インタビュー漫画で大変なことは?──『発達障害なわたしたち』町田粥×担当編集が明かす

発達障害を持った漫画家である町田粥先生が、同じく発達障害を持った方々にインタビューをした漫画『発達障害なわたしたち』(祥伝社)が話題になっています。

こうしたインタビュー漫画はどのようにして作るのでしょうか?

  • 具体的な工程は?
  • 話を聞き出すコツは?
  • フィクションの漫画の制作と違う点は?

作者の町田粥先生と、担当編集者の神成明音さんにお話をおうかがいしました。

お話を聞いた人

町田粥
漫画家。作品に『発達障害なわたしたち』、『吉祥寺少年歌劇』、『桐島学園生徒会執行部』(原作担当。作画・渡辺カナ)、『マキとマミ ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』。『発達障害なわたしたち』では仮面をかぶり「Mちだ」として登場する。

神成明音
漫画編集者。株式会社シュークリーム所属。『発達障害なわたしたち』の担当編集。作中では仮面をかぶり「K成」として登場する。

(聞き手:斎藤充博)

インタビュー漫画を描いた理由は「いろいろな人に発達障害の話を聞いてみたかったから」

――まずは『発達障害なわたしたち』の制作のきっかけについて教えていただけますか?


町田
以前から「私は発達障害なんじゃないか」ってずっと思っていて、病院で診察してもらったら、やっぱりそうだったんですね。それをSNSに投稿したら、そのとき連載していた『吉祥寺少年歌劇』の担当の神成さんから「私も発達障害です! 最近診断がおりました!」ってメッセージが来て。

神成
そうですね。「私たちふたりとも発達障害なんですね」って、盛り上がりました。そして『吉祥寺少年歌劇』の連載が一度終わった後に「次は発達障害について描いてみるのもいいかもしれない」という流れになったと記憶しています。


――今回のインタビューのテーマは「インタビュー漫画の描き方」なのですが、なぜ『発達障害なわたしたち』はインタビュー漫画になったのでしょうか? 発達障害をモチーフにするとしても、いろいろな形式が考えられそうです。


町田
発達障害の当事者である、自分の体験談を描き続けるエッセイ漫画にする方法もありますよね。ただ、自分自身のことを描き続けるのは、早々に限界が来てしまいそうな気がしたんです。


神成
町田さんや私のことだけを描き続けても、そんなに描くことがないだろうし、体験談としてはちょっと偏るかもしれない、という話はしていましたよね。それに私たちも知りたいことが多くて、いろいろな人の話を聞いて出していけたらいいな、と思っていました。

質問は決め打ちせず、その場の流れに沿って話を聞く

――インタビュー漫画の制作工程をおうかがいしたいです。まず、取材をお願いする方はどのように探すのでしょうか?


町田
SNSやインタビュー記事などで発達障害を公表している方を中心に、取材をお願いしています。


神成
この方にお願いしたいと決まったら、私の方からご依頼をしています。町田さんの直接のお知り合いであっても、取材後の内容確認のお願いなどもありますので、私からご連絡するようにしていますね。


――私のようなライターはインタビューに際して質問案を作って、前もってお送りしておくことが多いです。『発達障害なわたしたち』ではどうでしょうか?


町田
質問案は作っていなくて、その場の流れに沿って話をしています。


神成
子どものころの話をうかがって、困りごとをうかがって……という大まかな流れはできていますね。


――『発達障害なわたしたち』では、取材対象者の自宅に行ったり、オンラインだったりと、いろいろな方法でインタビューをされていますよね。


町田
実際はオンラインでインタビューすることが多いです。ツールはGoogle Meetですね。この連載が始まったのが新型コロナウイルスが流行していた時期ということもありますし、遠方の方にインタビューすることもありますので。


神成
インタビューをどのような方法で実施するかは、取材対象者さんの希望にあわせて、という感じですね。

あえて踏み込んだ質問をすることも

――インタビューをするにあたって、話を引き出す工夫や気をつけていることはありますか? 特に『発達障害なわたしたち』では個人の深い話を聞き出されているので知りたいです。


町田
私は「お話を聞かなくちゃ」と思うと、それだけで精一杯になってしまうんです。いつも神成さんがインタビューには同行してくれるんですが、お話上手でうまく場を回してくださっていますね。


神成
とんでもないです。でも、私が静かにしていたら町田さんは困るかな……? と思って、意識的に多めにしゃべっています。

とくに「ちょっと失礼かも?」というような踏み込んだ質問は、私から聞いています。町田さんが失礼と思われるより、私が失礼と思われた方がいいかな、って。

おずおずと「(発達障害の)診断を受けられてどんなお気持ちですか…!?」と聞くK成さん
(『発達障害なわたしたち』2巻より ©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS)

――インタビューだと、失礼になる可能性があっても聞かなくちゃいけないことがあるのが普通ですよね。私の話になってしまいますが、「なんにもわかってない人のフリして聞く」みたいな瞬間はよくあります。


神成
そうですね、悪意がないことが伝わるようにお話しするのが本当に大事だと思います!!


――インタビュー中に話が想定していた方向に行かないときもあるかと思います。そんなときは、どうしていますか?


町田
あまりそういうこともないですね。というのも、演者の方にお願いするときに、ある程度こちらの意図やトーンを伝えるようにはしています。

発達障害には、自分の中でまだ折り合いが付いていなくて重たく捉えられている方と、自分の中で折り合いが付いていて発達障害と一緒に暮らせている方がいると思うんです。その中でも、私が発信していきたいのはどちらかというと後者のお話です。

「発達障害という特性はあるけど、それはそれとして、みんないろんなことあるよ、それだけで人生の勝ち負け決まってるわけじゃないよ」という私の考えがベースにあるので。

だから最初に連絡するときと、インタビューの最初に「明るいトーンにはなりますが、いいですか?」とは確認をしていますね。


神成
そうですね。あと『発達障害なわたしたち』は、1巻の前半で私たちの話を明るくしているので、明るい漫画だとわかっていただけるのではないでしょうか。

インタビュー音声は文字起こしをして、一度プロットに整理する

――インタビューが終わったら、制作に入っていくわけですね。どんな流れになるのでしょうか。


町田
まずは文字起こしですね。NottaというAI文字起こしアプリも使っています。ただ、完全にAIに任せられるというわけでもなく、音声を何回か聞き直すことになります。自分の声を聞いているのが苦痛で、ここで2週間くらい寝かしてしまうこともあります……。


――文字起こしをしたら、次の工程はネームでしょうか?


町田
ネームの前にプロットを作ります。会話って、あちこちに話題が飛んだりしているものですよね。それをそのまま出してしまうと、読者の方には理解しにくい流れになってしまいます。

なので、大きな話題ごとにまとめて組み替えるような作業をしています。最初の10分間でしゃべったことと、そこから1時間過ぎてしゃべったことをつなげたりするんです。これはけっこう大変で、不揃いなりにも積み上げていくというか……ジェンガをやっているみたいなイメージです。


――プロットを作るときにどんなことを意識していますか?


町田
基本的には時系列が読者の方が理解しやすいと思っています。「子どもの頃はこうで、成長したらこうなって、いまはこんなことで悩んでいて……」というように。

それから、『発達障害なわたしたち』は一話が10ページで、最近では一人の方について3話で構成することが多いです。このとき一話ごとに、「おもしろい」と思えるような山場を一つ入れるようにしています。

やっぱり、「おもしろかった」って読者の方にも、取材対象者の方にも思ってほしいので。ただ、時系列の方が優先度が高いので、必ずしもこうできるわけではないですね。

話し言葉をまとめるコツは「1回寝る」こと

――ネームを作るときに、インタビュー漫画ならではの工夫や注意点はありますか?


