こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。
今回は人気ライター斎藤充博先生が審査する、GENSEKIマガジン挿絵コンテスト「Webメディア挿絵イラコン」選考会レポートをお届けします。
Webメディアの挿絵に必要なものは? どんなイラストが記事に映える? など、Web用イラストのヒント満載です!
審査員
斎藤充博(Twitter/potofu)
2009年にデイリーポータルZでライターデビュー。以来「イラスト入りのWeb記事」を14年ほど書き続け、最近ではマンガ制作や書籍の表紙イラストなども手がける。GENSEKIマガジンの運営スタッフとしても活動中。
インタビューした人
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。今回は選考にも参加。
坂本
このコンテストはルールがちょっと特別です。挿絵のないマガジン記事を用意して、内容に沿ったイラストを募集しました。
最優秀賞に選ばれた方は、GENSEKIマガジン挿絵イラストレーターとして挿絵を発注させていただきたいと思います。また、入選された方はGENSEKIギルドにご招待いたします。
そのため、いつもは進行役をつとめる私も、今回は選考に参加させていただきます。
よろしくお願いいたします!
【最優秀賞】好感度が高く、例えのアイデアもみごと!斎藤先生も身のキケン?! を感じる上手さ
斎藤
最優秀賞はきびのあやとらさんの『目指せ読了!イラストは読者の伴走者?』です。
くっきり、はっきり、わかりやすい! 手描きのラフな抜け感もいいですよね。クセもあるけど、好感度が高くて、誰からも嫌われない絵だと思いました。画面全体の情報量もちょうど良いと思います。
坂本
いろんな年代の人が描かれていますね。意外とおじさんを描ける人は少ない印象です。
斎藤
1枚目に怪訝(けげん)な顔をしているおじさんがいますよね。こういう表情のおじさんを嫌味なく描けるのはポイントが高いですよ~。Webメディアはいろいろな人を描く必要があるので、すごくいいと思います。
それから……。このときに実際にこういう感じのおじさんがいて、本当に見られてたのかとドキっとしました!
坂本
2枚目の、読了をマラソンに例えているのも、受賞者の中では他にない表現でした。
斎藤
比喩のアイデアもおもしろいですね。全体的な雰囲気がGENSEKIマガジンに合っていると思いました。
坂本
プロフィールやSNSを見ると、コミックエッセイも描いているみたいですね。GENSEKIマガジンにマンガを描いてもらえたらうれしいかも……。
斎藤
そういう期待感もありますね。
ただ、問題があります……。きびのあやとらさんは僕と作風が近い感じで、しかも僕よりうまい。正直、僕の仕事を全部持って行かれるのではないか、と……。
坂本
いいイラコンになりましたね(笑)。
斎藤
僕にとっては危険なイラコンでした……(笑)。
最優秀賞、最高に嬉しいです!!! やったー!
少し珍しい挿絵のコンテストを知った瞬間から、絶対に応募したい! 入選したい! と思っていたので感激もひとしおです。
実際に手を動かして作業したのは数時間ですが2枚目のマラソンは何度も前後の文章を読み「これをどうわかりやすく置き換えられるか」とぶらぶら散歩しながら案を考えたりしたので「他に無い表現だった」と言っていただき大成功! と言う気持ちです。
対して記事のサムネイルになる可能性の高い1枚目は見出しを読んだだけでビジュアルが見えており、「あの斎藤充博先生にもこんな時代が??」と食いつきがいのあるイラストを一瞬で描き上げることができました。テレビのインタビューを夢見て心ここにあらずな斎藤先生、これだけ描けば状況は伝わりはするのですが味付けとして「訝しげなおじさんも入れておこうか」「4枚目はただの屋台にするより記事の枠っぽくして犬も紛れさせておこうか」こういったさじ加減を自在にできるのも挿絵の面白さだと思っています。
そしてタッチについて。一番早く描けるタッチで着色も最低限に抑えた次第ですが、「クセもあるけど、好感度が高くて、誰からも嫌われない絵」と評していただけたことが何より嬉しかったです。私が目指すのはまさに記事にあった「焼きそばのような挿絵」なので、これからもっと多くの人の目を止める存在になっていきたいと思っています。
素晴らしい機会を、本当にありがとうございました!
【佳作】
斎藤
きっぱりと要素をしぼって描いているところが最高じゃないですか!!! 1枚目の脱サラの様子もシンプルでわかりやすくていいです。
4枚目もかっこいい。いきなり文字の中に焼きそばが出てくるからみんな見る、という記事内容はこういうことですよね。
つい1枚の画面にたくさん要素を入れがちなのですが、これくらいシンプルにしたほうが伝わると思いました。僕の好みでいうなら一番好きです。
坂本
Webはごちゃごちゃしがちなので、画面がシンプルな方が見やすそうです。
斎藤
2枚目の比喩表現もいいですね。アイディアがよく考えられて、なおかつ工数が少なくできているのはWebのイラストとしてとても良いです。あと、手描きの字が上手!
ビジネス風のメディアにもあっているかも。
坂本
文字が多いビジネス系メディアにこの挿絵が入っていたら良いバランスになりそうですね。
穀物かじつさんの他の登録イラストを見ても、いろいろな絵柄が描けそうです。
斎藤
キャラクターの顔を絶妙にかわいくしていなくて、ちょっと毒がある。でもそれが嫌味になっていないですよね。Webメディアの記事を盛り上げるのに、ちょうどよさそう……!
坂本
こういう絵を描くのって、難しいですよね。貴重な方です。
斎藤
鳩とかはかわいいのに、審査員である僕をキモく描いているところに勇気を感じます(笑)。
坂本
「かわいいコンテンツ」はどこを見てもあるので、あえてかわいくないほうがスクロールする手が止まるかもしれません。それにしても、表情を描くのが上手い!
斎藤
3枚目の「あきちゃった」人の顔や、「そっかあ」ってグラフの顔がとてもいいです。だって、本当にイヤそうな顔なんだもん(笑)。4枚目の人も「やきそばにこんなに興奮して大丈夫?」と言いたくなります(笑)。
制作時間を6時間と明記しているのも、わかりやすくて良かったです。
坂本
6時間でこんなに描けるのはすごいですね。Webメディアの挿絵だけだと単価はそこまで高くないので、制作時間も大切です。
斎藤
大事ですね。Webメディアの挿絵はまさに「野外で作っている焼きそば」ぐらいの気持ちで制作してみてほしいです。
斎藤
かわいくて明るくて、どんな場所にも合うんじゃないでしょうか。想像ですが、作画コストもかかりすぎていない気がします。
坂本
ラフな感じと明るい感じがWebメディア向きだと思いました!
斎藤
すごく絵がうまいですね。もう、僕から言うことはなにもないくらい……。それに、これで制作時間5時間はすごいです。
ただ、Webメディア用にしては絵が全体的にリッチなので、もうすこしあっさり描いても良かったかな?と思いました。
坂本
色数をしぼって描いてもらうなどはどうでしょうか?
斎藤
いいと思いますね。このくらい上手な方なら、下描きにラフな感じで色をつけるくらいでOKかもしれませんよ。
とある超有名Webメディアの編集長がこんなふうに言っているのを聞いたことがあります。「プロのイラストレーターにお願いすると、上手すぎて親しみが湧かない絵が上がってきてしまうことがある」
坂本
なるほど……。
斎藤
その編集長は「もう左手で描くくらいのつもりで描いてほしい」と伝えているそうです。なかなか生々しい現場の話ですね。ともかく、そのくらい肩の力を抜いてもらっていいと思います。
斎藤
線が丁寧で、色使いが好きです。描き文字も見やすくていいですね。やってみると分かりますが、意外と描き文字って大変なんです。
画像の全体が微妙に四角にならないところも良い印象を受けました。
坂本
フキダシを囲う差し色も効いていますね。4枚目の広がっていく感じも素敵です。
斎藤
制作時間が2日というのは、あいだあいだで少しずつ作業をしたということかな?
坂本
「制作時間」のとらえ方が人によって異なってしまいますが、発注側としてはどういった内容でも書いてあるだけで助かりますね。
斎藤
1枚目の袋文字の表現がすごくいいですね。黒で縁取りして中は薄紫にしてハイライトを入れて、ちょっとした工夫と少ない工数で存在感を出している。
これは僕も参考にしたい……。真似したいです! よろしくお願いします!
