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コンテストは「どんな応募が来るか」を意識するのも一手。さいとうなおき先生「お菓子の擬人化縛り」イラコン選考レポート

 

イラストレーターさいとうなおき先生が審査員の「縛りイラコン」、今回のテーマは「お菓子の擬人化縛り」! なんと670作品以上、ご応募いただきました!

たくさんの応募作品の中で目を引くヒントや、シチュエーションイラストを考えるときに必要な意識が学べる選考レポートです。

 

▼結果発表と受賞者コメントはこちら

審査員
さいとうなおき(X:@_NaokiSaitoYouTube
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。

インタビューした人
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230810/20230810171038.png
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。


【大賞】アイデアの奇抜さだけではない、しっかりテーマが練られた作品

「お菓子の擬人化縛り」イラストコンテスト応募作/みずいえ

さいとうなおき先生
大賞はみずいえさんの『げんこつ飴の擬人化』です。これは本当にアイデア勝ち。負けました!(笑)。
ぱっと見、ウケ狙いにも思えて一度笑ってしまったのですが、確かに「げんこつ飴」ってこういうキャラだろうな、という説得力がありました。

ウケを狙うと、テーマを破壊してしまったり、内容のバランスが崩れるようなことが起こりがち。でも、この作品はお菓子のことをきちんと考えたんだと伝わってきます。他にないアイデアが目立ちました。


中村

応募作品一覧でも目立っていて、すぐ先生の目に留まりましたね。


さいとうなおき先生

お菓子らしい色やカラフルな作品が多い中、色数が少なかったことで逆に目立ちました。アイデアも含めて、こんな勝ち方があるのかと脱帽です。

他の応募作品がどう来るか想定して作品を作るのも、大事だと思いました。


中村

キャプションにも細かい説明や設定が書かれています。

【補足】
形状は直径1.5cm×長さ2cmほどの粒で、ロープ状に伸ばしたものを包丁でぶつ切りにする。
きな粉の色味と無骨な形状がその名の由来と思われる。
食感は名に反し、やわらかい。


さいとうなおき先生

こんなキャラの見た目なのに、優しさも持ちあわせている。無用な暴力はふるわなさそうでいいですね(笑)。すばらしいです。


【佳作】テーマへの納得感を出すには? さまざまな方法が学べる7作品

刹那に永遠に/陽夜ぴよ子/piyopiyoko

中村
こちらは練り切りの擬人化です。カラフルなあんこで作られた繊細な和菓子ですね。


さいとうなおき先生

絵作りがうまいですね。密度の感覚や、気になるところに気になるものを置くモチーフ配置や、配色もきれい。センスが抜群です。


中村

大賞ととても悩まれていましたね。陽夜ぴよ子さんは前回の「海縛り」でも佳作を受賞されています。前回とは作風がまた違って、どちらもすてきです。


さいとうなおき先生

前回も今回も本当に大賞でもおかしくないクオリティの高さです。安心して仕事を任せられそう。陽夜ぴよ子さんに任せれば何でもいい感じにしてくれそうで、お仕事をお願いしたい人ナンバーワンです。


中村

テーマもよく考えられていますね。

テーマおよび練り切りの菓銘は「刹那に永遠に」。
練り切りを実際に初めて見て、食べた時の感動を絵に起こしたいと思い、この菓銘を名付けました。

日持ちもしないことから刹那的で儚く、美しい。そんな時間が永遠に続けばいいのにと感じるように、桜や梅も咲いて散るのは一瞬であることから、春の和菓子を選ぶことにしました。

このイラストは送り出される前のお直しをしている場面を描いたものです。
生み出された練り切りは和菓子職人からしてみれば、作品であり我が子。

最後のお直しをしながらどこか惜しく思う気持ちを嫁入り前の思いとかけ、作り手の内面も表現しています。


さいとうなおき先生

和菓子職人であろう人の入り方も、邪魔にならない絶妙な配置でいいですよね。

今後の作品も、本当に楽しみな方です。


GUMBALL/惰性

ガムボールの擬人化の男の子です。
ガムボールの持つポップさや、キャッチーな感じを表現することを目標に制作しました。

さいとうなおき先生
「ガムボール」はこういうやつだろうな、と納得感があります。これからガムボールのガチャを回すときは、このキャラを思い出しそう。擬人化として、しっくり来ました。


中村

確かに、妙に説得力がありますね。


さいとうなおき先生

ここまでしっくり来る擬人化はそこまでないので、キャラ作りのクオリティが高いと思いました。


アップルパイガール/sakazaki

さいとうなおき先生
「アップルパイをスカートに見立てました」というのがわかりやすく描かれています。コンセプトが伝わりやすく、すっきりまとめられています。


中村

sakazakiさんはAdobe Illustrator(イラレ)で作画されているそうです。


さいとうなおき先生

イラレはこんな質感表現もできるんですね。すばらしいです。

この絵を使った商品が実際にありそうで、イラストレーションとしての完成度が高い。アップルパイのパッケージとして採用したい、と思いました。



いちごケーキちゃんくっきーちゃん/あらもん

さいとうなおき先生
かわいい。何よりも、おいしそうだと思いました。

イチゴをまるまる頭に乗せるアイデア自体はよくありますし、描きようによってはグロテスクにもなりうる。ですが、あらもんさんはイチゴのおいしさや、お菓子らしさを損なわない程度にデフォルメできています。そのバランス感覚がすばらしいですね。


