ワンランク上のイラストを作るための「光」「ストーリー」「キャラ」の演出方法。 獣人イラストレーターあるうららさんインタビュー

GENSEKIで獣人イラストレーター・あるうららさんを審査員として、「ケモノガール チャレンジ」イラストコンテストを開催しました。
あるうららさんは獣人テーマのGENSEKIイラストコンテストで2度大賞を受賞され、GENSEKIマガジンでは「獣人の描き方」を教えていただきました。獣人に限らずイラスト全般に関して、とても豊富な知識をお持ちです。
今回は、イラストコンテストの受賞作品を例に、イラストに大事な要素やストーリーの演出について教えていただきました!

審査員
インタビューした人

サイトウ(メンバーブログ)
GENSEKIマガジンの運営スタッフ。インタビューや記事、バナー制作などを担当。イラストは見るのも描くのも好き。
見せたいところを一番に。情報量のバランスのとり方
あるうらら
僕は絵には「視認性」「空間表現」「ライティング」が大事だと思っています。全部の絵に必ず必要なわけではありませんが、今回のイラコンはそこに重点を置いて見ました。どのポイントからも一番よくできていたのが、黒猫龍さんの作品です。

サイトウ
優しい色あいがすてきです。パステルカラーの淡い印象で全体がまんべんなく描き込まれているのに、主役にしっかり目が行きますね。
あるうらら
画面全体が緑色の印象の中で、キャラのピンクが差し色となりシルエットが生まれているからですね。蓮の花と同じピンクというのが、よくハマっています。
また、角の紫色のように、顔周りにはっきりした色があることで主役の顔に目が行くようになっています。
サイトウ
配色を起点にモチーフを選ばれたのでしょうか。世界観と色がとてもマッチしています。
空間表現とライティングについてはどうでしょうか?
あるうらら
水面に浮かぶ蓮の円形の形が水面の空間を説明していて、かつ、そこに木陰が落ちることで、より説得力のある奥行きを出していますね。

欲を言えば、こういった落ち影をキャラにもかけると、木漏れ日の中にいることを演出できます。もっと主役を魅力的に見せられると思います。
サイトウ
周りの要素は、メインを引き立てるために考えるのですね。
絵にメリハリをつけると色の面ではビビットな印象が強まりがちですが、こういったパステルカラーを使った作品で、淡く柔らかい印象を保ったままメリハリを出すコツはありますか?
あるうらら
パステルカラーは、同じ明るさの中なら色数を増やせるメリットがあります。線画にいろいろな色を入れ明るい部分に色数を増やすと、パステルの印象を崩さず描き込むことができます。
例えばこの絵の場合なら、木陰を手前に持ってきて、背景を明るく飛ばす構成にすればできそうです。木陰にいるキャラをグレーの色味の中で描き込み、奥の明るい光でキャラのシルエットを強調すれば、淡い印象を崩さずにメリハリをつけることができるでしょう。
明暗の構成や優先度については以前の記事でもお話していますので、そちらもぜひ参考にしてください。

あるうらら
こつぽんさんの『豊穣の猫』は、コントラストがよく描けていました。
中華風の背景や装飾もしっかり描き込まれていて、世界観に引き込まれます。
サイトウ
絵にメリハリがあって、真上から見下ろす構図が大胆ですね。
天井からぶら下がっている紐や装飾が、集中線のようにキャラのお腹に向かっています。キャライラストは顔に視線誘導したほうがいいとよく聞きますが、顔以外の部分をメインに見せたいときもありますよね。
あるうらら
「イラストで表現したいものが何なのか?」によりますね。たしかにキャライラストとして描くなら、顔をたくさん見てもらえたほうがそのキャラに愛着が湧きやすくなります。
このイラストは「豊穣の神」を表現するために大きなお腹や足を見せているので、そこに視線誘導をするのはよいと思います。
サイトウ
顔以外の身体の部分を見せたいときのポイントはありますか?
あるうらら
顔に負けないくらいに描き込み量を増やすことですね。例えばお腹を見せたいなら、へそピアスや模様を入れたりして装飾してあげると、より視線が向かいやすくなります。
あえて描き込まないことで目立たせるという方法もありますが、魅せたいところに一番情報量を持ってきて、周りの描き込みを減らしたりしてバランスを取る方が、よりストレートに魅力が伝えられると思います。
ライティングを使って描けるもの

あるうらら
餅コメさんの作品は、気持ちよさそうなメイド猫の様子がとてもいいですよね。
サイトウ
キャラの表情がよく、描かれていない晴れやかな空まで想像できますね。
この絵の中では外の景色がほとんど見えないのに、外の空気感が伝わってくるのはどうしてでしょうか?
あるうらら
左上から差し込む太陽の光というライティングがしっかり設定されていて、画面全体もていねいに描かれています。また、空気中のホコリなのか水やりした水なのか、その光の中の粒まで表現されているのがいい効果になっていると思います。

他に空気感を加える方法をあげるなら、手前から奥にかけて花びらを舞わせたりすると、外の風を表現できますね。画面もダイナミックになり、空間が演出されてキャラをより映えさせることができると思います。

