今回のイラコンは「記号縛り」。さいとうなおき先生が描き下ろしていただいた記号を使うことが、参加の条件になっています。
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これらの記号を使って描かれた作品はなんと126作品! 意外なものから「なるほど~!」と思う作品まで、多種多様でした。
さて、大賞に選ばれたのはどんな作品だったのでしょうか!?
さいとうなおき(Twitter・YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者100万人以上。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
世界観を画面いっぱいに広げて「こうならなくちゃいけない」に昇華! 文句なしの大賞!
さいとうなおき先生
これは、お見事!!! まず記号を積極的に使っているのがすばらしいです。それだけでなく、記号が持つ世界観を画面全体に広げて、ポリゴンのようなイラストにしていますよね。
こうすることで条件である記号の歪(いびつ)な形が、「こうではなくてはいけない」という必然性にまで昇華されています。
中村
あの形がこんなに馴染むんですね!
さいとうなおき先生
画作りもめちゃくちゃ上手で、圧倒的な力を感じますね!
中村
poffso(ポふそ)さんの以前の作品を見ると、絵の雰囲気が全然違います。積極的に新しいスタイルに挑戦していただいたんですね!
さいとうなおき先生
ダイナミックな画面構成と繊細な色使い、色トレスの塩梅も含め、本当にうまいですよね。
画面後ろの沈めるべきポイントでは色トレスを薄く、手前は濃く、泡は一番手前にあるからこそ、存在感を抑えるような色使いをしています。
さらに補色も適切に使って、色をぶつける場所と、そうじゃない場所を分けています。これは文句なしの大賞! すばらしい!!
中村
パキパキとしていて、ぼかしもあまり使われていないですよね。
さいとうなおき先生
ぼかしは珊瑚のところに少しかかっているんですが、色面分けしていて、かっこかわいいですよね。
中村
それにしても、一番違和感なく記号を使っていますね!
さいとうなおき先生
ずば抜けています!
今回のお題は特殊で難しく、なかなかアイディアが浮かばず参加も悩みましたが、ジュゴンの形に見えた瞬間に意欲的に描き進めることができました。
ジュゴンだけカクカクだと違和感があったので、すべてをカクカクのポリゴン調にして光や明暗も直線を使って表現してみました。ただ、直線だけで絵を描いたことがなかったのと、細かすぎる直線ではジュゴンより繊細になり目立ってしまうため、魚や珊瑚のデフォルメ化の程度に悩んだりと、思っていたより大変で時間がかかりました。
またジュゴンが色鮮やかな海を魚たちと平和に泳いでいる姿を表現したかったので、平面的ではなく広い空間を表現できるよう、構図や線画の太さを調整し、色合いもジュゴンが目立つように、埋もれないようにと工夫しています。色トレスもすごく悩みながら加えていったので、評価していただき本当に嬉しいです。
さいとう先生、GENSEKI運営の皆様、本当にありがとうございました! 今後も挑戦させていただきますのでよろしくお願いします!
見ているだけで「なるほど」があふれる佳作
さいとうなおき先生
課題への取り組み方がど直球で好きです。記号の形から連想した幾何学的なモンスター風クジラを描ききりましたね!
さらに、水の流動的な生々しい質感と、クジラのメタリックな質感のわざとらしいコントラストもすごく良いです。
中村
これがメインだ! という主張がありますね!
さいとうなおき先生
記号の形をそのままビネット(台座の付いた小さなジオラマ)にした、思い切りの良さがおもしろい作品ですね!
中村
イラストの構成として良いポイントはどこですか?
さいとうなおき先生
まず、記号をドアの形にするという発想がおもしろいですね。もしかしたら、今回のイラストアイディアの起点はここから始まったのかもしれません。それくらい、しっくりくる形でまとまっています。
中村
なるほど。あ、今気づいたんですけど、女の子の部屋側の片足……狼ですね………。
さいとうなおき先生
あーなるほど! そういう仕掛けなんですね!! 見ている人を騙して部屋に入れようとするという……。
中村
ストーリーもコンセプトもおもしろいですね…!
さいとうなおき先生
本当にそうですね。ただ、きれいにまとまっている点があるからこそ、形を活かしきれていないところが少しだけあるのが残念です。
さいとうなおき先生
上記2箇所は、写真を無理やり切り取ったみたいになっています。
中村
確かに岩のところが切れていたり、この形に切り抜いたみたいになっていますね。
さいとうなおき先生
そうなんです。発想がすごく良かったので、形を活かして描ききっても良かったかと思います。
さいとうなおき先生
この絵、パッと見たとき「やるなぁ」って思いました。よくぞこの形でこれをひねり出したなと驚きましたね。
中村
車に勢いがありますよね!
さいとうなおき先生
そうですね。記号をメカニカルなものに落とし込むと、形の都合上、歪みが出てしまいます。でもこの作品はカーブをスピンさせることで、デッサンのくずれをスピード感の「雰囲気」として、納得感を出せていますよね。うまいなぁ。
中村
歪みも勢いに…!
さいとうなおき先生
同じくメカを描いてくれていますが、歪みがでてしまう部分を、記号にきれいに落とし込んでいますね。塗り分けの部分や、形のヘリの部分をあえてはっきりとした線で描いていません。これにより柔らかいメカに見せて、不自然さを消しています。
左上の飛んでいるミニロボにも記号を使ってくれています。記号W使いしてくれて、うれしいですね!
中村
色を上手く使って、歪みもデザインに落とし込んでいるんですね。
さいとうなおき先生
意外とこういう「ごまかし能力」って大事なんですよ。
中村
「ごまかし能力」ですか?