中村

あらもんさんには2作品応募していただきました。


さいとうなおき先生

どちらもよかったです。クッキーの方はよりお菓子感が強く、割り切りがいいデザインですね。


ショートケーキコント『おかしな人々』/けしかす

さいとうなおき先生
奇抜なアイデアゆえに、応募作品一覧でも目立ちました。りんごのキャラがマイクに顔を寄せてる感じがリアル。ファンタジーなのに、なぜか見たことがあるような気になります。


中村

マイクと顔が絶妙な距離感です。


さいとうなおき先生

この生々しさがいいというか、お笑い芸人さんって、実際にこういうポーズをしますよね。

【ターゲット(誰に見てほしいか)】
 あー今日はもう脳みそ使いたくない、と思っている方。

僕が今、そんな感じだったのかな(笑)。でも、結構これは大事な点ですね。頭を使わないと見られない絵というのは、ぱっと目につきにくいので。


中村

インパクトもあるし、ひと目でお笑い芸人とわかりました。


さいとうなおき先生

ワンアイデアをここまでしっかり絵にする能力を持っているのは、すごいです。


しゅわしゅわのラムネ菓子/Azsaga

さいとうなおき先生
これはもう、完全に好みです。


中村

先生の好みはこういうイメージなんですね。勢いや、ポージングでしょうか?


さいとうなおき先生

いや、もうすべてです。全部がすごく好き! それだけです(笑)。


中村

ある意味優勝ですね。さいとう先生の「好き」を追って描けば選ばれると……。


さいとうなおき先生

いや、それをつきつめちゃいけませんよ(笑)。

「ラムネの擬人化」だから透明感を大事にしていて、ジャケットや髪の毛まで意識して描かれています。キャラに「ラムネ菓子らしさ」を持たせようとがんばっていて、実現できているのがいいですね。


中村

今回の応募作品一覧の中で、水色の画面は珍しかった印象です。


さいとうなおき先生

お菓子イメージの色使いにして、色数を多く入れてカラフルにしている作品が多かったですね。その中で「げんこつ飴」と同じく、色を絞っていることで目立ちました。


映画館のお供/おいせ

中村
こちらはポップコーンの擬人化です。


さいとうなおき先生

依頼で「頭をポップコーンのように描いてほしい」と言われたら困りそうなものですが、かわいく描けていてすごい。「ポップコーン」というと、日本というよりアメリカ風なイメージがあります。それがキャラのデフォルメに活かされていて、わかりやすくていいですね。

それから、背景にシチュエーションが描かれているのも、見る人が受け入れやすい。これは「あるある」かもしれません。


中村

絵に説得力が増すからでしょうか?


さいとうなおき先生

そうですね。ただ、この方法には一長一短あります。背景に実際にあるシチュエーションを描くと、単なる「ワンシーンを切り出した絵」になり、作品としてのオーラが減ってしまいがち。一枚絵として大賞を取れるものにならない可能性があります。

そのバランスが難しいのですが、この作品はバランスが取れていて、いい絵だと思いました。


中村

バランスが取れているとは、どういうことでしょうか? シチュエーションを描いてもいい絵にするためには、どうしたらいいですか?


さいとうなおき先生

これは言語化が難しいことなのですが……順を追って説明しますね。

シチュエーションの背景を描くとき、カメラやパースの都合で「どうしても描かないといけない、画面に映ってしまう」情報があります。それをそのまま描くと、絵に必要のない情報が増えてしまいます。

例えば、この作品のような「映画館のシーン」に、「地面」は必要な情報でしょうか?


仮に「映画館のポスター」をかっこよく撮ろうと思ったら、「地面」や「手すり」などは映さないと思います。かっこよく見せるために、必要な情報だけを入れたいのに、「たまたま動画を撮っていて、いいシーンがあったから切り取った」ように見えてしまうんです。


中村

「映え写真」を撮るときに、いらないものが映らないようにするのと同じですね。


さいとうなおき先生

そのため、もしこの作品の背景に描かれているのが「地面だけ」だったら、背景の角度やパースのために「仕方なく描いてしまったんだな」と感じたと思います。

ところがこの作品には、あえて「並ぶための柵、奥に見切れる映画のポスター、手前のポップコーン看板」まで描かれています。ただ背景が必要なだけだったら、そこまでは描きませんよね。

そういったところから、おいせさんはこの絵にあえてワンシーンの生々しさを入れたかったんだ、と伝わってくるんです。つまり「シチュエーションも意図して描いている」のがわかる。なので、逆に好感が持てるんです。


中村

「描かれているものに意図があるか」を考えることで、いい絵に繋げられるのですね。
思わず深い話になって驚きました。私も今後、意識したいと思います。


【総評】

中村
全体を振り返って、いかがでしたか?


さいとうなおき先生

みなさん、お菓子が好きなんですね! 応募が600作品を超えるというのは、そうそうないことです。お菓子の擬人化コンテストは、もう一度やってもいいかも、と思いました。


中村

お菓子の種類自体も多かったですね。


さいとうなおき先生

種類を限定して、次は「和菓子」とか、「ケーキ」だけ、などもいいかもしれませんね。

お菓子に対する熱意をみなさんの絵から感じて、楽しかったです!

 

▼定期開催の縛りイラコン

さいとうなおき先生の“縛り”イラコン! 5月の縛りは「パレット縛り-和-」

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執筆

kao(X:@kaosketchWebGENSEKI

編集

斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI