人間にはない強さ、美しさを持つクリーチャー・人外のイラストは、人では到底到達できない理想なのではないでしょうか。
今回は、8月に開催したクリーチャー・人外イラストコンテストの振り返りをタカヤマトシアキ先生に行なっていただきました。
審査員 プロフィール
タカヤマトシアキ
デュエル・マスターズ、ヴァンガードなど様々なカードゲームでメイン・パッケージイラストを手掛けるイラストレーター。クリーチャーやメカニック、リアル系、可愛いモンスター〜華奢な女性、筋骨隆々な男性まで幅広い画風をもつ。
インタビューした人
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集・マーケティングを担当。
初代ポケモン世代。
クリーチャーイラストで求められる最強を表す「納得感」とそれを再現できる「基礎的な画力」
坂本
それでは、早速ですが「GENSEKIタカヤマ賞」に選ばれた作品を教えてください。
タカヤマ
実は、2作品で非常に迷いました。
迷った作品は「プロレスラードラゴン」と「魔王降臨」の2つです。
坂本
どちらもかっこいいですね・・・!
タカヤマ
この2つは下記の点で非常に優れています。
- サムネイルで見て何を描いているかはっきり分かる
- 見る人にキャラクターの個性・性格が伝わる
- 「最強」というコンセプトにあっている
- 基礎的な画力がある
坂本
なるほど!ちなみに「最強」をイラストで表現するにはどのように描くのでしょうか?
タカヤマ
最強は、腕が6本あったり頭がたくさんあったり、装飾も豪華でイメージでいうとお神輿のようなギラギラとした装飾的な華やかさがあると「最強」っぽさがでるかなと。
坂本
逆に、強さが「弱・並・強」とあった場合に「弱」はどうしたら弱く見えるのでしょうか?
タカヤマ
できるだけシンプルなディティールやシルエットで、かわいい顔立ち、丸みがあるにすると「弱」を表現できるかなと。
強さをシルエットで変化させて見せる場合に例えば、最初はシンプルな4足歩行のドラゴン→立ち上がり二足歩行・甲冑を着込む→角、腕、翼が増える、みたいなイメージです。
体が大きくなりシルエットが複雑になり、色数が増え、デティールや装飾が増えると考えてもらえれば。
3段階進化するポケモンの一番最初をイメージするとわかりやすいと思います。
坂本
ポケモンの例えで完全に理解できました。
また、今回選んだ2作品には基礎的な画力もあるとのことでしたが、モンスターやクリーチャーにおける画力はどういった点で評価するのでしょうか?
タカヤマ
モンスターイラストで重要なのは、ある程度で構わないので「筋肉と骨格」を理解する事です。陰影が出るライティングを考えシルエットが解る、を表現すると良いと思います。これを知らないと折角のデザインやディテールが表現できません。
今回もしっかりシルエットやディティールが解るイラストを評価させてもらいました。
坂本
モンスターやクリーチャーは架空の生物ですよね、参考資料はどうされますか?
タカヤマ
実在の動物等を参考にしていますが、まずは先にモンスターをデザインし、そこに実在する動物の資料をみながらリアリティを追加する目的で使用しています。
坂本
なるほど、架空の生き物でも骨格や筋肉の基礎情報は実際の生物から学ぶんですね。なかなか選ぶのが難しいとのことでしたが、今回最優秀賞である「GENSEKIタカヤマ賞」に選ばれた作品はどちらになるでしょうか?
キャラクターの個性を生かした演出が決め手!迫力満点の「プロレスラードラゴン」
タカヤマ
プロレスラードラゴンです。魔王降臨と最後まで悩みましたがプロレスラードラゴンにさせてもらいました。
坂本
すごく迷われていましたが、プロレスラードラゴンにした決め手はどこでしょうか?
タカヤマ
本当に僅差ですが、プロレスラードラゴンは「演出」が優れていました。
坂本
演出とは具体的にどういったところですか?
タカヤマ
プロレスラーという名前に相応しい「力感」のあるポーズ・立ち姿「直接的な攻撃が得意」なキャラクター性が見て取れます。みなぎるパワーが地面を割るほどの「最強の力」を持っていることが伺えますね。背景に「キャラクター性をより補完する演出」がされていてとても良いと思います。
しっかりと表現されているキャラクター、キャラクターに合わせて演出された背景、見やすく非常に良くまとめられている部分を評価させて頂きました。
坂本
「背景」の演出も重要なのでしょうか?