坂本
1枚目はファーストビューに使うこともあるので、勢いがあるのはいいですね。
制作時間が3時間というのも、すごいです!
斎藤
3時間でこの作品が描けるのか〜。すごい。
坂本
プロフィールアイコンもおもしろいです。挿絵イラストレーター紹介でこのアイコンが掲載されたら、不思議でクリックしたくなります。
斎藤
独特ですね。それに脇とか肩甲骨をさらっと描いていて、絵がうまそうなのも伝わってきます。
斎藤
いろいろな使い道が想像できる作風です。全体的に、きっと何を描いてもらっても上手に仕上げられるんだろうな、という安心感があります。
坂本
シンプルなのに、手描きのぬくもりも感じますね。いろいろな作風で描いていただけそうです。
坂本
こちらは私が選ばせていただきましたが、いかがでしょうか?
斎藤
使い勝手がよさそうな作風です! 描いてある内容がわかりやすいですよね。
坂本
シンプルで目に入ってきやすい印象でした。かわいいです。トーンも落ち着いていて色選びが上手です。
斎藤
それから、さっとラフに描いてある字が読みやすいのが、ポイントが高いです。ラフな手書き文字は見にくいことが多いので、僕も文字だけは丁寧に書いているのですが、この方は天性の上手さだと思います。
【総評】媒体に合わせて、ほどよい作風を作ろう
坂本
コンテスト全体を振り返って、いかがでしたでしょうか?応募点数が多く、全体的にクオリティも高い印象でした。
斎藤
みなさんお上手で、クオリティは高すぎるぐらいです! 正直、応募作品のほとんどが、Webメディアの挿絵として問題なく使えると思いました。今回はその中で「特にいいな」と思ったものを賞に選ばせてもらう形になりました。
坂本
私は、今回の入賞者はGENSEKIギルドにご招待させていただくので、いろいろな絵柄の方に来ていただきたいな、と思って一緒に選ばせていただきました。
斎藤
ただ、少し気になったこともあります。絵がうまい人が多いGENSEKIユーザーならではだと思うのですが、うますぎるというか、工数をかけすぎているものも多かったです。Webメディアではなく書籍なら向いているのでは、という作品もありました。
坂本
ほどよく手を抜くって、むずかしいかもしれないですね。どうしたらいいでしょうか?
斎藤
色数をしぼる、ズーム機能を一切使わない(細かく描かない)、画面のキャラクター人数を2人ぐらいにする、などですね。
そして、絵が上手な方がWebメディアの仕事をしてみたい場合、メインにしているリッチな絵柄ではなく、軽く描けるサブの絵柄を作ってみてはどうでしょうか?
坂本
ちなみに、斎藤さんも挿絵を描く際に、時間と工数のバランスで意識していることはありますか?
斎藤
感覚的なところもあり、うまく言えませんが……基本的に、複雑な構図は描こうとしないようにしています。とくに立体的な奥行きや、パースを考える必要があるものはできる限り避けています。人体の動きに関しても、複雑なものはできるだけ描かないようにします。
その結果できるのが、例えばこういう絵なんですが……。
依頼主の期待を超えたい気持ちは大切ですが、媒体に合わせた工数の意識も大切です。みんな上手に手を抜いて、早く納品する。そして、いっぱい睡眠時間をとりましょう(笑)。制作は無理をしないようにする。
坂本
あと、これは編集者の目線から気づいたのですが、今回の応募者一覧のページ、Webメディアの編集者にとっては宝の山なのでは……。
斎藤
そうなんです! 僕も今回のコンテスト応募一覧をWebメディアの編集者に見せたら「めっちゃいいじゃん!」と言われました。惜しくも賞に入らなかった方々も、もしかするとどこからか声がかかるかも……?
坂本
Webメディアを運営している皆さん、どうぞご覧いただければ! ご応募いただいたみなさんも、もしこれがきっかけでお仕事に繋がったら、ぜひご一報ください。GENSEKIでは、そういったうれしいご報告をいつでもお待ちしています!
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編集
坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
斎藤充博(Twitter/potofu)
企業オウンドメディアを中心に企画・制作・編集を行う。
執筆
kao(Twitter/HP)
イラストレーター&ライター。GENSEKIではインタビューやメイキングを中心に担当。個人的に焼きそばが美味しそうなイラストを探した。