先生(Twitter:@CLAMP_newsカードキャプターさくらのアニメが再放送されていて、その懐かしさもあり、「コピックで絵を描いてみたい」と、さくらちゃんのイラストを模写して描いたことがイラストを描き始めたきっかけです

 

ーーイラストは独学で描かれたということでしょうか?

彩木:初期の頃は色々な先生の絵を見ながら、とにかくたくさん模写をしてInstagramに投稿していました。模写から学べることは多かったです。
その中でもやはり、CLAMP先生のレースやお花がまるで生きているかのような表現がすごく素敵で、自分の絵にもその要素を取り入れています。絵を描いていくうち、1冊だけ技法書も購入しました。緑華野菜子先生の『コピックで出来る! 魅力的な質感の描きかた』(グラフィック社)という、コピック公式から出ている本です。

上の子が学校や保育園に行っている間、0才児がお昼寝の隙に鉛筆画だけでも1日1枚描くようにしていたのですが、集中力が持たなくて大変でした(笑)あまり活動できない時期も、コピックのコンテストや雑誌の『スモールエス』などに投稿しています。

 

ーー家事と3人のお子さんの育児をしながら、毎日1枚描いていただけでもすごい集中力です…!

彩木:技法書の他にはYoutubeの解説動画や、他の作家さんのイラストをじっくり見て「どの部分を一番頑張ったんだろう」と観察したり、模写からアレンジを発展させたりしていました。
Instagramで知り合ったイラスト友達とメッセージや通話で、一緒に絵を描きながら画材や描き方について情報交換できるのも、一石二鳥というか、お互い主婦なので少ない時間を有効に使えて、息抜きにもなり、とてもありがたいですね。楽しく話して描きながら、自分の知らない情報を教えてもらうことができ、そのおかげで様々なジャンルの影響を受けることができました。

 

ーーこれまで描かれたイラストの中で、一番思い出に残っている作品はありますでしょうか。

彩木:1枚1枚魂を込めて描いているので、特別な1枚を決めるのは難しいですが、一番の思い出はイラスト制作を始めて1年目に自分で企画したイベントです。
自宅の近所にあるカフェの一角をお借りして、イラストを展示したり、コピックなどのアルコールマーカーのワークショップをしたり、一から企画を行うことができて良い経験になりました。展示用のイラストを作成したこと以外にも、企画の宣材やパンフレットの作成、そのパンフレットを置いてくれるお店を探したり、Instagramで仲良くしてもらっているフォロワーさんとライブ配信を一緒にやってPRしたり、マーケティング面でも勉強になったと思っています。
実際にイベントに来てワークショップに参加して頂いた方に、「楽しかった。また参加したい!」と言ってもらえたことが、一番印象的ですね。

 

コピックで描く「デジタルっぽさ」

エルフちゃん

ーー彩木さんがアナログで、コピックを使用したイラストを描くにあたって、こだわっている点などはありますか?

彩木アナログだけれども、デジタルのブラシのような塗り方を意識しています。特にこだわっているのは影の部分ですね。
影をつけることで立体感や奥行きが表現できますが、はっきりしたコントラストとなめらかなグラデーションをしっかり塗り分けたり、明るい色の中にある暗い色に青を使ったりすることで、デジタルイラストのようなメリハリがありながらも透明感ある陰影が生まれ、鮮やかさを表現しています。

 

ーーどうしてデジタルの塗りを意識されるようになったのでしょうか?

彩木:きっかけは『HoneyWorks』のヤマコ先生(Twitter:@yamako2626のイラストを拝見したときです。それまでは、アナログメインで描いていて中々デジタルの良さが分かっていなかったのですが、ヤマコ先生のイラストの塗りの鮮やかさや綺麗さを見た時に、もう言葉に出せないくらい感動しました。

 

ーー確かにヤマコ先生のようなデジタル彩色は、コピックとも親和性が高そうですね。

彩木:華やかで、色鮮やかなイラストが好きなので、デジタル特有のそういった見栄えの良さはこれからもアナログイラストにも取り入れてみたいと思っています。

 

画材選びで意識するのは「いつでも同じ条件で描ける環境」と「デジタルイラストのような色の重なり」

InstagramやTikTokではメイキング動画も多数公開

ーー画材の使い方をもう少し詳しくお伺いしたいと思います。

彩木:色塗りはコピックメインで、コピックスケッチが好きです。コピックは色数が豊富で、色番号で管理ができるのがいいですね。水彩などは分量を調節しながらその都度色を作る必要があるので。いつも決まった色が出てくれて、発色も良く、塗りや用紙にこだわると滲みやアニメ塗りなど、多彩な表現ができるのですごくいいです。

 

ーー乾くと色が変わるものもあり、頭の中でどう色管理されているのか気になるのですが、もう大体色の予想がつくのでしょうか?

彩木:そうですね。よく使う色も決まっていますし、カラーチャートを作ったこともあります。好きな色やインクを買い足していって、180本までは数えていましたが…今は200本ぐらいあると思います(笑)

 

ーーコピックは358色なので、半分以上ですね!紙は何を使用していますか?

彩木コピックペーパーセレクションの「カスタムペーパー」を良く使用します。
最初は友人に聞いて同シリーズ3種類ほど試しました。
「特選上質紙」はとても描きやすいのですが、私がよく使う茶色をはじいてしまいやすいのが難点です。
「画学紙」はザラつきがあり滲みは強いのですが、色抜けが楽なのとグラデーションがとても綺麗に出るのでずっと使っています。
ただ、色紙にイラストを描く依頼が増えた際に、普通の色紙ではインクを吸いすぎてしまうことに気づき、「カスタムペーパーのコピック専用色紙」を使うようになりました。
色紙以外のイラストでも描き心地を合わせたいと思い、どのイラストにも「カスタムペーパー」を使うことが多くなりましたが、用途によって「画学紙」と使い分けています。どちらもすごく発色が良いですね。

この絵もブラウン、ラベンダー(花)、ピンク(目とまつ毛の一部)の3色が使われている

ーー主線が色分けされている投稿も拝見しましたが、何で描かれていらっしゃいますか。

彩木:主線はコピックのマルチライナー」を使用しています。
メインではブラウン、レースとか生地の色が薄い表現は紫、目尻と目頭など顔のパーツではピンク、背景や小物は薄いグレー、と、パーツによって色分けして使っています。
色分けに加えて、目立たせたいところや、影になるような部分は濃い目にペン入れをするようにしています。

ーー色鉛筆やアクリルガッシュなど、他の画材はどういう表現をするために使っていますか?

彩木:色鉛筆はデジタルイラストの「乗算」のような色の重なりを出したいときに使用しています。コピックの重ね塗りだとインクの相性によっては色が分離して濃くならない時があり、代わりに色鉛筆で色を重ねたら綺麗に出たのでそれ以来、使っています。

アクリル絵具は、通常のホワイトと違って、イラストと馴染みやすいホワイトが塗れるので使い始めました。今は派生してコピックの色だと彩度が明るすぎる部分にも使うことがあります。今回のコンテストイラストだと、服のお花のピンク部分にアクリルを乗せています。

 

ーー画材の組み合わせはどんどん試して進化されていっているのですね。

 

アナログイラストの原画を見た時の感動の大きさ

イラストオーダー/7月依頼作品

ーー応募作には写真もつけていただきましたが、やはりスキャンしたものより、原画のほうが鮮やかでしょうか?

彩木:鮮やかさもそうなのですが、色も原画のほうがまとまっているように感じます。スキャンするとやはり色味が変わってしまうので、調節して原画に近付けてはいますが、実際に目で見た通りに調整するのは難しいですね。写真で撮ったものも、白い部分が浮いて見えてしまうので、やっぱりアナログを描いている以上、原画を見てほしい気持ちはあります。

 

ーーアーティストさんの原画展を見にいくと、アナログのイラストは実際に見た時の驚きがありますね。

彩木:そうですね。趣味程度にデジタルイラストを描くこともあるのですが、アナログイラストの原画を見た時の感動の大きさを思うと、やっぱりアナログで描くほうが好きですね。

 

ーー下描きはデジタルということでしたが、機材は何をお使いですか?アナログ完成後にデジタルで加筆されることはありますか?

