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好きで始めたグルメ漫画がヒットし「得意ジャンル」に。苦難を乗り越えて辿り着いた場所とは ー 漫画家・大竹利朋氏

「グルメ漫画」を武器に、ヤングジャンプを始めとする数々の媒体で連載を持つ大竹利朋氏。

代表作品『もぐささん』のヒットを始めとし、コロナによって自宅で過ごすことを余儀なくされた人たちに向けてTwitterで発起した漫画企画では17.6万いいね!を記録。(2022年6月時点)SNS上でもその存在がさらに知られることとなった。

今回は漫画を描きはじめたきっかけから、『もぐささん』のヒットに至るまでの道のり、普段は窺い知ることのできない連載漫画家の仕事の裏側まで、インタビューにて詳しくお伺いした。

好きで始めたことが「得意ジャンル」という武器になった

『もぐささん 1』 (ヤングジャンプコミックス) 

ーーまず初めに、ご自身の代表作品についてお伺いさせてください。

大竹:ヤングジャンプで連載していた漫画『もぐささん』のシリーズです。
女の子がご飯を食べる漫画なのですが、今やグルメ漫画は当たり前になった漫画カテゴリですが、当時はあんまりなかったので新鮮だったのかもしれません。
ストーリー展開は、男子高校生が主人公の百草みのりに恋をしていて、一緒に立ち食いしたりご飯を食べたり、そこで女の子の食い意地に突っ込んで行くラブコメです。週刊で3〜4年連載を続け、単行本は続編も合わせて全部で15巻出ています。

ーー長い間連載されていたんですね。いつからいつまでの期間で連載されていましたか?

大竹:2013年から2017年くらいで、初連載の漫画なので思い入れが強い作品です。
単行本もそこそこ売れて、評判が良かった作品だったと感じています。

ーーグルメ漫画の先駆けというわけですね。SNSを拝見すると他にも「グルメ」をテーマにした漫画を描いてらっしゃいますよね。グルメテーマを描き始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

大竹:元々自分が食べるのも料理をするのも好きだったんです。あとはモノづくりが小さい頃から好きなので、工作とか実験的な感じで料理は楽しいです。連載してると時間がないので基本毎日の料理は妻が作っているのですが、漫画のための料理は自分で作っていますね。調理過程を何パターンが試したりするので、私が作ると何日も同じメニューになります(笑)
今もガンマぷらすで『小妻なこびとの献身レシピ』という漫画を連載していますが、これもグルメ系ですね。
他のジャンルを描きたい気持ちもありますが、やってみたかったグルメ漫画で人気が出て、Twitterでもグルメ系でアプローチした企画をやってフォロワーが伸びたので、これからも続けたいと思っています。

ガンマぷらす『小妻なこびとの献身レシピ (1)』

ガンマぷらす『小妻なこびとの献身レシピ (1)』

 

ーー描かれる漫画で気をつけていることや、ご自身の作風の特徴だと思うポイントはなんですか?

大竹:読む人を意識して、「見やすさ」には気をつけているところが特徴だと思います。
漫画の描き方でいうと、全体の話の構図とコマ割りをぼんやりと作って、その後に細かく決めて描き進めているので、全体のバランスを大切にしています。
見せ場は、このコマにこのシーン、顔はどのくらいの大きさか、ここは大きく見せたいから次のシーンに持ってこようとか。
作家さんによっては最初のシーンからキャラを動かして勢いで作っていく人もいますが、自分は先に展開の大枠を考える方が相性がいいですね。

過密スケジュールを「休載なし」でこなし続けた5年間

ーー連載作家さんはどのくらいのペースで漫画を描かれているんでしょうか?

大竹:週刊だと2日くらいでネームを作って、3〜4日で作画するスケジュールになります。1週間をどう使うかが週刊漫画の醍醐味ですね…。

ーー毎週そのペースは大変ですね。ストックとかを作られたりもしていましたか?

大竹:僕はストックがないタイプでした。なので原稿を一回でも落としたら、編集の方に迷惑がかかるというプレッシャーがありましたね。
原稿が間に合わない時には「代原」と言う制度があって、手続きすると差し替え用に他の作家さんの読み切り漫画を編集部が用意してくれるんです。誰かが漫画を落としても入稿するページ数は決まっているので、そのページに穴が開かないための保険ですが、それを使うのは新人の僕にはおこがましいのでストックなしで頑張りました。
ただ、ヤングジャンプは数ヶ月に一回のタイミングで公式の休みがもらえるので、何かあってもそこで立て直すこともできます。

ーーきちんとお休みをいただけるんですね。出版社さんによってお休みの間隔・スケジュールは違いますか?

大竹:そうですね。月刊誌ならもっとスケジュールは楽だと思いますし、今はWebメディアで連載をやっていて柔軟に対応していただいてるので、恵まれているなと感じています。
雑誌だと印刷の関係があるので納期もシビアですが、Webだと比較的柔軟ですね。

ーー漫画はどんなツールを使用して描いていますか?

大竹:デジタルで、基本はWindowsのパソコンとWacomの液晶タブレットで描いてますね。
CLIP STUDIOというソフトを使用しているので、クラウド保存しておくと他のデバイスでも編集ができるので、iPadを使ってネーム描いたり、作画しておいたものにペン入れしたり、用事があるときでも外で作業できるのが便利ですね。
Photoshopでやってる方もいるかもしれないですけど、今デジタルで描いてる漫画家さんは、ほとんどCLIP STUDIO一択と言ってもいいと思います。

ーー「一択」と言えるほど定着しているんですね。

大竹:そうですね、CLIP STUDIO以外は周りだと聞かないですね。自分でブラシやトーンも作れちゃうので、なんでもできます。便利すぎて、CLIP STUDIOがないと仕事できないです。

連載を持てなかった時期も「あれ以上落ちることはない」という励みに

ガンマぷらす『小妻なこびとの献身レシピ(第8話)』

ガンマぷらす『小妻なこびとの献身レシピ(第8話)』

 

ーー漫画を描くようになったきっかけはなんでしたか?

大竹:絵自体は子どもの頃から描いていますが、それが漫画になったのは中学生の頃ですね。初めは4コマ漫画で、学校で描いて友達に見てもらう。それを面白いと言ってもらえたことに感動して、中学3年生の頃には漫画を描いてジャンプに投稿していました。
そこから「漫画家になりたい」という気持ちが強くなっていったんだと思います。

ーーそこで入賞して漫画家になられたということですか?

大竹:中学生で目指し始めて、それから入賞したのは20歳の時です。手塚賞をいただいて、同じ年に初めて少年ジャンプの増刊号に読み切りが掲載されました。
その後も少年ジャンプで何作か読み切りを掲載させていただいたんですが、少年誌だからこその暗黙のルールが存在して、その隙間をかいくぐらなきゃ…というプレッシャーも感じてしまいました。
なかなか連載が決まらず、そのあたりは自分の漫画家人生の中で暗黒期ですね。

ーー人気の高い媒体ですし、プレッシャーは感じてしまいますよね。

大竹:そんな時に、ヤングジャンプで読み切り漫画を掲載するチャンスがあって、そのまま「もぐささん」を連載することが決まりました。ヤングジャンプは青年誌らしく現実的だったり、オチが緩かったり、おおらかな漫画が多いという性質も自分とマッチした感覚です。

ーー少年ジャンプと、ヤングジャンプでそこまで性質が違うものですか?

大竹:ジャンプの場合だと、例えば忍者がテーマの漫画がすでに掲載されていたら、それは描けない、みたいなルールがあったのですが、ヤングジャンプは比較的そういう規制が易しい印象でしたね。
僕は憧れていた少年ジャンプににこだわって、ずっと燻ってしまったんですが、結果的に体質や作風が合う雑誌が見つかったし、燻っていた期間も「これ以上落ちることはない」という励みになりました。

ーー実体験がある分、教訓にされているわけですね。

大竹:はい。経験で言うと中学からずっと友達に読んでもらっていたこと。絵の好みとかではなく、ストーリーやコマ割りで「面白い」と言われて嬉しかったこと、「面白い」と言って読んでもらうことが、僕の漫画の作風といえる「読みやすさ」に繋がってきています。

ーーご友人との経験が、今の漫画には反映されているんですね。

大竹:そうですね。漫画は芸術と違って、描かない人でも楽しさとか面白さ、凄さが分かるのがいいところですよね。

ーー好きな漫画や憧れている作家さんはいらっしゃいますか?

大竹:好きな漫画も沢山ありますし、好きな作家さんも沢山いますね。中学生の時、漫画を描き始めた頃は、「みどりのマキバオー」を描かれているつの丸先生の漫画を真似したり、「あしたのジョー」(原作:高森朝雄/漫画:ちばてつや)に似せて漫画を描いたり、好きな作品を二次創作してました。

ーーTwitterで拝見したのですが、『HUNTER×HUNTER』の作者・冨樫先生と握手したことがあるとか…

大竹:そうなんです。20歳で手塚賞に入賞した時のパーティーで、昔握手してもらったことがあるんですよ。担当者を介してお会いできた時は感激しました。

ーーまさに大御所作家さんですね。冨樫先生Twitterも始められましたよね。

大竹:すごいですよね、開設一日目でフォロワーが100万人増えたみたいですよ。みんなが『HUNTER×HUNTER』の続きを待っているってことですよね。
最近は他の作家さんとの交流はあまりないのですが、ジャンプ時代にアシスタントをやっていて、そのころは色んな先生に就かせてもらっていました。

ーー連載を持っていない漫画家さんはアシスタントに行くことが多いものですか?

大竹:そうですね。連載前の漫画家さんはアシスタントして経験を積むことが多いです。僕のアシスタント仲間も何人も連載をとってアシスタントを辞めていきましたね。

ーー具体的にアシスタントで何をご担当されていましたか?

