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大賞は「優しさにあふれたあるある」。ただまひろ先生による「仕事・バイトあるある2コマ漫画コンテスト」選考レポート

 

こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。

イラストレーターのただまひろ先生を審査員にお迎えした『「働いてるとコレあるよね~!」仕事・バイトあるある2コマ漫画コンテスト』が行われました。

さまざまな仕事やバイトからの「あるある」を数多く応募いただき、大変ありがとうございました!

今回は、ただまひろ先生の審査の様子をお伝えいたします。

審査員
ただまひろ(Twitter:@mappy_pipipi
イラストレーター。1990年生まれ。静岡県浜松市出身。
多摩美術大学卒業後、クレープ屋でバイトしながらイラストレーターとして活動開始。
『クレープ屋で働く私のどうでもいい話』をTwitterで公開、出版に至った。現在はイラストも描きながら、イベント企画、メニュー開発などに携わる。

インタビューした人
斎藤充博
GENSEKIマガジンの編集スタッフ。初めてのバイトは「鬼怒川温泉の旅館で布団のあげおろし」。

 

【大賞】優しさがあふれる「お会計あるある」に、ただまひろ先生も共感!

実体験に基づく / ハツ

ただまひろ
大賞はハツさんの『実体験に基づく』です。

レジがうまくいかない店員さんの気持ちを経験したことがある人って多いと思うんです。そして、そんな店員さんの気持ちがわかるお客さんもいる。

自分が経験しているからこそ、トラブルに対して優しくなれるというのは、私も経験があります。共感がたくさん集まりそうな漫画だなあと思いました。

 

斎藤
この漫画は、業種について描いてありませんから、いろんな人が思い当たりそうですよね。

 

ただまひろ
お会計って、いろんな仕事でありますからね。

 

斎藤
(ただまひろ先生のように)ひょっとしたらクレープ屋さんかもしませんね。

 

ただまひろ
かもしれないですね(笑)。私の実体験で言うと、レジのトラブルって、本当に焦るんです。お金に関わることですから、間違えちゃいけないですし。そんな中で優しく見守ってくれるのは、本当にありがたいですね。

 

斎藤
絵についてはどうでしょうか?

 

ただまひろ
絵柄も配色もすごく優しいですよね。そして、漫画の内容も優しい。きっと作品全体にハツさんの優しさがにじみ出ているんじゃないでしょうか。

 

斎藤
よく見ると、1コマ目と2コマ目はほとんど同じ絵ですね。

 

ただまひろ
コピペしていると思うんですが、この瞬間を上手く表してると思います。こういった表現も素敵です。

 

受賞者コメント

この度は大賞にご選出いただきありがとうございます。本当に本当にうれしいです。

限られた2コマで、どう展開を作っていこうかと悩みました。情報を詰め込みたいけど、過剰になると読みづらくなる。その葛藤のなかで、「絵は変えずに、視点を変えよう」という方向で落ち着きました。

この絵は「あるある」というより、「こんな優しい世界であって欲しいなぁ……」「頼むからそうあってくれ……」「頼む」という願望を込めて描いてみました。絵のタッチや色遣いを、普段よりさらに柔和にしてみたので、そうしたところからも優しい世界が演出できていたらうれしいです。

ただまひろ先生、GENSEKI運営の皆様、改めてありがとうございました。これからもコンテストに挑戦していきます!

 

【佳作】体験していないのに、なぜかわかる。あるあるにあふれた作品たち

ついつい^^ / アヤサ・カグチ

ただまひろ
なんとも言えない笑顔と、状況をシンプルにしている絵がおもしろいです。大きな音にまぎれて歌うっていうのは、すごくわかります。

私もクレープ屋さんで働いているときに、BGMがかかっていて。 お客さんが来ない時とかに歌ってました。

 

斎藤
ただまひろ先生も歌っていたとは……。ヒマな時に歌うのは、本当にあるあるなんですね(笑)。

 

ただまひろ
そうなんです。ただ、そういう時に限って、いきなりお客さんが来たりして……(笑)。

 

斎藤
絵をよく見ると、効果音の文字も描き分けているんですね。たしかにパチンコ屋さんって、いろんな音がしています。

 

ただまひろ
本当に、すごい音がしていますよね。パッと見た感じはシンプルな絵なんですけど、細かいところまで気を遣って描写していると思いました。

 

商社あるある / tamura

ただまひろ
TとかDとか、実際に発音すると意外とわかりにくいんですよね。それをわかりやすくするためにTをテー、Dをデーと言う。

仕事をする上での工夫ですよね。それが癖になって休日にも出てきちゃうのは、おもしろいですね。

 

斎藤
私はライターの仕事をしています。自分のメールアドレスを電話で初対面の相手に伝える機会が多いのですが、たしかにTやDは間違えられやすいです。こうすればよかったんですね!

 

ただまひろ
タイトルは「商社あるある」なんですが、いろいろな職種で出てくる話を切り取っていると思います。

 

斎藤
ちょっとレトロ感のある絵ですね。それも、本当に古いレトロではなくて、最近の流行っぽいレトロだと思いました。

 

ただまひろ
この絵柄、私は好きです。ラフにサラッと描かれていますが、上手ですよね。しっかりと描き込みした漫画も読んでみたいと思いました。

 

出勤あるある / イラレのたなか

ただまひろ
これは、まさにTHE・あるあるですよね。

 

斎藤
タイムカードがある会社だと、こういうことってありますよね。

 

ただまひろ
絵柄がおもしろいです。1コマ目の人は3人とも表情が違って、個性がすごく出ています。普段からキャラクターを描き慣れているんでしょうかね……?

