GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

テーマから物語を考え、見る人に伝える方法とは?「小さな支配者」イラコン選考レポート

 

こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。

れおえん先生を審査員にお迎えした「小さな支配者」イラストコンテスト。物語が詰まったイラストを267点ご応募いただきました!

れおえん先生が絵に込められた題材をていねいに紐解いて選考する中で、テーマから物語を考えるヒントや絵で伝える方法がたくさん学べるレポートです。

審査員
れおえん(X:@reoenl
イラストレーター。 退廃と光が同居した世界観で、”(not) Invincible"なキャラクターたちを描く。国内外IPへの作品提供を軸に、グローバルに活動中。画集に『灰花 hyka れおえん作品集』(PIE International)。1996年⽣まれ、FLAT STUDIOに所属。

インタビューした人

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230919/20230919150037.pngサイトウ
GENSEKIマガジンの運営サポートスタッフ。

 

【最優秀賞】画面全体を使って、ストーリーの驚きを伝える巧みな作品

Territory/けろ/KERO

れおえん
最優秀賞はけろ/KEROさん『Territory』です。

「小さな支配者」は擬人化された2人のカラス。この絵のいいところは、その小さな支配者が支配している場所が、おそらく2畳ぐらいの小さなゴミ捨て場であること。「支配者」なのにちっぽけな存在で、占拠している場所も本当に小さなゴミ捨て場なんです。

支配者も小さければ、場所も小さい。そんな世界の狭さと切なさ。ある種の「貧すれば鈍す」をセンセーショナルに描いていて、題材とストーリーがとてもすてきだと感じました。

 

サイトウ
テーマを表す題材選びがよかったのですね。

 

れおえん
それを伝えるための構図もよかったです。イラストの視点にも意図があり、人影までは描かれていませんがカメラの視点は「ゴミ捨て場に来た誰か」のものだと想像できます。その誰かに向かって、カラスの1人が横たわるもう1人を守るために威嚇している。表情からも警戒しているのがわかります。

 

サイトウ
キャラクターの羽や服も象徴的ですね。

 

れおえん
羽はわかりやすいですし、服もゴミ袋をモチーフにしていて、キャラクターデザインとして簡潔に役割を果たしています。

まわりに目を向けると、キャラクターの手元には青い花があり、二人の関係性がかすかに想像できます。
ゴミ袋などの散りばめられたモチーフでゴミ捨て場ということもうまく伝わってきますし、手前にはガラスの破片やゴミのようなものがたくさん落ちていて、臨場感を感じます。

光源には、差し込む朝日のような風情があります。手前の子はしっかり明るく、後ろの子には手元と顔に少しかかるぐらいになっている。光にも「絵をどう見てほしいか」の意図が込められています。

いろいろな要素が計算されて配置された構図で、完成度が高いイラストです。

 

サイトウ
細かく解説いただいて、こちらの絵にこめられたストーリーの解像度がより高まった気がします。この絵が最優秀賞に選ばれた決め手は、どういったところでしょうか?

 

れおえん
佳作も含めて今回選んだ3作品はどれもすてきでした。その中でもこの絵は「伝え方」と「伝える内容」の両方がとてもよく、お手本のようでした。

ストーリー作りの驚きの込め方や、構図全体を使って題材を表現していることなど、イラストの情報量も多く感じました。また、「今の人に喜ばれる絵」を描ける感覚もいいですね。自分もイラストレーターとして「こういう題材で、こういう描き方をすれば、今の人たちに喜ばれやすい」という感覚がありますが、大切な点だと思います。

 

サイトウ
けろ/KEROさんへのコメントがあればお願いします。

 

れおえん
見ていてとても楽しい絵だったので、これからもたくさん描いていただけるとうれしいです。

受賞者コメント

このたびは、このような賞をいただき誠にありがとうございます。れおえん先生にいただいた講評がまさに意図して描いた点でしたので、細部まで見ていただいて幸甚に存じます。

この作品は、ゴミ捨て場でゴミを漁るカラスから着想を得て描きました。カラスというとゴミを漁る嫌われ者というイメージがありますが、彼らにとってゴミ捨て場は家であり、残された最後の縄張りなのではないか……という思いから発想を膨らませました。ゴミ捨て場という小さな空間を占拠する2人のカラス、その2人の関係性や状況を想像して見ていただけると、大変うれしく思います。

全体の描き込みや配色などまだまだ実力不足だと感じる点が多いですが、さらにスキルを磨き、見る人の心のどこかに引っかかるような作品を作っていきたいと思います。

 

【佳作】テーマに対する物語の工夫、それを伝えるための構成がおもしろい2作

猫に支配されちゃう!?/Airi

れおえん
「小さな支配者」に猫を設定した作品はいくつかありました。その中でこの作品が一番、伝える内容と伝え方がすてきで選びました。

 

サイトウ
具体的に、どんな点がよかったでしょうか?

 

れおえん
猫をかわいがりたい、手懐けたいと支配したがっているのは女性の方。なのに実際は、猫のあまりのかわいさに逆に支配されちゃった、というほんわかしたお話がおもしろかった。

支配したかったのは人側だったのに…という前振りがあっての絵になっていて、題材の作り方がよかったです。

 

サイトウ
「伝える内容」がユニークですね。絵の「伝え方」はどうでしょうか?

 

れおえん
伝え方もとてもいいですね。いろいろな表情、動き、姿勢で、ストレートに猫がかわいく描けています。

加えて、一番上の大きな肉球。かわいさをクローズアップする意味でも効果的だし、小さい猫が人を凌駕することを、絵的に嘘をついたサイズ感で表現しています。実質的に強いのはこの絵の中では猫の方なんだよ、というのを効果的に伝えられています。

 

サイトウ
猫のかわいさに負けちゃったのがひと目で伝わりますね。

 

れおえん
ほかにも、後ろに描かれているカーテンのような布が絵の視線誘導を促しています。描き慣れていてうまいというか、表現の引き出しを駆使している印象です。

女性キャラクターも気が抜けるやわらかい雰囲気が出ていていいですね。表情もいいですし、脱げたスリッパが絵に生活感を与えています。また、酒瓶がここにひとつあるだけでこの女性がどういう性格をしているかまで伝わります。

絵にモノひとつ描くだけで伝わることがある。描くモノの重要度にかかわらず、それぞれが伝えられる情報って大きいよね、と思い出させてくれる。そういうところも上手だと思いました。

 

気になる/よまい

れおえん
タイトルの「気になる」はニキビのこと。ニキビを気にする女の子が真ん中にいて、鏡で顔を見ている。移動教室か何かで友達が手を引いているシーンが、学校の階段という狭いけれどみんなの記憶に残っている場所で描かれています。

「小さな支配者はニキビ」だとわかったとき、「そうきたか!」という驚きがありました。

【コンセプトや作品背景】
ほっぺたに出来たニキビで頭がいっぱいな女の子。
思春期の頃は、ほんとうに小さな些細なあれこれが気になって頭が支配されていたように思います。
【見てほしいポイント】
内容としては限定された場面を描きましたが、見てくださる方が様々なことを思い起こしたり想像して頂けるように、余白のある画面作りをこだわりました。

実は、僕はニキビができたことが一度もないのですが、ほっぺたという顔の目立つところにできると気になるだろうな、それが思春期なら、なおさら強く気になるだろうな、と伝わってきました。

 

サイトウ
私はニキビに悩んだ経験がありますが、経験者としても共感性が高いです。鏡に映る顔が実際より大きく描かれている気がして、この子の気持ちが表れているのかな、と感じました。

 

れおえん
そうかもしれませんね。よまいさんはニキビが気になってしょうがない経験をされて、それを「ニキビに支配された」と発想したのがとてもおもしろいです。

目のつけどころや感性が繊細で、その華奢な感覚を、絵を通して誰かに伝えたい、共感してほしいという意図を、題材の選び方から強く感じました。
よまいさんの持つ感覚と、伝えたいという気持ちがよかったですね。

 

サイトウ
伝え方という点はどうでしょうか?

 

れおえん
イラスト表現にも、いいところがたくさんあります。

まず構図ですが、キャプションの通り余白の多い構成のなかで、主題である「小さな支配者のニキビ」が画面の上の方に本当に小さいピクセルで描かれている。極まったサイズ感のうえ、鏡越しに見ることになっていておもしろい。

それから表情。単に不安そうな顔を描くだけではなく、隣に笑顔の子を置くことで対比がつくられています。

また、パースがとても直線的で、立体というより平面的な画面構成になっています。縦のパースはきっちり縦に伸び、奥行きのパースもごたつかず、シンプル。でも床に目を向けると、窓から入ってくる光はふわっと鈍く入っていて、床の材質に鈍く反射して上履きの裏に映っていたり、階段の下の方は薄暗くなっていたりする。「光を使ってこの絵をどういう印象にしたいのか」を考え、実践していて、確かな臨場感が出ています。

こうした雰囲気をつくるためのライティングや、緑を主体にしたもの寂しさを感じるような色使いなど、イラスト全体の要素が何のためにあるのかというと、ほっぺたの小さなニキビなんです。

その小さな異常、支配者を見てほしいから、こういう絵にしている、という伝え方がすごくよかったですね。


【総評】伝える力を鍛え、伝える内容を工夫して、もっと見応えのある作品に

サイトウ
コンテスト全体を振り返って、いかがでしたか?

 

【コンテストのコメント】
たった1枚の画像から、物語によって見る人の想像力をかきたてられるのが、イラストの醍醐味のひとつです。 今回は「小さな支配者」というキーワードを設定させていただきました。これを出発点として自由に想像を膨らませて、思いついたアイデアをイラストで表現してみてください。 ”すごい”イラストでなくとも構いません。ただ、イラストを通じて物語と世界を皆さんと一緒に楽しみたいのです。 ぜひ、お気軽にご参加ください。 

【審査するポイント】
・イラストを通して「小さな支配者」にまつわる魅力的な物語が伝わること

 

れおえん
まず、267作品ものたくさんのご応募をいただいて、本当にありがとうございました。

僕は、お話を作ってそれをイラストにするのが好きな人間です。それをいろんな絵を描く人たちと共有して、イラストを見せていただけたこと、「やはり世の中にはたくさんお絵描きする人がいて、自分と似たような視線で世の中を見て感じて共感できる人がこんなにいるんだ」と実感できたことが、とてもうれしかったです。

 

サイトウ
ひとつひとつ作品をていねいに見て下さって、受賞された方もうれしいと思います。ありがとうございました。
選考はどうやって進められたのでしょうか?

 

れおえん
最初に、応募一覧のサムネイルを見ました。サムネイルの状態で目を引くことはイラストとして非常に大切なので、まずはその印象で選びます。

次に絵のストーリーがおもしろいかどうか、内容を精査します。描いてあることやお話を解読していくと「ああ、こういうことか」と作者がやりたいことの驚きや楽しさがわかってきて、ワクワクしたりテンションがあがります。

こうして「伝え方」と「伝える内容」が両方ともよかった作品を選びました。

 

サイトウ
「伝え方」と「伝える内容」を充実させ、コンテストで選ばれるような作品にするためには、どうしていったらいいでしょうか?

 

れおえん
最初に言えるのは、画力について。人物なら人の形に説得力があるか、モチーフが何かわかるように描けているか、背景に何が描いてあるかが分かるように描けているか、といった点です。これは最低限必要なレベルがありますし、受賞された3作品もさらに上を目指せると思います。

 

サイトウ
それが何かわかるというのは「伝える」うえで大事ですね。

 

れおえん
次に「伝える内容」ですが……前提からお話しすると、このコンテストは「テーマに沿って絵を描けば、それだけで伝えたいことはできあがる」構造にするねらいがありました。それでストーリーの種になるテーマを「小さな支配者」というキーワードにしました。

「支配者」というイメージに、「小さな」という形容詞をつけて、ある種の驚きというか、期待の裏切りをしています。そのためテーマに沿ってお話を作るだけでも、イラストは成立するようになっているんです。

 

サイトウ
テーマ自体、かなり深い目的を込めて作られていたのですね……! 

 

れおえん
そのテーマの中で、受賞作品やいいと感じた作品は、さらに上を行っていました。「小さな支配者が小さな場所を占拠している」とか、猫と人間のように「小さな支配者に対して対抗する勢力が描かれている」など、見る側に理解しやすい形で、もうひとひねりされていました。

そういった工夫をして描いていくと、見る側もより一層楽しく、見ごたえがある絵になると思います。

 

サイトウ
絵に物語を込めるヒントなど、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

▼現在開催中のコンテスト

 


 

執筆kao(X:@kaosketchWeb

編集https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230725/20230725162318.png坂本彬斎藤充博(X:@3216Web