「えっ? おれが審査員?」絵の素人なのにイラストコンテストの審査員をすることになったときのコツ

こんにちは、ライターの神田(こうだ)です。私はフリーランスのライターとして活動しており、インタビュー記事やレポート記事のほかに、穴を掘ったり、タイヤに激突したりする記事を書いています。

GENSEKIマガジンではiPadイラスト修行として、漫画家さんやイラストレーターさんなどさまざまな人に教わりながらイラストを描く全6回の連載をしていました。これまでまったく絵を描いたことがなかったので、非常にいい経験をさせてもらいました。

いざ絵を描いてみると、自分の頭の中にあるイメージを目の前に生み出していく楽しさがありました。イメージが立体的にアウトプットされる作業は文章を書くのとはまた違う体験です。楽しさもありつつも絵を描くのってやっぱりしんどいんですよね。
それゆえ、連載以降「絵を日常的に描く人ってすごい!」と畏怖の念を抱くようになりました。アイデア出しして、機材を立ち上げて、下描きして……などと、やることがいっぱいある!
そんな折、GENSEKIから「イラストコンテストの審査員をやってみませんか?」とのお誘いが。おれでいいならやるけどさあ、ホントにいいのね? と引き受けました。
ということで、8月15日〜9月30日の約1ヶ月半、「街に落ちていたもの」をテーマにイラストコンテストを開催しました。なんとCLIP STUDIO PAINTさんの協賛! いつもありがとうございます!
おかげさまで64作品が寄せられました。これは、私が昔通っていた中学校の全校生徒と教職員を合わせても敵わない数字です。応募してくれた皆さん、本当にありがとうございました。
今回の記事では、絵の素人がイラストコンテストの審査員を務めての感想や、審査に悩んだことなどを振り返らせていただければと思います。一生に一度あるかないかの審査員レポート、これから何かコンテストを主催し、審査員を務める人の参考になれば幸いです。結果発表と合わせてお楽しみください。
難しかったテーマ選び

たとえば未開封の半額おにぎりなど
テーマはおこがましくも審査員である私が設定しました。テーマ選びは非常に難しい! 難しすぎると応募のハードルが上がるし、かといって特定のテーマに固めすぎると応募者の自由度を狭めてしまいます。もしみなさんがイラストコンテストの審査員をやることになったら、まずここでつまずくと思います。
今回のテーマは「街に落ちていたもの」としました。これは私がWebライターとして10年近く活動していることとも関係しています。
世の中にはさまざまな記事が存在します。企業のブログ記事や、ECサイトで商品をPRする記事、商品のレビュー記事、スマホやPCで見かけるほとんどの記事はどこかのWebライターが締切に苦しみながらがんばって書いていると思っていいでしょう。
それら記事を本当に乱暴に分けるとするならば、「まじめな記事」「おもしろ記事」の2つに分けることができるのではないかと考えています(これは私の感覚であってこれが正しいわけではありません)。私は職業ライターとして両方のジャンルを執筆してきました。
「まじめな記事」はニュースの速報や、誰かへインタビュー記事、情報を集めてコツコツ検証する記事などが挙げられ、そして「おもしろ記事」は自身で企画を立てて検証、ときには体を張って試してみる――といった作家性の強い記事が挙げられると思います。
これは情のない言い方をすると「役に立つ・役に立たない」ということなのではないでしょうか。が、冒頭に紹介したタイヤに激突する記事は後者ですね。なくても困らないし、誰かの命を救うものでもない。
でも役に立たないからやらない、というのは非常にさみしいことです。役に立たないことの中には豊かさがある。なんでも役立つことに還元されるのはみっともない! これは自己保身のためのセリフではありません。

ここで今回のイラストコンテストのテーマに立ち返りましょう。今回のテーマは「街に落ちていたもの」。道端に落ちていたものをテーマにイラストを描いてもらいました。

もし私がどんぐり好きの動物だったら一生忘れられない日になる
「おもしろ記事」を書くWebライターにとって路上観察は基本中の基本(私の身の回りだけかもしれませんが……)。落ちているものを観察し、なぜそこに落ちているのか、誰が落としたのかなど背景を想像するとさまざまなストーリーが見えてきます。そうしたおもしろがり方はきっとイラストの制作にも生きてくるはず。「届けろよ」「捨てろよ」という“役立ちの妖怪”の声は捨て置きましょう。
以上のことから、「街に落ちていたもの」をテーマにさせていただきました。Webライターとも関係が深く、観察の練習にもなるということで私にとっては天啓のようなテーマでした。落ちているものを観察し、ポイ捨てを糾弾するのではなく、ゴミはゴミ箱へ捨てようと啓発するものでもなく、ただ「きれいだった」「不思議だった」と、素直に感じたことや膨らんだイメージを自由に描いてもらいたかったのです。
こんなに長々とテーマ選定についておべんちゃらを述べる私の様子からも、今回のコンテスト審査員拝命が過酷を極めたことを理解していただけたはずです。
みなさんも審査員としてコンテストのテーマを考えることがあったら、自分が普段関わりのあることから考えるといいのかもしれません。そうすることで、自身の知見も活かせますし、受賞者に納得感のあるコメントを贈ることができます。
いざコンテストが始まってみたら
コンテスト開始後、こんな素人が審査員をやるコンテストに、応募してくれる人なんかいるんだろうかと思っていました。3日後くらいに募集ページを見ると、なんと、応募してくれた人が、いたんです。
「これはとんでもないことになったぞ」と背中にじっとりと汗をかきました。誰からも応募がなかったら思い上がって大風呂敷を広げた私の悪ふざけで済むのですが、そうもいかなくなりました。

「おれが守らなきゃ……」と、一言一句違わずそう思ったのです。応募してくれた方を悲しい気持ちにはさせたくない。みんなも審査員やると、多分こうなります。
審査も悩んだね

ということで、64作品すべてをじっくり拝見して審査させていただきました。大賞(たまげたね賞)には「CLIP STUDIO PAINT PRO 1デバイスプラン(1年分)」佳作(すごいよ賞)には褒めちぎりコメントが贈られます。
あらためて64作品も集まったなんてすごいです。応募人数の多寡は問題ではないとはいえ、コンテストに応募するという明確な意思を持った人が64人もいた事実は審査員としての私を励ましました。
意気込んで臨んだのはいいものの、審査、正直むずすぎる!!!!
皆さんが時間をかけて描いてくれた作品、どれもナンバーワンだしその人にとってのオンリーワンなんですが、審査という都合上どうしても受賞させてあげられない作品が存在します。それが非常にもどかしい。
全員に賞をあげたい気持ちはやまやまですが、それだとコンテストの存在意義がなくなってしまいます。ということで心を鬼にして選定させていただきました。これからイラストコンテストの審査をする人は、鬼になる覚悟をしておいてください。仮に温情で全員に賞をあげても、きっと受賞者はうれしくないはずです。
イラストコンテストの審査員をやってみると、「私よりはるかに絵がうまいし努力している方々の作品について私がとやかく言うのはおこがましい」なんて思うかもしれません。というか、私が今回そう思いました。ですが、世の中にあるほとんどのものって「素人」が評価しているわけです。
身の回りにあふれる漫画やイラスト、音楽、映画、果ては商品パッケージ、それぞれその分野のプロが手がけていますが、我々はそれら作品を専門知識でもって評価するわけではありません。「なんかいいかも」「好きかも」と感じて手に取っています。
何かを作って立身出世を目指すためには、目の前のプロではなく、さらにその先の一般の人々を満足させないといけないわけですね。とっさに出た嘘のように思うかもしれませんが、これは私が仕事に取り組むうえで学んだ大切な教えです。
ですので、私も「なんかいいかも」「好きかも」と直感的に選ばせていただきました。審査結果とコメントは以下のリンクよりご確認ください!
応募してくれた皆さん、ありがとうございました!
以上、「街に落ちていたもの」イラストコンテストのレポートをさせていただきました。コンテストの審査員をするなんて一生に一度あるかないかの貴重な体験でした。応募してくださった方ありがとうございました。このコンテストが皆さんの絵の上達に少しでも役立っていたら幸いです。
こんなテーマでイラストコンテストを開催してくれたGENSEKIの懐の深さにも驚きました。何かイラストコンテストを考えている企業の方、ぜひ一度相談してみてはいかがでしょうか。
最後に、私も「街に落ちていたもの」で1枚描いてみました。

タイトルは「げんき爆弾りんご」です。
飲み会に行って終電に乗り込んだのですが、人でごった返した車内で椅子の下を見やると、暗がりにりんごが落ちていました。「たまには体にいいものでも食べるか」と購入されたものだと思うのですが、金曜日の満員電車と健康的なりんごのそぐわなさに目を奪われました。りんごが人の邪気を吸い込み膨れて爆発しそうな怖さがありました。鬱血したような不気味な赤色と青ざめた黄色を覚えています。
いや、絵を描くのってやっぱ大変だな。文章なら慣れてるけど、そうした感情の機微やニュアンスをどうにか絵に込めないといけないから。安直すぎてもダメだし、何かのコピーになってしまうのはよくない。伝えることをサボらず、自分の感じたことを100%に近い形で誰かに伝えるためにはもっとうまくなりたいと思うんだけど、やっぱりしんどいんですよね。
こういう絵描きのつらさを抱えてコンテストに応募してくれた人ってすごい。あらためて感謝申し上げます。
人生は長く、ある日突然コンテストの審査員の役割が回ってくることもあります。何かを選ぶ立場になることは緊張しますが、それでも臆せず自分の「なんかいいかも」という感覚に自信を持って選んでほしいです。絵が描けなくても、楽器ができなくても世の中の作品に「なんかいいかも」を感じることはできるから。
また何かGENSEKIでコンテストをすることがあれば応募いただけるとうれしいです。それでは以上、神田がお送りしました。
開催中のコンテスト


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執筆・イラスト
神田匠(X:@gogonocoda)
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