大竹:背景とか、モブとかですね。その当時はまだアナログが主流だったので、先生の作業室に集まってトーンをガリガリ削ったり、点描を描いたり、細かい仕事も多かった。
最近はアシスタントに行ってないのですが、ここ数年でデジタルに移行した漫画家さんが多いので、データだけ渡してリモートで作業することも多くなったそうですよ。

ーーアシスタント業務はお給料もでますか?

大竹:はい。バイト代のような形ででています。仕事しながら勉強にもなるんですが、大変なときは大変でしたね。締め切り前とかは、すごくピリピリした空気感です。
お金や技術を習得できたというのももちろんですが、何百万部売ってる作家さんはこういう風にやってるんだな、という流れを経験できたのが一番糧になったかな。いい経験でした。

一番厳しい読者は「自分」、納得できる作品を作りたい

Twitter企画『1いいね1円で晩御飯を食べる腹ペコ女子』

Twitter企画『1いいね1円で晩御飯を食べる腹ペコ女子』

ーー大竹さん自身もTwitterのフォロワーが6万人ぐらいいらっしゃいますが、フォロワーが増えたと感じたきっかけはありますか?

大竹:コロナが流行り出した頃に、何かみんなが家でも楽しめることをやりたいなと思って「1いいね1円で晩御飯を食べる」という企画をTwitterでやったんです。
前の日の企画の投稿のいいね数で、夜ご飯が決まるっていうシステムで、ちょうど『100日後に死ぬワニ(原作:きくちゆうき)』が流行っていた頃でした。僕の企画は100日まで続いていないんですけど(笑)それがきっかけで8000人ぐらいから7万人近くまで、フォロワーが増えましたね。

ーー企画力が素晴らしいです!それで一気にフォロワーを獲得したわけですね。

大竹:その投稿をきっかけに、もぐささんを知って、電子漫画を買って、読んで頂いた方もいて、有り難かったです。

ーーさまざまな媒体で漫画を描かれていますが、これまでのお仕事で思い出に残っている仕事はなんですか?

大竹:今までと趣向が違ったという意味で、欅坂46の渡辺 梨加さんが出した写真集を紹介する漫画をヤングジャンプで描いた仕事ですね。本人に直接インタビューして、写真集の裏話やメイキング話をお聞きしてその様子を漫画に起こしたんですが、実際にお会いしたときは『欅坂の方だ!!』ってテンションが上がりました(笑)
ただ、漫画では渡辺梨加さんに似せて描くために顔のバランスをとるのが難しかったです。でも今までは、自分のオリジナルの漫画ばかり描いてきて、実際の人物をモデルにすることもなかったので、チャレンジできたのも面白かったです。
自分の編集担当が欅坂46の仕事もやられている方だったので、連載が終わったタイミングで、その仕事を紹介してもらえました。

ーーすごい!本当に多岐に渡っていろんな漫画のお仕事をやられているんですね。漫画を描いている中で、幸せだな、とか逆に辛いなと感じることはありますか?

大竹:幸せに感じることはやっぱり、いい絵が描けたり、話がまとまったなと自分で納得できる作品ができた時ですね。
あとはコミックスが重版される時は、人気があるということを物理的に感じることができるので、嬉しいです。世間から面白いって思ってもらえているんだ!とグッときます。
その反面、時間がなくて妥協するときが辛いですね。時間がなくても決まった数の原稿を書かないといけない時、納得できてない部分を妥協してでも仕上げないといけない。
幸せな時と裏腹に、納得できない作品を描いているときは辛いと感じます。

ーーご自身が「納得できるかどうか」が大きな起点になっているんですね。では、これからやってみたいお仕事や挑戦したい漫画などはありますか?

大竹:今はWebtoonが気になっています。今後ももっと大きくなってきそうですし、新しくて面白そうなことなので、やってみたいな、と思っています。得意なグルメ系漫画が少ないようなので、相性良いかもなと思っています。

ーー他のメディアや海外のサイトでも、大竹さんの漫画が読める未来を楽しみにしています!

大竹:ありがとうございます。そうなれるように引き続きチャレンジしていきます。

少年ジャンプにこだわり「燻っていた」時代を経て、ヤングジャンプに転向後は「ラブコメ×グルメ」を描く作家としてヒットし、瞬く間に人気を集めた大竹氏。

厳しい世界でも諦めずに描き続けることで、自分に合うジャンルやスタイルを見つけ出すことができた経験など、クリエイターにとって非常に見習うべきところが多いと感じるインタビューとなった。


大竹利朋(Twitter:@ootaketoshitomo
ガンマぷらすで「小妻なこびとの献身レシピ」、やわらかスピリッツで「結婚が前提のラブコメ」コミカライズを連載中の漫画家。過去作品YJC「もぐささん」続編「もぐささんは食欲と闘う」1いいね1円腹ペコ女子のTwitter漫画など、グルメ漫画を中心に人気を集める。