今回の縛りイラコンのテーマは「水縛り」! 記録的な猛暑日が続いた2023年夏ですが、涼し気な気持ちの良いイラストがなんと334点も集まりました。
大賞はどんな水を表現しているのでしょうか……?
さいとうなおき(Twitter・YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
【大賞】水をダイナミックに使いながら、デザインの引き算も活用し、おしゃれな画面構成に
中村
こちら、まずはコンセプトを読ませていただきますね。
スライムを擬人化した女の子が、待ちに待った水が降ってきて喜んでいる様子。
降ってくるのが雨のような大量の細かな水ではなく、流水というところにキャラ背景を含ませて描きました。
とのことです。いかがでしょうか?
さいとうなおき先生
水の表現がきれいですよね。水という物質をよく理解して、自分なりに解釈しているのがよくわかります。その上で水をリアルかつダイナミックに表現できていて、素晴らしいと思いました。さらに、水を透かして見える風景もうまくディフォルメされて絵に落とし込んでいるのもいいですね。
中村
本当に、水を大胆に積極的に使っている作品で、見ているだけで気持ちいいですね!
さいとうなおき先生
実は背景がシンプルなグラデーションなのですが、手前に密度があるから寂しくないですよね。清々しくて爽やかです。
こうした工夫により、構成もデザイン的でおしゃれな印象になっています。
中村
上が光っている点も気持ちが良いですよね!
おrrさんは、今回が初めての大賞です。
さいとうなおき先生
本日も、いい原石が見つかりましたね!
この度は大賞に選んでいただき本当にありがとうございます!!
私自身イラストコンテスト自体に今までほぼ応募したことがなく、お題に沿った内容でどこまで自分の力が発揮できるかを考えながら描かせて頂きました。
今回の「水縛り」というお題を見た時にまず「水の透明感」と「水による物の見え方のズレ」を描きたいと決めていました。
最初の時点でほぼほぼ描きたいモチーフが決まっていたので、後はそれに沿った可愛いキャラクターとシチュエーションを考えながらラフ作業を進めました。
最終的にイラスト手前の水部分に関しては、最後まで苦戦しながら描いていた覚えがあります。流水に映るキャラや背景の見え方を、資料集めと観察を繰り返しながら描きました。
今回他の参加者様のイラストを見ながら、同じ「水」モチーフでも様々なアプローチがあり、自分自身でも物凄く勉強になったいい機会になりました!この度は本当にありがとうございました!!
【佳作】あんな水・こんな水……いろいろな水の表現が大集合!
さいとうなおき先生
滝を登っている姿が大迫力です。
水を浮世絵のように描いていて、よくあるアイディアか……と思いきや、実はペーパーマリオRPGのように、物質としての紙をリアルに描いています。
この落とし込み方が、すごくおもしろくて目に止まりました!
中村
ねこいたさんは一見すると3Dのソフトを使ったような絵柄なのですが、リアルタッチを得意としていて、手描きなんです。今回のイラストも「使用したツール、画材」にはCLIP STUDIO PAINTとSAI2と記載いただいています。
さいとうなおき先生
めちゃくちゃおもしろいですね! すごい「力」を感じます。
中村
ねこいたさんは、「ちびキャラ縛り」の際に大賞もとられています。
さいとうなおき先生
画風が前回と全然違うんですね!
中村
今回の作品は、本物の紙を重ねているみたいですよね。
ちなみに、惜しかった点はありますか?
さいとうなおき先生
これは僕の好みもあるかもしれないのですが、この浮世絵のような水の表現が、「水だ」とわかるまでに少し時間がかかりました。とはいえ、大賞のおrrさんの作品がなかったら、ねこいたさんの作品が大賞だったと思います。
中村
ぱっと見たときに、明確に水と捉えるには弱かったということでしょうか?
さいとうなおき先生
強いて言えばそうですね。おrrさんがストレートパンチなら、ねこいたさんはフックで、相手に届くまでの時間がおrrさんのほうが早かったイメージですね。ただ、どちらも強力です!
さいとうなおき先生
水を描かずして水を描いていますね。自分の絵柄で、どうやったら見る人に水を感じさせられるのかを工夫している作品だと思いました。
中村
エイの顔がかわいいです!
さいとうなおき先生
エイが手前にいることで、ここは水槽の中ということがわかります。この画角で手前の部分を水槽なんだとわからせるアイディアがすごくいいですよね。
中村
魚やガラスの表現を描き込んでいないのに伝わるってすごいですよね。
さいとうなおき先生
記号と構成だけで水槽ということを伝える、アイデア力が素晴らしいです。
さいとうなおき先生
こちらの作品は平面的な表現ですね。最小限で水を描こうとする工夫が気持ちいいです。
中村
餅米さんはこれまでのイラコンでは佳作率が高めですが、大賞を狙うにはどうしたらよいのでしょうか?
さいとうなおき先生
餅米さんの作品が悪いというわけではないんです。ただ、他の応募者の方が「これでもくらえ!」という必殺パンチを繰り出している状況なので、餅米さんも「これが私の代表作!」といえるようなインパクトがある作品が描けると、大賞も目指せるかもしれません。
特にこの絵は粗密がない気がしていて、もう少しダイナミックな画面作りができると迫力が出てきてよくなると思います。
中村
なるほど……。
さいとうなおき先生
でも毎回、佳作をとれることも作家としての強みであると思うんです。餅米さんの作品は、「いいな、かわいいな、お家に飾りたいな」と思う安心感があります。無理に大賞を目指さなくても、ずっと佳作を取り続ける人でもいいんじゃないかと思いました。僕も毎回選んじゃいます。
もちろん、餅米さんだから選んでいるというわけでなく、絵に安心するような魅力があるからです。
中村
確かに毎回佳作をとれるということは、お仕事を依頼したときも毎回同じクオリティを担保してくれる作家さんということですもんね! 依頼する側も安心感があります。
さいとうなおき先生
これはすごい。完全に水を描ききりましたね!
