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モチーフが多いイラストを見やすく整理する具体的なコツを解説。とろろとろろ先生にインタビュー



こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。

GENSEKIではイラストレーター・アニメーターのとろろとろろ先生を審査員にお招きして、好きなモノに囲まれて!イラストコンテストを開催しました。


この記事ではモチーフが多いイラストを見やすく描くコツを、選考作品を例に詳しく教えていただきました。

目次
お話を聞いた人
とろろとろろ(X:@t_oo_r_ooInstagram
イラストレーター、アニメーター。東京都在住。
2019年頃からSNSを中心に活動を開始。生活感のある絵や昭和感のあるものを好む。
現在は主にMVやループアニメーション、アーティストのキービジュアルなどを手掛ける。

インタビューした人
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230919/20230919150037.png
サイトウ
GENSEKIマガジンの運営サポートスタッフ。


多くのモチーフをスッキリ見せるコツ

サイトウ
今回のテーマは「好きなモノに囲まれて」ということで、自然とたくさんのモチーフを詰め込んだイラストが寄せられました。たくさんのモチーフを詰め込んだイラストって、ごちゃごちゃしてしまいそうですが、スッキリ見せるにはどうしたらいいでしょうか?

【大賞作品】古生物学者/じみにしじみ

とろろとろろ
例えばじみにしじみさんのイラストは、光と影のバランスがうまく、見やすい絵にできています。モノがごちゃごちゃごちゃした中でも視線誘導がしっかりできています。


サイトウ

不思議とキャラクターが目立ちますね。


とろろとろろ
メインのキャラクターに光が当たっていて、後ろは棚の影で暗くなっています。さらに、キャラの手前にある机の下もしっかりと影になっている。このコントラストの対比で、ぱっと見たときに目が行くようにできています。


サイトウ
コントラストがしっかりあるのに、全体が落ち着いて見えるのはなぜでしょうか? 


とろろとろろ
色のトーンと絵全体にかかったテクスチャーでしょうか。木の棚や化石など土っぽいモチーフと、マットでざらざらしたテクスチャーの質感がマッチしていて、研究室の土臭さみたいなものが表現できています。自分もざらざらした質感のテクスチャはよく使いますね。


サイトウ
テーマと質感があっていて、より統一感が生まれていますね。

密度の高い線画に魅力を込める

サイトウ
モチーフが多いイラストは、線画もかなり密度が高くなりますね。


とろろとろろ
個人的な考えですが、イラストは「線を見る」部分がけっこうあると思っているので、線画は大事にしています。

とみれさんのイラストは描きすぎず描かなさすぎずのバランス感覚がすごくいいですね。線に迷いがなく、ちゃんと「自分の線」が描けているのでは、と思いました。

【佳作】平成においてきた宝物/とみれ

とろろとろろ
いろいろなイラストの線画を見ていると、好きなところ以外はあまり力が入っていないと感じることもありますが、とみれさんは隅から隅まで自分のスタイルで描けています。線画のどこがいいというより、キャラも背景も全体が一定の高いクオリティにできています。


サイトウ
よくメインと背景で線の太さや存在感を変える、というテクニックをよく聞きますが、それとは違う描き方があるんですね。


とろろとろろ
そういうテクニックもありますが、この作品はそれとは違って背景もサブではなくメインとして描かれています。背景がキャラの要素や内面まで表現していて、自分も同じタイプなのでいいなと思いました。

シールがたくさん散らばっていてメインモチーフの一つになっているので、こだわるともっとおもしろくなりそうですね。シール帳をもっと目立たせたり、よりディテールを細かくするなら、ぷくぷくした質感のシールも描いてみたり……。


サイトウ
あっ! すごく平成を感じますね! 懐かしいです。


とろろとろろ
その「あっ!」を感じるモチーフが見つけられると、より絵がおもしろくなると思います。

縁取りで画面を整理するテクニック

とろろとろろ
えな。さんの作品の作品も「専門道具」というモチーフの魅力があふれたものになっています。

また、白い輪郭線の効果がテクニックとしていいですね。モノが多い上、ひとつひとつ柄まで描かれているところ、輪郭に白い線を入れることでモチーフそれぞれが埋もれないようにできています。これがなかったら全体がベタッとしてしまうでしょう。

また、それぞれのモノに光が当たっているのもいいですね。

【佳作】colorful!/えな。

サイトウ
白い糸が見えるよう後ろに影が落ちていたりと、細やかな工夫ですね。


とろろとろろ
モチーフひとつひとつまで影がつけられていて、ていねいです。さらに言うと、空間全体の光と影のバランスをもう少しつけられると、さらに主役を目立たせることができると思います。
例えば、思い切って手前の柵全体を影にしてしまってもいいかもしれません。


使用感やストーリー性で「リアリティ」を表現

サイトウ
今回のコンテストのテーマは「好きなモノに囲まれて!」ですが、好きなモノに囲まれた「日常感」や「リアリティ」を出すには、どうすればいいでしょうか?


とろろとろろ
なぞいちさんの作品がよくできています。この犬が遊んだであろうボロボロのおもちゃ、かみちぎられたようなスリッパなど、遊んで汚れた好きなモノばかりに囲まれていますよね。

【佳作】全部僕の!/なぞいち

サイトウ
このすてきな使用感は、どう描いたらいいのでしょうか?


とろろとろろ
それは本当に汚れを「しっかり描く」しかないです。このイラストもロープや人形のクタッとした感じなど、汚れのつけ方が上手ですね。

 

サイトウ
先生も使用感の描き込みはよくされますか?


とろろとろろ
生活の中でできる汚れや破損は、比較的描くようにしています。家具に貼ってあるシールを破れかけさせたり、キッチンなら油汚れを描くことによって、日常感やリアリティが出せます。


サイトウ
たぐちさんの作品は、そういった描き込みとはまた違うリアリティがありますね。

【佳作】「おめでとう」の一秒前/たぐちさん

とろろとろろ
コンテストテーマに対して「自分が作り出した好きなものに囲まれた空間」の作品が多い中、「人に与えてもらった自分の好きなものに囲まれた空間」を描くアイデアは「なるほど!」と思いました。

後ろの二人がイラストのいいフックになっています。ここがないとほんわかした印象で終わりますが、お父さんの表情や眼鏡が光っている感じなど、ちょっとコミカルでいいですよね。


サイトウ
誕生日でこのあとサプライズがありそう、というのもわかりやすいです。


とろろとろろ
前後の流れが想像できてストーリーを感じます。時間の移り変わりや、これから起こることを予見させてくれますね。

小物を描いてパースをごまかすのも一手

とろろとろろ
たぐちさんのイラストで惜しいのが、机と椅子と廊下の床のパースのずれが若干気になる点です。パースを整えるのもいいのですが、たぐちさんのあたたかみのある作風だとそこまでパースをきっちりさせる必要もないかもしれません。

パースがかかる線の上にモノを置いてごまかす方法もいいと思います。床の線を遮るようにスリッパを置くとか、犬が入ってきたりするのはどうでしょう。私もそういうことはよくやるんです。

サイトウ
大きいパースをしっかり取るか、逆に隠してしまえばいいのですね。


とろろとろろ
そうですね。今は目立ってしまっているので、気にならないようにできればいいと思います。


サイトウ

先生の絵はかなり密度の高い絵なのに、パースの狂いが感じられません。パースを整えるコツがあれば教えて下さい。

とろろとろろ先生の作品

とろろとろろ
私はパースの土台をしっかり描くようにしています。まずパース線を引いて、大まかな部屋の骨格やベッドや棚など大きい家具はそれに沿って描きます。ただ、小物はそれをあまり気にしすぎず描きます。

大きい骨格を整えることによって全体的にあっているように見せて、フリーハンドの小物でごちゃごちゃ感を出す感じです。


サイトウ
パースの狂いがないのに固くならず、あたたかみを感じるのは、そういった工夫からなんですね。

とろろとろろ先生が愛用するモチーフは?

サイトウ
こういったモチーフの多い絵を描くときに、先生がよく使うものはあるでしょうか? 


とろろとろろ
私は扇風機をよく使います。画面の手前で見切れるモチーフでこちら側とあちら側の空間を分断して、いい効果が出せます。

えな。さんのイラストの手前の柵も同じように使われていますね。このように手前に見切れるモノを入れることで空間を出すことができます。

 

こちら側とあちら側の空間が強調されて、より「あちら側」のメインキャラにスポットライトが当てられます。


サイトウ
中型のモノは距離感を出すのに使いやすいのですね。


とろろとろろ
扇風機のいいところはそれだけではありません。羽根のクリアな質感でちょっと異質な感じをアクセントとして足すことができます。

とろろとろろ先生の作品

サイトウ
この絵だと、プラネタリウムの光や電飾もそういった発想で描かれているのでしょうか?


とろろとろろ
そうですね。あとは蓄光シールも必ずと言っていいほど描いています。カーテンも透け感がありますよね。そういったモチーフを使うと、全体的にマットな質感のイラストに変化を加えることができます。


サイトウ

貴重なテクニックをお話しいただいて、ありがとうございます……!
先生はお仕事でもこういったイラストを描かれていますが、仕事になったときに注意していることはありますか?


とろろとろろ
仕事ではまずクライアントさんの要望があって、その上に自分らしさを足していきます。


サイトウ
モチーフ選びも単純に「自分が好き」だけではなくなってしまいそうです。


とろろとろろ
そうですね。ただ、「自分では描かないけれど好きなモノ」というモノもありますし、日頃からいろいろなモノを見て絵の引き出しやボキャブラリーを増やすのが大事だと思います。


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執筆

kao(X:@kaosketchWebGENSEKI

編集


斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI