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【中村佑介先生のゲンセキ合評会・中編】今回は音源つき! 2022年8月「それぞれの美」& 9月「ささやかな愉しみ」

こんにちは、GENSEKI編集部です!

今回は、GENSEKIで毎月開催している月例コンテスト、2022年8月「それぞれの美」 9月「ささやかな愉しみ」の合評会レポートの中編をお送りします!

 

この記事はYouTube動画記事の2パターン、前・中・後編の3本立てです。

 

▼前編

 

大ボリュームですが、音声は作業中に聞き流したり、記事はちょっとしたスキマ時間のおともに読み進めてみてください。記事限定の部分もあります!

 

音声と記事で違った発見ができたり、きっと日頃の絵の悩みで共感できるところや、解決のヒントが見つかると思います!(音源・記事内容は一部編集しております)

 

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コントラストや奥行きで、モチーフの優先順位をつけよう

合評された人:イラストレーターくろしまあきらさん

 

別業界で働きながらずっと絵を描き続けてきたという、くろしまあきらさん。弱点を克服したくて試行錯誤を続ける中で、自分のイラストの良い点・悪い点がわからなくなっているとお悩みです。

https://twitter.com/kurosm10/status/1603325246886461442?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


商業で需要がある日常モチーフを、奇をてらわずに描こう

くろしまさんは路地裏がとても好きですね。3枚目の排気口のサビのような部分など、好きというのが伝わってくるのがいいです。こういうところが個性、武器になります。
ただ、テーマと関係ないものも描かれてしまっています。例えば1枚目の猫・2枚目の扇風機は絵の内容と関連性がありますが、3枚目の犬は脈略がなく、ただ好きで描いてしまっています。

 

柴犬や路地裏が好きと伝わるし、僕も好きだから良さがわかるけど、なんてことない路地裏は仕事では需要が少ないので、ちょっと我慢しましょう(笑)3ヶ月に1回位、好きなモチーフを描いてもいいけれど、描くなら「京都の路地裏」などきちんと設定して描く方がいいと思います。

 

くろしまさんのタッチで商業のお仕事をしたいなら、教科書や参考書などで使えるものを描いていくのが良いのではないかと思います。

 

 

風情がある絵が得意だと思いますが、HPではこの2枚がいいですね。

 

まだ自分の絵に不安があるから、「猫の」パン屋さんにしたり、川に大きな鯉を流したり、珍しいモチーフで絵を成立させるところがあります。SNSの評判も奇をてらえば上がるけれど、そういう絵は商業では使いづらいため、お仕事が来るかとは関係ありません。

その点で参考になると思ったのは、かないさん(Twitter:@kanai_nai_naiです。普通の日常をきれいに描くかないさんが、どんなに凄いことをしているのかわかるようになると、「お仕事が来る」ということも分かると思います。

 

絵が主役不在で不安、という気持ちはすごくわかりますが、不安がらなくて良いですよ、くろしまさんの絵はおもしろい! だから、突飛なモチーフを描かなくても絵を成立させた瞬間にもっとよくなると思います。

 

位置・大きさ・コントラストの3つを使って絵に奥行きをつくる

次はテクニックのお話です。

4枚目は獅子舞の絵で、路地裏を歩いてきた少年と獅子舞がいればいいのですが「喫茶マメシバ」の看板が一番彩度が高く描かれていて、男の子より目立ってしまっています。古めかしい街の演出だけならこの看板は不要です。

 

絵はおもしろいのに、地味な印象になってしまうところがあります。ではどうしたら絵が華やかになるでしょうか?  画像を補正しながら解説します。

 

【ポイント解説】絵に奥行きを作る方法

 

 

立方体が3つ同じ線上に並んでいて、単純な画面に見えます。
この立方体に奥行きを作り、絵を見やすくする方法が3パターンあります。

 

 

1.位置、2.大きさ、3.コントラスト、で作る。今、くろしまさんの絵は全体的に3.の一番右の箱だけになっています。
では、この1〜3を合わせ技にすると……

 

 

全く同じ形で拡大縮小しただけなのに、画面に奥行きが出ました。一番手前は濃く、後ろは淡く周りにとけこんでいき、Photoshopのぼかしもかかっている。
一番手前を目立たせたいのが伝わってきます。

この方法を使って、くろしまさんの絵を見やすくしてみましょう。

 

元の絵/変化を付けた絵

部屋の奥・屋根・軒下の裏を暗くして、手前の草の彩度を明るくしました。

パッと見ではそこまで変えてないのに、てるてるぼうずに目が行くようになりました。少しの変化で印象が変わります。獅子舞の絵を白黒にして見てみましょう。

 

元の絵/白黒にした絵

まずは彩度をなくして白黒にすると、同じ調子のグレーが多く絵がぼやけてしまっています。本当はもっと路地裏を暗く描いたつもりだと思うので、意図通りに絵の明度を調節します。

 

調節した絵/それを白黒にした絵

モチーフの優先順位は、1.獅子舞、2.少年、3.手に持っている提灯で、他は暗くなってもいい。この方が雰囲気が出て絵が見やすくなります。

ここでの課題はモチーフを引っこめるか描かないようにすることです。これくらい落ち着いた色合いだからこそできる仕事はたくさんあると思うので、色は今のところ悩まなくてもいいです。明度だけ気にしてみましょう。

 

SNSで絵をはじめて見かけるのはだいたいタイムラインなので、スクロール中にぱっと目にとまることが大事です。サムネイルでも何が描いてあるのか分かりやすくなると、もっと見てもらえるようになります。
完成した作品をこのように一度白黒にしてチェックしてみると、わかりやすいですよ。

 

硬さを描いて、相対的に柔らかさまで表現できる

さらに言うなら、金属表現で硬さを表現し、絵に光沢感がプラスされるといいと思います。光沢感も、明暗差で表現できます。黒~白の幅が大きいほど固く見えて、なくすと柔らかく見えます。
硬さが描けるようになると、相対的に柔らかいモチーフがもっと柔らかく見えるようになります。

 

モチーフの課題を出すとしたら、描いてみてほしいのは学校、教室、学生です。よくある設定の中でおもしろい絵を描いてみてほしい。学校というモチーフが絵柄に似合うと思います。動物もすごく可愛いので、動物主体の絵も見てみたいですね!

 

くろしまさんは描きたいものがあり、絵の方向性もバッチリ。今まで言ったことを全部できるようになったら、お仕事ができるようになると思います。
私の絵はおもしろいんだと、自信を持って描いていってください!

 

 

商業イラストか作家性か、描いて見極めていく

合評された人:イラストレーター志望 潮見ダニーさん

 

会社員グラフィックデザイナーをしている潮見ダニーさん。今後はイラストの仕事をしていきたいと画風の模索中で、作品の印象や、伸ばす点・改善する点のアドバイスが欲しいそうです。

https://twitter.com/bonbonniere0/status/1603674690945679362?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


商業イラストレーターはありきたりな現代モチーフも面白く描く

潮見さんの絵はとても良い。1・2枚目は油絵タッチで、現段階ではこちらのタッチが特に潮見さんらしさが出ていて良いです。3枚目はデザイン的でタッチに迷っていますね。こなれていますが、他の絵ほど独自性はありません。遊べるイラストとして描いたアイディアはおもしろく、グラフィックデザインできちんとお仕事をされているのがわかります。

それで、これから副業も視野にいれてイラストを描いていきたいと考えているのですね。

 

潮見さんの絵は、Seshiさんのように現代にあるものを描いているのに可愛く仕上げていて、絵に力があります。ただ、くろしまさんと同じように、まだ自信がないから「ペガサスが夜空を飛ぶ」という現代にないモチーフや場面で面白さを出してしまっています。

 

 

例えば、これもいい絵で一見どこにでもあるモチーフのように思えますが、レトロで個人的な趣味に寄りすぎています。それだと商業としては使いづらく、会社としてお仕事の発注は想定できません。

商業イラストレーターになるなら、「うどんを描いて」というような普遍的なものをリクエストされてもなお、潮見さんのタッチで可愛さや面白さを出せるでしょうか?

 

 

たとえば、1枚目の絵のスイカは、切った断面の形が崩れて見えます。左のバナナも色の差が作りにくいから、メインではないのに縁が黒くなっている。左上にある植物もここまで濃く縁を描く必要はなかったと思います。メインはつまみ食いで「実とお嬢様」なのに、フルーツの印象ばかり強くなって奥に目が向きづらい。こういう部分が絵柄の主張の強さでもあるのですが、商業では「描けないのかな?」と判断されてしまいます。

そうなると、この絵柄ではなくお仕事の需要に合わせて描くことになるでしょう。イラスト発注する側が使いやすい絵・タッチに変えていけば、潮見さんのカラーがなくなってしまいます。
また、イラストとグラフィックを両方やる会社に転職し、自分で自分に発注するなら今すぐ叶うと思いますが、潮見さんらしいものが描けるか? というと今と同じで「よくある」を描くことになります。

 

商業イラストとデザインは一緒です。これを頼む会社は? 予算は? というとき、何が社会性があるのか潮見さんは十分わかっているのに、イラストの世界だけ特別だと思ってはいけません。商業イラストレーターを目指すなら、地味でどこにでもあるモチーフを可愛く描けるかが大事です。

でも、無理して絵柄をそこまで変える必要はないのではないでしょうか。むしろ潮見さんはもっとめちゃくちゃな世界観が見てみたい人です。

 

絵本作家なら作家性を生かす道がある

潮見さんは作家性があるので、商業イラストレーターを目指さなくても良いと思います。「作家」としてならどの絵も好きだし、かわいいと感じることができます。グッズがあるなら買いたくなります。

タッチと絵の雰囲気が上手くはまっているので、ここまで世界観ができているなら「絵本作家」を目指すのはどうでしょうか? ストーリーを作る人と組んで1冊絵本を作り、コミティアやデザフェスなどの出張編集部へ持ち込みに行ったら、すぐ採用されそうです。

 

 

商業向けに整った制作はデザインの仕事でしていると思うので、イラストはもっと好きなように描いて、「自分の絵を描いて売っていくんだ!」という気持ちでやってみて下さい。縮こまらないで色々な絵を描いて、もっと飛び立ってほしい。やった後、商業イラストレーターか絵本作家か、選んでいけば良いと思います。それが一番お仕事に繋がるのではないでしょうか。

 

1・2枚目のような世界観のイラストはまだ他になく、特に2枚目のような絵は見たことがないので、この潮見さんの世界観を出した作品をどんどん描いていきましょう。作品が50点くらい溜まったら、また方向性を相談しましょう!

 

 

新しい刺激を求めてパステルカラーの外の世界へ

合評された人:イラストレーターミツメユラさん

 

ここ1年ほど自分のイラストに停滞感を感じており、どう打開していけばいいかわからないとお悩みのミツメユラさん。依頼を受ける中で実力不足を感じ、今後に不安を感じるそうです。

https://twitter.com/mitumenoco/status/1603409058890977281?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


パステルカラーに頼らない絵づくりを意識しよう

まず、絵がとてもかわいいです。ミツメさんの作品を過去から見ると、描けるモチーフの幅も広がっていると思います。絵に対してのやる気は高いと思うのですが、方向性を変えるやる気に結びつかない原因は何だろう、ということですね。

 

パステルカラーというのは厄介で、可愛いけれど流行りだしたのはここ5〜6年です。求められる仕事の幅も意外と狭く、例えば広告ではあまり使われていません。
今パステルがいい感じに見えているのは時代だからで、1990〜2000年代は「パステル=女の子のもの、ダサい、大人向けではない」という評価でした。そこからユメカワとか等身が高い絵にも使われるようになりましたが、あと3〜4年するとだんだん、古いと言われるようになると思います。

全部パステルで描く人は、色に自信がないからパステルに頼ってしまっていることが多いです。パステルを一度禁止にしてみましょう。1~2色は良いけど、あとははっきりした色を使う。中間色はあってもいいです。
または、パステルを使うなら違う年齢の人間を描いてみる、「かわいい」を禁止して「かっこいい」も描けるようにしてみましょう。

 

「ミツメさんといえばパステル」という世界はこのままあってもいいのですが、自分にもっと刺激を与えて、やったことないことをやってみましょう。パステル禁止にしてもミツメさんらしいものは描けると思います。

 

人物の年齢や、絵の物語を考えてみよう

また、ミツメさんが自分の中でぼんやりしているところを極力減らしていくと良いのではないでしょうか?