中村
リアリティがすごいです!
さいとうなおき先生
海に入りたくなりました。これは本当に何も言うことなく、すごく気持ちよさそうな海が描けていて最高です!
中村
女の子もすごくかわいらしいですよね。素晴らしい……!
さいとうなおき先生
本当に絵がうまい! の一言です!
さいとうなおき先生
技術的にはまだ少し足りないところもあるのですが、秘密基地っぽさがあってワクワクする作品なんですよね。
中村
タコの手が釣りの餌になっていますね……。
さいとうなおき先生
描かれている内容とトーンが今ひとつ噛みあっていなかったり、水もがんばって描いているという印象があります。まだまだ荒削りなところもたくさんある方なんですが、ワクワク感がある画面作り、絵全体の雰囲気に惹かれる絵でした。
中村
なるほど……。
さいとうなおき先生
もう少し意図通りに絵作りができると、さらに強い表現ができるようになると思うので、ぜひこれからもがんばってほしいです!
さいとうなおき先生
何か惹かれる絵です。
中村
こちらの作品のターゲットは「悩みを抱えている人たち」だそうです。
水をテーマにすると、きらびやかな作品が多いのですが、こちらは曇天の海を描いています。まさに狙ったターゲットに刺さることを意図していますね。
さいとうなおき先生
クジラが血を流して砂浜で横たわっているのですが、血も水といえば水ですよね……。他の作品がポジティブな水である一方で、緋彩さんはネガティブな水を描いています。こういう作品、好きですね。
中村
作戦勝ちですね……!
さいとうなおき先生
海などの描き込みが粗い印象なのですが、それがこのテーマと相まっていい感じに重たい雰囲気作りができています。狙ってこういった表現をしているとしたら、ちょっとびっくりですね。
中村
GENSEKIには他の作品が掲載されていなかったのですが、ぜひ緋彩さんの他の作品も見てみたいですね!
さいとうなおき先生
国境を超えた作品ですよね。
中村
とてもリアルです。
さいとうなおき先生
人は水がないと生きられないですからね。死活問題です。きっとたくさん歩いて水を汲みに来ているんですね。
中村
コメントにも下記のように記載されていました。
日本だとありふれたものとして感じる水。一方で水を得るために多くの労力が必要になる場所もある。
水の価値を感じる作品です。
さいとうなおき先生
「水」と聞くと、僕たちはついつい無色透明な水を想像すると思います。でも、世界的に見るとkyoncさんが描いたような自然の中で濁った水を思い浮かべる人も多いんじゃないでしょうか。僕もこの水を忘れていたな、という気がしました。
中村
住む場所によって思い浮かべる「水」は違うんですね。
さいとうなおき先生
この作品は、水がすごい。本当にその一言に尽きます。
中村
力が水のキャンドルに込められていることが伝わってきますね!
さいとうなおき先生
私は水のキャンドルを描くんだ! という並々ならぬ熱意がはっきりと伝わってきました。逆にそれ以外は適度に描き飛ばしていますよね。そのギャップもおもしろいです。水への積極性があまりにも強く感じて、その勢いに押し切られました。
中村
勢いはやっぱり大事ですね……!!
さいとうなおき先生
下のろうの部分まで水なんですよね。
中村
はい。さらに、ろうそくの下には魔法陣も描いてあって、物語性も感じますね!
さいとうなおき先生
お風呂を上から見ている、この構図がおもしろいですよね。水がそれほど描き込まれていないのに、水の存在感がよく出ています。
中村
確かに、お風呂を真上から見下ろしているのは珍しいかもしれません。
こちらの作品のタイトルは「雨の日」です。
さいとうなおき先生
雨の日だからお風呂で遊んでいるんだよ、という設定なんですね。そう考えると、描かずにして雨の水まで表現できています。
中村
緑色の雰囲気がじめじめした雨って感じがしますね!
さいとうなおき先生
そうですね。緑をこんなにきれいに使える人は珍しいと思います。透明感ある緑が使える色彩感覚が素晴らしいです!
中村
とうみんあいすさんも佳作率の高い方の一人です。
さいとうなおき先生
もしかしたら、大賞を取れない悩みを抱えているかもしれないですが、自信を持ってほしいです!
【総評】積極性が高い作品ばかり! 自分の絵に水をうまく落とし込めていた!
中村
水縛りイラコンを振り返っていかがでしたか?
さいとうなおき先生
前回の炎縛りでは炎を記号的に使っている人が多かった印象だったのですが、今回は積極的に水を描いてくれている人が多かった印象です。
中村
いろいろな水がありましたね。
さいとうなおき先生
みなさん、火より水のほうが好きなのでしょうか……? 描く難易度としては水もけっこう難しいと思うんです。
水は無色透明だから、透けている向こう側の対象物も描く必要があるので、絵の構成を考えるのに悩んだ人も多いと思います。ただ、それも含めて自分の絵に水をうまく落とし込めている人が非常に多い印象でした。
中村
素敵な作品がたくさん集まった水縛りでした!
9月の縛りイラコンは「天使縛り」