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【解説付きイラストメイキング】厚塗りで描く『れおえん』の美しく繊細なラベルデザインができるまで《GENSEKI イラストメイキング #1》

GENSEKIマガジン編集部です。

「あの素晴らしいイラストレーターさんはどういう風に絵を描いているのだろう?」と思ったことありませんか?

そうした多くの人の、目と心を奪う人気イラストレーターさんの制作に迫る「GENSEKI イラストメイキング」連載が始まりました。

第1回目のイラストメイキングはイラストレーター・れおえん(@reoenl)さん。

 

<プロフィール>

れおえん
1996 年生まれのイラストレーター。 退廃と光が同居した世界観で、”(not) Invincible"なキャラクターたちを描く。国内外 IP への作品提供を軸にグローバルに活動中。FLAT STUDIO所属。

 

今回、メイキングを紹介するイラストは、お酒と出会う楽しさを提供するお酒のオンラインストア「KURAND(クランド)」さんとのコラボ企画で販売している、お酒のラベルになったイラストです。

 

れおえんさん担当「水織 れおえん LIMITED EDITION」

本ラベル制作を行うに当たり、れおえんさんに実際にラベルを担当する日本酒を飲んで頂き、カラーテーマである「白」に沿ってイラストを制作いただきました。

 

こちらのお酒は、

「織物のまち」で醸された純米大吟醸酒。口当たり柔らかな伏流水を仕込み水として使用することで、上質で透明感のある味わいとなっており、やさしい甘みと綺麗な酸は至極のハーモニーを織り成しているお酒。

とのこと。編集部も、れおえんさんの美しいラベルを眺めながら飲める日を心待ちにしております!(こちらの購入方法については、本記事の最下部よりご確認ください!)

 

まずは、イラストメイキング動画にて少しずつ描き込んで仕上げていく、厚塗りイラストの美しさをご堪能ください。

そして観終わってから下記の記事を、ぜひ読んで下さい。
厚塗りをメインで使っている人じゃない人でも役立つポイントがたくさんあると思います。

 

 

今回のメイキングは、大ラフ完成後~仕上げまでを解説しております。

また、れおえんさんは「厚塗り」で描いていくため、「ラフ→線画→着色」といった工程ではなく、全体を見ながら人物・背景を描き進めていくスタイルです。

なお、ポイント解説については、GENSEKIイラストディレクター中村が担当します。

イラスト解説

中村紘子
中村紘子 (なかむら ひろこ)

GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
ゲームイラストを中心にディレクションを行なっており、イラストディレクション歴は6年。本プロジェクトのイラストディレクションも担当し、自身でもイラストを手掛ける。

 

緻密な作業の積み重ねで作られる、イラストレーターれおえんのイラスト制作工程

れおえんさんの作業環境

CLIP STUDIO PAINT EX
Adobe Photoshop

1:大ラフを開く 

大ラフ

今回は、大ラフが完成している段階からの解説となる。

 

2:表情レイヤー作成

表情レイヤーを作成する

目・口・眉毛が選択し、顔のパーツ(口目眉毛)をレイヤー分けし、表情レイヤーを作成する。

3:大ラフを整える

大ラフを消しながらディティールを詰める

大ラフの線を消しながら、描き足しデザインのディティールをつめていく。
この時点では、ラフの線と同じレイヤーに描き込んでいる。

<ポイント解説>

大ラフの時点では、腕の装飾がクロスしたものになっていました。

しかし、この時点でギザギザした装飾に変更しています。れおおえんさんのイラストは、全体のバランスを見ながら細かな装飾のデザインも試行錯誤されている点がイラストを描く人にとって、すごく面白いところだと思います。

4:人物・背景に別レイヤーで彩色を施していく

人物・背景に別レイヤーで彩色を施していく

この時点で彩度を下げ、鮮やかさを消している。
また、光源を意識しながら反射も含め光の色を載せている。

 

<ポイント解説>

透明ピクセルロック

描きたい形が決まった瞬間に、「透明ピクセルをロック」しています。

これにより、はみ出しが発生せずに塗ることが可能です。れおえんさんは、初期段階では特に、装飾・小物など繊細なアイテムには「透明ピクセルのロック」を利用しています。

5:彩色した部分のレイヤー分け( 線画はレイヤー分けには入っていない)

彩色した部分のレイヤー分け

「投げなわ選択」で服と髪を選択してレイヤーを分ける。この時点では、肌・表情・髪服・エフェクト前・エフェクト後ろでレイヤー分けが行われている。
なお、線画はレイヤー分けされておらず、あくまでも彩色した部分のみとなっている。

