GENSEKIマガジン

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色の綺麗さを確約され、テーマとモチーフに集中ができる! 定められし配色から広がる無限の可能性! 「パレット縛り」イラコンを振り返る!

 

今回は、12月に行われたパレット縛りイラコンの結果の振り返りです。

 

さいとうなおき先生の縛りイラコンでは様々なものを縛ってまいりましたが、今回はGENSEKIが指定した「パレット」から1種類の配色を選び、オリジナルのイラストを描いていただきました……!

配色という縛り……果たしてどうなる……!? と思いきや、皆様とっても楽しんでご参加頂いておりました。自分と同じパレットを使った人がどんな作品を描いたのか、を見るだけでも、学び気づきの嵐!!!!

 

さて、今回パレット縛りイラコンを制した人は誰になるのか……!

審査員

さいとうなおき(TwitterYouTube

イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者100万人以上。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。

インタビューした人
中村紘子

GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。

 

キャラという武器を使わずに伝わる絵の魅力、色温度が考えられ雪国育ちのさいとう先生も唸らせた作品!

雪晴れ/リーオカ

使ったパレット

中村
今回の最優秀賞は、リーオカさんの「雪晴れ」ですね。

 

さいとうなおき先生
はい。こちらの作品ですが、色温度がよく考えられていますね。

 

日の当たるところを拡大

さいとうなおき先生
日の当たるところにオレンジを使い、寒い空気とそこに差し込む陽の光の暖かさがよく描けています。人物は背中を向けて歩いている1人だけですが、人物(キャラクター)という絵力を使わずに、見る人が気になってしまう画面づくりができています。
リーオカさんの絵を描くことが好きな気持ちがとてもよく伝わってきました。

 

中村
今回のパレットは、私が色を選ばせていただきました。

 

さいとうなおき先生
各パレットは何かしらのテーマを決めて色を組んだんですか?

 

中村
そうですね……冬なのでクリスマス・ハロウィンらしい色等……ある程度は決めておりましたが、リーオカさんの作品は私の想像を遥かに超えていました。「色温度」まで考えて描いてくださるなんて……!

 

さいとうなおき先生
そうですね。リーオカさんの絵を見ると誰かに指定されたパレットではなく、このために組まれたパレットのようだと思いました。それほど、この絵と合っています。

 

中村
緑で雪を描くという視点にも驚きました。
雪であれば青、青であればパレットCを選ぶという選択肢もあったのに、あえてパレットBを使われている点も勉強になりました。

 

さいとうなおき先生
僕は、雪国出身なので雪には厳しい方なんですが……この絵は、雪もすごく良いです。

 

柵の上にこんもりのった雪

さいとうなおき先生
例えばこの柵の上に、こんもりとのっている雪の雰囲気。
これは、雪をちゃんと見たことがある人の描き方ですね。東京ではあまり雪が降らないのでピンと来ない人も多いかもしれませんが、本当にこうなるんですよ。

 

中村
細かいところまでしっかりと描写されているんですね。

 

さいとうなおき先生
雪の凸凹は影で描くしかないんです。なので色面構成で表現するしかないのですが、リーオカさんの作品は、影のゆらぎや雪の積もっているところと、積もっていないところがよく表現できています。

 

奥の木は、全面オレンジで塗られている

さいとうなおき先生
また、手前の木は日があたっているところにオレンジが使われていますが、奥の木は思い切ってオレンジで全面塗っています。この色の違いで向こうの方に太陽が昇ってきている爽やかな朝として、絵を見ている人も朝日を感じることができますね。

 

中村
絵を見ているだけなのに、冷たくて爽やかな朝の空気を感じますね。
リーオカさん、最優秀賞おめでとうございます!!

 

受賞者コメント:リーオカさん

この度は最優秀賞に選んでいただき大変光栄です。

パレットBを見たとき、オレンジと明るい緑の対比がまるで陽光に照らされた雪原のようだと思ったのがこの絵を描くきっかけでしたが、決められた色のみで絵を描くのは今回が初の挑戦でした。

限られた色で立体感や位置関係をしっかり見せるために影を積極的に使おうと思い、それならば物体をどこに置き、影をどう伸ばしたら効果的かをひたすら考えました。
試行錯誤している最中、いつもの自分では考えられないほど高度なことができている実感があったのですが、それが色数を絞ったことによる効果だと知り、非常に合点がいきました。
縛りのおかげで実力以上の力が出せ、それにより上級者の思考の一端を垣間見ることができたのは大変ありがたいことです。
今後の作品作りや練習に取り入れていこうと思います。

そして今回、プロの観察力のすごさを身をもって知りました。
私も雪国出身で、毎年見ていた雪景色を思い出しながら資料を参考にしつつ描いたのですが、その絵を見ただけで先生は「雪をちゃんと見たことがある人の描き方」だと言い当てていて大変驚きました。
この観察力の差が、第一線で活躍されているプロと私の表現力の差に直結しているのだと痛感すると同時に、取り組むべき課題を明確に見いだせた大変貴重な体験でした。

素晴らしい機会を与えてくださったGENSEKI運営の皆様、さいとうなおき先生、本当にありがとうございました。今回の経験を糧に、より魅力ある絵を描けるように研鑽を積んでいきたいと思います。

 

 

力作が勢ぞろい…! 最優秀候補の2作にも大注目な佳作の作品を紹介!

