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絵を描き続けるためには「飽きない」モチーフを探せ! 漫画家・なか憲人さんに教わりキャラクターを描いてみる【iPadお絵かき修行 #3】

 

どうも、ライターの神田(こうだ)です。絵を描いたことない素人がiPadを使ってうまい絵を描こうと奔走する企画第3回目。

行き当たりばったりでとうとう3回目までこぎつけましたよ。これはひとえに応援してくれる皆様のおかげですよね。

「ありがとう 感謝 フリー素材」で検索したら出てきた画像

書いた人神田
かわいいものが好きなライター・編集者。オモコロなどで活動中。普段は絵を描かないが、自分のたましいに絵が描ける自分のことを見せつけてやりたくて企画に挑戦する。

第2回は「対象への愛着があったほうがいい絵が描ける」ということで、私の好きなブタちゃんを描きました。確かに愛着があるほうが対象をよく観察しますし、上手に描こうとがんばるのでいい絵を描くことができますね。

 

う〜ん、次、どうしたらいいんだろう。絵を描き続けないと上達はありえないのですが、私の場合は好きなものを描き続けようとすると、

「好きなものがある→絵を描かなければならない→絵を描かなきゃいけないから好きなものへの心のスイッチを切る」

となって、絵から遠ざかってしまう気がします。ダイエットアプリに食べたものを登録しなきゃいけないから物を食べなくなる、というのと一緒です。え? こういう感覚も私だけですか?

 

とはいえ、絵がうまくなりたい、描けるようになりたいという思いはホンモノです。何かアプローチを変えなければならない。誰かに「これからどうしたらいいですか?」と追いすがって助けてもらいたい。自分ひとりでダメなら誰かに頼るのも方法のひとつですよね。

 

ということで、『雑な生活』『とくにある日々』などを著作に持ち、「犬のかがやき」名義でも活動されている漫画家のなか憲人さん(以下、けんさん)にお話を伺うことにしました。

向かって左が私、右がけんさんです

けんさんとは一緒にフリーマーケットに出店したりする仲ですが、漫画のことについて聞くのは初めてです。助けてもらうぞ〜。

 

聞いた人なか憲人(X:@tokuniaru
漫画家。兵庫県出身。2014年からウェブメディア「オモコロ」で漫画や記事を連載する。2020年から「犬のかがやき」名義でも活動中。著作に『みんなで辞めれば怖くない』『雑な生活』『とくにある日々』など。

 

みんな意外と「描きたいもの」ってない

神田
あの〜、前回ブタの絵を描いてみたんですが、どうですか? 何か明るい見通しがほしいんです。

 

けん
僕は漫画家なので、主線がはっきりしてデフォルメで特徴を捉えるというタッチになっています。なので、神田さんが描いたような主線があんまりなくて上から塗りつぶすという絵は新鮮でした。僕が描くとこういう感じのブタになります。

神田
すげっ! シンプルでかわいいな〜。

 

けん
人に見せたときにはこの絵で絶対ブタって伝わると思うんですけど、デフォルメして失われるものもいっぱいあります。だからどっちがいいとかはなく、方向性をおすすめするのはなかなか難しいんです。結局本人がどんな絵を描きたいかが大切なので。

 

神田
う〜〜〜〜ん、なんだろう。サンリオキャラクターが好きだからかわいい絵が描けたらいいなとは思うんですよね。それが特別やりたいことではないんですけど。

 

けん
最初に写実的なブタの絵を描いてたので意外でした。どうしてあのタッチになったんですか?

 

神田
私は絵がまったくわからないので、"絵を描く"体験が小中学校の美術の授業で止まっています。描きたい意欲がこんこんと湧いているわけでもないですし。絵を描くならかつて経験したように「対象を観察したスケッチ」が基本なのかなと思ったんです。

 

けん
なるほど。写実的な描き方にこだわりがあるわけではないんですね。

 

神田
SNSでいろんな作品を見て、「こういう絵柄いいな、こういうタッチの絵を自分も描きたい」と思うんですけど、最初からそっちに飛び込むとそれ以外の絵が描けなくなってしまう怖さもあって。だから基本的なスケッチをして自分の中の絵心がどう動くかなと試してみました。

 

けん
絵心は動きました?

神田
う〜ん、よくわかりません。対象を観察してiPadで再現や表現をしていくのは楽しかったんですが、そればっかやるのはしんどいし。「こういうものが描きたい」という背骨みたいなものが見つかっていない状況です。

でもみんな描きたいモチーフがあって描いてるんだろうから、モチベーションでもう同じラインに立てないよな〜。

 

けん
これははっきり言っておきますが、みんな意外と描きたいものってないんです。僕も特別あるわけでもないし。

 

神田
描きたいものを持ってなくちゃダメだと思ってました。

 

けん
もちろん確固としてある人もいますが、ない人も多いと思います。毎日Twitter(現:X)に絵を上げている人に「本当に描きたいものは何ですか」と聞いてもめっちゃ悩むと思います。

 

神田
なんかそれを聞いてホッとしました。描きたいものがなくても絵に触れていいんだ。いつか自分の絵で表現したいものが見つかったときにうまく立ち向かえるように勉強しておきます。

 

けん
どういう方向に進むかが楽しみですね。デイヴィッド・ホックニーという画家は70代になってからiPadで絵を描き始めたんですが、その人の絵のタッチと神田さんの描いた絵がほんのちょっとだけ似てました。

ホックニーの絵

ホックニーの絵にほんの少しだけ似てると言われた神田の絵

神田
めちゃくちゃおこがましいけどうれしいな……。

 

「絵を描きたい」という衝動はいわゆる中年の危機かも

神田
まだいっぱい絵を描いたわけじゃないので生意気なんですが、いろんな作風の方向性がある中で、ひとつの方向が伸びて称賛されたらそっちばっかやんなきゃいけないのって怖くないですか? 

 

けん
本当はみんな何でもできるはずなのに、ひとつの方向に進化するとだいたいそれ一本になってますね。描ける時間の限界もあるし、本人のやりたいことである場合が多いのでそれは至極当然なことですが。

神田
やりたいことか〜。絵でやりたいこと……。

 

けん
表現したいこととか。

 

神田
絵で表現したいことは別にないんですよね。でも絵が描けるとできることが増えるし、うまければうまいほどいいし。パッションよりかは実用主義的でちょっと冷めています。

私はライターがメインの仕事なので、絵で仕事がしたいわけではないんです。ただ、ライターで絵が描けると、文章にイラストを添えることができて原稿に華が出せますよね。

 

けん
文章だけの記事ってなかなか読まれにくいですからね。イラストがあるとアクセントにもなります。

 

神田
それに、たとえばレポート記事だと情緒的なものをイラストで効果的に表現して、文章で補足説明をすることで詰め込める情報も増えて、原稿がさらにいいものになります。自分が絵に求めるものってそうした舞台装置の役割なのかもしれません。

 

けん
以前の記事で「絵を描くことで自分試しをしたい」と話してましたけど、実用もちゃんとしたいということなんですね。

 

神田
両方あります。必要なものとそうじゃないもの両方やりたい。やりたいって気持ちはあるけど、しんどい。1回、2回と連載を続けてみて、なんとなく描けるような気はしてきたんですけど。

 

けん
30歳くらいになると自分の人生のパターンに飽きてくるのでなんか違うことしたくなると思うんです。神田さんの「絵を描きたい」という衝動はいわゆる中年の危機かもしれません。

 

神田
来年30歳になるので、私はただ中年の危機に陥ってるだけなのかも。

 

けん
なんなら、絵を描かなくてもいいのかもしれない。

 

神田
身も蓋もない。

 

文章でも写真でも伝えられないことでも、絵なら伝えられる

神田
そもそもけんさんが絵を描き始めたきっかけって何だったのか知りたいです。

 

けん
僕は最初から絵が描きたかったわけじゃなく、熱心に家で絵の練習をしていたわけでもないんです。10年前、大学4年生のとき卒論を書いてたら座りすぎて痔(ぢ)になったのがきっかけですね。

 

神田
痔がきっかけ?

 

けん
痔になったことを友達に伝えたかったんですけど、写真で見せちゃダメじゃないですか。だから絵を描いて友達に見せたりしました。さっきスマホのカメラロールを昔まで溯って、最初に出てきた自分の絵が痔の絵でした。痔が僕を漫画家にしてくれたみたいです。

 

神田
痔ができてなかったらけんさんの人生が変わっていたかもしれない……。

 

けん
痔に限らず写真で伝えられない状況って人生のいろんなところにあるから、僕は絵で伝えることに興味を持ったんです。

そこからTwitterのアカウントを作って、Twitpic(※)で当時あった出来事や嫌なこととかをイラストにして載せ始めました。誰かから反応をもらうのっておもしろいなと思ってから、今までずっと続けていますね。当時は絵を描く人がTwitterに少なくて、反応を得られやすかったのもよかったと思います。

※Twitterのアカウントを利用して画像や動画をアップロードできるサービス。当時は公式で画像投稿ができなかったので別途ツイートと写真を分ける必要があった

 

神田
今はコンテンツが飽和してますからね。自分がやりたいことをこの人がやってるからいいかと満足しちゃうこともあります。でもSNSなどで誰かからフィードバックをもらうことって大事ですね。

けん
僕の場合は最初に描いたWebメディア「オモコロ」に掲載された漫画から今まで全部ネットに残っているので、なんか人生を人質に取られているような気持ちです。

 

神田
絵のアーカイブが全部残っているのはすごい。今絵を描くのに使っているのはiPadですか?

けん
そうですね。ベッドの上に机を置いてiPad ProCLIP STUDIO PAINTを使って描いてます。板タブや液タブは部屋のスペースを占領するので、iPadは持ち運べて手軽でかなり便利ですね。使わない状態の液タブって世界一でかいんで、初心者が絵を描くならiPadは最適だと思います。

 

神田
なるほど。まず最初にiPadを買ったので良し悪しがよくわかっていなかったんですが、そう聞くとなんかホッとしました。

 

絵を描き続けるためには「描き続ける状態に身を置く」ことが大切

神田
自分は描きたいものがないのでこういうこと聞くのもどうかと思うんですが、絵を描き続けるためにおすすめのモチーフはありますか?

 

けん
日常生活を観察することですね。描きたいものがなくても日常は向こうからやってきます。その中で自分の心が動くようなものを描くといいんじゃないでしょうか。最初から大作を描こうとすると挫折するので、小規模でいいからコンスタントに続けるのが大事です。SNSなどにアップして誰かから反応があったほうが楽しいですし、続く可能性は高いと思います。

生活の中に絵を描くという状態を作って、飽きずに続けられるようになったら、作画力も創作のアイデアも全部あとからついてくるはずです。

 

神田
絵が描けるようになるには、描き続ける状態に身を置くということが大事ですね。できるかな。

 

けん
神田さんは絵に対して強い思い入れがなくて急に始めてるぶん、習慣にしないとすぐ辞めちゃうと思います。

 

神田
自分もそんな気がしています。けんさんは日記漫画を毎日続けてましたよね。

けん
この前更新を止めちゃったんですが、1日1ページ漫画を描くのを1800ページくらい続けました。僕はそうやって何かを続けるのがそんなに苦ではなかったので。

後半あまりに描くスピードが早すぎて、自分でなんか気持ち悪くなって「うわっ」ってiPadを離したことがあります。なんでこんなになるまで時間を費やしちゃったんだろうって。『HUNTER×HUNTER』のネテロの正拳突きの嫌なバージョンです。

 

神田
続けすぎるとそんな心境になるんだ。

 

けん
だから神田さんにはそういう日常のことや、かわいいものが好きなら身の回りのモチーフを活かしてかわいいキャラクターを描いてほしい気持ちがあります。とりあえず善は急げということで、ここの会議室からモチーフを探してみましょう。

 

神田
えっ! 今から!?

 

会議室の中でキャラクターを作ってみよう

神田
この会議室の中からか〜。なんか大喜利みたいですね。

 

けん
ライターの着眼点とも近いと思います。ライターってとにかく世の中のおもしろいものを探して記事を書く人たちじゃないですか。

 

神田
確かにそうですけど……。

 

けん
僕は身の回りのものでどうにか工夫して絵や漫画を描く呪いがかかってるのでへっちゃらなんですが、最初はめっちゃ難しいと思います。

 

神田
難しいな。脳の普段使わない場所が動いているのを感じる。……ひらめきました!

iPadで絵を描く企画なのにiPadを忘れたのでホワイトボードに描いている

けん
なんかキャラっぽいのができてますね。

 

神田
よし! できました!

 

神田
「災害用備品くん」です。

 

けん
“そなえよう”って言ってる。

神田
部屋にあった「災害用備品」のパネルをキャラクターにしてみました。マグネット部分がほっぺみたいでかわいいし。

 

けん
僕も描いてみました。

けん
「この部屋ちゃん」です。

目の部分がホワイトボードになっている

神田
すごい!!!! 部屋の空間をキャラクターにするとはまったく思いつかなかった……。発想が私とまったく違うからやっぱプロってすごすぎる。描くスピードもありえないくらい早いし。

 

編集部・斎藤
ふたりの絵に当てられて私も描いてみました。

編集部・斎藤
「会ギ室くん」です。

 

神田
めちゃくちゃいい! 部屋自体をキャラクターにするとは。みんな着眼点もすごいし線も描き慣れてる人たちのタッチでかっこいいな。

 

けん
こうやって一度自分で分析してキャラを描くと脳がつながるので、他の人の絵を見たときにデフォルメして特徴を抽出してるんだなとかが高い解像度でわかるようになって自分にフィードバックされていくんです。

 

神田
なんか一瞬バチバチっと絵を描く脳に切り替わってすごかったです。キャラクターを描くのって楽しいな……。

 

けん
街で変な看板を撮ってTwitterに上げたりブログを書いたりするのと同じように、カジュアルな感覚で絵を描いてみるといいかもしれませんね。

 

神田
すごく私に向いている気がしました。文章は文章、絵は絵、で切り離して考えていたので、適性がないとできないのではなくアウトプットの一形態ということに気づけてよかった。

 

けん
それは何よりです。絵や漫画だと、文章じゃ伝わりにくいことも伝えられますし、現実に存在しないものを表現することもできます。あと、文字もけっこう重要です。文字を入れるだけで既存の写真にもおもしろさを追加できます。

けん
ブタはいつもお腹を空かせているイメージがあるので、「満腹のブタ」という存在しなそうな写真も作れます。

 

神田
おもしろい。写真や絵にひとこと入れるだけで情報も増えるし、まったく違う印象を与えることもできますね。

 

けん
人は文字があるとつい見ちゃうので、多くの人の目に触れさせるという点でも有効です。絵や漫画じゃなくても、画像に何らかの文字を載せて出力する練習をすると大喜利的な発想力と文字を活かした表現能力がつくと思います。

 

神田
すぐに試せるし、今回めちゃくちゃ大切なことをいっぱい教えてもらった気がする……。

 

けん
あと、自分の絵がうまく見えたほうが継続するモチベーションになるので、最後に一気に絵がうまく見える小手先のテクニックを教えます。

 

神田
めちゃくちゃ知りたいです!

けん
こういう箱でも、線の端っこを白くするだけでなんか一気に“絵”になります。キャラクターの髪の毛の光沢とかみんなこうしてますね。神田さんがキャラクターを描くならぜひやってみるといいと思います。

 

神田
これはすごい! この小手先だけでずっと戦える気がしてきました。

 

まとめ

今回は漫画家のなか憲人さんにお話を伺いました。

私は今まであんまり描きたいものや表現したいものがなかったのですが、会議室でキャラクターを作る体験をしてから、身の回りのものをキャラクター的に表現するのって楽しいなと思い始めました。

私は写実的な絵ではなく、主線がシンプルでデフォルメされた絵を描くのが好きなのかも。モチーフは身の回りの無機物が気に入りました。人間はあんまりかわいくないから絵で有効なとき以外はいいかな……。

取材から帰るときに見つけためちゃくちゃ結露しているライトも……

キャラクター化すると路上観察のレイヤーが増えたようで楽しいです。文章だけじゃなくどう絵で伝えるか、気にすることが増えました。

それから、なか憲人さんに聞いた「線の端っこを白くする」というテクニックも使ってみました。試しに全部やってみたら変になったので、光沢が出そうなところだけ白くしてみました。光源とか影とか考え始めると途方もないですね……。

あとはCLIP STUDIO PAINTの機能を使いこなすことができればもっとよくなるかも。

 

焼き肉を食べに行ったときの何気ない写真も、文字を入れると、なんか噛まなくても味がするというか、伝えたいおもしろさが伝わるスピードが文章と比べて格段に早い気がします。

 

絵を描くのって楽しいけど、「あれやりたい!」と思うたびになんか覚えることが増えて終わりがなさすぎる! 今度はCLIP STUDIO PAINTの機能を覚えてとにかく絵を描こうと思います。あとペンとか色とか基本的な技術がわかってないからそこが不安かも。

 

ということで絵を描いたことない素人がiPadで絵を描いてみる連載3回目。今回は身の回りのものを観察し、デフォルメしてキャラクター化する方向の絵になりました。楽しかった!

でもこれからどうしたらいいんだろう。絵を描くことに正解はないから……。まあなんとかなるか! 協力してくれたなか憲人さんありがとうございました!

 

編集者より

なか憲人さんに相談したことで、一気に神田さんの方向性が見えてきました。結露でキャラクターを作れるのなら、もうなんでもできてしまうのではないでしょうか……! なお、現在GENSEKIではキャラクターデザインのコンテストが2つ開催されています。こんなところからイラストレーターとしてデビューできるかもしれませんよ!

協賛

CLIP STUDIO PAINT

CLIP STUDIO PAINTは、3,500万人以上が利用したイラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリです。 タブレット、スマートフォン、パソコンといったあらゆるデバイスに対応し、気持ちの良い描き味と豊富な機能を備えており、世界各国のエントリーユーザーからマンガ家、イラストレーター、アニメーターなどのプロのクリエイターまで幅広く愛用されています。

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執筆・イラスト
神田匠(X:@gogonocoda

取材協力
なか憲人(X:@tokuniaru

編集
斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI