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たくさんのモチーフをぎゅっと詰め込んだイラストの描き方をTAO先生に聞く

 

こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。

GENSEKIではイラストレーターのTAO先生を審査員にお招きして、限られた空間に世界をつめこめ!「箱庭イラストコンテスト」を開催しました。

 

この記事では「箱庭イラスト」のようにモチーフがギュッと詰まったイラストのコツを、選考作品を例に教えていただきました。

目次
お話を聞いた人

TAO(X:@tao15102Web
北海道在住のイラストレーター。作品は情報量が多くごちゃごちゃした背景が特徴。好きなものは猫と喫茶店。さまざまな企業のイベントや商品の広告、メインビジュアルなどを担当。主な仕事に「ポケモンGO」5周年記念イラスト、「BOOTHコンセプトページ」メインビジュアル、「建築知識」表紙イラストなど。

インタビューした人
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230919/20230919150037.png
サイトウ
GENSEKIマガジンの運営サポートスタッフ。


「箱庭」ならではのモチーフの詰め込み方

サイトウ
たくさんのモチーフを詰め込むイラストの良さは、具体的にどんなところでしょうか?


TAO
モチーフが多いと、妄想をより広げることができますよね。キャラクターと部屋を描くにしても、スッキリと片付いているよりも、漫画だったりカメラだったり、ごちゃっとモノがおいてあった方が、性格が伝わります。


サイトウ

今回のコンテストは限られた空間にモチーフをつめこむ「箱庭イラスト」がテーマでした。箱庭ならではのモチーフの詰め込み方はあるのでしょうか?

【大賞】Sweet Pink Room🎀 /るーあ

TAO
るーあさんの作品は全体をリボンで包み込んだり、室内のモノが飛び跳ねるなど、普通の一枚絵では描くことができない表現ができています。床のカーペットがふわっと揺れる様子は普通のシチュエーションなら不自然に感じるところ、箱庭世界なら自然でポップで、楽しい印象に描けますよね。植物にガーランドや風船をくくりつけて揺らし、絵に躍動感も出せています。


サイトウ

箱庭ではない普通の一枚絵で描いたら、魔法世界に見えてしまいそうですね。


TAO
そうなんです。「箱庭」でないと成立しない詰め込み方で、だからこそのかわいさまで表現できています。
テルマサさんの作品も、箱庭を使いこなして「主人公の冒険」を上手に詰め込んでいます。

 

【佳作】剣とドラゴンのファンタジー/テルマサ

TAO
通常なら主人公の出発地とラスボスの位置を隣り合わせに描くことはできません。でも箱庭なら自然に描くことができて、ひと目で物語を伝えるように描くことができます。


サイトウ

箱庭イラストの場合、俯瞰(ふかん)視点が多いと思いますが、アオリのような地面の切り取り方も珍しいです。

TAO
アオリにすることで、こんなに迫力が出せるんだと驚きました。お城と火山を斜めに描くことで画面全体の迫力も出ています。

サイトウ
薩摩おいもさんの作品も、箱庭を「宝箱」に置き換えた、珍しくておもしろい作品です。

【佳作】アノ日、アノ時、トキメキ/薩摩おいも

TAO
ぱっと見は宝箱の一枚絵に見えましたが、イラストを見ていくと、透明な子どもと奥に抜けた空や、セミの抜け殻などモチーフのサイズ感をバラバラなことなどから「頭の中の想像の宝箱」なんだ、と気づくことができます。

絵の中にこういった工夫があると、キャプションやタイトルを読まなくても絵だけで「子ども時代の大切な思い出を詰め込んだ宝箱」のストーリーまで伝えることができます。


サイトウ

地面がひび割れで切り取られているのも珍しいですね。


TAO
切り取り方も独特でいいですよね。後ろにある剣もよく見るとダンボールでできているなど、細かい描写で質感を伝えていますより作品に入り込めるポイントですね。

配色で解消! モチーフが多めでもすっきり見せるコツ

サイトウ
先生の作品も、薩摩おいもさんの作品も、画面の中にモチーフが多めで、線をしっかり描かれていますよね。それなのに、すっきり見えるのはなぜでしょうか?


TAO
配色を意識しているからだと思います。隣り合うモチーフ同士を同系色でまとめすぎないように、青の横にはピンク、緑の横にはオレンジなどを置くと見やすくなります。


また、線を色トレス(線の色を変える)するのも有効です。セミの抜け殻のようにモチーフの輪郭と内部の線の色を変えて、形をわかりやすくしたり他のモノと混ざらないようにするテクニックは、私もよく使います。


サイトウ

イラストの中にモチーフを詰め込もうとすると、つい細かくなりすぎてしまいます。視野を広く全体のバランスをとるコツはあるでしょうか?


TAO
やっぱり、絵を描いていると拡大した状態で見ていることが多くなってしまいます。たまにイラストを引きで見る意識をつけて、全体のバランスを見るといいでしょう。

また、最初に大まかな構図を決めておいて、そこから離れたり崩し過ぎたりしないようにモチーフを配置するのも大切です。


サイトウ

つい、あれもこれもという気持ちが出てしまいます。TAO先生は描きながらどんどんモチーフを足すことはありませんか?


TAO
描きたいモノの資料をたくさん集めていても、置きすぎになるときは諦めます。今回は諦めて次に描こう……と思うこともあります。


サイトウ

逆にそれが、次に描く楽しみになりそうですね。

多くのモチーフの中でメインに目を引くテクニック

【佳作】箱庭エイティーズ/フィーリス

TAO
フィーリスさんの作品は、部屋が箱庭として描かれています。部屋を切り抜いたイラストはよくあるのですが、ナナメの天井で三角屋根の家を感じさせたり、日めくりカレンダーやごみ箱、棚が一部飛び出していたりと、切り抜き方がおもしろいです。

カレンダーに「友達とゲーム」と書かれていて、もうひとつコントローラーがあることから、女の子の目線の先が友達だとわかります。絵を見ている自分がその友達のように感じられて、より楽しめる作品になっていますね。


サイトウ

細やかなテクニックが詰まっていますね。
いろいろなモノが描かれているのに、パッとすぐメインに目線が行くのはなぜでしょう?


TAO
モチーフをたくさん描き込んでいる中で、女の子の後ろのカーテンだけがシンプルだからだと思います。カーテンの色も鮮やかで、なおかつそこに顔が来ているので、より視線が行きやすいですよね。


サイトウ

こうした主役の後ろをすっきりさせるテクニックは、先生も使われていますか?


TAO
そうですね。人物と背景の境目がわかりやすくなるように意識しています。キャラクターの後ろに影を落として人物シルエットを見やすくしたり、逆光で後ろが光るなら人物は影にして差を生んだりと、ライティングでも工夫できます。

詰め込むモチーフの選び方

サイトウ
TAO先生は絵に詰め込むモチーフをどのようにして決めるのでしょうか?


TAO
私はまず、路地裏や室内といった「描きたい場所」を決めます。例えば「かわいい女の子の部屋」を描こうと決めたら、「かわいい女の子の部屋」で画像を検索します。いろいろな画像から、共通して置いてあるアイテムや、どうやったらかわいい女の子の部屋になるか? を研究します。

何より見ている人に一番伝わりやすいモノを選びたいと思っているので、検索した画像を見て、実際に置いてあるモノを参考にすることの方が多いです。


サイトウ

自分が実物を見たことがないモチーフを描くときはどうしたらいいですか?

 

TAO先生の作品

TAO
実際に見たことがないモノだとサイズ感が全然わからず、後から「違う」となってしまうことがあるので、一緒に人が写っている写真があるといいですね。私は昔のレトロなものだけでなく、現在あるものでも全部、細かく資料を集めます。


サイトウ

空想世界のモノの場合はどうしていますか?


TAO
空想世界といっても、元になるのは実際にあるモノです。日本と外国のモノを自由に混ぜてデザインしたり、アレンジして描いています。


サイトウ

モチーフを詰め込んで描くイラストでは、たくさんのモノがあるので色もあふれてしまいそうです。モチーフの色はどうやって決めるのでしょうか?


TAO
例えばレトロなものならラジカセは赤、昔の扇風機の羽根は青か緑といったように、「レトロなもの」としてイメージが強いものを選びます。実際にはいろいろな色があるモチーフでも、描きたいテーマと結びつきが強い色、パッとみんなの頭の中に浮かぶ色を選ぶようにしています。


サイトウ

共通認識を呼び起こす色を選ぶんですね。確かに、先生の著書の表紙イラストもラジオの赤やライトの傘のオレンジなど、「こういうのある!」とレトロ感がよく伝わってきます。

「ごちゃごちゃ」した絵の描き方

TAO
実際の場所を観察し、そこによくあるものを描くと「わかる!」と伝わります。共感することは楽しいことだと思っているので、「あるある」「わかる!」を感じてほしいし、大切にしています。

モチーフがたくさん詰まったイラストをもっと楽しむためのアイデア

サイトウ
モチーフがたくさん詰まったイラストは、描き切るのに根気がいると感じます。


TAO
描き続けるには自分の好きなモノを選んで描くのが重要です。一つ一つのモチーフで自分の好きなデザインを選ぶと、最初は自分が興味のないモノでも「好き」と思えるところが出てきます。そうするとやる気になるというか、描いていて楽しくなります。

植木鉢を描くとして、「植木鉢」で調べた中から自分の好きなものを選ぶとか、女の子の部屋にあるドライヤーなら、その中からもっとも自分がかわいいと思うものを参考にして描くなどすれば、自分らしさも出せると思います。


サイトウ

自分が好きなデザインのモノばかりなら、描き続けられるのですね。


TAO
描き上がったときも、絵が自分の好きなモノでできているので宝物のように感じられます。愛着が湧きますし、より大切だと思えますよ。


サイトウ

先生がモチーフがたくさん詰まったイラストを描くようになったきっかけは、何だったのでしょうか?


TAO
けっこう前になりますが、pixivで「何気ない日常の風景が精密に描かれていて、そこに女の子一人と生き物がいる」というようなイラストが流行った時期があり、それを見るのが大好きだったのがきっかけです。

SNS(Bluesky:@tao15102.bsky.social‬)でそのとき憧れた方をまとめてご紹介していますので、どんな絵か気になる方はぜひ見てみてください。「ごちゃ絵」の参考になるすてきな作品ばかりです。


サイトウ

先生の絵には猫が必ずといっていいほど登場しますが、そこから来ていたのですね。TAO先生の絵だとひと目でわかります。


TAO
その要素も大きいかもしれません。影響を受けて自分も猫を描き始めて、いつの間にか描かないと落ち着かなくなり、毎回お約束のようになりました(笑)。


サイトウ

先生はSNSでモチーフがたくさん詰まったイラスト、いわゆる「ごちゃ絵」を投稿する、「ごちゃ絵協会」という企画もされていますね。


TAO
最近はシンプルな絵が流行していることもあり、「ごちゃ絵」が少なくなっていると感じたんです。そこで仲間と一緒に「もっと流行ってほしい」と立ち上げました。

月ごとにお題を出していますので、みなさんもぜひ企画ハッシュタグを使って、ご自身の描いた「ごちゃ絵」を投稿してみてください。私も楽しみに拝見しています。

 ごちゃ絵協会【公式】


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執筆

kao(X:@kaosketchWebGENSEKI

編集


斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI