GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

人々が集う「ギャラリー ルモンド」田嶋氏に聞く、イラストレーターの価値を上げるために重要なこと

OGP画像

 


GENSEKIのマーケティング担当の坂本です。

今回は、GENSEKIがGENSEKI展覧会を開催するきっかけとなったお話です。

 

株式会社viviONでは、クリエイターさんたちが制作しているイラストの価値を上げられるきっかけを作りたいと考えています。そのために我々が運営しているのがイラストコンテストやイラスト案件の紹介などを行っている「GENSEKI」です。

 

そんなGENSEKIチームが最近議論を重ねているのが「GENSEKIが主催する展示会」をすること。GENSEKIには日々素敵なイラストが掲載されていますが、Webサービスという特性上「デジタルイラスト」が主になっています。

しかし、デジタルイラストだけではなく「モノとしてのイラスト」を展示できたら、もっとイラストの価値を高められるかもしれない……。

 

ギャラリールモンド (取材時は深川優さんの展示会を開催中)

ギャラリールモンド
(取材時は深川優さんの展示会を開催中)

 

そこで今回は、原宿にあるイラストレーション専門のギャラリー「ギャラリールモンド」にお話を伺いました。

ギャラリールモンドは、香港のイラストレーターLittle Thunder氏やかわいちひろ氏などを見出したことで知られています。また、サンリオと人気イラストレーターのコラボなどの企画も積極的に行っています。

お話を伺うのは、オーナー兼アートディレクターの田嶋吉信さん。「モノとしての絵を展示すること」でイラストレーターの価値はどう上がっていくのか。ギャラリーはイラストレーターとどうかかわるべきなのか。

ご自身の世界観・イラストレーションを活かして活動していきたいと考えているクリエイターさんも必見です。

 

インタビューされた人
田嶋吉信

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アートディレクター/イラストレーターとして商業デザインに15年間携わった後、2015年1月より原宿でギャラリールモンドの運営を始める。

ギャラリールモンド:https://www.galerielemonde.com/

Agence LE MONDE:https://www.agencelemonde.com/

インタビューした人
坂本彬

アイコン
GENSEKIマガジンの編集・マーケティングを担当。クリエイター価値を高めるために「展示会」を研究中。


中村紘子

アイコン

GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。

 

イギリスでグラフィックデザインを学び、日本でグラフィックアートを手がける

イラスト

 

坂本
イラストレーター専門のギャラリールモンドの運営や、作家のエージェント業を行っている田嶋さんですが、以前はご自身もイラストレーターであったとお伺いしています。どんな活動をされていたんでしょうか?

 

田嶋
僕はイギリスのロックが好きでした。そこでCDジャケットなどの、音楽に関わるグラフィックデザインをやりたくなったんです。
そこでイギリスに渡り、現地の大学で商業デザイン(コマーシャルアート)を集中的に学びグラフィックデザイナーを目指しました。基本的なテクニックや技術、活かし方も全てそこで学んでいます。

 

坂本
実際にイギリスで仕事もしたのでしょうか?

 

田嶋
はい。クラブミュージックのCDジャケットをデザインをしていました。

 

坂本
学生の時点で、最初の夢を叶えているんですね。

 

田嶋
そういうことになります(笑)。日本に帰国してからは、音楽雑誌の編集部でバイトをしていました。


坂本
多才すぎる……!

 

田嶋
編集部には音楽関係者が多く出入りしていて、そこでLIQUIDROOMの人と知りあい、冊子やフライヤーデザインの依頼を受けました。さらにそれがきっかけとなり、レコード会社などからデザイン業務の依頼が来るようになります。それ以外にも、音楽やファッションに関わるグラフィック・映像・撮影などもやっていましたね。また、出版社が主催していた月一回のクラブイベントのVJも3年間担当していました。


坂本
日本でも、やりたかった音楽の仕事を獲得していったんですね。

 

田嶋
音楽のグラフィックデザインをやっていくうちに、グラフィックアートにハマっていきます。イラストとグラフィックデザインをあわせたようなものを作っていました。

 

田嶋さんの手掛けたグラフィックアート

田嶋さんの手掛けたグラフィックアート

坂本
すると、田嶋さんはそこから絵を描き始めたんですね。

 

田嶋
はい。当時、ポルトガルのデザインポータルサイトではトップページに表示するイラストを毎月募集していたんです。そこに僕のイラストを投稿したら、採用されてトップページに表示されました。それを機に依頼がくるようになり、海外の仕事も手掛けます。

 

坂本
国内外を問わずグラフィックアートを手掛けて、グラフィックデザイナーとしてもアーティストとしても成功を収めている……!


自分が目にかけたイラストレーターが成長していく瞬間が一番の喜び

イラスト


坂本
この時点で田嶋さんはアーティスト / デザイナーとして成功されていますね。なぜ、エージェントとギャラリーの運営という作家を支えるポジションになったのでしょうか?

 

田嶋
きっかけは自分がイラストレーターとしてエージェントに所属したことでした。

 

坂本
エージェントというのは、今の田嶋さんが行っているAgence LE MONDEのようなイラストレーターに案件を紹介する会社ですよね。

 

田嶋
そうです。そこに所属しているのは、自分は足元にも及ばないほど活躍している人ばかりでした。

そうした人たちを見ていたら、このまま自分がイラストレーターとして活動し続けていてもいつか行き詰まるのではないか、と考えたんです。

それと同時に、イラストレーターとクライアントの間に入るコーディネーターという仕事が非常におもしろいなと思いました。そこで、自分が所属しているエージェントの代表にお願いして、コーディネーターをやらせてもらったんです。

 

坂本
やってみたいと思っても、なかなか行動までできませんよね。本当にすごいことだと思います。実際にやってみてどうでしたか?

 

田嶋
コーディネーターをみると周りからは「向いている」と言っていただきました。自分自身もコーディネーターを続けていくうちに、作品を作る側ではなくイラストレーターをサポートする側に回りたいという気持ちにシフトしていきました。

 

坂本
元々イラストレーターやグラフィックデザインをやっていた人が間に入ってくれたら、クライアントも、仕事を受けるイラストレーターも、すごく安心感がありそうです。

 

田嶋
その頃から、自分が応援したいイラストレーターの作品を展示してもらって、その人の新しい仕事につなげるという、「ギャラリールモンド」の構想を考え始めました。

そしてギャラリーを実現するために、印刷会社でアートディレクターをして資金を貯めました。

 

坂本
目標を見つけた瞬間の爆発力が本当にすごい。……ちなみに、田嶋さんがサポートする側に回って一番うれしいことってなんでしょうか?

 

田嶋
やっぱり、自分が気になっているイラストレーターが成長していく過程を共有できることが、一番の喜びです。

そしてルモンドがきっかけで大きな仕事につながることや「交流がなかったイラストレーター同士がつながっていく」こともうれしいですね。

 

坂本
ルモンドがきっかけでイラストレーター同士がつながるとは、どういうときなのでしょうか?

 

田嶋
僕がグループ展のメンバーを決める際は、できるだけ知らない人同士で組むようにしているんです。そうすると普段、面識がないイラストレーター同士が出会うんですね。

イラストレーターは1人での作業なので、孤独を抱えて不安になる人も多い。だからできるだけイラストレーター同士の出会いを作りたいと考えています。

ルモンドで出会ったイラストレーターが仲良くなって一緒に活動していたりするのを見るとうれしくてしょうがないです。

 

坂本
まるで、イラストレーターの父ですね。ルモンドさんで展示したイラストレーターは作品を売ること以上に、大切な繋がりを得られるんですね。

 

場所貸しではない「自分が良いと思う人」達が活躍するための場所

 

坂本ここまで話をお伺いして、ルモンドがイラストレーターから信頼を寄せられている理由が分かったような気がします。展示を希望する方も多いのではないでしょうか?

 

田嶋
ありがとうございます。ただ、ギャラリールモンドは「場所貸し」ではなく自分が応援したいと思ったイラストレーターに展示してもらっているので誰でも展示ができるわけではないんです。

 

坂本
「展示したい」という問い合わせには、どのように対応していますか?

 

田嶋
まずはグループ展に参加してもらったり、お客さんとして参加してもらうことが多いですね。

 

坂本
田嶋さんが応援したくなるかどうかは、相手を知らないといけないですもんね。ではお客様として来て、その時にポートフォリオを持ち込んだら、見ていただけるのでしょうか?

 

田嶋
はい。でも、それだけを見て判断するわけではないですね。またグループ展の場合は僕がテーマと出展者を決めるので、そのテーマにあっているかどうかも重要です。

 

坂本
テーマに合っているかどうか以外の決め手は具体的に何でしょうか?

 

田嶋
「この人なら、こういった仕事に繋がる!繋げたい!」と思えるかどうかですね。

 

坂本
やはり、田嶋さん自身がコーディネートする時のイメージ、「応援したくなるかどうか」なんですね。

 

「自分が良いと思う作家」を探す時は、若いイラストレーターの声と自分の目で見て判断する

イラスト

 

坂本
ルモンドで展示したり、田嶋さんが関わったりする方は有名になっていくイメージがあります。田嶋さんが考える売れるイラストレーターの特徴はありますか?

 

田嶋
売れる特徴があるなら、僕も知りたいです(笑)。でも、普段から「いいな」と思うイラストレーターを見つけたら、その人の展示会へ足を運び、観に行くようにしています。直接絵を見て、この人はルモンドにあうなと思ったら、自分の中の作家リストにいれておいて、グループ展の時に声をかけます。

 

坂本
「いいな」と思うイラストレーターはどこから探してくるのでしょうか? SNSだと情報が溢れすぎていますよね……?

 

田嶋
ギャラリーに遊びに来てくれる若いイラストレーターに、必ず「今、注目している人いる?」と聞くようにしています。同業者が注目している人は、やっぱり絵に特徴があったり突出している部分があるんです。

 

坂本
現役のイラストレーターの声を聞いて、実際に田嶋さんの目で見て「この人にはこんな仕事ができそう・ルモンドの世界観にあいそう」という人が選ばれるんですね。
ちなみに、ルモンドではエージェント業もやられていますよね?

 

Agence LE MONDE

Agence LE MONDE

 

田嶋
はい。Agence LE MONDEには、現在6名のイラストレーターが在籍しています。
どのメンバーも元々はギャラリールモンドで展示会をしていました。

 

坂本
イラストレーターに案件を紹介するときに心がけていることなどはありますか?

 

田嶋
クライアントから仕事の依頼自体はたくさんあるのですが、イラストレーターにとって向いていない仕事を紹介するのは、コーディネーターとしてやりたくはありません。

そこで、Agence LE MONDEに入っていただくイラストレーターとは何度も面談をして「1年後のゴール」と「3年後のゴール」を決めます。僕はそのゴールに近づける仕事だけを紹介するんです。

 

坂本
エージェント業は手数料商売なので、どうしても案件量に目が行ってしまうかと思います。にも関わらず、Agence LE MONDEさんはイラストレーターのキャリアを考慮した仕事を紹介してくれるなんて、まさにクリエイターファーストですね。
このスタンスを貫くことは、なかなか難しいことだとは思うのですが、田嶋さんを突き動かす原動力は何なのでしょうか?

 

田嶋
「イラストレーションの価値を上げたい」という気持ちですね。たとえば、ファッション誌などに載る広告に掲載される写真には、かなりの予算が付きます。その一方で、同じような状況で使われるイラストには、そこまで予算が付きません。

もちろん、写真にはモデル代、カメラマン代、場所代など、経費がたくさんかかることは理解しています。ただ、それを考慮しても安いと言わざるを得ません。

これは、やはりイラストレーションの社会的な地位を上げるべきでしょう。そのためには自分がもっと動かなくてはいけないと思っているんです。

 

大事なことは「+1」と「納期を守る」こと

イラスト

 

坂本
ここからは、GENSEKIでイラスト案件のディレクションをしている中村紘子さんにバトンタッチします!

