こんにちは。ライターの斎藤充博です。
今年の2月に子どもが産まれて、家の中がガラリと変わりました。小さい子どもがいる中で仕事をするのは、なかなか大変です。在宅仕事をしている人、みんなどうしているんだろう……?
そんな中、夫婦共にイラストレーターをしながら子育てをしている家庭があるというウワサを聞きました。
夫婦でイラストレーターとは、そうとう珍しいのでは……? イラストレーターの夫婦はどんな風に日々の仕事や家庭を回しているのでしょうか。実際のところを聞いてみました。
神無(かんな)
夫婦共に『御城プロジェクト:RE』『千年戦争アイギス』などソーシャルゲームのイラスト制作や、Vtuberのキャラデザインなどをメインに行っている。7歳の子どもを育児中。
斎藤充博
ライターだけど、マンガを描いたり、イラストを描いたりする。2022年2月に第一子が生まれました。ホント育児って、大変ですね……。
イラストを拝見いたしました。ご夫婦ともゲーム系で、テイストも似ているんですね!
たいちょさん作『御城プロジェクト:RE』より「[夏]唐津城」
神無さん制作 『千年戦争アイギス』より「符術士リャオレン」
たいちょ
夫婦で『御城プロジェクト:RE』や『千年戦争アイギス』などゲーム系のイラスト制作をそれぞれ行っています。
神無
それに加えて、夫婦でLive2DでVTuberのデザインを制作することも多いですね。その他にもそれぞれに個別の依頼をいただいています。
斎藤
こういった2人が結婚されているのは、ものすごく珍しいケースなのではと思いました。
たいちょ
知り合いに何組かいるのですが、やっぱりそんなに多くはないですよね。
斎藤
ちなみに知り合ったきっかけは……?
たいちょ
Pixivで初音ミクの絵を描き合っている仲間だったんです。本当にくだらない雑談みたいなコミュニケーションをとっていて……。
「納豆を、茶碗じゃなくて納豆のパックのほうにご飯を入れて食べるのいいよね」「それやるやる」
みたいな(笑)。
あ、気が合うなと。空気感が。
ちなみに神無さんが女性だと知ったのはだいぶ後ですね。最初は勝手に男性だと思っていました。
夫婦でイラストレーターをしているメリット
斎藤
夫婦でイラストレーターをしていてよかったことはありますか?
たいちょ
フリーランスなので、収入の波はどうしてもあるんです。でも、2人の収入を合わせるとある程度は安定しますね。僕が仕事が少ないときに神無さんは多いとか……。もちろん、その逆もあります。
斎藤
2人だから安定するの、いいですね……。
たいちょ
また、フリーランスの世界だと「クライアントがイラスト発注したのに、イラストレーターからの連絡が途絶えてしまう」というケースをたまに聞ききますよね?
斎藤
ライターでもあるあるですね。
たいちょ
でも、僕たちは夫婦でイラストレーターをしているので、片方と連絡が取れなくなったとしても、もう片方と連絡を取ることができます。
斎藤
クライアントからしたらかなり安心感がある話ですよね。連絡の共有は具体的にはどうしているんですか?
たいちょ
クライアントと僕たちでグループチャットの部屋を作り、そこでやりとりの大半ををしています。こうすると夫婦でやりとりの履歴が分かるので。
斎藤
フリーランスだと、ちょっと風邪引いたりするだけでも、クライアントに連絡をするのが難しいですよね。そういう時に「パートナーは風邪を引いているんで……」という一言があるだけでも、発注側としてはホッとしそうです。
たいちょ
その通りで、実際に風邪引いているときに連絡をしてもらったことは、いままでに何度かありました。
2人でイラストを手伝いあうこともできる
神無
他にも、クライアントの了承のもとで、お互いの線画を手伝ったりもします。
斎藤
そんなことできるんですか!
神無
下絵さえあれば線画はできるんです。ただ、着色を手伝うのはちょっと難しいんですが……。
斎藤
夫婦で組織的にイラストを制作できるということですよね。強い。クライアントとしても安心感がありそうです。
神無
単に作業を分担し合うだけじゃなくて、お互いの苦手分野を手伝うこともありますね。私は1枚絵の背景が苦手なんですが、たいちょに手伝って描いてもらったことがありました。
たいちょ
僕は最初の構想の段階で、真っ白いキャンバスにラフを作る工程が一番苦手で悩みがちなんです。そこにほとんどの時間を使ってしまうことも多々あります。どうしてもお手上げになった時に神無さんに助けてもらうこともありました。
斎藤
夫婦で仕事を助け合えるの、本当に素晴らしいですね……。
神無
あとは、自分だけで作業しているだけでは、なかなか気づけないところってあるんです。そういうときにアドバイスをもらえたりすると、答えがスッと見つかったり……。
たいちょ
たとえば、神無さんが1時間くらい同じところで詰まって、ピリピリしているなっていうのが、分かるときがあって。
そこでイラストを見せてもらって、僕が詰まっている部分の線を抜いてみると、サクサク進んで5分くらいで終わるみたいな。そういうことはよくありますね。
斎藤
すぐ近くに技術面を相談できる人がいるって、すごくよさそうですよね。イラストレーターの人は、みんなうらやましいんじゃないでしょうか。
ちなみに僕は「チームで作業をしているイラストレーターさん」に話を聞いたことがあります。その人は「2人で組織的に作業していても意外と効率化が難しくて、せいぜい1.5人分くらいの作業量にしかならない」なんて言っていました。たいちょさんと神無さんの場合はどうでしょうか?
たいちょ
僕たちはそれぞれが独立したイラストレーターなので、まず確実に2人分以上の作業量はありますね。
それに加えて、お互い助け合っているので、全体としては、2.1人分とか、2.2人分とか、2.3人分とか……ちょこちょこと効率化できているようなイメージです。
斎藤
単に夫婦でイラストレーターをしているということを超えて、完成された理想のチームなんじゃないでしょうか……!
「性癖を感じさせてしまう絵」はちょっと恥ずかしい……
斎藤
ここまでいい話ばかりでしたが、逆に2人でイラストレーターをしているデメリットはありますか?
たいちょ
以前は机を並べて仕事していたので、夫婦といえども「性癖を感じさせてしまう絵」を見られるのは恥ずかしかったです(笑)。
神無
やっぱり描きにくいですよね(笑)。
たいちょ
現在では6畳の部屋の中にそれぞれのブースを作りました。
斎藤
おお! これはどうやって作ったのでしょうか?
たいちょ
板をL字につなげられる金具を使って、板を留めています。あとは机がかなり重たいので、それを重りにして部屋の壁と挟んでいるというイメージです。
斎藤
なるほど、それならそこまで難しくなさそうですね。
たいちょ
先ほどは「夫婦でお互いに見せたくない絵」の話をしましたが、このブースを作ったのはどちらかというと「子どもに見せたくないものを隠す」という目的の方が強かったですね。おかげで現在ではアダルト向けの仕事などもできています。
子育てしながら夫婦でイラストレーター
斎藤
ここからは「イラストレーターをしながら子育て」の話に移らせていただきたいと思います。現在7歳のお子さんがいらっしゃるということですが、小さい頃は大変だったんじゃないでしょうか?
神無
いやあ……。ガムシャラにやっていましたね。
たいちょ
赤ちゃんの頃は、シンプルにつらすぎました……。
斎藤
ご夫婦のどちらかがお仕事を休んで、育児に専念したイメージでしょうか?
たいちょ
育児も仕事も2人でしていました。どちらかが子どもの面倒を見ているときに、もう片方が仕事をする、という感じです。
神無
さすがに普段通りの作業はできなくて、かなり減らしましたね。子どもが月齢3か月くらいまでは、通常の3割くらいの仕事しか請けられませんでした。
生まれたばかりの赤ちゃんは、3時間おきに授乳をする必要があるんです。でも、その中の3時間を全部仕事に使えるかというと、難しくて……。せいぜい1時間くらいしか作業できません。
斎藤
ちょっと待って下さい。僕も最近子どもが産まれたのでわかるのですが、3時間おきの授乳の合間にイラストの作業を1時間していたんですか? 普通はできないですよ。超人としか思えない……!
たいちょ
神無さんは本当にすごいんです。切り替えが早いというか……。いままで別のことをしていたのに、描こうとするとすぐに描き始められる。
斎藤
う~ん。そういった能力もすごいんですが、育児をしながら「やろう」と思えること自体が本当にすごいです。
神無
子どもが泣いてどうしようもないときは、作業を諦めていましたね。いつもできるわけではないです。
大変だったのは、赤ちゃんがある程度成長してから
斎藤
3時間おきの授乳が必要なのは、月齢3~4か月くらいですよね。ここを乗り切った後はどうでしたか?
たいちょ
むしろ生後6か月くらいになってからの方が大変でした。「ずり這い」や、「つかまり立ち」が始まるようになると、赤ちゃんを見ながら仕事をするのができなくなってしまうんです。
あわてて保育園に預かってもらおうと思ったのですが、なかなか入れるところが見つからず……。探して探して、ようやく入園できました。
斎藤
うちの子も7か月くらいで、つかまり立ちが始まっていますね……。いつ転んで床に頭をぶつけるかわからないので、緊張感あります。
神無
2歳くらいになって自我が芽生えてきたときも大変でした。それまではベビーベッドに置いておけば寝てくれたんですが、このくらいの時期は「親と一緒に寝たい」という主張があるんです。
こちらとしてはどうしても作業しないといけない時もあるので、1人で寝てもらおうとすると、ギャン泣きされたり……。
斎藤
「イヤイヤ期」ってやつですよね。在宅仕事とイヤイヤ期の相性は悪そう……。
子育ての負荷は夫婦で分散させるけど……デバフがかかったみたいな状況
斎藤
Twitterの育児アカウントなどを見ていると「お母さんだけが追い詰められているのに、お父さんは気楽に過ごしている」みたいなことってあるあるらしいじゃないですか。たいちょさんと神無さんは、うまく助け合っているので、そういう状況とは無縁なのではと思いました。
神無
私たちはフリーランス同士で、同じ環境、同じ時間で仕事してるので、負担がうまく分散されてたんじゃないかなと思います。これは在宅でフリーランスをしているという強みですね。
たいちょ
ただ、夫婦で負荷を分散させているといっても、やっぱり大変なことは間違ないんです。これが適切な言い方かどうかちょっと分からないんですが、ゲームで言う「デバフ」をかけられているみたいなイメージです。
デバフ
ゲームにおいて能力が一時的に低下する状態異常のこと。反対語として能力が一時的に上昇する「バフ」がある。
斎藤
弱ってしまう、ということですよね。
たいちょ
本来の能力が100%だとしたら、もう50%から30%くらいには低下してしまっている。そういう感覚があります。
斎藤
しかも、ゲームだったらデバフ解除の魔法やアイテムがあったりしますけど、子育てにはないですよね(笑)。
たいちょ
ないですね。ずっと低下したままという……(笑)。
イラストの仕事をすること、家庭を持つこと、どちらも夢だった
斎藤
ここまでお話を聞いていて、家族で助け合えることがあるし、家族がいるからこそ苦労することもあるのかな、と思いました。
たいちょ
そうですね。僕は家庭が欲しいとずっと思っていて。それこそ夢に見ていたんです。家庭を持って、子どもがいるという夢を……。
斎藤
……ん? その「夢」というのは寝ているときに見る夢の方ですか?
たいちょ
そうです。願望としての夢が強すぎて、寝ているときの夢に出てきてしまっている状態ですね。そして、イラストを描いて仕事をしていくこともずっと夢でした。だから、現在は夢が両方叶っている状態なんです。
斎藤
なるほど……。
たいちょ
イラストの仕事については、「完全にイラストだけに集中している人」には勝てない部分も正直あるとは思うんですね。
最初は負けないようにがんばっていたんですが、徐々に「勝てなくてもいいんじゃないかな」と思うようになりました。
勝てなくても、イラストの仕事を続けられているし、家庭もあるし、それでいいんじゃないかな……と。
神無
私もたいちょの気持ちとだいたい同じですね。
元々「絵の仕事でご飯を食べていきたい」という目標がありました。それは叶っていますし、その上に家族がいて、子どももいて、自分ってすごく幸せだなっていうのは感じるんです。
ただ、それでも周りについていけるように絵の勉強をしなくちゃいけないとも思っています。なかなか思うようにはいかないですが。
家庭を持ちながら、イラストの仕事を今後もずっと続けていきたいとは思っていますね。
斎藤
なんだか、すごく素敵な話を聞けたと思います。今日はありがとうございました。
というわけで夫婦でイラストレーターをしているたいちょさんと神無さんでした。「夫婦でイラストレーターってどんな感じだろう?」と思って話を聞いてみたのですが、思いがけず「人生の意味そのもの」を問い直すような流れになりました。
それにしても、たいちょさんも神無さんも本当に立派です。インタビュー中に書いたように僕にも小さい子どもがいるのですが、たいちょさんと神無さんのようになれるのかな……? なんて思いました。
たいちょ
Twitter:@taicho128a
pixiv:たいちょ
イラストレーター 御城プロジェクトRE・千年戦争アイギス・エンジェリックリンク/他作家様テイスト合わせ案件、線画着彩案件多数/Vライバーグラフィック制作(illiam/youtube)
神無(かんな)
Twitter:@monochromu000
Web:ユキネコ亭~snou cat~
御城プロジェクトRE・千年戦争アイギス 東方ダンマクカグラ等ソーシャルゲームブラウザゲーム、Vライバーイラスト制作、1枚絵制作等々。