イラストレーターさいとうなおき先生が審査員の「縛りイラコン」、今回のテーマは「海縛り」! 海にまつわるさまざまな表情のイラストを、390作品以上ご応募いただきました。
見る人を強く引きつけるイラストに必要なものとは? ヒント満載の選考レポートです!
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審査員
さいとうなおき(X:@_NaokiSaito/YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
【大賞】そこに行ってみたいと思わせられる「憧れ」が巧みに描かれた一枚
週末の特等席/松峰
さいとうなおき先生
大賞は松峰さんの『週末の特等席』です。おめでとうございます!
「こんな暮らしがしたい」と、強く思わせられました。絵というのは、実際にはできないことでも、自分の体験に置き換えられるような一面があります。
この絵からは海風を感じるし、青みがかった朝の空気もいい。料理もおいしそうだし、この絵の全てがうらやましい。ペンギンがいて、観葉植物がある部屋で……憧れが詰まっています。
リアルだと「パソコンがサビそう」とかいらないことを考えてしまって、実際にこんな暮らしはできない。でも心の底ではやってみたい。そういうことが表現されていて、テーマとしても最高でした。
演出も巧みですね。硬めの構図で、窓枠などもあり、直線が多く構成されているにもかかわらず、やわらかい印象になっています。角を丸くしたり、鉛筆のようなタッチを使って、やわらかい印象に落ち着かせています。松峰さんはもうプロでお仕事されているのではないでしょうか?
中村
兼業イラストレーターさんとのことです。作品一覧のたくさんの作品もすてきで、すばらしい原石です。
さいとうなおき先生
原石というより、もはや結構磨かれています! 憧れや生活を形にするのが本当にうまいですね。
【佳作】「海」に感じる思いを、自分なりにイラストに落とし込めた7作
月夜に漂うくらげ姫/陽夜ぴよ子/piyopiyoko
【コンセプトや作品背景】
くらげの図鑑を読んでいると、光合成を行い栄養を得ているくらげがいると知りました。(正確にはくらげと共生している褐虫藻が光合成をしておりその栄養をくらげが得ている。)
それならば、月の光を浴びて栄養を得ているくらげがいたら幻想的で綺麗だろうなと思い、この作品を制作しました。
さいとうなおき先生
平面的な構成でありながら、クラゲの濃淡で水深が表現されていて奥行きがあります。でも、月明かりが水面に映り、やっぱり平面的なバランスに落ち着いている。不思議な作品です。
中村
サムネからとても目を引きましたね。大賞と本当に近差で、先生がとても苦悩して選考したことをお伝えしたいです。
さいとうなおき先生
本当に接戦で、2つ選べないのが口惜しいぐらいです。本当にどちらも最高でした。では、どこでわずかな差がついたのか。きっと知りたいですよね。説明が難しいのですが……サムネイルから拡大して見たときの「触ってみたさ」が分散している、という感じでしょうか。
全体的にモチーフに対して遠かったというか、手触りが感じにくいというか。イラストの中で「一番見せたいところ」をあと一歩迫って描けているとよかった。
中村
十分にすてきな中で、「手触り感」があと一歩だった、と。
さいとうなおき先生
伝えたい部分がどこなのかは、陽夜ぴよ子さん自身の思うところだと思います。
それがクラゲならクラゲの質感、水なら水面の様子など、もう少しだけこだわって描くと、見せたいモチーフに肉迫できるのではないでしょうか。触りたくなるような、さらにいいイラストになると思います。
水面揺れる日没/げっぽ
さいとうなおき先生
技術的にはもっと伸びる余地がある絵です。でも、引きで見たとき、「水面ってこんな感じ!」と思えたんです。しっかりとした観察眼をお持ちで、その感覚を表現する力もあるんですね。
中村
私も、サムネイルにしたとき「海って確かにこうなるな」と感じました。
さいとうなおき先生
しかも、いわゆる「お約束の構図」や、「こう描いたらこう見えるだろう」といったセオリーにも囚われていません。
自分なりによく観察して、描きたいままに描いたらこうなったという印象で、天然のセンスの良さを感じます。たくさん作品を見てみたいと思いました。先が楽しみです。
中村
これからもいろいろな作品の投稿をお待ちしています!
現し世/@ hayateluc
さいとうなおき先生
美しい。幻想的ですてきです。それに尽きます。
中村
サムネからも伝わってきます。ここに行きたいと思いました。
さいとうなおき先生
実際にあったら映えスポットとして混みそうですね。何を描きたいのかとてもはっきりしていて、それを高いクオリティで絵に起こせる技術力も感じます。
中村
大賞と同じように「ここに行きたい」と思えて、技術もすてきですが、惜しくも佳作になったのはどんな点からでしょうか?
さいとうなおき先生
海といえば青で、青く光っていたらきれいだよね、というような、予定調和に感じられてしまう点でしょうか。「こうやったらきれい」のフォーマットの範囲に、落ち着きすぎたのかもしれません。
その中でも、もう少し解像度を高めて魅せることができそうです。
中村
講評を機会に、@ hayatelucさんの次のステップ、課題を見つけていただけたらうれしいです。
インドアマーメイドちゃん/もちふみ
さいとうなおき先生
「海」というテーマからこの画面は、なかなか出てこないですよね。海といいつつお布団があって、お布団が海なんだ、という設定も、絵柄もかわいいです。イカのクッションも(笑)。
中村
こんなに着込んだ人魚はあまり見ないですね。でも、海なんだという説得力もあります。
さいとうなおき先生
そうですよね。そういう不思議な納得感がありつつ、やっぱり意外な画面であるところに、惹かれましたね。
海の奏者/あいいろさん
さいとうなおき先生
これはいいですね。やりたいことがとてもはっきりしていて、ただただかっこいいです。海の奏者というタイトルもいいです。
中村
いい! の連発でしたが、さらに上を目指して工夫できる点はありますか?
さいとうなおき先生
演出はかっこよく決まっていますので、あとはキャラクターの顔ですね。さらにかっこよく描けそうです。童顔なところなのか、カメラを意識した視線なのか、顎を引いている感じなのか……はっきりとした言語化がうまくできないのですが、この辺りの何かが気になります。もうちょっと、しっくり来る表現がありそうです。
中村
講評をヒントに、よりよい表現を模索していただけたらと思います。
逃避行/しのごの
さいとうなおき先生
まず、色がとてもすてきです。線が細くて繊細に描かれた雰囲気や、男の子の儚そうな感じもいいですね。
海の面積が大きく描かれた構図で、手をつないでいる相手をあえて見せない感じも、うまくはまっています。
想定した設定があると思いますが、あえて何かは描かずに、でも現実から逃げてきたような感じを出せている。不思議な上品さがあります。
中村
見た人に物語を連想させることができるのは、イラストに大切な要素ですね。
さいとうなおき先生
しかも、それを自然にされています。キャプションに絵を描いた感想は書いてあっても、設定は一言もありません。
一枚のイラストの中で完結させず、見る人に委ねているその感じ。すばらしいバランス感覚だと思いました。
海が好きだから/ふあこし
さいとうなおき先生
とても迫力があっていいですね。また、「嘘をついていない感じ」に好感が持てました。
こういう海の景色に憧れているけれど、実際に見たことはないから、あくまで絵として描いている。実際の風景というよりは、自分の中にあるイメージを絵として着地させたのではないかな、と感じました。
自分の表現の中で精一杯描いているんだというのが伝わってきて、よかったです。
【総評】
中村
全体を振り返って、いかがでしたか?
さいとうなおき先生
みんな海が好きなんだな、というのがよく伝わってきました。「海」と一言で言っても、人によって振れ幅がすごくあった。みんなの心の中のいろいろな海を見れたのがよかったです。
中村
海の中もあれば、海の外、海岸、生活の中など、いろいろな海が見られましたね。
さいとうなおき先生
みんながみんな、海に近いところで生活しているわけではないのに、それぞれの持つ「海」がありますよね。改めて、海って何なんだろう、と不思議な気持ちになりました。
▼定期開催の縛りイラコン
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執筆
kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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