 

斎藤
GENSEKIのページのプロフィールを拝見すると「ゆるかわキャラや似顔絵描きます」とありますね。

 

ただまひろ
なるほど、似顔絵を描いてらっしゃるんですね。3人の顔の一つ一つに、モデルがいそうで、似顔絵っぽいと思いました。

 

斎藤
この丸刈りの男性は、きっとイラレのたなかさんなんでしょうね。

 

ただまひろ
特に説明はないけど、なんとなくそんな感じがしますよね。泣き顔もおもしろいです。

 

君の名は / にのまえ はじめ

ただまひろ
えー? ってなりますよね(笑)。

 

斎藤
なりますね(笑)。

 

ただまひろ
飲食店って、本当にいろいろな方がいらっしゃるんで……。こういうふうに書く人もいらっしゃるでしょうね。

 

斎藤
明確には書いていませんが、よく見ると「フリーザ様」もいるような……。

 

ただまひろ
本当ですね。大魔王様に、フリーザ様……。悪人ばかりが集まってくるファミレスになっちゃってる(笑)。

 

斎藤
絵に関してはどうでしょうか?

 

ただまひろ
ご自身の絵柄がバシッと決まっているというのがわかりますね。色づかいも上手です。

 

斎藤
1コマ目の人がかわいいですね……!

 

ただまひろ
このイラストだけでも素敵だなと思いました。

 

言いたいことが混ざりがち / asu

ただまひろ
状況がすごくかわいいですね。ほっこりします。

 

斎藤
これもすごく優しい世界ですね。

 

ただまひろ
すごくリアリティがあって、本当にあったことなんだろうなというのも伝わってきます。

 

斎藤
キャプションに「あの時のお客さん、びっくりさせてごめんなさい。」という一文があります。

 

ただまひろ
キャプションで謝っているのもかわいい。絵柄もかわいくて、本当にずっとかわいいです。

 

バイトあるある / 佐保トーマ

ただまひろ
これはスーパーですね。

 

斎藤
私もスーパーに行ったときには、見ちゃいます。

 

ただまひろ
みんな狙っていますから。こうなるのは必然ですね(笑)。きっとわかる人は多いんじゃないでしょうか。スーパーで働いたことのない私でもわかります。

 

斎藤
絵がすごくシンプルですね。

 

ただまひろ
わかりやすくていいと思います。よく見ると1コマ目と2コマ目はほとんどコピペなんですが、ちゃんと内容が伝わってきます。うまいな、と思いますね。

 

自分の意見が言えない / ネコロク

ただまひろ
働いてるとこういうことありますよね……。意見をふられても言えない。

 

斎藤
みんなから注目されていると、よけいにそうなりそうです。

 

ただまひろ
ひねったことは描いていなくて、すごく素直。でも、それが真っ直ぐに届いてきます。アナログで描いているというのもありそうです。

 

斎藤
このアナログの絵は伝わるものがありますよね。

 

ただまひろ
見れば見るほど味が出る系ですね。人間のバランスなどを見ると、いわゆる「うまい絵」ではないと思いますが……。でも、このまま行ってほしいですね。

 

【総評】仕事は大変でも漫画にすればプラスに考えられる

斎藤
コンテスト全体を通していかがでしたか?

 

ただまひろ
いろんなお仕事をされてる方がいて、そこで感じたことを素直に描いてくださったものが多くて、すごくおもしろかったですね。

仕事って、大変なことも多いと思うんですよ。でも、大変なことを漫画にして誰かに見せたら、そこまで悩まなくてもいいかもしれないって、思えることもあると思うんです。

 

斎藤
ただまひろ先生は『クレープ屋で働く私のどうでもいい話』が有名ですが、この漫画を描くようになったきっかけはなんだったんでしょうか?

 

ただまひろ
いま思うと、きっかけは 2 つありました。

1つ目は、お客さんのクレームです。クレープ屋で働いている時に、すごくクレームが多い人がいて、落ちこんでいたんですね。でも、「絵を描いているんだから、なにかネタにできないかな」って思ったんです。

2つ目は、本当におもしろいお客さんがたくさんいたことです。常連のおじさんに「500円です」と言うと、スロットのメダルを出してきたり……。そんなの、ネタにしてくれって言っているようなものじゃないですか(笑)。

 

斎藤
ただまひろ先生も、大変だったことを漫画にして、救われていたんですね。

 

ただまひろ
そうです。自分のために描いていた、ようなところがありましたね。でもそれが、いろんな人を楽しませることにつながっていきました。

そう考えると、クレームを言ってくる人もおもしろいと思えるようになったり、プラスに考えられるようになるんです。

だから、みなさんも、仕事のちょっと大変だったことをどんどん漫画にしてもらったらいいんじゃないかと思いました。

 

斎藤
今回、ただまひろ先生にも2コマ漫画を描き下ろしていただきました。どんな想いで描かれましたか?

 

ただまひろ
接客業とかで「その言葉遣いは違うよ」というのをよく見かけるようになったので、その部分にフォーカスして描きました。

 

斎藤
ただまひろ先生の絵はシンプルではありますが、人物の表情にすごくリアリティがありますよね。今回も、登場人物の全員が「人間ってこういう時にこういう表情をするよな」って思います。

 

ただまひろ
人間って瞬間的に絶妙な顔をしますよね。それを描くのが、なにかおもしろいと思っています。

 

斎藤
「あるある」漫画を描くには、そういった観察眼も重要そうですね。今回は審査を務めていただき、ありがとうございました。

 

 

執筆

斎藤充博(Twitter:@3216