さいとうなおき先生
はい。イラストを仕事にする上で、毎回きっちり正確な形をとっていると、手が遅くなることもあるんです。仕事には納期もありますからね。
なので、少しくらいパースの狂い歪みがあっても、見る人を納得させられる力量や方法を身につけることは大事なんですよ。シシまるさんは、その能力が高い!
中村
なるほど~!
さいとうなおき先生
そういうものが絵の”味”になってくると思います!
さいとうなおき先生
この絵はメインに記号を持ってきながら、それが背景として使われている点がおもしろいですね。他にも同じアイディアを使った作品があったのですが、八邑スイさんはその中でも一番積極的にわかりやすく表現していたので、佳作に選びました。
中村
記号をなじませるのではなく、インパクトを重要視したんですね! サムネイルでも目を引きました。
さいとうなおき先生
明るい空を目立たせるために、暗くトーンを落としたところも丁寧に描かれています。バナナのダンボールがあるなぁとか、見ちゃいますよね。
さいとうなおき先生
人魚じゃない……ということはタコと人間のモンスターなのでしょうか。
中村
タコのお姫様のようにも見えます。
さいとうなおき先生
ダークでピアスもたくさんついていて、ヴィランっぽいですよね。
中村
ですね!
さいとうなおき先生
すごく良いですね。記号がタコに見えるから、タコの女の子を描いている。そのキャラクター性も含め、コンセプトがわかりやすいです。今回の課題がなくても作品として成り立っていますね!
中村
世界観がすごいですよね。記号だけを使うと背景の空白を埋めるのに困ると思うんですが、それも含めて作品に消化できていますよね。
さいとうなおき先生
そうなんですよ。形をメインにするとこじんまりしちゃうんですが、背景も作品の雰囲気にあっているし、すごいですね!
中村
見れば見るほど細かい仕事をしてますね。
さいとうなおき先生
ピアスが錨(いかり)の形になっているところもかわいいです!!
さいとうなおき先生
女の子にも角があるんですね。この世界線ではユニコーンが成長すると人間になるのでしょうか……? 隣で寝ているユニコーンもとてもかわいくて、僕も欲しくなりました。
中村
自分が作ったテーマをうまく描けていますよね!
さいとうなおき先生
積極的に記号を組み入れようと思うと、大きくしなきゃ! と考えてしまいます。しかし、この絵は主役であるユニコーンに記号を使っています。画面内においては小さいのですが、絵の主役として使うことで消極的に見えません。この使い方はすばらしい。
中村
大きくないのに積極性は失われていない! 大事ですね!!
さいとうなおき先生
もう純粋においしそう!!! ピザの形も記号にいい感じでなじんでいます。お腹空いてきますね……!
中村
ですね……美味しそうです!
(このインタビューはお昼ごろ行われました🍴)
さいとうなおき先生
でも、このふわふわな絨毯で、こんな食べ方はしないでほしいという気持ちもあります(笑)。
中村
サラミが絨毯に落ちたら大変……。ピザソースも白い絨毯についたら落ちなさそうです。
さいとうなおき先生
ここに落ちたら、傷つくのお前だぞ!! と思わず突っ込みたくなりますね。
中村
今回、記号をピザにしたのはもとからさんだけで目立ちましたよね!
さいとうなおき先生
そうなんですよ。シンプルに「おいしそう!」と思って目に留まりました。
さいとうなおき先生
すごいですよね! 普通だったら、こうはならんやろという形に人物をダイナミックに配置しています。
中村
スケボーとバスケットボールを持った少年、色もパキッとしていますよね。
さいとうなおき先生
ですね。こう見えたんだ! と言われたら、そうなんだなという納得感があります。今回の課題においては記号の使用に一番積極的に取り組んだ人なのではないでしょうか。
中村
この描き方をした人は他にはいない印象でした。
さいとうなおき先生
人体を記号に押し込むことが大変なんですよね。それを違和感なく描くために、この画角をよく思いつきました! 気概の勝利です!!
「縛りイラコン」がいつもの枠から飛び出すきっかけになってほしい
中村
今回のイラコン全体を振り返ってどうでしたか?
さいとうなおき先生
日頃絶対にやらないような謎の記号を絵に組み込まなければいけない状況は、新しい扉を開くきっかけになったのではないでしょうか。描いているうちに「あれ? こっちのほうが良くない?」となったり。
中村
そうですね。さいとう先生はイラコンの審査でよく「積極性」というお話をされますが、これは具体的にどういう意味なんでしょうか?
さいとうなおき先生
僕のイラコンの課題は基本「縛り」という点が大きいですよね。この縛りには「日頃やらないことを楽しんでやろうぜ!」というメッセージも込めています。これが「積極性」です。
何も意識しない状態だと、普段と同じことを課題を通じてやることになってしまいます。そうじゃなくて、いつものやり方を変えて、いっそ作風すら変えて、一歩でも半歩でもいつもの枠から飛び出してみてほしいんです。怖いかもしれないけど、楽しみながら自分を拡張できるチャンスだと思います。
だから、課題に対して積極的に挑めるかどうかは非常に重要なんですよ。イラストレーターとして成長するチャンスでもあります。
中村
同じことを繰り返すことも重要ですが、こなれてしまうというのはあるかもしれないですね。自分の領域の中だけで収まってしまうというか……。
さいとうなおき先生
そうなんです! だから僕のイラコンでは画力を見せるというより積極性を見せてほしいんですよね!
中村
仕事も同じかもしれませんね。
さいとうなおき先生
うんうん、そうですよね。
さいとうなおき先生の「縛りイラコン」開催中!※こちらのコンテストは終了しました
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編集・執筆
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。