町田
インタビューで実際にしゃべった言葉を、そのまま抜き出してしまうと長くなるんですよね。だからできるだけ短くまとめるようにはしています。工夫としては「1回寝る」ですかね。


神成
それ、大事ですね~!


町田
脳が疲れて、頭が煮えてるような状態だと、文章を短くまとめられないんですよね。1回寝て冷静になれば、できるんですが……。これって、漫画家あるあるではありますね。作画でもそうです。寝れば客観的になって、うまくいく。


――ただ、連載をしていると、どうしても一度寝る時間がないときもあるのではないでしょうか?


町田
そうなんです。そのときには、そのままネームを神成さんに渡して、気になった点については指摘してもらっています。私の第二の脳として。


神成
「第二の脳」とまで……!? 信頼してくださってうれしいです……!


――神成さんの方では文字を少なくするコツなどありますか?


神成
町田さんは漫画がお上手なので、文字がある程度多くても読めてしまいはするんですが……。なくても意味が通じる言葉は削れますよね。たとえば「ということ」とか……。

解説
「ということ」は削っても意味が通じることが多い。

体調が回復しているということだ。
体調が回復している。

あとは文字を少なくするコツというよりも、「文字を読みやすくするコツ」にはなりますが、ところどころ太字にして読みやすくする、文字の級数を上げる、といったことはしていますね。

見開き単位で同じ構図にしないようにカメラのアングルを変えていく

――実際のインタビューの状況って、話をしているだけですよね。絵に動きを出すためにどのような工夫をしていますか?


町田
油断すると画面が単調になってしまうので、カメラをグルグルまわして、同じアングルにならないようにしてます。

気にしているのは、見開きの単位で同じ構図にならないことです。パッと開いて見たときに、「同じような絵があるな」と思わなければいいかな、と。

3人で座って会話をしているという状況だが同じ構図はない
(『発達障害なわたしたち』1巻より ©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS)

神成
あと、何か食べる描写も入れてくださっていますよね。お団子食べたり。


町田
そうそう、お茶を飲んだりもしていますね。リモートインタビューが多いので、実際は何かを食べたりしていることはないんですが。

実際はリモートインタビューだが、背景を和にしてお茶とお団子を描写
(『発達障害なわたしたち』2巻より ©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS)

神成
比喩的な表現もすごく描いてくださっていますよね。


町田
雑誌のカットイラストを制作するようなイメージで描いています。
話をしているところばかりを描かなくてもいいかな、とは思うんです。

比喩的な表現の例。よく見ると「毒水」の描写がとても細かい
(『発達障害なわたしたち』1巻より©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS)

漫画をわかりやすくするために、ほんの少しフィクションを入れる

(『発達障害なわたしたち』1巻より ©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS)

――この「漫画の強キャラっぽい」という合いの手、すごくおもしろいと思いました。こういう言葉は、後から入れるんでしょうか? インタビューの現場で出てきていたらすごいです。


神成
これは実際に言ってましたね。


町田
ただ、実際に言っていないことを後から補足で入れることもあります。もちろん、嘘にならない範囲で、ですが。ここの場面が楽しかったとか、笑いどころをわかりやすく示す演出はあったほうがいいかな、と思っています。

現実のことを描いていたとしても、漫画という形式なら程度はフィクション性が高くても許されるとは思うんです。「こんなことは絶対に現場で言っているわけがない」みたいなことが描いてあっても、それで成立しているインタビュー漫画もたくさんあります。

でも、私の作風だとそういったやり方ではちょっと成立しにくいとは思うんです。できるだけ本当のことを描いて、その中にちょっとだけフィクションを混ぜるというやり方をとっています。


――制作した内容に関して、取材対象者の方に確認はとるのでしょうか?


町田
取材対象者の方にネームの確認をしていただくようにしています。


――ひょっとしたら、この段階で大量の修正依頼が来る……なんてこともありますか?


町田
それは、いままでなかったですね。


神成
それはですね……町田さんがとても心を砕いて制作してくれているからだと思います!


