毎回、動画と記事でイラストを解説する『GENSEKI イラストメイキング』。
第3回は、アニメ『ポプテピピック』 内のコーナー『ボブネミミッミ』や『ヘルシェイク矢野』を担当し、話題沸騰のクリエイティブチーム、AC部さんです!
この度、GENSEKIでは2周年を記念して、展覧会『GENSEKI 展覧会~変化・変様する形~』(2023年7月15日・16日、東京都渋谷区)を開催することとなりました!
元々は、「GENSEKI」をテーマにしたイラスト制作をお願いしたのですが、今回のイラストがあまりにも素晴らしかったため、展覧会のキービジュアルにも採用させていただきました!
▼完成イラスト
▼メイキングを動画で見る
記事ではいつも通り、制作過程を追っていきますが、それ以外にも「アイデアがどうやって生まれるのか」謎に包まれた作風や作業環境、ご活動についてなど、AC部さんに詳しく解説していただきました!
多数あるメイキングの中でも、貴重な内容になっていますので、ぜひお楽しみください!
▼プロフィール
AC部(Twitter:@ACbu_official)安達亨(Twitter:@adachitorujp)
映像作品の制作を中心に、アニメ『ポプテピピック』 内のコーナー『ボブネミミッミ』や『ヘルシェイク矢野』を担当し、他に類を見ない表現で人気を博すクリエイティブチーム。
近年その活動自体が現代アートとして再評価され、2022年12月には日本橋三越本店にて個展『MoBA -現代美術館展-』を開催するなど、活躍は多岐に渡る。
▼作業環境
デバイス:Mac Studio M1 Max
ソフト:Adobe Photoshop 2022、Adobe Illustrator 2022、Adobe After Effects 2022
ペンタブレット:Wacom Cintiq Pro 24
その他よく使用するツール:iPad Pro 12.9インチ、Procreate、CLIP STUDIO PAINT
<ポイント解説:AC部のメンバー構成と主な担当や役割>
AC部のクリエイターは現在、安達 亨、板倉 俊介の2名です。
基本的には2人とも作画〜アニメーションまで、何でもやります。板倉は最近アート系の活動が多いです。
ラフ
・アイデアラフ
初期のアイデアラフ。
この時点で既に、カラーラフかと思うほど完成形に近いクオリティでイメージされている。
・下描き
アイデアラフをもとに、モノクロで下描きをする。
キャラクター、太陽、矢印、タブレットなど、調整したいモチーフごとにレイヤーを分ける。
タブレット部分は長方形選択ツールで選択範囲を作成し、【境界線】で線を描き、自由変形でパースをつける。
左側の矢印の波線を描く。
楕円の選択範囲で【境界線】を描き、分割して縦に並べて作る。
矢印の先は、パスツールで三角形を描き、左右反転コピーして合わせたもの。
1本作り、3本にコピーして増やす。
ひと通り画面を描きこんだら、全体のバランスを見ながらモチーフごとにサイズや位置を調整する。
文字を入れる。ラフでは存在感の大きい『成長』と『納品』のみでバランスを確認。
『experience』の部分はグラデーションツールを全体にかけるのではなく、ベタ塗りしてから1色・1本ずつ、グラデーションツールを細かく動かし色を置いている。
ひとつ作成できたら、コピーして配置する。この部分は本番でもそのまま使用する。
<ポイント解説:『experience』のグラデーション>
きれいなグラデーションをかけるときはツールを使いますが、ここでは少しアナログ感を出そうかと思いました。色ごとに微妙な角度の違いが出て、下手なグラデーションにすることができます。
下描きが完成。
<ポイント解説:アイデアについて>
今回はテーマが『GENSEKI』という、理念や概念のようなものでしたので、GENSEKIさんの概念図をイラスト化する、というコンセプトにしました。
クリエイター達が切磋琢磨し、案件をもらって制作し、成長するという良循環の様子を、水の循環に喩えました。
実際に説明するわけではないので、見やすさ、わかりやすさを排除し、どこか別の国の別の時代に存在しているかのような無国籍感で包み込み、わかるけどわからない、というような不思議な味わいを目指しました。
塗り・描きこみ
下描きを薄くし、中央にガイド線を引く。
モチーフごとに、フリーハンドで線画を描く。
線画には、描き始めが丸く、筆圧変化のあまりない不透明度100%の円ブラシを使う。
直線や四角、丸など図形を組み合わせるモチーフは、まず図形ツールで下描きを描き、フリーハンドでなぞって線画を描く。
線画を描き終わったら、色をバケツ塗りする。
レイヤーの透明ピクセルをロックし、そのままベタ塗りしたレイヤーで描きこみや塗りを進める。
(【透明ピクセルをロック】についてはメイキング#1で解説)
パーツ分けの例
顔と目&口、手と腕など、後で位置を動かして調整したいパーツごとにレイヤーを分けて描く。
形の修正も、シンプルに消しゴムとブラシを使い、フリーハンドで塗りながら整える。
・タブレットの作画
タブレットの線画も図形ツールなどは使わず、ブラシ +「Shift」キーの直線とフリーハンドで描いていく。
タブレットの中に映るイラストは、上下反転して描き込む。
主線がなく彩度も低めの絵にして、他の部分と差をつける。
・もぐらのキャラクターを描く
右側のキャラクターは、顔や足の奥部分と、腕やツルハシの手前に分けて描く。
塗りの境は、消しゴムのソフトブラシでグラデーション状になじませる。
ヘルメットのGENSEKIのロゴも、ロゴ素材をそのまま使うのではなく、フリーハンドでトレースして絵になじませる。
・グラデーションの塗り
矢印のグラデーションは、まずブラシで色をのせてから混合ブラシツールで塗り混ぜて描く。
グラデーションツールを使わず、厚塗りの様に色を塗ることで、独特の味が出る。
・Adobe Illustratorでパーツを作る
Illustratorに移り、パスの【ジグザグ】の設定で『experience』の矢印の波線を作る。
線幅で欲しい太さに変更する。
作成した線をPhotoshopにコピーし、3本に増やす。
矢印の先はラフと同様、パスツールで三角形を描き、左右反転コピーして作る。
・雲を描く
薄いグレーで楕円を描く。それをレイヤーごと複数コピーし、ひとつずつずらして配置しながら、雲の輪郭を作る。
【境界線】の効果を設定したフォルダの中に入っているため、全体の形で境界線がつく。
境界線で雲の輪郭が描けたら、ラフの線と合わせて、下描きガイドにする。
改めて、ガイドに沿ってフリーハンドで雲の輪郭を描き、【ワープ変形】で形を整える。
雲に顔を描き、薄くグレーがかった白色で塗りつぶしたら、なげなわ選択で影の色を塗る。
混合ブラシで色をなじませて、雲のフワっとした感じをつくる。
・しずくを描く
しずくの形は、波線と同様、Illustratorに移り、パスで作成する。
円を描き、上のパスを引き伸ばし、角の形を整えたら、Photoshopに貼り付ける。
水色で塗り、レイヤー効果で境界線をつける。
ブラシでしずくの光や影を塗り、ひとつ完成したらコピー&ペーストで増やす。
・フラッシュのフキダシ
中央の『成長』の奥にあるフラッシュの形も、Illustratorで作成する。
楕円を描き、「パスの変形」の【ジグザグ】で変形する。
イラストに貼り付けて、色をピンクに変換する。
・太陽の描写と文字
太陽の目もIllustratorのパスで作成し、コピーして並べる。
瞳は楕円選択ツールで塗りつぶした後、フリーハンドで描き、コピーして並べる。
太陽の光の部分は、長方形選択ツールで塗りつぶして1本描き、回転やコピーを繰り返して描く。
長方形選択ツールで塗りつぶした線を組み合わせ、矢印を描く。
先の部分は片方ナナメに描いて反転コピーする。はみ出た部分はパスツールで囲い、選択範囲に変換して消す。
境界線効果をつけて3本に増やし、サイズ調整して並べる。
『attention』の文字を打ったら、レイヤーの下にコピーして紫で影をつける。
ナナメに変形し、影に違和感がないよう、紫の影文字レイヤーを2枚コピーして重ねる。
・鳥の描写
鳥はラフの線に沿って、慎重に線画を起こす。
とても綺麗に描かれているが、こちらもすべてフリーハンド。
『案件』の玉の影は、矢印のグラデーションや雲と同じように、なげなわ選択やブラシで影と反射光の色を置き、混合ブラシでなじませる。
<ポイント解説:なぜPhotoshopを選んだか、フリーハンドとツールを使い分けて描く理由>
フリーハンド作画と画像加工の行き来がしやすいので、Photoshopを使用しています。
正確な図形や柄が欲しい時にIllustratorを使いますが、基本的にPhotoshopだけで完結することが多いです。
今回は特に特定のジャンルに縛られない無国籍感を出そうという意図があり、よくある当たり前の描き方ではなく、まさに見ている人に「なぜなのか」を感じさせようとしたため、こういった描き方になりました。レトロな広告、どこかの外国のポスターなどを見た時のような新鮮な興奮を感じてもらえたらと思います。
・「UP」の文字をフリーハンドで描く
UPの文字をフリーハンドで描く。紫の飛び出す部分は1本ナナメに線を引き、他の部分にコピーすることで角度を合わせる。
グラデーションと同じように、ブラシで色を置いてから混合ブラシでなじませる。
完成後、右下にずらしてコピー&ペーストし、厚さを足した。
・地面のフォント文字入れ
タブレット下の地層に色をベタ塗りした部分に、文字『IDEA』『CHECK』『BICHOSEI』…と違うフォントで配置していく。
『納品』の下にさりげなく入った『OTSUKARESAMA』が沁みる。
・背景の色変更
ラフの色を参考に、背景色を変更する。
前後関係がはっきりし、見やすくなるように『発掘』部分の矢印の明暗と、土塊を塗る。
文字をラスタライズし、コピーして並べて色を調整する。
・直線での文字入れ
『オススメ』の文字は、『オ』の文字を1本ずつの線でレイヤー分けしてブラシの直線を引き、それをコピーや左右反転して作成。
線の角度が平行に揃った文字が描ける。
<ポイント解説:様々なフォントや文字効果の使い分け>
文字も絵の一部なので、文字として読ませるというよりは形の印象で入れています。
画面を眺めた時の構図のバランスとリズム感などで決めています。
硬い重い文字の隣に、軽く細い文字がシュッと入って、小さい文字がトントントンと並んでいる…など、見ていると感じるリズム感ですね。
『attention』の部分でドロップシャドウなどのレイヤー効果を使わなかったのは、やることがはっきりしている時はレイヤーで作る方が手軽で早いからです。
仕上げ
・矢印の模様入れ
「案件」の矢印にフリーハンドで水玉模様を描き込み、周りと変化をつける。
・文字効果の調整
『experience』を上から順にずらして重ね、経験を積んでいくイメージを強調する。
波線の矢印を統合して赤色に変え、レイヤー効果で暗めに境界線を入れて、輪郭をはっきりさせる。
黄色い直線を引き、コピーして増やし、ストライプ模様を作る。
『成長』の文字は、縮小しながら中心で揃えてコピーペーストを繰り返し影をつくった部分を、最終的にブラシで塗りつぶしてスッキリさせた。
『great skill』の文字は、境界線、グラデーションオーバーレイ、ドロップシャドウのレイヤー効果をつける。
・全体調整
RGBからCMYKに表示モードを切り替えて、色のバランスを確認する。
全体のバランスを見ながら、モチーフの位置や大きさ、配色を調整する。
・きらめきの追加
中央のキャラクターに、ブラシで白色のきらめきを追加する。
画面を回転させながら、描きやすい角度で線を描いていく。
『UP』の奥の黄色い矢印の形と影を整える。
『オススメ』の文字のレイヤーを下にコピーして影色に変え、サイズと位置を調整して、文字を目立たせる。
原石キャラクターとタブレットのペンにハイライトを足し、よりメリハリをつける。
全体のモチーフを少しずつ内側に移動して、バランスを取ったら完成。
<ポイント解説:配色センスと構図のバランス、完成の判断について>
配色は出発点が「ダサい」ところから始まっているのかもしれません。ダサいは強い。その強さをキープしたままクオリティを高めようとしています。
制作中ときどきCMYK表示に切り替えているのは、印刷媒体を想定するということと、RGBの色味の強さに惑わされないよう、冷静にバランスを見るためです。
構図はひたすら眺めて、メインが引き立っているか、まとまりすぎてないか、全体の印象の強さ、左右上下の重心など注目するポイントを変えながらチェックします。
完成の判断に迷う時は、盛りに盛ったパターンや、引き算してみたパターンなど、「これが完成かも」と思えるものを複数出してみて、当初のコンセプトを軸にして最終的に判断します。
<補足解説:イラストレーターとして大切な点>
GENSEKIイラストディレクター 中村紘子 (なかむら ひろこ)
CMYKでは再現できない色を使用しているからこそ、WEBだけではなく紙媒体に印刷することも想定し、全体の配色やバランスをしっかりと制作過程で確認している点は
イラストレーターとして見習うポイントであり、大事なプロ意識だと感じました。
完成
<納品時に気を付けていること、おわりに>
納品時は「うまくいきますように」と祈りをこめて送信ボタンを押します。
このような詳細なメイキングは初めてで、自分自身いろいろ気付かされました。
この謎絵のメイキングがどれほどお役に立てるかわかりませんが、みなさまも1つ1つ自分なりのこだわりを持って制作していき、どんどんスキルを磨いていきましょう!
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AC部さんのイラストメイキング、いかがだったでしょうか?
動画やTV、アート活動など、多彩なジャンルでご活躍されるAC部さんの作品は、公式youtubeをはじめ、色々な場所で見ることができます!
この記事で、制作の過程や作品に込めた背景を知ってから見ると、より楽しめると思います。ぜひ以下のリンクよりたくさんご覧ください!
AC部(Twitter:@ACbu_official/youtube:@ac-bu4808)
安達亨(Twitter:@adachitorujp)
映像作品の制作を中心に、アニメ『ポプテピピック』 内のコーナー『ボブネミミッミ』や『ヘルシェイク矢野』を担当し、他に類を見ない表現で人気を博すクリエイティブチーム。
クライアントワークをコミッションワークと捉え、様々な媒体において、斬新で実験的な作品を発表し続けている。「時を経ても新鮮かつ唯一無二な作風で視聴者に予期せぬ奇妙な感情を提供する」という明確なコンセプトを持ち、それを「違和感」と呼んでチーム内で共有。近年その活動自体が現代アートとして再評価されている。
2014年高速紙芝居「安全運転のしおり」第18回文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品選出
2019年「New Tribe / Powder」アヌシー国際アニメーション映画祭受託部門にノミネート
2019年度より京都芸術大学客員教授
2020年クリープハイプ「愛す」第24回文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品に選出
主な個展に、「9th ANNIVERSARY イルカのイルカくんの九周の名月展」(2019年)、「九越 - Transmorph - 展」(2020年)、「イルカのイルカのイルカのイルカのイルカのイルカのイルカのイルカのイルカ展」(2021年)、「異和感ナイズ展」(2022年)、「MoBA -現代美術館展-」(2022年)
GENSEKIマガジンでは、今後も色々なクリエイターさんのメイキングや企画を予定しています!
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編集:坂本彬
技術監修:中村紘子
執筆:kao(Twitter:@kaosketch/HP)