こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。
GENSEKIではイラストレーターのサタケシュンスケ先生を審査員にお招きして、アドビ×GENSEKI キャラクターコンテストを開催しました。
この記事では キャラクターデザインに大切なポイントを、選考作品を例に詳しく教えていただきました。
サタケシュンスケ(X:@satakeshunsuke/Web)
イラストレーター・キャラクターデザイナー。動物や人物をデフォルメし、平面的に構成する表現が特徴。著書に『サタケシュンスケ作品集 PRESENT』(玄光社)『配色アイデア手帖 色とイラスト』(SBクリエイティブ)など、広告や出版、プロダクト分野で広く活動。株式会社ひととえ代表、京都芸術大学講師。
一枚絵でキャラの魅力を伝える
サイトウ
今回のイラストコンテストのテーマは「夏の暑さを忘れさせてくれるような〇〇なキャラクター」でした。そもそも、一般的にキャラクターデザイン(以下キャラデザ)をするときには、どんなものを描くのでしょうか? 全身イラストや、三面図、バリエーション、設定画などが必要なのかなと思います。
サタケシュンスケ
まず、キャラが魅力的に映る見せ方を考えるのが一番です。その上で何が必要なのかを見極めます。三面図やバリエーションはあった方がいいことはあっても「必ず」とまでは思いません。もっともコンテストや仕事の条件にもよりますね。
今回のコンテストでは、作り込まれた一枚絵で応募した方が多かったです。これはいろいろなジャンルのユーザーが集まっているGENSEKIさんならではかもしれません。見ていて、一枚絵は設定画などよりも自由に表現することができると感じました。賞に入った作品を例に詳しく見てみます。
【大賞】Jellifie/Yotsuba Kei
サタケシュンスケ
今回はテーマが「夏の暑さを忘れさせてくれるような〇〇なキャラクター」なので、「物理的に冷やす」か「気持ちがヒヤッとする」キャラに分かれそうだと思っていました。気持ちがヒヤッとする方は肝試し的な怖さに繋がるのでキャラ表現が難しそうでしたが、Yotsubaさんの作品は想像を上回る表現でした。
サイトウ
キャプションを見てもいろいろな要素が盛り込まれているのに、よくまとまっていますね。
サタケシュンスケ
技術力や表現力もすべてにおいて高く、怖いけど見惚れてしまうような妖艶なバランスを兼ね備えています。「くらげ」は物理的に冷やしてくれそうだし、夏の終わりに海辺にやってくるだろうなという説得力もあり、作品の背骨がしっかりしています。テーマから想像できるものを頭一つ超えてよくまとまっていました。
サイトウ
一枚絵でキャラを表現できている作品は他にもありますか?
サタケシュンスケ
ヤブイヌ製作所さんの作品は、映画やドラマのワンシーンを切り取ったようです。「夏の暑さを忘れさせてくれる」ことを情景的に伝えています。
【Adobe特別賞】猛暑を乗り越える方法/ヤブイヌ製作所
サイトウ
このままポスターになりそうですね。
サタケシュンスケ
見るたびに暑い夏を忘れさせてくれそうで、テーマの目的にもあっていますね。
キャラデザというお題で、引いた視点や上からのアングルを選ぶのは珍しい。でも、終わっていく夏を思って空をぼーっと眺めているのか、ただ暑さでぼーっとしているのか……とストーリーを感じさせてくれます。
サイトウ
情景でキャラ表現ができるのには驚きました。
サタケシュンスケ
どこから見せたらキャラが魅力的に見えるか考えて「ワンシーンを描く」というのは、新しいやり方ですがとてもいいですね。キャラがこの世界にいることやその活躍を思い描けているからできる表現だと思います。
サイトウ
梅星太朗さんの作品も「一枚絵でキャラの魅力を伝える」表現だと感じます。
【Adobe特別賞】夏の魔女/梅星太朗
サタケシュンスケ
夏が終わっていく儚さ、情景的な「気持ちの動き」をみごとに絵として表現されていますね。この作品を見たとき夜空に浮かぶ花火を眺めるのと同じ気持ちになりました。
サイトウ
よく見ると本当にたくさんのモチーフが描かれています。
サタケシュンスケ
キャラの個性を足そうとすると、どんどん詰め込んでしまってまとまらなくなりがちです。ですがこの作品は、履物の上に水のしぶきがあってその上に花火が……とたくさんのモチーフを違和感なく繋げ、一貫して同じ印象でよくまとめられていますね。
夏というと、海と青空と太陽といった明るいモチーフが思い浮かびますが、それを使わずに表現しているのもうまいと思いました。
デザインの「個性」とキャラの「展開性」
サイトウ
明るい王道のキャラもたくさんありましたね。
【Adobe特別賞】トコナツ雪女/ウオノメ
サタケシュンスケ
ウオノメさんの作品は夏そのものを描いた王道のテーマ表現です。夏らしい背景が描かれていますがキャラだけにしてもテーマが伝わるでしょう。キャラと背景の見せ方に差をつけてあり、本当に見せたい部分を見せる工夫もできています。
キャラ造形も、ちょっと手足が大きくメリハリがある独特のデフォルメです。人の形をそのまま描くのではなく「自分の気持ちのよい形」をしっかりお持ちです。この体のバランスはウオノメさんにしか描けませんよね。キャラデザにとても大事な「個性」になっています。
この描き方で他にもバリエーションを作りやすそうで、展開性もあって商業にも向いていると感じました。
サイトウ
キャラクターデザインの展開性 について、もう少し詳しく教えて下さい。
サタケシュンスケ
そのキャラがどういう場面でどういう活躍をするのか、絵を見て想像できるかどうかです。使われる場所や発表する媒体、グッズ化まで想定できるか。僕も仕事ではそこまで見せられるようにしていますし、押さえておいた方がいいポイントです。
キャラを立体物にできそうかなども大事です。かわいいけど立体では再現不可能なキャラも世の中にはありますが、そこまで考えてもいいと思います。
【優秀賞】プリズム*アクアリウム/雛宮ぶちょす
サタケシュンスケ
この作品は王道の「かわいいキャラ」がたくさんある中でも、表現力が高くパッと目に飛び込んできました。ひと目で海をテーマにした明るく甘いファンタジー感が伝わりますし、装飾や小物のひとつひとつ細かい部分までしっかり作り込まれていて完成度も高かったです。
サイトウ
全体をくまなく見ていくのが楽しいですね。グッズも好まれそうです。
サタケシュンスケ
このまま飾りたいと思う方も多いでしょうし、そういう意味でも多くの方に夏を忘れさせてくれる、受け入れられやすい作品ですね。また、心から好きで描いているのが伝わってきて「好き」が個性になっています。
見てほしいところを伝える工夫
【佳作】ぺんぞう/オムタマスタジオ
サタケシュンスケ
こちらはちょっと照れた表情がかわいい作品です。細部まで考えた設定がしっかり描かれていて愛が伝わるし、「こんなふうに見てね」という見どころを説明できています。
サイトウ
プレゼン資料としても優秀ですね。
サタケシュンスケ
魅力が伝わりやすく、同じタイプの作品の中で一番わかりやすかったです。
お仕事でもこういうキャラが強いのは体感としてあります。ぺんぞうをこのまま使わせてという声はありそうですし、このデザインの冷蔵庫が出たらすごく売れそう。愛されキャラで広く人気が出るでしょう。コンテスト審査と一般的な人気は全く違うので、人気投票をしたら一番になるかもしれません。
サイトウ
この感じで仲間も増やせそうです。
サタケシュンスケ
展開性も感じられて、キャラデザとして優秀ですね。
【佳作】【キャラクター】シュワザラシ/羽倉ぽこ
サタケシュンスケ
こちらも完成度の高いキャラで、手元に置いておきたくなるかわいさです。色分けやポーズがたくさん描いてあるのもキャラの魅力がよく伝わりますね。寝転んで頭の上のものがコロンと落ちてドジっぽい人間臭さやほっとけない感じが、共感できるポイントになっています。
サイトウ
ただキャラを描くだけではわからない部分ですね。
サタケシュンスケ
シンプルなキャラほど見た目だけでは性格を読み取りにくくなるので、動きなどクスッと笑えるシーンを描いてみせるとしっかり伝わりますね。
サイトウ
キャラの見せ方次第で、より魅力を伝えられるのですね。
サタケシュンスケ
キャラデザはキャラの絵ひとつだけでも条件は満たせますが、描いた本人にしかわからない「このキャラのここを見て!」を伝えるのは大切です。キャプション文で設定を伝えるのもいいですが、まずは絵でどう見せるかに力を注ぐのは大事だと思います。
キャラデザはモチーフ選びで個性を見せる
サイトウ
モチーフ選びで個性的な作品はあったでしょうか?
【佳作】フウリン/withy
サタケシュンスケ
withyさんの作品はモチーフに「風鈴」を選ぶ着眼点がとてもよく、アイデアの入口としてとてもいいスタートを切っていました。何をキャラにしよう?と考えたとき、風鈴は「夏の暑さを音で紛らわそう」というテーマに一番マッチしたものだったかもしれません。僕も思いついていたはずが、キャラデザとして考えたときに忘れてしまっていたのでハッとしました。
サイトウ
本当ですね。冷蔵庫やアイスと同じくらい夏のものなのに、キャラデザを考える段階になるとなかなか出てこないモチーフもあるんですね。
【優秀賞】保冷剤様/とみれ
サタケシュンスケ
とみれさんの作品も、身近なのにうっかり見落としがちな「保冷材」です。他の人とはちょっと違った視点で見ている意外性がありました。
キャラのフォルムだけでなく使用シーンまで描かれている見せ方もいいですね。「暑さに困っている人が求めるキャラクター」という目的にも無理なくマッチしています。リアルにいて「こうして夏を忘れさせてくれるんだな」と想像でき、とても親近感があります。キャラと自分の距離が縮まるいいポイントです。
サイトウ
モチーフ選びにオリジナリティが感じられる2作品を紹介いただきましたが、キャラデザをするにあたって既存キャラと似ているかどうかの調査はした方がいいですか?
サタケシュンスケ
僕は最初に調査します。似てる似てないだけでなく、特に仕事であればクライアントの同業他社で同じモチーフやアイデアが使われていないかも気にします。
シンプルなキャラであればあるほど似てしまうので、どっちがどっちかわからないという事態にもなりかねません。今回なら冷蔵庫やアイスのキャラはみんな考えると思うので、仕事ならそういったものはあえて外すこともあります。せっかく作ったキャラが他とそっくりだったとなると目も当てられないので、リスク対応として必要です。
仕事でなくても、少し調べてわかるぐらいのことはやっておいていいと思います。
サイトウ
調査はどのように行っていますか? 自分の描いた絵で画像検索して、類似画像がないか探すなどでしょうか。
サタケシュンスケ
それもひとつですし、クライアントの業界を調べたり、同業他社のキャラを洗いざらいチェックします。キャラクター年鑑のような書籍もいろいろ出ていますし、データバンクのようなものもいっぱいあります。日頃からそういうものをくまなく見ておいたり、勉強がてら最新情報に目を通すのも大事です。
ギャップで親近感を作る
サイトウ
キャラと見る人の距離を近づけるのも、大事な要素なのですね。
【佳作】誘海/まくわく
サタケシュンスケ
そうですね。まくわくさんの作品では見ている人の手が引っぱられるように描かれていて、キャラと見ている人の接点になっているし、自分視点の没入感があります。
サイトウ
そのまま引きずり込まれそうです。
サタケシュンスケ
誘拐とかけたタイトル通りですよね。この距離感でキャラと目があって心を掴まれた瞬間、夏を忘れて引き込まれる。魔力にも似たような魅力があります。
【佳作】夏の海の使者/ひがしま
サタケシュンスケ
ひがしまさんの作品は音楽の楽しさで忘れさせてあげよう、というポジティブなものです。海の魚人的なキャラは一見近づきにくそうですが、表情を見ると親近感がわいていいですよね。キャラデザ自体は怖さや妖艶さも出せるのにあえてそれを武器にしないおもしろさ、ギャップの魅力を感じます。
サイトウ
キャラデザにはギャップがあるといいのでしょうか?
サタケシュンスケ
とても大事な要素だと思います。僕もキャラ作りの段階で入れたり、設定に「実は」と織り交ぜることもよくあります。美しいだけで非の打ちどころなく完成されていると、近づきがたいし印象に残りにくい。ちょっと自分に近い部分があったり、「完璧そうに見えてドジ」「怖そうなのに優しい」と一度上げて下げるようなことで、ぐっと印象に残りやすくなります。
愛せるポイントをどこに置くか。絵の前面に出さず隠れていてもいいので、知る人ぞ知るといった共感できる部分をギャップで補うと、より深みのあるキャラにできると思います。
配色の選び方とコツ
サイトウ
テーマに沿ったキャラデザを描くとき、配色はどう考えたらいいでしょうか? 今回のテーマでは水色や青がぱっと思い浮かびますが、みんな同じような色になりそうで何か工夫した方がいいのかな? と思いました。
サタケシュンスケ
そういった悩みはよくわかります。コンテストでは他の作品も意識してしまいますよね。ただ、王道の配色の中でも埋もれず光る作品はあるので、「みんなが使う色だから」と避ける必要はありません。奇をてらって他と違うことをして目立てばいいのかというと、そうではないですよね。
コンテストでも仕事でも最終的に選ばれるのは1つです。色での差別化はクライアントからするとあまり関係がないので、それより「なぜこの色にしたのか」が説明できる色選びをしたほうがいいでしょう。
とみれさんの『保冷剤様』は決して多い色数ではないですが、たくさん作品が並んだ中でもパッと目につきました。もともとお持ちの配色センスの良さが、デザインのテーマとうまくマッチしたからだと思います。
サイトウ
サタケ先生は配色の本も出されていますが、配色センスはどう身につけたらいいでしょうか? 配色の本やWebを参考にするとき、全部同じ色を使っていていいのかも気になります。
サタケシュンスケ
ひとことで「青」といっても原色だけでなく青緑、青紫などかなり幅があります。参考にした配色から少しだけ自分らしい感覚にずらす、みたいなテクニックは有効かもしれません。配色は組み合わせやその人の感性でだいぶ変わるので、いっぱいシミュレーションしてみるといいと思います。
サイトウ
参考にしたものから、さらに自分がしっくりくる色を探せばいいんですね。
サタケシュンスケ
どんな色があるのか、たくさん勉強するのもいいでしょう。色のストーリーが書かれた本などもあります。そういったことを取り入れていくと、配色により深みが出せると思います。
たくさん露出しても飽きられないようなキャラデザを考える
サイトウ
ひとことで「キャラデザ」といっても、いろいろな方法があるんですね。
サタケシュンスケ
キャラデザは奥が深いですよね。目や足をつければ何でもキャラになってしまう中、自分はどう表現するのか? という難しさはみなさん感じられたと思います。
サイトウ
先生がキャラデザの仕事をするときに、気をつけていることはありますか?
サタケシュンスケ
キャラは使われるシーンが多く同じポーズばかり露出すると飽きやすいので、いろんな角度や表情が描きわけやすいようにデザインしています。
背中だけ見てもそのキャラとわかるシルエットの強さを持たせたり、小さく使うときから大きく使うときまでどの距離感でも常に伝わるようにするなどです。描き込みもあっていいのですが、常に伝わる部分ではないので、バランスに気を付けて描いています。まずはドーンと大きく伝わり、そのあと細かいこだわりがわかるのが理想です。
サタケシュンスケ先生の作品
サイトウ
どう使われるか想像しながら描くといいのですね。
サタケシュンスケ
キャラデザは描いたら終わりではなく、そこから展開していくものです。そのキャラが社会の中でどんな役割を得てどう活動していくか? は押さえておいた方がいいでしょう。
ただ、体裁に当てはめるだけではなく「こういうふうに見てほしい」という気持ちも出ていた方がいいです。「自分はこれが好き!」というのはコンテストに限らず、どんな場面でも見る人に伝わります。
サイトウ
デザインの個性に繋がるお話ですね。
サタケシュンスケ
クライアントの目的にもよりますが、できるだけその人が作ったとわかる要素が入っていたり、こだわりポイントが見た目にある方がキャラとしての強さも出ます。他との差別化にもなるので、考えて盛り込めるといいと思います。
それから、コンテストでも仕事でも「お題に対してイラストを描く」というときに一番大事なのは、相手が思っているところをいかに超えていくかです。
相手が想像できるものを描くのは当たり前です。そこからもう一段、想像力を上げられるか表現力を高められるか、と心がけることは大切だと思っています。
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kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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