生まれて初めて漫画を描いて、配ったら、楽しかった【iPadお絵かき修行 #4】

こんにちは、ライターの神田(こうだ)です。絵を描いたことない素人がiPadを使ってうまい絵を描こうと奔走する企画第4回目。
何も知らず体当たりで絵を描いた1回目に、愛着のある対象を選んでミニブタを描いた2回目。漫画家のなか憲人さんにキャラクターの作り方を教わった3回目と着実にレベルアップしてきている実感があります。ここまで絵にがっぷり四つで取り組んだことは中学校の美術の授業以来ありません。
書いた人
神田
かわいいものが好きなライター・編集者。オモコロなどで活動中。普段は絵を描かないが、自分のたましいに絵が描ける自分のことを見せつけてやりたくて企画に挑戦する。
う〜ん、4回目は何をしようかな……と考えていたところ、GENSEKI編集部から「漫画を描いてみませんか」との提案が。
漫画! いいじゃん!
漫画、いや〜漫画かあ。ちょっと憧れていたんですよね。漫画を描くことができるのって、足が速いとか力が強いとかじゃなく何か特別な才能を感じて正直かっこいい。小学校のときに絵が上手な友達が漫画を描いていて「こいつには敵わない」と感じたことを思い出しました。
それに、記事を書くことを生業とするライターにとって、漫画という別の武器が増えると表現の幅が広がって仕事にもいい効果をもたらしそうです。GENSEKI読者を含め、漫画を描いている人が周りにたくさんいるので彼らの気持ちも多少理解できるかも。

ということで、ライター・編集者であり、自身も漫画を描いているGENSEKI編集部の斎藤充博さんに「漫画の描き方」を教わることにしました。


でも、漫画って素人がいきなり挑戦して描けるものなの?
漫画を描くのってめちゃくちゃ大変じゃない?
神田
いや〜、漫画か。漫画って記事を書くのともイラストを描くのとも違うし、めちゃくちゃ大変じゃないですか?
斎藤
う~ん、僕はだいぶ簡単な漫画しか描いていませんし、まあそれで成立しているかなという気もしています。どんなところが大変だと思うんですか?

神田
漫画はいろんなことをかけ合わせて完成させなければいけないじゃないですか。絵とストーリー、展開、セリフを描き手の意図を誤読させないようわかりやすく読者に伝えるってすごく大変だと思います。それに加えておもしろくさせないといけないし。
斎藤
テキストの記事を描くのに比べると、やることが多いのは事実ですね。
神田
何を描こうか考えて、それをどう絵で伝えるかプロットを描いて、下書きして、おもしろさが読者に伝わるように絵やセリフを作らないといけないですよね。絵だけ良くてもセリフだけ良くてもどっちかがダメだとマイナスになってしまう。難しすぎる!
斎藤
まあ読者に何を強調するかとか、視線誘導とかテクニックはありますけど別にそんなに考え込まなくても……。神田さんは理想が高すぎる気がするので、もう少し気楽に考えてもいいのではと思います。
神田
斎藤さんは漫画を描くのって楽しいですか?
斎藤
え? 僕は漫画を描きはじめて10年くらい経ちますが、まだ楽しいなって思ってます。
神田
X(旧:Twitter)の投稿を見ていても漫画を描いてる人って「ネタが思い浮かばない」「ペン入れの時間がない」とかいつも苦しんでいてぜんぜん楽しくなさそうじゃないですか。
斎藤
確かにそんなイメージを持つのもわかる気がします。でもまあ、記事を書くのと同じような大変さだと思いますよ。描き上げた漫画を誰かに読んでもらえるのってうれしいですし。
神田
そうかなあ。みんな漫画に苦しんで体を悪くしている気がする。
斎藤
とりあえずやってみましょう! 僕からは「漫画って実はめちゃくちゃ簡単」ということをお伝えします。
漫画はオチをつけなくてもいい?

神田
さっきの話だと漫画は視線誘導だったり緻密な描画だったりたくさんやることは多いように思うんですが、”簡単”ってどういうことなんでしょう。戦々恐々です。
斎藤
まあ実際にやってみたほうが早いですかね。「CLIP STUDIO PAINT」(クリスタ)を起動してみましょう。


神田
クリスタさんいつもありがとうございます!
斎藤
よし、まずは「ファイル」を押して「新規」を開いてB5版にしてみましょう。ここで解像度も選択するんですが、夢とロマンを追い求めて印刷できるサイズにしておきましょうか。万が一本になって、売れたら大儲けできるから。
神田
印刷できる解像度ってどれくらいなんでしょうか。
斎藤
白黒で漫画を描くときは600dpi必要って言われてるのでそれくらいにしましょう。その後「基本線数」(※)っていうのが出てくるんですけど、いったん無視でいいです。
※網点の細かさの数値。トーン化やトーン生成するときに重要な数値
神田
よし、無視して先に進みます。

神田
だいぶ漫画っぽくなってきました。
斎藤
もう? 早くないすか。
神田
これって真ん中の四角に収めないといけないってことですか?
斎藤
セリフの文字や、主要な絵などはここに収めた方が本にしたときに読みやすくなるんです。外側の線は断ち落とし線です。本にしたときにここで裁断するよ、という目印。
神田
初心者すぎてまったくわからない……。
斎藤
まあいったん気にしないで描いてみたらいいんですよ。まずはコマを作る「コマ割り」をやっていくんですが、いきなりコマ割りしろって言われてもイヤじゃないですか。
神田
う〜ん、イヤかもしれません。

斎藤
みんなが考えるコマってこうやって何分割もされてるやつだと思うんですよ。大きいコマで迫力を出して、小さいコマでテンポを作るみたいな。
神田
どうコマ割りするかがまず難しそうです。何を描くかも決まっていないのに。

斎藤
だからストーリーも構成も、何も考えずにまず3等分してしまいましょう。そしてなんとなく人を描いて展開していく。吹き出しも描いちゃう。

神田
漫画になってきました。すごい。動きも出ているし。
斎藤
そして最後の段ですね。オチが決まっていたらここでオチになるような展開を作るんですが、決まっていなかったら最後の段を2コマに割って、「2コマ猶予ができたぞ」ということにしちゃいます。
神田
余裕を作るためのコマ割りということか。そういうことしてもいいんだ。

斎藤
う〜ん、ここからどうしよう。まいったな。
神田
テクニックを裏付ける漫画を即興で作るって難しそう。
斎藤
ともかく最後オチを考える必要があるじゃないですか。おもしろいオチが思い浮かぶんだったらいいですけど、そうじゃない場合のテクニックをお教えします。
神田
これ一番知りたいかも。

斎藤
「つづく」ってしちゃうんです。
神田
あまりに思いつきすぎません?
斎藤
いや、そんなことないです。前にとある人気漫画家に取材したときに「連載漫画を描くときはオチが思いつかなくてもいい。最後のコマを次の引きにすればいいから、ストーリー作りは意外と難しくない」ということを聞いたんです。
神田
確かに漫画は次を読ませるテクニックも必要ですよね。展開はわかったんですが絵には自信がなくて。
斎藤
構図や絵の上手さは今はまったく気にしなくても大丈夫です。漫画の絵ってすごく懐が深いんですよ。
神田
どういうことですか?
斎藤
イラストレーターさんがイラストを描く場合は、対象のバランスをきっちり描かなくちゃいけないことが多いんですが、漫画の絵は記号的な役割を多分に持つので、対象が何か分かれば究極問題ないです。
神田
確かに人とか車とかそれくらいは描けるから大丈夫かな……。
斎藤
スピードが出てるような強調線をつけたり、人に汗をかかせたりすると状況がわかるじゃないですか。簡単に動きが出せるんでそこはいいところかもしれません。
神田
最初からうまい絵で漫画を描こうとするのではなく、上達の過程で磨いていけばいいということか……。
斎藤
僕はぜんぜん磨かれていませんが、一般論としてそういうことです。まずは1ページ作ってみましょう! そうしなきゃ始まんないから。
神田
やるぞ!
初めて漫画を描いてみるぞ

斎藤
よし、3分割したところからスタートですね。絵と展開はわかったと思うので、好きに描いてみてください。
神田
う〜ん、難しい……。描きたいものってあんまりないからな……。

斎藤
おっ! これは車ですかね? 走ってる雰囲気出てる!
神田
車を描いたのはいいものの……。次はどうしようかな。

斎藤
なんか標識が出てきましたね! 高速道路なのかな? めちゃくちゃいいですね!
神田
すごく褒めてくれる。なんか筆がノッてきたかも。

斎藤
標識にフォーカスして「100km制限!?」という文字が出てきましたね。かなり漫画っぽくなりました。
神田
文字は手描きでもいいと思うんですが、ちゃんとテキストを入れるとそれっぽくなって楽しいですね。
斎藤
さて、最後のオチです。ここからどうしますか?

神田
う〜ん………。

神田
こうなりました。
斎藤
まさか無頼派劇画漫画になるとは。
神田
ストーリーも展開も行き当たりばったりなんですけど、とりあえず仕上がって満足しています。
斎藤
実際描いてみてどうですか?
神田
楽しいんですが歯がゆいところもありました。実は違う展開も考えてたんですけど言うのも野暮かなと思って。
斎藤
もったいつけずに教えてください。

神田
ここの最後のコマ、最初は「100km/h制限の標識かと思ったら、実は100円自販機を知らせる標識だったんかい」ということで大きな自販機を描こうと思ってたんです。だけど断念しました。
斎藤
??? よくわからないけどまあ、やめたのは何でですか?
神田
自分にそういう自販機とかを描く画力がなくて、絵で描いても伝わらないかもという不安があったんです。だから急遽違うオチにしてみました。
斎藤
いや〜、「思いついたことを絵で表現できそうにないから展開を変える」って、漫画描いてる人ならけっこうあると思うんですよ。みんな完璧じゃないので自分の中で「これくらいならできるかも」と模索していると思うんです。プロでもそうだと聞いたことがあります。
神田
自分のはただの逃げですが、うまいことリソースの配分をしないといけないですからね。
斎藤
だから神田さんの思考回路は、もはやプロ漫画家のそれになっていました。たいしたものです。
神田
うれし……。

斎藤
せっかくだしもう1本くらい描いてみましょう。やはり漫画といえば吹き出しなので、クリスタの「フキダシツール」を使ってみましょうか。
神田
なんか2本目いける気がしてきた! 「楕円フキダシ」ツールを使って「フキダシしっぽ」をつければ……。

神田
異常に先が鋭い吹き出しができました。
斎藤
……まあ影響はないのでこのまま進めましょうか。今度はセリフを効果的に使いつつ描いてみましょう。

神田
空腹のライオンを描いてみました。
斎藤
文字のおかげでライオンってわかっていいですね。ここから広がりそうです。

神田
ソーセージとパンを描いてみました。
斎藤
いいですね。ライオンはもう腹ペコですよ。
神田
う〜ん……。

神田
こうなりました。
斎藤
意外と好き嫌い激しいんですね。
神田
やっぱり王なんで。
斎藤
コマ割りも印象的で良い感じです。初めてでここまで描けるなんて最高じゃないですか。
神田
そこまで褒められるとうれしいですね。漫画を描くのは初めてでしたがなんだか自信がつきました。
斎藤
漫画を描くのってハードルが高いように思うかもしれませんが、やってみると楽しいですし、次はキャラをどう動かそうかわくわくしますよね。
神田
確かにめちゃくちゃ楽しかったです。リアクションをもらうのもうれしいですし、もっと漫画でいろんなことができそうだなと思いました。
斎藤
そこに気づいてもらえてよかったです。「どうコマ割りしようか」「絵がうまくなるためには」など頭でっかちに考えず、まずは描く楽しみを味わってみてください。そんなにうまくならなくても、それなりに読めるものですよ。
まとめ

ということで、今回はGENSEKI編集部スタッフの斎藤充博さんに漫画の描き方を教わりました。
漫画、初めて描いたけどすごく楽しかったです。イラストだけではなく、セリフやコマ割りなどが互いを引き立てながら有機的につながっていく楽しさは、ただイラストを描くだけでは味わえないものでした。

せっかくだから他の誰かにも読んでもらいたいな……と思い、2024年12月1日に開催された文学フリマ東京に出展し、無料で自作の漫画を配布しました。

やっぱり自分が描いた漫画が紙に載っていると、「本当に漫画家になっちゃった!」という気がしてうれしいものですね。漫画を手に取ってくれた人が、目の前で笑ってくれているのを見て「あ〜描いてよかった」としみじみ思いました。Web記事だとなかなかこうはいきません。
漫画は絵と文字があって理解しやすく、おもしろさが伝わるスピードが早いので独特なメディアだと思います。ネタによっては記事にするより漫画にしたほうが意図が伝わりやすいこともあります。何かいろいろ可能性を探ってみても楽しいかも!

以上、絵を描いたことない素人がiPadで絵を描いてみる連載4回目でした。
今度は何をしようかな。かわいいキャラクターづくりに興味があるので、かわいいキャラクター制作に関わっている人にかわいさを表現するためにどういうことを考えて仕事をしているか聞いてみたいかも。行き当たりばったりでもう4回目! 次回もお楽しみに!
むりやり神田さんに漫画を描いてもらいました。「初めてにしてはおもしろい」とかではなく、もう純粋におもしろくて普通に笑いました。このクオリティの漫画を定期的にSNSに上げ続けたら、ものすごい人気になるんじゃないでしょうか。恐ろしい……。
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CLIP STUDIO PAINTは、3,500万人以上が利用したイラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリです。 タブレット、スマートフォン、パソコンといったあらゆるデバイスに対応し、気持ちの良い描き味と豊富な機能を備えており、世界各国のエントリーユーザーからマンガ家、イラストレーター、アニメーターなどのプロのクリエイターまで幅広く愛用されています。
執筆・イラスト
神田匠(X:@gogonocoda)
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