ここからは佳作をとった作品をご紹介します!
気持ちを表すモチーフ選び、勢いとテーマを伝えるための色の配分など、さいとう先生から学びある講評がもりだくさんです!

 

「恐怖」の抽象度を高くするためのモチーフ選び、色や構成がうまい!

夜中にホラー小説読んでるときの気持ち/餅米

さいとうなおき先生
こちらの作品は、最優秀賞候補でした。
パレットの色からテーマを導き出しているところが良いですね。色とテーマ、題材と構成が非常にマッチしています。

 

中村
背景に、タコかイカの足のようなものや、魚がいますね。

 

さいとうなおき先生
おそらく、本を読んでいる女の子の気持ちを具現化しているのでしょう。これもすごく合っています。タコやイカの足って集合体恐怖症の人が見たらぞわっとしてしまうような、気持ち悪さがありますよね。そうした ”気持ち悪さ” を読書中の女の子の気持ちとして表現しているのではないかと思います。

 

中村
なるほど……! 気持ちを直接的に絵で出すのではなく、別のモチーフで表しているんですね。

 

さいとうなおき先生
はい。怖いものと言うと幽霊や怪物などが一般的かと思います。
そうした直接的なものを描くと恐怖を確約できる一方で、そちらばかり気になってしまう絵になります。また、直接的なものを描くことで実体として存在しているのかどうかも分かりづらくなります。
この絵では、「恐怖」の抽象度を高くすることで、あくまでも描かれているキャラクターの「気持ち」の話であることがうまく伝えられています。

 

中村
気持ちを伝えるモチーフ選び、重要ですね……!

 

あえてテーマカラーを絞って色に目が行く絵、勢いもあり思わず見てしまう!

みずエネルギー/sorami

中村
水のエネルギーを感じさせつつも、オレンジで元気一杯な印象ですね。

 

さいとうなおき先生
あえて、寒色の領域を狭くすることで、そちらに目が行ってしまう絵作りができていて良いと思いました!
あとは、勢いに押し通されてしまっているところもあります(笑)

 

中村
たしかに「みずエネルギーーー!!!!!!!」という勢いを感じます。
自分の気持ちを押し通す力も絵には大事ですね!

 

さいとうなおき先生
大事です! 勢い!

 

精密に描かれた女の子とデフォルメされた深海世界のコントラストが面白い

ENCOUNTER IN DEEP/しぃ

さいとうなおき先生
この絵は画面構成が気持ちいいです。泡できれいに埋められた画面、泡と泡に反射する魚のバランスが非常に良いですね。

 

中村
ダイバーの衣装もしっかりと調べられている印象です。

 

さいとうなおき先生
そうですね!ダイバーの女の子は精密に描かれているのに、泡や魚はデフォルメされていて、この共存具合も面白いです。
深読みしすぎかもしれないですが、深海をファンタジーな世界として捉え、そこに現実世界の女の子が迷い込んだといったストーリーがあるのかもしれません。良いコントラストです。

 

勢いもさることながら絵がうまい! 色と線画で縛りに挑戦した積極性のある1枚絵!

スペシャル・キル/おさる なんど

さいとうなおき先生
こちらも、勢い良くて見てしまう絵です。

 

中村
絵には勢いも大事!!

 

さいとうなおき先生
勢いもさることながら絵がうまくて、色・線の構成力が良いです。
「スペシャル・キル」というタイトルの通り、攻撃の「キル」を赤で描いているところや主線あえて端折っているところなど、今回パレットで縛った意味を考え積極的に挑んだのだろうなと思いました。

 

中村
パレット縛りを楽しみながら、新たな挑戦に取り組んで頂けて嬉しいです!

 

見てほしいところ以外をあえて無彩色にし、視点誘導が考慮できている

秘密の推し活/poffso(ポふそ)

中村
ストーリーを感じるイラストですね。推しは手に持っている写真の人なのでしょうか……。

 

さいとうなおき先生
推しカラーが赤だからメガネや髪飾りに推しの色を入れる。発想がとても「今どき」でいいですね!
メガネやリボンに赤を使って、それ以外の箇所はあえて無彩色を使っているところに意図を感じます。どこを見せたいのかきちんと頭の中で考えて描かれたのだろうと思いました。

 

中村
素晴らしい原石ですね……!

