『出水ぽすか先生イラストコンクール』(テーマ:ファンタジー)にて受賞した金賞・灯ぼたん氏と銀賞・たいやき氏。
若く才能あるお2人に、自分のイラスト・制作環境・将来についての葛藤や期待を、等身大で語っていただきました。
インタビューに答えてくれた人
灯ぼたん(Twitter:@tonbo133/HP)
オリジナルの模様や装飾が入ったイラストを得意とする。現在はSkeb等の依頼を中心に活動。キャラクターデザインなど、絵を描くことをメインに色々な制作に挑戦。たいやき(Twitter:@tai2m/HP)
厚塗りでの光と影・空間描写にこだわり、コンセプトアートのような物語性の高いイラストで人気を博す。Twitterではカラー漫画も発表し、フォロワー1.4万人を越える(2022年10月現在)。現在学生ながら、商業案件でも活躍。
装飾はひとつひとつオリジナルで描く
『エルフのまじない屋』灯ぼたん 作
出水ぽすか先生イラストコンクール 金賞
ーー今回のコンクールに参加したきっかけと受賞した感想をお聞かせください。
灯ぼたん:受賞したメールをいただいた時は信じられなくて、何十回も見直しました(笑)選んでいただいてとても光栄です!
コンクールが始まった時、ちょうど絵に対してモチベーションをもっと上げたい時期でした。テーマが『ファンタジー』と自分が得意な分野で、これをきっかけにもっと絵を描けたらと思い応募しました。
出水ぽすか先生のイラストが元々大好きで、特に食べ物系のイラストが好きです。先生の絵はSNSで流れてきても一瞬で「出水ぽすか先生の絵だ!」とわかるところがすごいです。奥行きがあり、迫力や構図も勉強になり、尊敬しています。
たいやき:僕は、元々GENSEKIコンテストにいくつか応募していて、4月のコンテスト「桜」でviviON賞をいただいたりしていました。出水ぽすか先生の作品は以前からジャンプを読んで知っていたので「これは!」と思い、過去に描いた作品や新しく描いた作品を何枚か応募しました。銀賞に選ばれたのは過去に描いたものです。
ーーたいやきさんは、たくさんご応募頂いていたんですね。何作品くらい応募してくださったのですか?
たいやき:5〜6作品応募し、実は佳作にも1作選ばれました。応募した時は「何か受賞できたらいいな」と思っていたのですが、まさかの銀賞ということで、流石に2度見しました!(笑)
出水ぽすか先生がコメントに「凄く好きな絵」って書いてくださって、光栄極まりないです。ずっと憧れの人で天の上の人だったので、見てもらえたことがその言葉で実感できて、すごく嬉しかったです!
ーー次に、灯ぼたんさんから、受賞作品のコンセプトやこだわったポイントを教えていただけますか?
灯ぼたん:テーマがファンタジーなので不思議な雰囲気にしたいということと、装飾を描くことが好きなので、そこを生かした作品ができればと考えました。
ーー緻密さに圧倒されますが、制作時間はどのぐらいかかりましたか?特に時間がかかった所はどこでしょうか?
灯ぼたん:描き始めてからは3日位で、その前にも構図などを考えたりしています。
洋服の柄はずっと考えていて、それを1つ1つ描いて、コピーして配置して…と調整もするので、時間がかかりました。
ーーこの万華鏡感のある柄は、オリジナルで描いていらっしゃるんですね。それで3日は驚きです!
たいやきさんは灯ぼたんさんのイラストにどういう印象をお持ちになりましたか?
たいやき:第一印象は本当にきらびやかで、作品が並んでいる中で目を引き、華やかだなという印象でした。
厳かなのに親近感の沸く雰囲気
『神輿』たいやき 作
出水ぽすか先生イラストコンクール 銀賞
ーーたいやきさんの受賞作品について、イメージやこだわったポイントを教えてください。
たいやき:まず「神輿を描きたい」という漠然としたイメージがありました。小さい頃、祭りで神輿を担いで町を練り歩く体験があり、それを絵に起こせたらいいなという気持ちで描き始めました。
それに元々特撮が好きで、何か大きなものだったり、ちょっと上の次元にいるような生き物たちなど、自分の好きなものも詰め込んでいます。
あとは光と影の表現が好きなので、かなり意識しています。写真を趣味でよく撮っていて、影だけの写真を撮ることもあります。
ーー趣味が作品に活かされ、光と影が凄く印象に残ります。神輿の中から龍のようなモンスターっぽい手が出てますね。
たいやき:神輿は「神様の乗り物」という意味合いがあるそうです。触れられない、近寄りがたい雰囲気を出したくて、神輿の中から手が出るという構図に落ち着きました。
ーー手前にいる子たちが凄く手を降っていて、ギャップがありますよね。
たいやき:「神様おーい!こっち向いてよ」のような感じで、このあたりで絵を身近にできたかなと思います。神輿は「祭りで練り歩く」ものでもあるので、祭り自体のそういう雰囲気が出せたかなと思っています。
ーー巨人なども、とても不思議な造形だなと感じます。制作時間はどのぐらいかかりましたか?
たいやき:ラフから合わせて、だいたい1週間ぐらいです。神輿と巨人たちの担いでる関係性が中々上手くいかなくて、神輿とその調整に一番時間がかかりました。

ーーご自身の作風に関して意識していることや、こだわりがありましたら教えてください。
灯ぼたん:作品のこだわりは柄や模様を描くことです。その時の気分に合わせ「こう描いたら綺麗になるかな?」と自分の中から出てきたものを描いている時もありますし、模様の本や写真で調べて描くこともあります。
たいやき:先ほど話した光と影の表現、あと空気の層を意識しています。遠くのものや巨大なものをよく描くので、自分の視界からの距離感、表現のための空気の層を凄く意識しています。
灯ぼたん:たいやきさんの塗り方は厚塗りですか?色は最初から決めて進めているのですか?
たいやき:はい、厚塗りです。色は最初は考えず、ラフの段階は白黒でコントラストを作り、その下のレイヤーに大体の色をつけています。後は粘土みたいに上から重ねて描いています。描きやすいように最初はレイヤーをわけて描いていますが、最終段階では上から違うレイヤーに、色をスポイトでとりながら作業しています。
灯ぼたんさんはどのような感じで描かれるのですか?
灯ぼたん:私は最初から、ラフの時に色も全部決めてから進めています。あとは、模様の本や写真を調べながら描いていますね。
一緒にどこかへ行けるような絵を
ーーたいやきさんは所属学科でインスタレーションなどの立体展示もやってらっしゃるとのことですが、絵と立体両方を制作することで相乗効果はありましたか?
たいやき:僕が描いているイラスト自体「空間の表現」という面もあり、自分が表現したい「空間」というのがすごくリンクしてきているなと最近感じます。人と巨大なものの構図が一体の空間として、これからも表現できたらいいなと思っています。自分が好きな空間にいるということ自体が、イラストに繋がってきているかなと思います。
ーーお二人が普段使っている画材や機器について、教えてください。
灯ぼたん:普段はWindowsのパソコンで、ソフトは主にPhotoshopを使っています。タブレットは最近Wacomの液晶タブレットに変えました。今回のコンクールの時は板タブで描いたのですが、液タブの方が実際に描いてる感があって凄いですね。
たいやき:パソコンはMacBook Proで、ソフトは同じくPhotoshopを使っています。タブレットはamazonで見つけたXPPenの板タブを使っています。大きいし丁度良く、もう2年ちょっと、ほぼ毎日使っていますね。
どんなものでも参考に、描き続けて成長する

ーー絵が上達したと感じたタイミングや、役に立ったと感じた勉強法があればお伺いしたいです。
灯ぼたん:上手くなったと感じる瞬間は、1年前の絵と今の絵を比べて成長がわかった時です。勉強については、画家さんやハンドメイド系の方など、様々なジャンルで、憧れの作家さんの作品は勉強になるなと色々見ています。
たいやき:上達したタイミングを自覚することはあまりないのですが、やはり長く描く以外はないと思います。大学に入ってから絵を描き始めて、学生生活の間コロナ禍ということもありずっと描き続けていますが、過去のものと比べるとやっぱり上達したんだなという実感は得られますね。
勉強法は基本的には自分で撮った写真や、人体の参考書で言うと『キム・ラッキの人体ドローイング』(オーム社)です。これ1冊で十分人体に詳しくなれると思います。
ほかに役に立ったのは、Twitterで昔の絵画をまとめてくれているアカウントです。昔の人はこうやって描いたのかとか、昔の技法を見て自分に足りないところを勉強させてもらっています。
あと、自分の中で「日本の色」が最近ブームです。そのきっかけがおく さん(Twitter:おく@2964_KO)という方で、絵を見かけて以来一目惚れして、色んなことを学ばせてもらっています。
ーーたいやきさんのイラストは、西洋っぽいファンタジー世界の印象を受けますが、日本風のものも描かれているのですね。
たいやき:そうですね。Twitterで『赤龍とカラス』という和風の漫画を投稿していたんですが、ある時急におくさんにリツイートいただいて驚きました。沢山の方に見て頂くきっかけにもなり、様々な面で一方的にご恩を感じています。本当にありがたかったです。
ーー創作活動する上での情報収集は、どのようにされていますか?
灯ぼたん:映画を観るのが趣味で、特に「見方によっては絵の参考になるんじゃないか」という話を聞いてからは色んなジャンルを観るようにしています。不思議な雰囲気の作品が好きで、最近観て凄く良いと思ったのが『メッセージ』という映画です。SFなのですが、それだけではなくどこか不思議で…。
たいやき:それ、僕も観ました!いいですよね!最初は何が起きているのか、全然わからないけれど、最後ピースが重なってくると…
灯ぼたん:はい!鳥肌が立ちました(笑)映像と美しさも凄くて、映画館で全てに感動して動けなくなってしまいました。最近DVDを買ってまた観たのですが、やっぱりよかったです。
ーーイチ押し映画なのですね。私も見たいと思います!たいやきさんも映画はお好きなのでしょうか?
たいやき:映画は、コロナ禍が始まってから自分の勉強も含めて観なくては、という使命感もあって(笑)名作と言われる作品を沢山観ました。アメコミ系も好きだったので『ダークナイト』など。クリストファー・ノーラン監督が好きで『インセプション』や 『インターステラー』も観ました。
ーー違う作風のお2人ですが、映画を参考にされる共通点があったのですね!他にも参考にされたものや、尊敬する作家さんなどお伺いできますでしょうか?
灯ぼたん:昔の方だと、アルフォンス・ミュシャや、浮世絵も好きです。今のイラストレーターさんでしたら、秋赤音さん(Twitter:@_akiakane)を拝見しています。
たいやき:僕は、シュルレアリスムの画家のルネ・マグリットが好きで、特に『ピレネーの城』という大きな石の上に城がある作品が凄く好きです。解説によると「その場所には想像でしか行くことができない」というコンセプトのもとでその城を描いている。そういう根底の思想を知るとより深みが増すような作品が大好きです。『ジョジョの奇妙な冒険』8部で荒木飛呂彦先生もマグリットを取り入れていて、それを知ってから読むとより面白くなります。

ーーイラストを描いている時に幸せを感じる瞬間、逆に辛いな、難しいなと感じることがあればお伺いしたいです。
灯ぼたん:自分の思い通りの作品に近づけた時が一番凄く嬉しいです。逆に、描きたいイメージがあっても上手くいかないと、辛いと感じることがあります。そういう時は映画を観たり、気分転換にゲームをしたり、絵とは違うことをしてリフレッシュしています。
たいやき:僕も、自分の思い通りと言うか、頭の中のイメージに近づけた時はすごく嬉しいです。描いててよかったと感じますね。逆に辛いのは、ずっと描き続けていると思いつめてだんだん視界が狭まってしまうことです。実は高校までバレー部だったので、そういう時は大学のバレー部でリフレッシュしたり、コロナ禍はそれも満足に出来なかったので、ギターを弾いたりしていました。
ーー絵と違うことや、身体を動かしてリフレッシュするのも大事ですね。
葛藤と希望、やりたいことは沢山ある!
Live2Dやってみた!動いているの見ると感動する😳✨ pic.twitter.com/xiAKVsjAgB
— 灯ぼたん🏵️ (@tonbo133) November 6, 2021
Live2D習作 灯ぼたん 作
ーー今後やってみたい絵の関連のことや、お仕事などをお伺いできればと思います。
灯ぼたん:今はskebでイラストのご依頼をいただいていますが、他にもゲームのキャラクターデザインやアニメーション、Live2Dやロゴなど、やりたいものが溢れています!
ただ、自分の絵柄がどの場所に合うか?どのジャンルに当てはまるのか?はすごく悩んでいて難しいです。絵を描くことを中心に、様々なことに挑戦したいと思っています!
『無垢の世』たいやき 作
たいやき:コンセプトアートやティザービジュアルといった様な仕事が出来たらいいなと思っています。実は最近、Twitterでフォロワー数1万人を超えた事をきっかけに、お仕事を頂くことが増えました。
『#PortfolioDay』というタグをつけて絵を投稿したら3.5万いいねがつき、沢山の方に見て頂けました。時期的にも今回のコンクールからトントン拍子という感じで嬉しかったです。
それで依頼のメールをいただき、今は動画用のイラストやロゴの仕事をしていますので、また公開したら見ていただけると嬉しいです!それ以外にもオファーをいただいていますし、ゆくゆくは会社員としてのイラストレーターも経験してみたいと思っています。
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自分の思いを悩みながら言語化し、自分のイラストや今後について丁寧に語る灯ぼたん氏、様々な知識が豊富でスムーズに話を続けるたいやき氏。
絵も活動もスタイルが違う二人が、共通の話題が出るとまるでクラスメイトのように楽しく話してくれたのが印象的でした。それぞれの「好き」や「こだわり」は創作をするうえでやはり大事だと、改めて教えていただいた対談でした。
執筆者
間 早菜木 (Twitter:@Aldebaran_oO )
親しみのあるキャラクターやちびきゃら多めのイラストレーター。主にweb用キャラクターイラストを制作しています。
編集
kao(Twitter:@kaosketch/HP)
イラストレーター&ライター。ファンタジーとSFが好き。お絵描き文化、メイキングやインタビュー、ゲームや映画の制作の裏側などの記事が大好物。油画科出身、名古屋在住。