 

 

例えば3枚目のイラストは、TVになぜ絵がそのまま映っているのか? フワッとしていて、見る人に「この人の絵はファッションとして接種して、じっくり見るものじゃないな」と思われてしまいます。それだと、突破力・瞬発力があるような音楽の分野からの依頼は来なくなってしまいます。

ミツメさんは何でも描けるのですが、今はおっかなびっくりで「かわいい」を選んで、大丈夫ですか……? という感じになってしまっている。「かわいい」の奥に進んでも「かわいい」しかない状態です。そのまま突き進んでストロングスタイルに行くという道もありますが、ミツメさんはまだ、どっちにいくかな?という段階に感じます。
それに停滞感があるというのは、ちょっと今の絵柄に飽きているんだと思います。

 

まずは色とモチーフ、テーマ・設定、物語性を考えてみましょう。絵の人物が何歳か決めてみる、実家なのか、マンションの一人暮らしなのかなどの設定も考えてみましょう。なんとなく可愛い、ではなく「何を伝えるのか」決めていき、モチーフの必然性を考えていけば、描きたい人物の幅も広がります。

背景もここまで描けるようになって、すごく頑張っていると思います。自信をもってパステルの外の世界に飛び出してみてください!

 

 

鮮やかな色を日常で楽しみ、絵の色使いに繋げよう

合評された人:イラストレーター夏音まるさん

 

以前もらったアドバイスをもとに練習を続け、人物への焦りはなくなったが色の悩みが出てきたという夏音まるさん。どうすれば画面がくすまずに、目を惹く色使いが出来るのか教えて欲しいそうです。

https://twitter.com/natsune__maru/status/1604480760555065346?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


絵の中で何を目立たせたいかをまず考えよう

夏音まるさんは以前「漫画の影響を受けた人物の描き方が、絵の世界観に合わない」とお悩みでした。その後人物クロッキーをたくさんして、イラストに戻った時に前より描けるようになり、焦らなくなったということで、よく頑張りました。とても上達しています!
この4枚を見ても、人物を描けるようになっていろいろなものに挑戦できるようになったと感じます。

絵の上手さでいうと、夏音さんはもう「ちゃんと見て描けば良い」とわかるようになったので描けないものはなく、あとは慣れるだけです。パースなども、余裕ができたらいずれ自分からやっていけると思います。

 

では、それ以外の部分で見てみましょう。まずは「絵の中でなにを見せたいか」です。

 

1枚目の絵はゲームショップでどれにしようか迷っている絵。ゲームショップでの妄想が具現化していることが大事なのに、最初に目に飛び込むのが「外にあるゲームショップ? 」ということなのがもったいない。屋内が屋外のようになっていることがアイデアに見えてしまい、主題がわかりにくくなっています。
空と地面を描かないか、地面は普通のゲームショップにすると良かったかもしれません。この子が大量にゲームを抱えているか、2本持って「どっちにしようか迷っている」という表現もできます。

 

2枚目は葉に乗っている非現実的な面白さがある絵ですが、下半身が画面で切れているのか、葉に乗って切れているのか状況が分かりづらい。また、他の葉は普通の大きさなので、「この葉だけ大きい」ことがアイディアとして先に見えてしまいます。
それなら「他の葉っぱと同じサイズで小さな女の子が乗っている」という状態にしたほうがわかりやすくなります。人物を切らずに5分の1ぐらい小さくして、葉が宙に浮いているところを見せても良いと思います。

 

3・4枚目は言うことなし。とてもいいです!

 

テーマに沿って配色を考える

もうひとつ、夏音さんが苦手なのは派手な色を使うこと。色の調和はできていて、2・3枚目にそれがよくでています。1・4枚目は色に元気がなく、じっくり見ないと面白さが伝わりにくく、目が止まりづらい。ではどうするか。ピンポイントに色を変えてみます。

 

【ポイント解説】配色を考える

 

 

ゲームショップの絵の場合、メインカラーがなく芝生の黄緑が鮮やかに見えてしまいます。「この絵の中で何色を目立たせたいのか」を考え、鳥居やタコの足がおもしろいので赤はより明るく、非現実的なピンク色にしました。そうするとパッと目に飛び込んでくるようになります。

他の色はこのピンクに合うように調整します。赤と青はケンカするので、青を紫に寄せる。芝生も深緑にして、空の青も色味を変えている。紫や緑は中間色にあたるので地味にならずに、見やすい画面にできます。

 

元の絵/色を変えたもの

かまくら布団の絵では、内容に沿って「布団の中のぽかぽか感」をよりわかりやすくしました。布団の中の赤とまわりのモチーフのベージュがどちらも暖色に寄っているので、まわりを青っぽい色にして相対的に「周りは寒いけど中は暖かそう」という印象にしました。
「なぜこの中にいたいか?」というのをモチーフでだけでなく、色でも表現できます。

 

このように、あれこれ使わなくても少し色を変えるだけで、絵に惹きができ、より伝わるようになります。サムネイルの状態でどちらに目が行くでしょう? そういう部分を次に勉強するといいと思います。

 

生活でも鮮やかな色の冒険をしよう

では、こういうことを勉強するために何をしたらいいでしょうか? 