彩木:WindowsのPCとWacomのCintiq16の液タブ、ソフトはCLIP STUDIO PAINTです。機材は揃っているんですが(笑)ラフ以外はあまり使っていないんです。アナログで描いた絵の加筆もしていません。展示などで原画を実際に見に来ていただく時のことを考えて、加筆しないようにしています。SNSで発表しているスキャンや写真データでは伝わらない「原画の鮮やかさや綺麗さ」を、良いギャップとして感じてほしいと思っています。

 

描き続けてたどり着いた自分の理想は「可愛いと美しいの間のバランス」

梅雨に漂う

ーーイラストレーターとして一番幸せを感じた瞬間や、逆に辛かったことはありますか?

彩木:一番幸せを感じる瞬間は、ご依頼のイラストをお届けした後に、嬉しい感想を頂いたときです。ホッとすると同時に、喜んでもらえたことが自分の喜びになっています。
辛かったのは、自分が描きたいものと描けるものが違って、その差が全然埋まらなかったことですね。2020年にオリジナルのイラスト創作を始めてから本当につい最近まで、2年弱ほどはそのギャップに苦しみました。今はやっと乗り越えられましたが、それまでずっと満足できる作品が描けなかったので、自分で自分の価値が見えなくなってしまっていたのは、本当に辛くて、苦しかったですね。

 

ーー最近まで葛藤があったのですね。乗り越えられたきっかけは何だったのでしょうか?

彩木:色紙に、同じような雰囲気のイラストを複数描く依頼を受けた時です。
バストアップでモチーフも限られる中、同じサイズの構図や雰囲気でまとまりがありつつも少しずつ差があるイラストを描くのは難しかったのですが、繰り返し一生懸命描く中で「私はこういう絵が描きたいんだな」と実感した瞬間がありました。

 

ーーもしお伺いできれば、それはどんなことだったのでしょうか?

彩木「可愛いと美しいの間のバランス」です。描きたいものと描けるもの、求められるもののバランスが取れず、「これじゃないのに…」と感じていたのが、すっと解けた瞬間でした。それまで自分のイラストの魅力が今ひとつ分からなかったので、強みがはっきりしたことは、大きな転機になりました。

今は楽しんで創作できています。これからも色々な事に挑戦して悩むと思いますが、結局楽しいっていう部分に行きつけたら良いなと思っています。

 

ーー描き続けたことで掴めた感覚があったのですね。イラストレーターとして転機を迎えた今、これからやってみたい絵のお仕事や、豊富などはありますか?

彩木:やりたいことはたくさんあるのですが、今までの知識や経験を活かして、コピックを使用したメイキングのお仕事にとても興味があります。
現在も、InstagramやTikTokでメイキング動画を載せているので、お仕事につながったら嬉しいですね。
その延長で、実際に人に教えてあげられるような講座やワークショップもやりたいです。以前もワークショップは行いましたが、カフェの一角をお借りしての展示兼ワークショップだったので、次にやるとしたら、自分の実力を試すためにもギャラリースペースを借りて、個展の企画に挑戦したいです。

 

 

2018年からコピックで初めてカラーイラストを描き始め、イラスト制作、仕事、4児の育児もこなしながらの4年間で、今やSNS上でも大きな人気を集める彩木氏。

限られた時間の中で多くの作品を描いて磨いた技術と観察眼、その集中力とエピソードは驚きの連続だった。

隙間時間に少しでも描く、絵を描きながら交流や情報交換をするなど、忙しいからこそ工夫を凝らし、一瞬一瞬全力なその姿から、急成長した理由が伝わるインタビューだった。

身に着けたイラストのノウハウを楽しく学べるメイキングの公開や展示、ワークショップ開催にも意欲的。そのアナログ原画の美しさを惜しみなく伝える活動は、今後も是非応援していきたい。

執筆者


なかじまはるな (Twitter:@tuesdaywassunny/Instagram:@haruna_nkjm
イラスト/デザイン/ライティング
育児絵日記、今日の服、絵本、教材挿絵、コラムイラスト、ロゴ作成、グッズ制作…
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編集者


kao(twitter:@kaosketchHP
イラストレーター・GENSEKIインタビューライター。空気感や表情が伝わる表現を目指す。ファンタジーとSFが好き。名古屋在住。