タカヤマ
「背景」という考え方よりも、モンスターを表現する上ではこのキャラクターの個性を表す舞台装置として何が一番適切か、を考える必要があります。
このモンスターはどんな攻撃をするのか、何属性なのか・・・とか。
坂本
舞台装置、なるほど。
タカヤマ
背景の割れている地面、飛び散る火花、そういった演出が「プロレスラードラゴン」の個性を引き出していたという点で僅かには優れていました。
魔王降臨も非常に素晴らしかったのですが、演出や立ち姿でもう一声ほしかったですね。
坂本
ありがとうございます。
受賞者コメント:konoikeさん
タカヤマトシアキさんに絵を見てもらえる機会だったので応募しましたが、結果として受賞を頂けてとても嬉しいです。
最強とはなんなのかということを考えぬいてイラストを描いたので、その点を見て評価をいただけたのはとても嬉しいです。
他の参加した方のイラストを見ても私にもまだまだ成長していける点がいくつもあり、とても実りのあるコンテストでした。このことを踏まえて最強のイラストレーターに近づけるよう精進します。
様々な角度で描かれる「最強」が多数!佳作作品
坂本
それでは佳作についても教えてください。
タカヤマ
上記2点以外に、佳作は9点選びました。
タカヤマ先生コメント
- 自分なりの最強を出そうという気持ちがでていて良い。
- 下から見上げるようなアングル・すごい魔法力、通常の物理攻撃以外にも強力な力をもっているという演出が出来ている。
- 立体感のある表現やあおりのアングルをまだ描き慣れていない印象があるので、そういった練習を積み重ねるとさらに良くなる。
今回、コンテストではクリーチャー設定を記載してくださる方も多くいました。もちろんそうした細かな設定もデザインを検討する上では重要ですが、文章にする熱量を全て絵に出すと絵はもっとよくなります。デッサン力、メリハリを意識したライティング、画面構成、等々設定を画面にしっかり出力できるよう頑張ってください。
タカヤマ先生コメント
- 丁寧に描かれていて好感がもてるイラスト、クオリティはプロレベル。
- アングルやポーズが折角のキャラクターを表現しきれておらずもったいない、巨大・神々しさを演出するなら、より極端なあおり構図などを考えてみても、下に描かれている蓮の花を、より手前に持ってきて大きく描き近景と遠景でサイズ感を表現し、臨場感とリアリティを際立たせても良かった。
- 描きたいことが明確になっているので、このまま技術を磨いていくと良い。
- 小さくまとまっている自分を破壊して過剰なくらいな演出などを取り入れていくと、さらに良くなる。
ある程度まとまった形で描けるようになると自分の得意な表現でまとめようとしてしまうことがあります。自分も大いにその経験があり中々もう一歩踏み込んだ表現が出来ませんでした。自分の得意なところにとどまると、どうしても今以上のポジションに上がれません・・・。
そこで、絵をまとめる技術を身に着けたのなら、勇気を出して今の絵を破壊することをおすすめします。例えば今回の絵の様な「静」的な構図やポーズではなく、「動」を意識したアニメ等の極端なオーバーパースなどを取り入れた構図で描いてみる・・・そうすることでより進化した自分の方向性が見えてきてもう一段上の表現が出来るようになると思います!
タカヤマ先生コメント
- クオリティは高い。
- 最強というテーマを、キャラクターとしてしっかりと表現できている。
- 筋肉と体の構造に少し不安があるのでさらに突き詰めると更に良くなる。
- 鱗をテクスチャでごまかしていない点も素晴らしい(テクスチャを使用するのは悪いことではないが、最初からテクスチャで誤魔化さずあくまで自分の理想を表現しようとしている点。
モンスター・クリーチャーは、架空の生物だからこそ、骨格・筋肉・体表の質感・角の表現など「説得力」が重要になります。曲がる部分、ひねる部分、各パーツの接合部など下に有るだろう骨格や筋肉、その隙間などをしっかりと立体感と整合性のあるように(みえる)表現できるよう頑張ってください!
タカヤマ先生コメント
- 絵自体は上手いが絵画のような印象。
- アカデミックな基礎ができていそう。
- ライティングと視点誘導ができている。
- すごく良い雰囲気がいいからこそ、全体的に暗くて何があるのか見えづらいところが非常にもったいない。
モンスターやクリーチャーイラストを描く上では、シルエットも非常に重要です。
モンスターイラストもキャラクターイラストの枠組みに入ると思いますので
「キャラクター」のシルエットとデティールがある程度解るように描くと良いかなと。
ダークなトーンを使うと、雰囲気は出るのですが表現方法によっては、描いたモンスターと同化してしまいモンスターの形がわからず、個性が伝わらなくなる部分が有ると思います。
しっかりキャラクターのシルエットがわかる表現をしてみては如何でしょうか?
