「せっかくだから、描く」 育児漫画家の犬犬さんにエッセイ漫画の描き方と続けかたを聞いた 【初心者漫画修行 #2】

こんにちは、ライターの神田(こうだ)です。以前GENSEKIマガジンで全6回にわたるイラスト修行の連載をして、漫画を描くのがなんとなく楽しいと思い始めた私。
本連載は、「漫画を描くうえでのテクニック」をいろんな漫画家さんに聞いて、漫画の文法や書き方を学んでみようというものです。パースの取り方とか専門的なものではなく、ふわっとした輪郭をつかんでいきます。

前回はジャンプ作家の凸ノ高秀さんに私が描いた漫画を見せて、「型を覚える前にフォーマット崩すのがおもしろいでしょみたいなことすると良くない」「漫画をサボるな」といった痛烈なダメ出しを受けました。
あまりにも仰るとおりですね。「プロの漫画家に一泡吹かせたろ」という私の浅ましさを見透かされていたようです。

私が描いた漫画はこういうやつです。気に入ってはいるんですが、確かに写真ばかり載せていてもよくない気がしてきました。とはいえ、複雑な絵に挑戦するのはまだ難しいし、めんどくさくて漫画のことを嫌いになってしまいそうです。もう少し、肩の力を抜いて漫画を描いてみたい。

ということで第2回となる今回は、SNSに育児エッセイ漫画を投稿している、漫画家の犬犬さんに「簡単な絵でおもしろい漫画を描く方法」「モチベーションを維持するには」といったお話をたっぷり伺いました。
犬犬
漫画家。Xにシンプルな子育て漫画を定期的にアップし、大きな人気を博する。Xのフォロワーは39万8000人にものぼる。
「せっかくだから」育児漫画を描きはじめた?
神田
犬犬さんの漫画、息子さんとの生活のワンシーンが情緒豊かに切り取られていてすごくいいんですよね。絵が非常にわかりやすく、2コマで完結するシンプルさも魅力です。
犬犬
ありがとうございます。
神田
最小限の工数でシンプルでおもしろい、私が理想とする漫画の形です。犬犬さんはいつから漫画を描き始めたのでしょうか。
犬犬
本格的に描き始めたのは2007年ごろですね。好きな作家さんがコミティアに出てるのを知って「あいさつに行きたいな」「自分も描いてみたいな」と思ったのがきっかけでした。
神田 たしかに、好きな作り手と仲良くなるには、自分も作る側に回ったほうがより距離が近くなりますからね。
犬犬
特に漫画家を志していたわけではなく、熱い思いも表現したいものもあまりなかったんです。小学校のときに先輩が漫画を描いているのを真似して描いて「なんかおもしろいな」くらいで。そこから『深海魚のアンコさん』などオリジナル漫画の連載をしたりしました。
神田 XやInstagramで連載されている育児漫画はいつから始められたんでしょうか。
犬犬
結婚して、子どもが生まれた2021年からですかね。子育てって、人生でそう何度もあるものではないので、せっかくだから何かしら形に残せないかなと思って育児漫画を描きはじめました。
神田
「せっかくだから」という理由がいいですよね。ギラギラした熱い気持ちじゃなく淡々とした感じで。
犬犬
僕が子どもの頃はスマホもデジカメもなかったので、小さい頃の写真とか記録が少なかったんですよね。自分の子どもには、大きくなったときに見返せるようなものがもっと欲しかったんです。
漫画だと「飲み物をこぼした」といった出来事もネタにできますし、子育ての日々をポジティブに記録できるといいなと。育児漫画で食っていくぞという強い気持ちもありませんでした。
神田
でも今ではXのフォロワーも40万人近いですよね。うらやましい! 何かターニングポイントはあったんでしょうか。