 

不思議な世界観で、見る人の想像力をかきたてるイラスト

瞬き/とりとりるんるん

さいとうなおき先生
メインであるキャラクターに色を使わないというアイディアが発想の勝利ですね。思い切った作品です。

 

中村
不思議な世界観ですね。色々考えてしまいます。

 

さいとうなおき先生
あえて見る側にストーリーを補完させて、想像力をかきたてていますよね。
僕も見たときに、背景が少し不穏な感じなのにキャラクターは笑っていて、なにかの暗喩なのか? と考えてしまいました。

 

中村
地面にもゆらぎがあるので……地面なのかな? と思ってしまいました。

 

さいとうなおき先生
作者が意図していないメッセージを勝手に受け取ってしまう作品ですよね。これはメインのモチーフが空白になっているからこそ、こういう状態になるのではないかと思います。
もし見る人に考えさせることを意識した作品なのであれば、いっそキャラクターの顔がなくてもよかったかもしれないですね。
より、見るほうが色々考えてしまうと思います。

 

今回のパレット縛りにおいて、完璧な回答をだしてくれている作品

コーヒーショップにて/みらりーの

さいとうなおき先生
これは、用途まで具体的に考えられていて、お見事!

 

中村
この絵を見たら、仕事の依頼でも良いアウトプットを提出してくれそう! と思いました。

 

さいとうなおき先生
今回はパレットの色を縛っていたにも関わらず、無理やり感もなく有り得そうな配色です。「このパレットで描くイラストの回答は?」という問いに対し「おしゃれなカフェです」という完璧な回答をもらった気がしました。

 

中村
イラストコンテストを開催する中でこういった広告寄りのイラストを描く参加者の方は珍しいと思います! ちゃんと自分の答えを出してくれているのが、嬉しいですね。

 

さいとうなおき先生
コンテストは自己表現になりやすいのですが、この方はどちらかというと他者表現をしています。この絵はイラストコンテストではなくクライアントの発注に応えている、という雰囲気すら感じます。
イラストレーターとして、一つのあるべき姿ですね。クオリティも高く、自分と社会の接点を考えてアウトプットしています。こちらの作品も最優秀賞候補でした。

 

中村
私も今後、カフェ系イラストの発注要望がクライアントからきたら、この方に相談しよう! と思いました!

 

うさぎを使って、肯定的にふんわりと包み込んでくれる

バニーガールバー/こぜ

さいとうなおき先生
この方のイラストも、どちらかというとデザイン・広告寄りのイラストですね。

 

中村
バニーガールのガールズバーに本物のうさぎ達が飲みに来ていますね。
よく見ると酔いつぶれているうさぎがいたり、紳士的に飲んでいるうさぎがいたり……腕時計もしていますね。

 

さいとうなおき先生
人間で描くと現実的でしつこい印象になるキャラクターをうさぎにして、コミカルでかわいい見栄えにしていますね。良いテクニックだと思います。
一見するとうさぎを描いていますが、その先には実はリアルな人間がいる。これを風刺的に描いているのではなく、肯定的に描いている印象です。飲みすぎて酔いつぶれちゃう人もいるけど……それもかわいいよね、と。ちょっと人には言えないようなことだけど、うさぎをつかって肯定的にふんわり包み込む優しさがあって、僕は好きです。

 

中村
人参のおつまみとうさぎ型になっているボトルキャップなど、世界観はちゃんとうさぎに寄せているところもいいですね。

 

伝えたいことが絵からしっかり伝わってくるドラマチックな作品

Heading to Next/みたらしあやか

さいとうなおき先生
コメントの内容が絵でも伝わってきます。希望に溢れていていいですね。

 

中村
これは駅なのでしょうか?

 

さいとうなおき先生
物理的にどこかというより気持ち的な部分を象徴するための駅なのだと思います。
色味も世界観もすごく良いです。
だからこそ少し残念なのが、雲の表現が少し雑になっているところです。この作品は朝日がでているところに一番視点がいくので、雲の配置・大きさ・ブラシ選びを検討できたら、さらに最高の作品になります!

 

色の綺麗さが保証されているパレット縛りだからこそ、テーマと形に集中できている素敵な作品が多かった

中村
今回のパレット縛りはTwitterで参加表明している方も多く、楽しんでご参加頂いた方が多かったように思います。

 

さいとうなおき先生
オープンワールド型RPGのように、やるべきミッションが明確になっているところが良かったのではないでしょうか?

 

中村
なるほど!

 

さいとうなおき先生
今回は最初から配色された色があって、色のイメージで絵を描く人も多いのではないかと思ったのですが、ちゃんと自分に引き付けてテーマをしっかりと練って考えてきた作品が多かったです。

 

中村
確かに、今回受賞された方の作品を見てもこの配色でこの絵を描くのか! という作品や、配色のことなんてすっかり忘れてストーリーを考察してしまう作品など、パレットに縛りがあったとは思えない作品ばかりでした。

 

さいとうなおき先生
クリエイター魂で自分の作品を仕上げている人が多かったですよね。
パレットという縛りがある良さは、色の綺麗さが保証されていることだと思います。だからこそテーマと形に集中できるんですね。

 

中村
色選びが苦手な人は、パレット縛りも有効ですね!
さいとう先生、ありがとうございました!

 

執筆・編集

坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。