 

中村
ここまでのお話、非常に勉強になりました。私はイラストレーターのアサインからクライアント対応、契約締結といったディレクション全般を行っているのですが、一番困ることが「納期」です。ほとんどの作家さんは納期を守ってくれますが、そうではない人は少なからずいらっしゃいます……。田嶋さんはどうしていますか?

 

田嶋
Agence LE MONDEは、入る前にギャラリールモンドで展示をしていたり、面談を重ねているので納期を守らない人はいません。それに加えて、若いイラストレーターなどにも常々「納期だけは絶対守れ」と言っています。

 

中村
それもイラストレーションの価値をあげることにつながりますよね。

 

田嶋
あとは依頼されたことに「+1」をやるようにとも伝えています。

 

中村
「+1」とは具体的にどんなことでしょうか?

 

田嶋
たとえば、クライアントから依頼があってその通りに仕上げる「パターン1」を作ります。その後に、その依頼の意図と目的を考えて「自分ならこうするな」という「パターン2」を作って、納品のタイミングに両方提出するんです。

 

中村
「パターン2」でOKもらうことは多いのでしょうか?

 

田嶋
めったに通りません(笑)。でも「色々考えてくれる人」としてクライアントの記憶には残ると思います。僕がフリーランスで活動していた時に実践していたことです。

 

中村
たしかにいろいろなアイディアを出してくれた人は記憶に残りますよね。しかも、元の指示通りの案と2つ出してくれているから、クライアントにはうれしい提案だと思いました。

 

田嶋
企画に関わっていると、アートディレクターの頭の中にあるアイディアだけで突き進んでしまうんです。だからこそ、第三者の考えがあったらうれしいのではないのでしょうか。

 

中村
そもそも「+1」をやること考えたら、スケジュール管理をちゃんとやらないと大変ですもんね。

 

田嶋
はい。案件以上の工数がかかるかもしれませんが、「またこの人に頼みたい」と思ってくれる人も増えるので「+1」を考えることはさまざまなイラストレーターに実践してほしい考えの一つです。

 

中村
田嶋さんがおっしゃると説得力が増します……!本日はありがとうございました。

 

自分が応援したいイラストレーター、これから芽がでそうなイラストレーターを全力で応援する

イラスト

 

今回はギャラリールモンドの田嶋さんにお話をお伺いしました。

インタビュー前は、ギャラリールモンドとは「すごいイラストレーターが展示しているかっこいいギャラリー」だと思っていました。しかし、話を聞いてみると「イラストレーション」を軸にしたコミュニケーション空間でもあるということがわかりました。

そして、そこには誰よりもイラストレーターのことを考えて、イラストレーションの価値を向上させようとする田嶋さんという存在がいるのです。
取材中、とても印象に残ったのが、イラストレーター達が幸せになっていく瞬間の話をしているときの田嶋さんの笑顔です。イラストレーターを心から応援している、推しているということが伝わってきました。

また、GENSEKIとしても学ぶべき点がたくさんありました。田嶋さんは、個別の案件を紹介するだけではありません。未来を見据えた仕事や、仲間作りなどのイラストレーターの人生に関わることを全力でサポートしています。こういったことは是非、GENSEKIでも取り入れていきたいと思います。

 

こうして今回のインタビューを聞いて生まれたのが「GENSEKI展覧会」でした。

本当はもっと早く更新したかったので、内容が前後してしまっているのですが、こうした取材からもGENSEKIは進化の機会をもらっています!

 

よろしければ、是非GENSEKI展覧会、そしてギャラリールモンドにもお越しください!

 

企画・取材・執筆
坂本 彬
中村 紘子

編集
斎藤充博
企業オウンドメディアを中心に企画・制作・編集を行う。

https://lp.genseki.me/genseki-tenrankai

挿絵

チナップ(@cnapillust