犬犬さんの子育て漫画は書籍化もされている
犬犬
育児漫画を始めて1カ月くらいの頃に、子どもが「ファイナルファンタジーⅣ」のボスキャラみたいなポーズをしていたので漫画にしてみたんです。そしたらそれがけっこう拡散されて。
神田 “水のカイナッツォ”だ。育児漫画にFFの敵が出てくるとは前代未聞です。
犬犬
思ったよりウケて、なんか楽しいからもうちょっと続けようかなと思って現在に至ります。カイナッツォさまさまですね。
神田
このいわゆる“白ハゲ”というか、キャラクターの個性を強調しない作風にしているのはどうしてでしょうか。
犬犬
自分自身を過度に美化しないようにしてるのと、作者の自分をキャラクター化する必要もないと思っていたのでこういう作画になりました。情報量を絞って、テンポよく読んでもらいたいというのも理由にあります。
神田
こういったシンプルな絵でおもしろい漫画に憧れがあります。私自身すごくめんどくさがりなのであんまり緻密な絵を描きたくなくて……。
犬犬
でもそれは状況によりけりですよね。こだわりがあるならしっかり自分の色が出た絵を描いたほうがいいですし、そうではなくただ作者の主張を伝えたい場合なら“白ハゲ”のほうがいいと思います。伝えたいことがあるときにキャラクターがノイズになる場合はシンプルな絵のほうが望ましいのかなと。
神田
私は“なんかかわいい絵がいいな♪”くらいで絵に対してのこだわりはないので、シンプルな絵で行こうと思います。
犬犬
最初はのんびりでいいと思います。漫画の個性は読者側が判断することなので、最初から絵柄をかっちり決めようと考えなくてもいいかもしれないですね。作品は見るけどその人の作家性まではそんなに興味がない、ということってけっこう多いです。
読者にストレスなく漫画を読んでもらうための工夫が大事
神田
それじゃあ前回に引き続き、自分の漫画を見ていただきます。サイゼリヤでコーンスープを注文したときに思いついたものです。どうでしょう。