あるうらら
ささゆきさんの作品も光の印象がとてもいいですね。
サイトウ
室内に差し込む、夕方の柔らかい光が印象的です。
あるうらら
こういったライティングでは影にいろいろな情報が込められます。
例えば、窓からの光に窓枠やサッシの影が入っていたら、窓の形がわかります。木や電柱など窓の外にありそうなものの影を入れたり、画面外の状況を伝えられる影を描くことでより空間が広げられます。
また、目立たせる必要のない部分には影を落としたり、キャラにフォーカスしたライティング調整をすることで映えさせられます。
絵としての嘘でもいいので、光と影を使った演出を考えられると良いと思います。
サイトウ
光と影で画面の外を描いたり、キャラの演出ができるんですね。
あるうらら
どんな絵でも、「メインがいちばん映えるライティングは?」と考えられるようになると、絵の魅力がもっと増すと思いますよ。
空間は「近景、中景、遠景」の重なりで表現できる

あるうらら
絵は「近景、中景、遠景」の距離を表現できるとよく言われますが、けまりさんの作品はこの構造がわかりやすく、空間が雰囲気よく表現されています。
サイトウ
縦に長いキャンパスが特徴的だと感じました。空間を描く上でのメリットがあるのでしょうか?
あるうらら
キャラを大きく描きつつ、背景も描けるいい構図だと思います。普通の縦長構図でキャラをドーンと描くと背景が隠れてしまうのですが、細長く延ばすと上の方で背景を見せたり、この絵のように下に天井からのランプを描いたりできます。
サイトウ
なるほど。他に縦長構図ならではのポイントはありますか?
あるうらら
縦長構図で描く場合は、上から下への流れを作るといいでしょう。このイラストだと、窓枠や椅子などがそれにあたりますね。床板の線のように、奥から伸びてくる線もあるといいと思います。遠景に道を描き込んだりすると、その先にも世界が続いているように見せられます。
絵はカメラでシーンを切り出したもの。物語を感じさせるコツ
あるうらら
またこの絵は、かわいらしく表情豊かな二人に興味が湧きますよね。この子たちのストーリーを描くことで、世界をもっと広げられます。

カフェなので、飲み物を頼んでいたり、机の上にスマホを置いてまったりしているかもしれません。カフェの窓にアルバイト募集の紙が貼ってあるなど、そういった日常感まで含めて演出できると、絵を見ている人も「この子たちが本当にいるかも」と思えるようになります。
サイトウ
片方のコーヒーだけ湯気が出てたり、サンドイッチが食べかけだったり……ワンシーンを切り取るというのは画面だけでなく「時間の流れ」を切り取ることでもあるんですね。
あるうらら
絵の空間に入っていけるような印象は、大切なポイントです。キャンバスの四角をただ絵の端と捉えず、「ワンシーンを切り取ったカメラの目線」と考えると、キャラの生活にまで興味が湧く絵にできるでしょう。

あるうらら
𝑫𝒐𝒐𝒗𝒆𝒓さんの作品はその「カメラで空間を切り取る」話を体現されています。見ている人=主人公で、こちらからキャラに缶を投げている設定も絵のいいフックになっています。
サイトウ
缶をキャラが受け取ろうとしているのがかわいいですね。
あるうらら
このシチュエーション一つでも、ポーズや仕草によってさまざまな物語を描くことができます。「ちょっと腰を引いて上を向き、両手を伸ばす」ようなポーズになったりすると急に投げられた物を受け取るときの自然なポーズになると思います。他にも「缶を投げられているのに気が付いてなくて、当たっちゃう!」という様子にするとか、「こちらに気づいてもっと積極的に取りに来ている」とか、逆に「取るのが下手そうな様子」もいいですね。
キャラを自然に見せるために、より気持ちに沿ったポーズにしていくのは大事ですね。キャラのパーソナリティまで演出できると「見ていてうれしい絵」にできると思います。
ストーリー表現のセンスは「映画」や「自撮り」で磨こう

サイトウ
あるうららさんは、日常感の出し方や仕草のアイデアがすっと出てきますね。どうすればそういった物語の演出が思い浮かぶのでしょうか。
あるうらら
絵を描いている自分が、どれだけ画面の中に興味が持てるか、は大切です。全ての絵でそういう細かい設定を考えるのは難しいかもしれませんが、例えば外出先のスケッチでいろいろな人を観察し、その人の人生や生活まで考えるなど自分とは違った人を意識することで、絵を描く際に、このキャラクターは? と考えるきっかけになると思います。
あと、映画を見るのもいいですね。僕はフィルムスタディ(映画のシーンを模写すること)をしたりしました。演者をどう撮るか、という意識が画面に現れているので、とても参考になると思います。
サイトウ
構図や配色の勉強になると聞いたことがありますが、物語を画面で表現することの勉強にもなるんですね。
あるうらら
そうですね。その他に、自撮りをするのも重要です。「こういうポーズを描くなら、手の形はこっちの方がいいかな?」「このポーズの方が艶っぽく見える」など、キャラをどうディレクションするかが意識できます。
サイトウ
ただ「描く」というより「キャラクターに演じてもらう」という感じなんですね。
あるうらら
自分を撮るのに抵抗があるなら誰かに撮らせてもらってもいいでしょう。こういった考え方が学べると、絵により説得力が出るようになります。最初のうちは描くだけでも大変なのですが、そこに演出の視点が入ることでより絵を魅力的にできると思います。
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執筆
GENSEKIマガジン編集部
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