6:ラフの線画を一番上に移動

ラフの線画の不透明度12%まで下げ、線画を一番上に移動させた上で、ガイドとして利用。

7:背景を白→グレーに変更

ラフの線画を一番上に移動

今回はテーマカラーが「白」となるため、描き損じ・消し忘れがより分かりやすくするため、背景をグレーに変更。

8:形を整えながら、塗りと線画を描き足す

形を整えながら、塗りと線画を描き足す

塗りのレイヤーの中で形を整えながら、線画 / 塗りを足して、おおよその外枠の形を整える。この時、明確に順番はなく全体の雰囲気を見ながら描き進めていくが、一番重要な顔だけは先に線を入れている。

<ポイント解説>

トーンカーブ

今回のイラスト制作では色を塗りながら都度、色の調整を細かくしている点もポイントです。これは、厚塗りの場合は色を重ねることで濁りが発生しやすく、それを回避するためや、全体のバランスを見ながら、マッチした色を追求して描いているものと考えられます。

れおえんさんは、この色の調整にトーンカーブを使用し調整しています。

また、調整する際には、トーンカーブを「RGB」で調整するだけでなく、「ブルー」「レッド」のみを選択し、微調整を行なってます。こうすることで人間の目では調整しにくいカラーリングも細かく調整しているのではないかと思います。

特に今回の作品は白基調に寒色がメインカラーなので「グリーン」は全く触れていない点を見ても、色の表現力をしっかり理解して調整されていると思いました。


9:エフェクトに「紫〜青緑の色味を足すペン」で色味を足す

「紫~青緑の色味を足すペン」で色味を足す

外側のエフェクト・洋服に「紫〜青緑の色味を足すペン」で色味を足す。
このペンは、CLIP STUDIOの「色の変化」パラメーターを加えたブラシとなっている。

CLIP STUDIO PAINTの「ツールプロパティ > サブツール詳細パレット」

10:髪の毛をレイヤー分け、色塗り / 線画を描き進める

髪の毛をレイヤー分け

人物の体より後ろにある髪の毛と手前にある髪の毛をレイヤー分けする。

11:表情のデザインを迷いながら描き進める

表情については迷いながら描き進める。目だけはレベル補正を利用し全体的に色を濃くし、より絵の中で見る側の目を惹くように調整。
顔を描いてから、全体調整・色塗りに戻る。

12:人物より手前のエフェクトを描く

エフェクトを描く

線として捉えず塗りの塊として形を整えていく。形については範囲選択(投げなわ選択)を使って、自由変形ツールで、移動・拡大・縮小・変形を行っている。形の調整をしながら、色の緩急もつける。

<ポイント解説>

エフェクトはガイドとして正円のレイヤーを作り、それを軸にしてはみ出さないように調整しながら描いています。はみ出した場合は都度、範囲選択を利用し自由変形ツールでなじませています。

13:ここから特定部位を描くのではなく、全体感を見ながら描き進める

 形・色・全体のバランスを整えるといった、厚塗りならではの細かい作業が続きます
(デザイン・形を迷っている瞬間等、ぜひ動画でお楽しみください)


本記事では、ここからは特筆すべき点のみ抽出して紹介します。

14:外側のエフェクトを描く

外側のエフェクトを作成

元々あった正円をコピーして拡大し外枠用のエフェクトの枠を作成する。

他の箇所と同様に、線ではなく塗りで描く。描きやすくするために、始めは黒で描き形が決まったら明度・不透明度を変更し周囲の色味と合わせる。
元のエフェクトと同様に、描き足した外のエフェクトにも「9」で使用したペンを使い色味を足していく。
完成した外枠エフェクトのレイヤーを複製し、複製したレイヤーを今まで描いていたレイヤーの下に配置する。その後、上のレイヤーのエフェクトをライン抽出し、色の濃淡を調整する。

 

<ポイント解説>

線で描けないような表現をするには、CLIP STUDIOの機能で、「塗り」→「ライン抽出」という機能が非常に有効です。(但し、CLIP STUDIO EXのみの機能となります。)
思った曲線が描けない等でお悩みの人も、塗りからのライン抽出を利用することで線画では描きづらい曲線を容易に描くことが可能です。

ライン抽出


15:全体の質感調整

ザラザラとしたテクスチャを乗せる

ザラザラしたテクスチャをレイヤーの一番に乗せて、オーバーレイさせ全体的な情報量を足す。

16:洋服の模様を描く

新規でレイヤーを追加し、洋服のディティールを描く。
線を描く際には、曲線部分は繊細に手描きをしつつ、真っ直ぐなラインは、垂直に正確に描く。洋服の模様が描けたら、レイヤーを透明ピクセルロックし、洋服の模様の色を光と影に合うよう調整する。この際、線画が潰れないよう模様レイヤーは洋服の塗りレイヤーの上に配置している。

 

17:ここから再び、特定部位を描くのではなく、全体感を見ながら描き進める

 形・色・全体のバランスを整えるといった、厚塗りならではの細かい作業が続きます
(デザイン・形を迷っている瞬間等、ぜひ動画でお楽しみください)

本記事では、ここからは特筆すべき点のみ抽出して紹介します。

 

18:髪飾りのデザインを考える

完成形のデザインになるまで、上記の通り多数のデザインを検討。
最終的にデザインが決まると、それを「自由変形」を使って頭の形に添わせます。

<ポイント解説>

れおえんさんは、線をただ引くだけでなく描いた線を消しゴムで丁寧に整えています。綺麗な線と形に対するこだわりが、伺えます。
また、自由変形ツールを使い、絵になじませたり、装飾のパースもしっかりと意識して描いています。

19:加工・エフェクト

最後、完成の段階でPhotoshopで加工を施す。
今回のメイキングでは、制作の途中段階で1度Photoshopにて加工を施し最終形をイメージしている様子が見受けられた。これについての意図は、後述するインタビューにて詳細を解説。

なお、使っているツールはPhotoshopのCameraRawの機能や、色収差のオートアクションを作成し利用。

20:完成

完成した水織のラベル

<全体解説>

今回ラベルの担当をした日本酒通りの繊細で美しいイラストに仕上がりました。

通常、厚塗りをするとラフと完成のイメージが、かけ離れる傾向にあるのですが、れおえんさんの場合はラフと差がない仕上がりになっています。
制作過程では、何度も足の長さ・首の長さ等、違和感を細かく修正しており、その過程はイラストを描く人にとって非常に面白い点だと思います。是非動画内でも注目してほしいポイントです。

 

 

モチーフを定めて、様々な角度から作品を見直し、完成度を上げていく


中村:今回、この作品に込めた思いを教えてください。


れおえん:「白」「水」「織物」というテーマを、(お酒のラベルということで)わかりやすく普遍的な美しさのガイドとなる円をモチーフに表現することを目指しました。

 

中村:利用したソフトと制作時間も教えてください。


れおえん:CLIP STUDIO PAINT EXで、20時間近くかかったと思います。

 

中村:途中、Photoshopで加工もされていましたよね?なぜ途中で行なったのでしょうか?

 

れおえん:その瞬間の自分がその時点で完成したと思ったからです。イラストはスマホでも見栄えの確認を行い修正点を洗い出して、また作業を再開しました。

 

中村:Photoshopのオートアクションは普段から利用されていますか?

 

れおえん:はい。必要に応じて使っています。

 

中村:今回のオートアクションではどういったことを調整していたのでしょうか?

 

れおえん:色味の調整・アンシャープマスク・色収差エフェクト・ノイズを一括でかけています。これらのオートアクションは、イラストによってそれぞれオン・オフして使い分けを行なっています。

 

中村:そうなんですね。動画を拝見した際に、オンになっているオートアクションとなっていないものがあったので非常に気になっているポイントでした。

また、今回、一番上にカラーバランスの効果レイヤーをずっとオンにして描かれていましたが、この描き方をする理由を教えていただけますか?

 

れおえん:自分は、普段からラフ時点で色味を決定しても後で変えることのほうが多く、そのときレイヤーの一番上に効果レイヤーがあるとその調整がスムーズだからです。

 

中村:なるほど、確かにレイヤーを一つずつ色を調整するのは手間ですよね。技術的な面でも非常に面白くて勉強になりました。ありがとうございました。

 

徐々に正解に近づくように仕上がっていく、れおえんさんの作品

髪飾りや小物一つにしても、様々なパターンを試し熟考しているシーンが非常に印象深いです。また、何度となく全体を確認しながら、調整を重ねている制作過程を見ると、たった1枚のイラストが紡ぐ世界観の深さを、より感じられるのではないでしょうか。

そんな、れおえんさんを始めとする様々なイラストレーターさんに参画頂いたKURANDさんの酒ガチャ。是非下記よりご確認ください。

 

その他、GENSEKIマガジンでは様々なイラストレーターさんのイラストメイキングを紹介しています!

気になる方はぜひ、下記よりご確認ください!

 

 

十人十色!イラストレーターコラボ酒ガチャ!

今回の酒ガチャでは、10人のイラストレーターさんにそれぞれ色とその色にあったお酒を担当して頂き、オリジナルラベルを制作いただきました。

れおえんさんが担当して頂いた「水織」以外にも、果実酒・ワインなど様々なお酒に素敵なイラストラベルが施されています!

期間限定なので、この際に是非、年末年始の忘年会・新年会・家飲み用にお買い求めください!