犬犬
まあどうでしょうって言われても難しいですね……。前回凸ノ先生がコメントされていたことがすべてだと思いますし、何かアドバイスして持ち味が失われてしまうのももったいない気がします。大切なのは「どう見られたいか」ですね。
神田
なんかおもしれーやつって思われたいです。
犬犬
それはだいたいみんなそうだと思うけど……。僕はどっちかというと文法や文脈に則っていないと不安なタイプなので、2コマだったら上下のコマのサイズをあわせるなどそういったところが気になりますね。
神田
これは特に意図があるわけではなく、なんか勢いでやっちゃってました。
犬犬
であれば、読者にも「これは漫画です」ということを伝えるために統一したほうがいいかもしれません。また、毎日更新など一定のペースで漫画を描く場合はフォーマットを統一したほうが圧倒的に楽だし、読者も読みやすくなると思います。
神田
私は前提として読者のことを考えずに「これを喰らえ!」と突きつける気持ちで漫画を描いていました。まずこれが漫画であることを知ってもらうことが大事とは……。
犬犬
いろんなスタイルがあるとはいえ、まず読者が漫画を読む土俵に上がってくれないと伝わらないですからね。すべてを読者に委ねるという作り方をすると、現代美術みたいになってしまう。
神田
いくらがんばって漫画描いても読まれないと意味ないですからね。
犬犬
漫画として読んでおもしろいと思ってもらいたいのならば、漫画としての導線を引いたほうがいいですね。枠を揃えたりセリフをわかりやすくしたりすることで読者は漫画として捉えてくれます。ただ、絶対に枠を揃えろと言いたいわけではなく、自分の中に表現の根拠があれば大丈夫です。理屈っぽくなりすぎても窮屈ですし。
神田
犬犬さんは今の漫画を描くときに決めている自分ルールはありますか?
犬犬
まず「必ず2コマに収める」ということは決めていますね。僕の絵柄だと続きものにすると読む側もカロリーを使いますし、4コマにしてもワンクリックするまでいかないと思うんですよね。
神田
最近はクリックさせて読ませてなんぼ、という風潮がありますがそうではないと。
犬犬
僕は読者のストレスを少しでも減らして気軽に読んでもらえるのが一番いいかなと思っています。その他はあんまり気にせずとりあえず更新していければと思っています。
神田
犬犬さんの漫画はセリフ回しも特徴的ですよね。犬犬さんのセリフと息子さんのセリフの違いがわかりやすいです。
犬犬
子どものセリフは手書きで、大人のセリフはフォントを使うとかはそうですね。ちょっと前までは子どものセリフはカタカナだったんですが、最近よくしゃべるようになったこともあって現在はひらがなにしています。
神田
ぱっと見ただけで誰が喋っているかわかりやすいですよね。ひらがなで子どもの会話のたどたどしさも表現されていますし。これ、真似します。
犬犬
あとは言葉を増やしすぎないとか、固有名詞を入れすぎないなどの工夫はしていますね。固有名詞を入れたほうがマニアックでおもしろいこともあるので、これはバランス次第ですけど。
ネタ探しって難しくない?
神田
漫画を日常的に描いていると、ネタ切れの悩みがありますよね。犬犬さんはどうやってネタを探しているのでしょうか。
犬犬
子どもの発言や行動でおもしろいことがあったらすぐスマホでメモをとるようにしています。ちょっと時間を置くとすぐ忘れちゃいますからね。
神田
なるほど。育児漫画という特性上、描き手はずっと観察者として存在することになりますよね。「なんかおもしろいことしろ!」と邪悪な気持ちになりそうなものですが……。
犬犬
そういう気持ちもなくはないです。でも、親が介入すると不自然になるし、もともとの意図とは違ってきちゃうので僕は殺伐とせずのんびり構えています。親のキャラクターがぐいぐい前に出ておもしろい漫画もありますが、僕は自分が前に出るタイプじゃないので。
神田
私だったら邪悪になってしまいそう。あくまで日常で起きた出来事だけということですね。
犬犬
そうですね。脚色せず子どもの発言をすべてそのまま描いています。出来事自体は誰にでも起こり得ることで、それをどう伝えるかがエッセイ漫画の肝だと思います。僕の場合は別におもしろくなくてもよくて、「別に笑いを取ろうとしてない」という逃げ道を用意して自分を守っているところもあります。
神田
私も何かを担保しなきゃ安心できない性格なのでよくわかります。評価のまな板の上に乗るのって怖いから……。
犬犬
あとは「うちの子どもがかわいい」だけのネタは意図的に弾くように気をつけています。
神田
少し意外です。それはどうしてでしょう。
犬犬
これは僕の個人的な感覚ですが、自分の子どもがかわいいのって当たり前だと思うんです。それをそのまま外に出してしまうと、けっこう内輪感が強くなってしまうなと。
神田
たしかに。大きな声では言えないですが、私は独身なので正直人の子どもを見ても別になんとも思わないです。
犬犬
私も独身のときはそうでしたが、自分の子どもってびっくりするくらいかわいいんですよ。ただ、世の中の人が同じようにかわいいと感じてくれるかは別だし、かえって自慢と捉えられて反感を買う場合もあります。だから「こういうことが起こりました、どうでしょう?」というある意味受け身のスタイルで極力やりたいなと考えていますね。
神田
「おれがこう思うからお前らもこう思うはずだ」でやりすぎるとよくないということですね。もちろんそれが有効な場合もあると思いますが、エッセイ漫画を描くときは気をつけようと思います。
漫画を続けるにはどうしたら?
神田
私、漫画を描くのが楽しいとは言いましたが、毎日コツコツ努力するのが苦手なんです。継続しなきゃと気持ちをすり減らすのがイヤで。犬犬さんが漫画を継続できるコツを教えてください。
犬犬
僕も継続できないタイプなので気持ちがよくわかります。ひとつ言えるのはできるだけしんどくならないようにすることですかね。
神田
知りたい! 教えてください!!
犬犬
「毎日12時更新」みたいなルールを決めるとしんどくなるので、僕の場合は「とにかく続いていればいい」とできるだけハードルを下げています。基本毎日更新がいいと思いつつも2日〜3日おき更新ですし。
神田
継続して漫画を描いている方にそう言ってもらえると安心しました。ちなみに1本どれくらいの時間で描いているんでしょうか。
犬犬
だいたい15分くらいですね。下書きしないで一発書きです。描く時間も明確には決めず、朝の空き時間を使ってささっと描くようにしています。正直オチがつかなくてもよくて、オチがつけばラッキーかなくらいの気持ちで描いています。
神田
私は無理やりオチをつけないと怖いタイプなのでその姿勢ってすごい……。あとiPad立ち上げて設定して……みたいなのもしんどいんですよね。
犬犬
わかります。僕はiPadでコマの枠線だけ描いたレイヤーを作っておいて、それをコピーして貼り付ければすぐに漫画ができるようにしています。ひとつのファイルにちがう漫画が描かれたレイヤーがたくさんできる、みたいなイメージです。ペンの太さもフォントもフォントサイズもすべて統一して使っています。