 

「鮮やかな色の服を着るのは恥ずかしいし、みんなと足並み揃えたい」という所が夏音さんの良さやあたたかみに繋がっていますが、たまには鮮やかな色の服を着る冒険をするのはどうでしょうか?

色の本を買って勉強しても、自分の絵が奇抜になるのが怖くて、実際には色が使えないかもしれません。でもファッションなら組み合わせによって良くできます。SPURなど大人っぽいファッション誌で勉強して、色のついたスニーカーを買ってみたり、普段使っている小物から変えていって、自分の色を楽しみ、生活の中でわかっていくことが近道です。

 

日常で「この色とこの色の組み合わせがきれい、この色のバランスがかわいい」と思えるようになったら、絵でも自然にできていきます。そうすれば僕がやったような色の補正もすぐできるようになると思います。

 

モニター設定と印刷にも気を付けてみよう

描き終わってスマホで色を確認すると、PCの倍くすんで見えるとお悩みですが、モニター設定で解決できます。特にゲーム用モニターは、ゲーム画面を見やすくするためにコントラストと彩度が高く設定されているので、他のモニターで見たらくすんでいた、というのはよくあります。買い替えるなら、高価でなくていいしゲーム用モニターでも良いから、電気屋さんで設定が調整できるものを聞いてちょっとだけ背伸びしたものを買えば良いと思います。

 

印刷すると色がくすむのは、描いている時はRGBで、印刷する時にCMYKになるからです。RGBの方が色幅が大きいから、印刷できない色で描けてしまい特色印刷でないと再現できません。最近はRGBで印刷できるところもありますが、正確な色の印刷を考えるならCMYKで描きましょう。逆にネットに出す時RGBにして彩度をあげるなどすれば良いと思います。

 

夏音さんは、言われたことをちゃんとやる人で、なぜそれが自分に必要か理解しているので、いろんなものが描けるようになったのが伝わってきてとても良いです。その調子で行きましょう!

 

 

「パッと伝わる絵」を意識し、就職目指してモチーフをきっちり描こう

合評された人:イラスト業界に就職志望の4竹(しいたけ)さん

 

大学と平行してイラスト専門学校にも通い、アニメやゲームなどのIPイラスト業界に会社員イラストレーターとして就職したい4竹さん。自分の長所や描きたいものを模索中で、色にも悩みがあり、アドバイスが欲しいということです。

https://twitter.com/Siitake_with/status/1604778513839849472?s=20&t=-gl5c1TtCG6xpbNAt-ihQQ

 


会社で最初に任される部分を、丁寧に描けるようになろう

4竹さんのこの絵の中で一番良いのは2枚目ですね。絵にごまかしがなく、すごく良いです。画面の隅々まで形がキッチリ描けていて、ハサミやホルダーも良い! 最高です。

 

その反面、1・3枚目に共通しているのは遠くのものをきっちり描かず、ラフタッチで伝えようと描いてしまっている点。趣味なら背景頑張ったね、となりますが、就職を目指していているとなると雑に思われるかもしれません。

 

 

3枚目は等身高めの絵で、商業で使うなら広告用が想定できますが、それにしては窓の描写が揺れています。右の雨除けもストライプが一定ではありません。ラフ仕上げというのは絵を描く人には格好よく見えますが、実際のクライアントは絵を描かない人たちです。こういうところがタッチではなく適当に見えてしまうのが惜しい。
遠近法でぼかしを入れるのは良いんだけど、形を適当にしてしまうと、現実味がなくなってしまいます。

 

会社のイラストレーターで、新人が振られる仕事はまずキャラクターではなく、先輩の手が回らないモノや背景の可能性が高いです。
そうした目線で見ると、背景がきっちり描けていないと「この人にはキャラ以外の仕事を任せられない」と思われ、落とされる可能性が高くなってしまいます。