町田
(笑)。『発達障害なわたしたち』に出てくださる方に関しては、そもそも心が広い、というのがありそうですね。それに、メディアの前でお話をするのに慣れている方も多いです。そういった方のお話は文字にしても齟齬が少ないですね。

インタビュー漫画とフィクションの漫画、どちらが大変?

――ここまでおうかがいしてきましたが、フィクションの漫画を描くのに比べてインタビュー漫画を描くのって大変でしょうか?


町田
インタビュー漫画だったら、材料はすべてインタビュー音源の中にあるわけです。フィクションの漫画だったら、ゼロから作っていかなくてはいけないですよね。

こう言うと、インタビュー漫画の方が楽そうに聞こえるかもしれませんが……気を遣う場面がフィクションの漫画と全然違って、どちらとも一概に言えないです。


――それぞれの大変さがあるというわけですね。


町田
インタビュー漫画は、取材対象者の方に出ていただくわけです。出ていただく以上、ちゃんと期待に沿うもの、誤解されないものにしなくてはいけないと思っていて、そこには本当に気をつけています。


神成
本当にそうです。時間をかけて漫画にして、誤解されてしまったら意味ないんです! 意味ないんですよ……!


――お二人の丁寧な姿勢が伝わってきました。


町田
ただ……『発達障害なわたしたち』は、内容が発達障害ということもあり、できる限り丁寧に進めていますが、漫画の内容によってはちょっと失礼なくらいなのがおもしろい、ってこともありますよね。


神成
わかります! 『発達障害なわたしたち』にも出ていただいた、カメントツ先生がそうですね。レジェンドな漫画家さん方に対して、あえてちょっと失礼にぶつかっていっておられて。

とはいえベースには相手への深い尊敬があって、強めの表現が先生方の魅力をより引き立たせたりもしています。町田さんとは別の方向性ですが、カメントツ先生の人間的な魅力と漫画力で成立していますよね。


――インタビュー漫画の大変な点が出ましたが、逆に作りやすい点はありますか?


町田
絵柄がかんたんでも大丈夫なところですね。これはもう、私たちの顔については下描きなしでも描けるようになってきました。仮面を付けているから表情もありませんし。難しいアングルが出てきたときは、下描きしているんですが……。


神成
あと、こういう顔のアイコンはすごく便利ですよね。

(『発達障害なわたしたち』2巻より ©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS)

町田
コピペして、ちょっと変えるだけで大丈夫ですからね。

出てくれる人へのリスペクトを忘れずに

――最後に今回のインタビューを読んで「実際にインタビュー漫画を制作してみよう」と思った方にメッセージをお願いしたいです。


町田
いろんな方とお話するので、自分の周りの人と話しているだけではわからないことが聞けます。そして、実際に描くときには取材対象者の方へのリスペクトを決して忘れないようにしてほしいですね。


神成
インタビュー漫画は意外と狙い目かもしれません。もちろん、テーマにもよりますが……。それに、インタビューってやってみると楽しいですよ。


町田
そう、おもしろいですよね。人間って本当に多様なんだなって感じるようになりました。


この記事を書いている私は、もう何年もインタビュー記事をしている制作しているライターです。趣味程度に漫画を描くこともあるので「コツを聞いて、自分もインタビュー漫画を描けるようになれないかな」なんて思っていました。

しかし、実際にお話を聞いていると「現在の自分はこれほどまでに真摯な気持ちでインタビューをできているか?」と改めて考えざるを得ませんでした。

細かいテクニックよりも、自分が真に心を向けてインタビューを続けられるような題材を見つけられるかが重要なのかもしれません。

取材協力
町田粥
X:@machi_kayu

株式会社シュークリーム
Web:https://shu-cream.com/

株式会社祥伝社
Web:https://www.shodensha.co.jp/

企画・取材・執筆

斎藤充博GENSEKI/X:@3216Web

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