8月に開催されたイラストコンテスト『背景絵師の皆様おまたせしました!GENSEKI夏の背景イラストコンテスト テーマ「夏の終わり」』。
キャラクターや物語を引き立てる「背景イラスト」は、すべてのイラスト作品になくてはならない存在です。しかし、想像力・技術力・表現力が求められる背景イラストは、絵を描く人でも苦手意識を持つ人が多いのではないでしょうか。
そんな難しいテーマでもある背景イラストですが、なんと30を超える作品が集まりました。
今回は、最優秀イラスト・佳作イラストについて背景専門イラストレーターとしてブログ・YouTubeチャンネルでも活躍されている有馬先生にお伺いしました。
審査員 プロフィール
ゲーム、アニメ、映画等、様々な背景イラストを手掛ける背景専門イラストレーター。
精密に描かれた背景・世界観を作り上げる背景等、幅広く描く。
背景イラストに特化して解説するYouTubeチャンネルは約2万人の登録者を誇る。
インタビューした人
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集・マーケティングを担当。
息をするように漫画とアニメ・ゲームを摂取している。
すっと伝わるストーリー性と、キャラクターが違和感なく存在できる空間であること
坂本
早速ですが、今回選んだ「優秀作品」を教えてください。
有馬
今回、最優秀に選んだのは「あっという間の夏休み」です。
坂本
とても素敵なイラストですね、どういった点がポイントだったのでしょうか?
有馬
一つは、当たり前なのですが今回のイラストコンテストの規定サイズにあっているかどうかをしっかり見て、その中から選びました。
坂本
たしかに、クライアントワークする上で要件の確認は必須ですもんね。
有馬
はい。その上で、こちらの作品が素晴らしいと思ったところは下記の点です。
- タイトルと説明がイラストとマッチしており、物語がすぐに伝わってきた
- 画面の中に「夏休みの終わり」が伝わってくる要素がしっかり入っている
- この背景を見た時に「宿題を慌ててやっているキャラクター」「宿題に飽きて縁側で遊んでいるアニメーション」などキャラクターが引き立つ可能性を一目で感じた
- 技術ももちろん素晴らしく、光の表現・雲のリアルさも素晴らしい
坂本
「タイトルと説明文」も大事なんですね。
有馬
すごく工夫の凝らした文章じゃなくて良いんです。背景は、やはりストーリーを想像しながら描くと思います。そうすると自ずと「伝えたいこと」って溢れてしまうはずなので、それが知りたいですね。今回最優秀に選んだ作品もすごく長い説明ではないんです。でもこの説明を読んで、絵を見たらいろんなストーリーが見えてきますよね。
坂本
溢れてくる思いは大事ですね。
有馬
この作品は物語がしっかり溢れている、かつ主目的のキャラクターを引き立たせる要素もあり、「ぼくのなつやすみシリーズ」の背景として採用されても全く違和感ない素晴らしい作品だと思いました。
ぼくのなつやすみシリーズ
ぼくのなつやすみシリーズは、ソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されている、夏休みをテーマとしたアドベンチャーゲームのシリーズ。移植作を含めると6作が制作され、シリーズ累計約180万本の売上を達成した。
◆ 背景イラストポイント
- 要件の確認はしっかりしよう
- 溢れてくる思いをテキストで補足しよう
- キャラクターを想像して描こう
受賞者コメント:優秀賞 カラッとさん
少し前まで上手く描けず燻ぶっていたので、今回の発表を見て「頑張って描いてきた甲斐があったなあ、今までの努力は無駄じゃなかったんだなあ」と、とても感じました。
今まで背景と言ってもずっと空のイラストばかり描いていたし、これからもそれでいいかなあとぼんやり考えていたのですが、今回の受賞と有馬さんからのコメントを読んで、苦手な背景のジャンルにも挑戦しようと思いました。
そしていつか「背景と言ったらカラッとさんだよね!」と言われるぐらいにどんどん成長して、背景を描く楽しさとか伝えられるようになれたらと思います!!
視線の動きを理解した構図と画力でストーリーを伝える絵
坂本
続いて佳作に選んだ作品を教えてください。
有馬
佳作は3つ選びました。1つ目はこちらです。
坂本
このイラストは編集部でも「素敵!」と話題になった作品でした。
有馬
本当に一言でいうと「上手い!綺麗!」です。新海誠監督のような世界観があるイラストですよね。こちらの作品の良かった点は下記のとおりです。
- 光の扱い方が上手い
- 縁側の窓枠を使い、構図的な面白さを演出している
- 構図的に真ん中にものをおいて、視線の集まり方も理解している
- 情景がわかりやすい
坂本
窓枠の使い方も大事なんですね
有馬
そうですね、窓枠を使うことで上がすぼんで見えるんですよね。これが構図的な面白さを出しています。そして、縦に切り出されて自然と目が行く中心にキャラクターを配置する、これは完全に演出を理解して描かれた作品ですね。上手いです。
坂本
なるほど、「情景」のわかりやすさは、どこに現れているのでしょうか?
有馬
まず、タイトルの「また来るから…」という言葉ですね。このタイトルを見た上で、絵をみると、食べ終わったスイカ、ケンケンパした跡が描かれている庭、荷物。この内容を見て田舎のおばあちゃんの家に行ったのかな、という物語が伝わってきました。そして、帰る日、最後の花火をしている。
坂本
すごい、なんか懐かしい気持ちになりました。
有馬
綺麗で「伝わる絵」なのが凄いです。
◆ 背景イラストポイント
- ストーリーを考慮した上で「構図」に工夫を入れる
- 小物を使うことで、見る人を物語により引き込む
受賞者コメント:佳作 扉戸さん
最初は自分から進んで描きたいということはなかったのですが、描いていくうちに背景の魅力に取り憑かれていきました。世界観やシチュエーション、物語を画面いっぱいに使って余すことなく伝えられるのはお得感があって大好きです。
このようなコンテストを開催していただき誠にありがとうございました。
見てくれた方々の心をさらに動かせるような絵を描けるように日々精進したいです。
季節の移り変わりを「鳥」で表現する独自性、絵に詳しくない人でも伝わる物語
有馬
ちなみに、編集部で他に気になる作品はありましたか?
坂本
私、個人としては下記の絵がすごく好きです。
有馬
この絵、実は僕も佳作に選んでいました。
坂本
そうだったんですね!私はこの絵は、社会人だからこそ感じるエモさがあるなと思いました。社会人が明るいうちに帰れるのって夏だけじゃないですか。帰宅途中、ふと振り返った時に、こういう風景あるな、と。
有馬
そうですね。これは、東京なのかなと僕も思いました。
通常、イラストで「季節の移り変わり」は、雲や植物で表現することが多いんです。それを、この方は渡り鳥で表現しているところがすごく面白い。僕は鳥に詳しくはないので、このオオルリという鳥が東京の方で飛んでいるのか、とか細かいところまでは理解していないのですが、こういうやり方で季節を伝えるのは面白い手法ですね。
坂本
物語も、都会で働く社会人には特に鮮明に伝わりそうですね。
有馬
あとは構図も面白いですね。この見上げるような構図、写り込んだフェンスもすごく独自性を感じます。
坂本
私は、絵の技術的なことについて素人なのですが、やはり構図は大事なんですね。
有馬
そうですね。やはり構図の違いで見え方は変わります。独自性を出したい時、迫力を出したいときはどの角度で表現するのか、すごく大事です。
あと、絵はほとんどが「絵の描き方がわからない人」が見るんです。なので、そういう人たちが見た時にわかりやすいか、は背景イラストでもすごく大事ですよね。
坂本
なるほど、「季節を渡る」は絵を見る専門の私にもめちゃくちゃ伝わる良い絵だったということですね!
◆ 背景イラストポイント
- 季節を伝える方法として、植物・雲は定番だが、「渡り鳥」という視点は斬新
- 構図を工夫することで、独自性や迫力を出せる
- 絵がわからない人でも、はっきりと伝わる物語性が大事
受賞者コメント:佳作 そらいろしんおさん
未熟なところが多々あるにもかかわらず選んでいただき、とても嬉しいです。自分にできる精一杯を出し切ったものの、応募後に反省点がたくさん出てきて、受賞は無理だと思っていたので驚きました。
YouTubeを拝見していて、有馬先生のコメントが欲しくて応募したので感激です!
「わかりやすいか」「伝わる絵になっているか」がいつも不安なので、今回物語を感じ取っていただけて歓喜しました。貴重な機会をありがとうございます。
影の中にいる主役、夏の終わりを表現するのにトンボを使っている点も独自性がある
坂本
次の佳作を教えてください。
有馬
次の佳作はこちらです。
坂本
これもすごく可愛い作品ですよね。
有馬
はい。このイラストの良いところは下記のとおりです。
- 夏の終わりを独自解釈している点が面白い
- 構図的な面白さがある
- トンボが飛んでいることで次の季節をしっかり表現している
- 影の中にいるという絵が珍しくて独自性がある
坂本
今回も出てきましたね、「構図」
有馬
はい。縦長で少し斜めの構図が面白いですよね。あと、影の中にキャラクターを描くというところも面白いです。
坂本
確かに、キャラクターは主役ですもんね。
有馬
はい。でもタイトルと説明文を見ると、納得できますよね。そして、今回のテーマである夏の終わりを伝えるために、夏の終わりに飛んでいるトンボを使っているところも良かったです。
坂本
鳥に続いて虫も季節の表現に使えるんですね。
有馬
はい。今後、さらに技術を身につけたら、もっと凄い絵を描かれるんだろうなと思いました。
坂本
ありがとうございました。
受賞者コメント:佳作 ボアソルさん
キャラクター絵師が溢れている中、背景絵師はまだまだ数が少ないという情報を目にして、背景も描けた方が仕事に繋がるだろうな、と思って少しずつ練習をしています。
個人・商業問わず、絵を描き始めてから3年以内に安定してお仕事を得ることを目標にしています。
もう1年が過ぎてしまったので、もっと勉強して画力や構図を磨いていきたいと思います。
背景に関する資料が気軽に手に入る用になった
坂本
さきほど「技術」についても話があがりました。背景イラストは、技術以外にも情報収集も大事になるかと思いますが、資料を購入したりその場に行ったりするのでしょうか?
有馬
昔は、資料用の本をたくさん買っていましたが、今はGoogle EarthやGoogleストリートビューを使うことで、いろんな情報を集められるようになりました。
坂本
Googleストリートビューで、情報収集されるんですね。
有馬
はい。例えば異世界系の背景イラストを描くときは色んな国の遺跡を見に行ったりしました。ただ、見るだけではわからないこともあるので、もっと深く知りたいとなったら観光情報のサイトを見に行ったり、もっと専門的な情報が知りたいと思ったときは、図書館に行って資料を集めることもあります。
坂本
Googleストリートビューは便利ですよね。
有馬
はい。ただ、情報が気軽に手に入るようになった反面、嘘もつけないなって思うようになりました(笑)昔は足りない情報はある程度想像で補っていたので。
坂本
なるほど。
有馬
その分、自分で調べた情報を絵に落とし込むことに時間を使えるようになったので、それは現代の良いところだと思います。
自分のやりたいを見極めながら、営業する方法を確立し背景イラスト専門のイラストレーターに
坂本
今回は審査員という立場でご参加頂きましたが、イラストコンテストに応募したことはありますか?
有馬
あります。「登竜門」というサイトでイラストコンテストを探して自分がやりたいものを見つけたら応募していました。
坂本
それは背景イラストで応募されたんですか?
有馬
いや、もっとふわっとしたテーマでしたね。「ファンタジー」みたいな。そこにキャラクターと背景を描いて応募していました。
坂本
人物も描かれるんですね。ブログやSNSを拝見して、背景一筋でキャリアを積まれてきたのかと思っていました。
有馬
絵に興味を持ったのは高校生の時です。当時、ラッセンのイラストが流行ってそこでまず絵画に興味を持ったことがきっかけです。
最初の頃は、普通にキャラクターイラストも描いてはいました。
なので、イラストレーターとして働きはじめの頃は背景専門ではなく、雑誌のカットイラストなどを手掛けていましたね。
坂本
そうしたお仕事は、自分で獲得されたんですか?
有馬
営業をかけていました。いろんな出版社に持ち込みもしていましたね。ただ、そういうときに、イラストコンテストに応募した話がちょっとした会話のきっかけとして使えるんですよ。
僕自身はあんまりすごい賞とかとれたことないんですけど、ポートフォリオには作品を載せるじゃないですか。それを説明する時にイラストコンテストに応募した話とか、入賞はできなかったけど会話のネタにはなったので、イラストコンテストをそういう形で活用をしていましたね。
坂本
営業トークの一つになったんですね。そこからどう背景専門につながっていったのでしょう?
有馬
カットイラストなので人物・キャラクターなんですけど、そういった絵を描いているうちに、やっぱり自分は背景イラストが好きなんだなと気づいたんです。
坂本
今までもらっていた仕事と全く違うクライアントになりそうですが、営業のやり方も切り替えたんですか?
有馬
そうですね。営業する相手をゲーム会社に切り替えていきました。営業スタイルも持ち込みのときとは変わりゲーム会社さんのメールアドレスにポートフォリオのURL載せる形にしました。ちょうど、ソシャゲで需要も高まった時期もあり、そうした引き合いを頂いて、背景イラスト専門でやるようになりました。
坂本
背景イラストの技術もさることながら、自分のやりたいことと業界を見極めて営業するという力が凄いです。
イラストコンテンストは、他の人の作品を見て「自分にはない発想」を知ることができるのも魅力の一つ
坂本
それでは、最後に今回イラストコンテストの審査員を務めてどうでしたでしょうか?
有馬
まず、こうした機会を頂けたことが大変光栄でした。
また、普段プロとして活躍している人の作品を見ることが多く、今から始める人や駆け出しの人の作品を集めて見る機会がなかなかありません。そうした、「これから参入する人」は「既にプロとしてやっている人」にはないアイディアや発想を持っています。それが、とても勉強になりました。
また、色んな人が背景を描いているという状況が僕自身とても嬉しかったです。キャラクターイラストと比べると背景イラストを描く人口は少ないので、こうしたことがきっかけで色んな人が背景イラストを描いてジャンルが盛り上がってくれたら嬉しいです。
坂本
ありがとうございます。GENSEKIも、背景イラストのジャンルを盛り上げられるよう頑張りますね!
背景は、伝える力・物語を進める要
作品に当たり前のように寄り添う「背景」は、キャラクターを引き立てながらも物語を進める大事な存在であるのだと改めて気付かされました。
技術も、もちろん重要でありながら「伝える力」が最も試される背景イラスト。
今後もGENSEKIでは背景イラストのイラストコンテストを開催していこうと思います。
今回の記事を読んで興味が出た!という人はぜひGENSEKIに登録してイラストコンテスト情報をお待ち下さいね!
執筆・編集:坂本彬