タカヤマ先生コメント
- デザインに自分が良いと思うキャラクターの個性を全面に押し出している点が良い。
- 他の作品を見ると虫モチーフの少し不気味なデザイン、独特な世界観を持っている。
- 作家性があるので技術を積み上げてよりよい作品を生み出すと一定のファンがつきそう。
- 全体的に明るく構成されていて見やすい。
タカヤマ先生コメント
- 基礎的なイラスト能力は高い。
- キャラクターが見やすくて形がちゃんと取れている。
- 今回は「最強」がテーマなのにキャラクターデザインはモブになってしまったのが残念。
- この方の個性が発揮されたイラストをぜひ、見てみたい。
タカヤマ先生コメント
- スケッチがすごく上手い、デッサン力が高い。
- 今回の作品は、ラフのレベルなので、ここから見やすい画面・キャラクターがはっきりわかる描画にして細かい部分まで描いたら最優秀賞も狙えた。
- 画力も高くコンセプトアートとしては、完成しているのでフィニッシュアートがちゃんと見たい。
- 立体を把握する能力も非常に高い。
こちらの方は、高いレベルが見て取れます、今回はモンスターのキャラクターイラスト的な部分での評価なので…次回が有るようであれば是非しっかり細部まで描かれたイラスト見てみたいです!
もし、フリーランスのイラストレーターとして仕事を受ける場合、「フィニッシュワーク」を積み重ねるようにしましょう。デザインを手掛けるモンスターのコンセプトアートも「フィニッシュワーク」ができる人に依頼がきます。
細部までしっかり描かれたフィニュッシュワークをたくさん積み上げてみては如何でしょうか?
タカヤマ先生コメント
- 画面を派手に作るという基本はできているが、盛りすぎてしまってキャラクターが見えなくなっている点が残念。
- 整理して、どういうキャラクターなのか表現できていると最優秀賞を狙える。
タカヤマ先生コメント
- クオリティ高い。
- 画面構成、ポーズ等でキャラの特性を出せていないのがもったいない。
- よく見ると装備も細かく描かれている(肩にドラゴンを討ち取って装備品にしている様子が伺える等)のだが、暗くて少し見づらい。
- 全体的なトーンがフラットで背景も手前も遠景も近景もトーンが同じになっているのでサムネの一覧に並んだ時に目立たないのでもったいない。
- サムネイルの小さい絵でも目を引くデザインになることは需要。
- 見やすい画面作り・キャラクターが映えるポーズを意識する。
モンスターイラストのコンテスト、実は数が集まるか不安だった
坂本
佳作へのコメントありがとうございました。
タカヤマ
モンスター・クリーチャーも人物と同様にそのキャラクター性を表現することが重要なんです。そして、モンスターの場合は必ずそこに強さ・架空の生物だからこそ表現しなければいけない説得力が求められます。
坂本
なるほど、ありがとうございます。
さて今回、実際にイラストコンテストを開催していかがでしたでしょうか?
タカヤマ
実は、最初は不安でした。モンスターのイラストは人気のジャンルとは言えませんからあんまり数が集まらないのではないかと・・・
坂本
でも実際は80を超える作品が集まりました。
タカヤマ
はい、安心しました。モンスターイラストから始める人ってすごく少ないんです。人物イラストと違ってSNSでの反応も薄いですし。だから、数が集まるかすごく不安でしたが、結果的にすごくたくさんの作品が集まりました。
坂本
はい。実は、今回のイラストコンテストがあった直後に、viviON社内※で特撮系のイラストを描ける人材がほしいと要望を頂き、このクリーチャーイラストコンテストに応募頂いた方2名が採用となりました。
※ GENSEKIではviviON社内におけるイラストレーター募集案件のご紹介も行なっています。
タカヤマ
そうだったんですね。
坂本
はい。ちなみにタカヤマさんが、今後やってみたいイラストコンテストはありますか?
タカヤマ
メカ系でどうでしょう?
坂本
メカ、いいですね!ぜひ第二回開催させてください!
【お知らせ】タカヤマ先生を審査員に迎えてのイラストコンテスト第二段開催中!
というわけで、タカヤマ先生を審査員に迎えたイラストコンテスト第二回を開催しています!今回のテーマは「ロボット・メカ」です。
次回も最優秀~佳作までタカヤマ先生のコメントを頂く予定です!奮ってご参加ください!
執筆・編集:坂本彬
挿絵:木口ようかん