イラストで透明を表現するコツとは。さいとうなおき先生「透明縛り」イラストコンテスト講評会レポート

イラストレーター・さいとうなおき先生が審査員の「縛りイラコン」講評レポート! 今回は「透明縛り」です。 

透明という、描くのが難しいモチーフに対して真剣に向き合った作品が多く集まりました。透明感を出すコツ観察の大切さがわかる講評インタビューです! 

目次

審査員

さいとうなおき(X:@_NaokiSaitoYouTube
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。

インタビューした人

中村
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。

シンプルかつ細やかな演出がなされた、ベテラン感のある作品

【大賞作品】お化けの仕立て屋/カル / karu

さいとうなおき先生
これはうまい。くすっとさせられました。布を切っているおばけ、メジャーで測っているおばけというわずかなモチーフで、「透明なおばけの服を作ってるんだ」と、ぱっと見でわかります。高い力量と情報伝達能力を感じますね。

ただそれだけで終わらず、すごくシンプルなイラストなのに細かい演出がされていてびっくりしました。短い手で、前のめりに背伸びしながら頑張って切っている感じとか、素直にかわいいんですよね。限られた描写で、こんなにかわいらしい動きを描けるってすごいと思います。
床の足跡を見ると、机の周りで並んで見ている子もいるんですよね。「あっ、いた!」みたいな発見が楽しいです。


中村
本当にかわいいです。ここに実は5人もいるんですね。見ているうちに、この絵がすごく好きになっちゃいました!


さいとうなおき先生
見たときの感情の動かされ方という点で、こちらの作品が一番よかったです。
ここまでシンプルに削ぎ落とすって、勇気がいることだと思います。その上で良さを伝えるには、押さえておかないといけない部分の見極めが必要です。ベテラン感があって、かわいい以上のものを感じた作品でした。

透明感の表現に秀でた作品

【佳作】うたたね/澤田有季

さいとうなおき先生
画面全体から透明感を感じます。行ってみたい、住んでみたい、この空間の一部になりたい、という気持ちになりました。

透明を表現する際は、奥行きを感じられるように描くことで透明らしく見せられます。こちらの作品はフラットな絵柄でありながら、奥行きを感じるように描かれていますよね。奥に何かありそうなわくわく感と、手前の部屋のしずかなインテリアの対比がとても良いです。あと、やっぱりねこはお魚好きなんだなと思いました。


中村
画面全体が青色で統一されていますが、単調さがなく、色の幅も感じられます。


さいとうなおき先生
さまざまな青を使い分けることで、画面に変化を持たせていますね。メインの二人は紫寄りの青で、テーブルなどの陰部分はコバルトブルー系、室内の植物はコンポーズグリーン系、窓の外はシアン系……。色使いが巧みです。


中村
魔法使いの姿で現代の機器を使っているのもおもしろいです。


さいとうなおき先生
魔法でなんとかならないんでしょうか(笑)。でも、水中で電化製品を使えるのは魔法かもしれませんね。

【佳作】おひるねアリス/とみれ

さいとうなおき先生
空気感が好きな作品です。全体的に低彩度ですが、ガラスには鮮やかな青色が使われていて、色使いから透明さを感じますね。

また、黄色に目が行くように描かれていて、落ちているバラとアリスの関連性を想起させられました。きれいだけど花びらが落ちて朽ちかけているバラの状態と、眠っているアリスが重なって少し不安になる感じがあります。

透明ってポジティブな意味も持ちますが、「存在として希薄になる」みたいな文脈もありますよね。清々しさの中に、ちょっとした不穏さが隠し味として入っていて、気になる一枚になっています。「Drink me」のメッセージもちょっと不安になりますね。


中村
ポットやグラスもなんだか存在感が強く見えます。小さなアリスだからこその対比もありそうですね。


さいとうなおき先生
寒色の光で暖色の影というのもおもしろいです。透明なモチーフは、影に光のニュアンスを入れることによって表現できます。暖色自体がけっこう光の意味合いを持つので、あえて影に赤や黄色系統の色を入れることで、自然と透明感を感じられるようになっていますね。

一瞬で惹きつける力を持つ作品

【佳作】カーテン/じみにしじみ

さいとうなおき先生
カーテンが波になっていて、その中で魚が泳いでいる。このざらついた質感のある絵柄とも相まって、見た瞬間「わっ」と思いました。「なんだこれめっちゃいいじゃん!」みたいな。アイデアが非常に良いです。


中村
サムネイルの時点で目を引かれましたね。


さいとうなおき先生
本当に良かったからこそ、最後までていねいに描き切ってほしかった……! もっと水を観察して描けていれば、もう間違いなく大賞でした。


中村
すごく惜しかったんですね……! 具体的にはどこをもっとよくできそうでしょうか?


さいとうなおき先生
見どころである白波に被ってしまっているので、右下の白いお魚たちは入れずに、白波の部分をもっと描き込んでほしいです。
それから、とくに人物にかかっている部分や中央のお魚の周りに、液体のぬるっとした感じをしっかり出せていればさらに良くなるだろうと思います。なんでこのタッチでこんな質感が出せるんだ! と驚かせてほしかったです。

袖のあたりや手先を見ると、色面の揺らぎや奥行きがうまく表現されているので、じみにしじみさんはそれができる方だと思います。あともう少し時間をかけるだけで本当に良くなると思いますね。

【佳作】ボトルメール/龘(たいと)

さいとうなおき先生
素直にきれいでかわいいと思った作品です。「よき。」って感じ。
瓶に閉じ込められているのが人間で、それを外から眺めているのが金魚という状況がいいですね。人間と金魚の立場が逆転している設定がおもしろいです。描かれているモチーフも華やかですね。


中村
髪の描き込みに力が入っていて、髪を描くのが好きなんだろうな、というのが伝わってきます。


さいとうなおき先生
そうですね。ただ、良いものを詰め込んだ分、少し整理ができていない感じがありました。

例えば、花のシルエットや花びらは瓶の中に収まっていた方が、ボトルメールのイメージをちゃんと表現できると思います。
また、泡のコピペ感も気になりました。立場が逆転しているおもしろさを伝えるためにも、瓶の外には金魚以外のモチーフをあまり描かない方が良かったかもしれません。


中村
見せ方や細かい処理にも気を使うことでより魅力的な作品になるんですね。


さいとうなおき先生
要素を入れ込むだけだと「こういうイラストを描いてください」という指示書のようにも感じられてしまいます。ていねいな描き込みができている部分とアイデアは良いので、演出の面でもしっかり詰めていってほしいですね。

独自の世界観で透明を表現した作品

【佳作】標本の花嫁/はるわすれ

さいとうなおき先生
「怖い美しさ」を感じます。ぎょっとさせられました。魚だけにね……。


中村
(笑)。体の透け感が絶妙ですね。他にも透明なモチーフがたくさん描かれています。


さいとうなおき先生
背骨の描き込みが本当にすごいです。めちゃくちゃいいなと思いました。アクリル板もよく特徴を捉えて描かれていて、「この感じ、わかる!」ってなりましたね。

主題はすごくいいと思ったのですが、ベールや横に立っている人の描き込みが少し物足りなく感じてしまいました。あと、ワイン片手に自慢している貴族の愉悦みたいな場面を描いているのであれば、床に飾り気がないのもちょっと気になりましたね。


中村
霊安室や研究室のような冷たい場所にある雰囲気がありますね。


さいとうなおき先生
イラストの良さって、時間軸なども含めた世界観を一枚の中で語り尽くすところにあると思っています。漫画のカラーページなら他のコマで場所や状況を説明できますが、一枚絵はその中だけで表現する必要があるんですよね。あともう一歩こだわると、見る側により世界観が伝わると思います。

【佳作】す き/タカミン

さいとうなおき先生
これは怖いですね……。このまま映画のポスターになりそう。この映画、見に行きたいです。


中村
バランスの微妙な崩れがまた怖いです……! 


さいとうなおき先生
狙ってか狙わずかわからないのですが、全体的な歪みが気持ち悪さとして内包されていますよね。それがさらに結露でぼかされて、いい感じに噛み合っているような気がします。


中村
透けて見えている顔とのズレも不気味で、怖いのにすごく見ちゃいますね。


さいとうなおき先生
透明というテーマで、こんなにもド直球なホラー作品をそのまま商品になりそうなところまで仕上げてくれたのは、この方くらいなんじゃないでしょうか。アイデア自体は思い浮かぶかもしれないんですけど、「まあ賞は取れないよな」みたいなことを意識すると、ちょっとふざけてみたり、自分のコストを節約しちゃったりすると思うんです。
タカミンさんは、最後までずっと自分を信じて真顔で作ってきてくれた感じがします。クリエイターとしての制作態度に好感が持てるというか、僕は好きですね。

作品制作における「観察」の大切さ

さいとうなおき先生
テーマが「透明」なのに、濃く分厚い、創作にかける熱量を作品から見せつけられました。
透明は、その奥にあるものも描かないと表現できないので、描くモチーフが2倍3倍になるような中々大変なテーマだと思います。クリエイターとしてはめんどくさかっただろうな、とちょっと思うんですが、だからこそ皆さんすごい熱量や手数でそれを押し切ってくれたなと思いました。


中村
さいとう先生の講評にも熱が入っていた気がします。
ちなみに、今回「透明」をテーマにしたのはどういった意図があったのでしょうか?


さいとうなおき先生
透明って、想像だけで描くのは難しい部分があると思います。ガラスや水に映っているものに関しても、頭の中のイメージだけで描いちゃうと、あまり透明っぽく見えなくなることが多いです。
そこでうまくいかないぞ、ってなったときに、「どうなってたっけ?」って改めて観察するフェーズが来るはずです。それをやってみてほしくて、このテーマにしました。

今回の応募作品を見て、やはり制作の裏に観察や思考があると、作品としての厚みが自然と出やすいのかなと思いましたね。

▼コンテストページ

【定期開催】さいとうなおき先生の縛りイラコン

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執筆
GENSEKIマガジン編集部

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