 

就職用のポートフォリオに入れると考えて、モチーフの形をやり過ごさず、遠くにあるものほど手を抜かないようにしましょう。会社で最初に求められる・任されるようなポイントが描けるとアピールできる絵を描きましょう。

 

また、広告も扱う会社だとファンタジーを描く機会は意外と少なく、現実のモチーフを描くことも多いと思います。現実世界の服装や男女・年齢・現実の公園、町、学校なども描いてポートフォリオに入れたら、より受かりやすくなるのではないでしょうか。

 

その絵で何を伝えたいのか考えよう

絵が伝わりにくいとお悩みですが、どの絵もアイディアを聞くとおもしろいので、パッと見て状況がわからないのはもったいないですね。

 

 

例えば、1枚目は「雪だるまと雪女がヒマワリを見ている」という設定ですが、雪だるまは奥にいて身体が見切れないようにし、足元が溶けて水たまりにするともっと表現できます。
雪女も、着物の模様だけでなく氷の傘だったり、雪の結晶のアクセサリーをつけたり、しっかり設定をアピールすると、質感の描き分けも見せられて、また一歩就職に近づきます。

 

色が問題かとお悩みですが、雪だるま・雪女なので寒色に寄っていても良いです。それよりも、「かわいいキャラを描きたい絵」になっていることの方が問題です。
もともとかわいいキャラの絵を描こうとしているなら良いのですが、この絵は「寒いところの二人がひまわりを見に来た」場面の絵なのに、キャラを描きたいあまり絵の要素や背景がおざなりになってしまっています。

 

いくら小さくしても可愛いキャラは可愛いので、それよりも「この絵で何を伝えたいか」考えましょう。優先順位は「雪だるま>ひまわり>付き添いの雪女」になると思いますので、いま一番丁寧に塗っている雪女の顔への情熱を、他に回してみてください。

 

 

2枚目も同じ。「雀のお針子」というこの子の仕事がメインなのに、この子をかわいく描きたかった絵になってしまっています。

3点の中ではこの絵が抜群におもしろく、架空の世界なのに作っているものは現実的な制服なのが良いと思いました。現代風の制服があることで服を作っているとわかったので、画面を横長にしてもっと制服をたくさん並べたらわかりやすいでしょう。スズメのリボンを巻き尺にしたら、裁縫している感じもより表現できそうです。

 

また、「1人だけ完全に擬人化・後ろに半擬人化・手前に本来の雀」という3段階の雀の状態が、絵としてはおもしろいけど、関係性のわかりにくさを生んでいます。僕だったら奥の雀も擬人化したおじさんにして、手前の雀を人間になれなかった手伝いの雀にして、2段階で関係をわかりやすくすると思います。

 

設定を言わなくても分かってもらえるラフを描く

ラフをきっちり詰めましょう。見切り発車しないで、絵の全体を伝えようと考えて描いてみると、ラフから絵が変わることもなくなります。
設定を言わずに家族やお友達にラフを5秒見てもらって、伝わるかどうかを試すといいでしょう。広告も相手はじっと見てくれないから、パッと伝わる絵になっているほどいいと思います。

 

イラストの会社、しかも他の人のタッチに合わせたイラストを仕事として就職したいのであれば、今言ったようなことに対応できる所をポートフォリオで見せられるようになると良いでしょう。全部できなくても、できそうなことだけでも採用してみて下さい。4竹さんが描こうとしているものは面白く、絵も上手いので、あとは意識さえ変えれば大丈夫です!

 

 

 

先生と参加者のみなさんの熱のこもった合評会、いかがだったでしょうか?
気になる作家さんがいたら、ぜひリンクから今の絵も見に行ってみてください。

 

合評会を聞いている人、記事を読んでいる人、みなさんがイラストに情熱を持った参加者です。気づきがあったこと・次につながる疑問など、ぜひTwitter #ゲンセキ合評会 のハッシュタグで感想をお寄せください!

 

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合評コメント

中村佑介(Twitter:@kazekissa/Instagram:@yusuke_nakamura_jp

ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、
『謎解きはディナーのあとで』、『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など
数多くの書籍カバーを手掛けるイラストレーター。

 

編集:坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。

執筆:kaoTwitterHP
イラストレーター&ライター。GENSEKIではインタビューやメイキングを中心に担当。