神田
私はいちいち設定してたので、描くのがめんどくさくて写真だけを入れるようにしていました。統一しちゃえば写真入れるよりペンで描いたほうが楽なのかも。
犬犬
フォーマット化できるところはしてしまって、考えるリソースを減らすというのが継続のコツかもしれないですね。
神田
現役でコンスタントに漫画を描いてる人もやっぱりしんどいんだと知って勇気が出ました。無理なく続けていれば、いつか向き合い方が変わる日も来るのかも。
犬犬
僕も「せっかくだから」で始めた育児漫画が、ここまで多くの人に読んでもらえているのが未だに信じられない気持ちです。継続してからわかることもあるので、無理のない範囲で続けてみるのが大事かもですね。
おわりに
ということで、漫画家の犬犬さんにエッセイ漫画の描き方と続け方をお聞きしました。
「やるぞ!」ではなく、「せっかくだから」という気持ちで育児漫画をスタートされたのがすごくいいなと思いました。私は今のところ漫画で成り上がるハングリーさはないので、せっかくだから何かを記録するかという描き方が性にあっているなと感じます。
そして、継続するためにはとにかくハードルを下げること。以前に「毎日更新するぞ!」と意気込んでXに漫画をアップしていたことがありましたが、1カ月も経たずにやめてしまいました。漫画を描くときのストレスを減らし、無理ない範囲で、1週間に1本でもいいので何か描いてみようと思いました。

この取材を終えて2コマのエッセイ漫画を描いてみました。なんかいいかも。
何気ない日常も漫画にすることで「ネタになったぞ」というお得感があります。漫画にはいろんなジャンルがあるので、いろんな漫画の文法をもっと知りたい! 成り行きまかせの本連載、次回をお楽しみに!!
だいぶ「漫画っぽい漫画」になりましたね。神田さんの他の漫画はGENSEKIでも読めます。ぜひぜひアクセスしてみてください。
みなさんもぜひ肩の力を抜いて、漫画を描いてみてはいかがでしょうか。描いた漫画はぜひGENSEKIにアップしてみてください。
執筆・イラスト
神田匠(GENSEKI/X:@gogonocoda)
協力

犬犬(X:@inu_eat_inu)
この記事を読んだ人におすすめの記事
-
2024.9.24
-
2024.4.9
-
2023.11.21
-
2025.3.7
-
2025.8.14
ライターだから仕事で絵を役立てる 記事にイラストを効果的に入れて「シェーキーズ」をレポート【iPadお絵かき修行 最終回】
-
2023.8.9






